学説・判例研究~憲法~法人の人権享有主体性

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学説・判例研究 憲法

法人の人権享有主体性

一、問題の所在
人権とは、人間の生まれながらの権利を意味するものであり、個人の権利として自然人を念頭に置いたものである。したがって、本来、法律によって人格を擬制されたにすぎない法人は、人権の享有主体たりえないはずである。
しかし、①法人の活動は自然人を通じて行われその効果は自然人に帰属すること、②法人は社会において自然人と同じく活動する実体であり重要な役割を果たしていることを根拠に、法人の人権享有主体性を認めるという(芦部『憲法学Ⅱ』164頁)のが通説的見解である。
そこで、以下の問題意識を基に、三つの最高裁判決(八幡製鉄事件・国労広島地本事件・南九州税理士会事件)について検討する。

● 法人の人権享有主体性は認められるか。
● 認められるとすれば、どの範囲で認められるか。
● 法人とその構成員とが衝突する場合、どのように解決するか。
二、八幡製鉄事件(最大判S45・6・24)(民集24巻6号625頁)(百選6版Ⅰ9事件)
1 事件の概要
八幡製鉄株式会社(現・新日鉄住金株式会社)の代表取締役Y1、Y2(被告・控訴人・被上告人)の両名は、同社の名で自由民主党へ350万円の寄附を行った。
株主であるX(原告・被控訴人・上告人)は、この寄付行為が定款に定められた目的の範囲外の行為ゆえに定款違反であり(同社定款2条「鉄鋼の製造及び販売並びにこれに附帯する事業を営むことを目的とする」)、取締役の忠実義務違反(旧商法254条ノ2・現行会社法355条)であるとして、両名に対して会社の被った損害(350万円と遅延損害金)の賠償を求める株主代表訴訟(旧267条・現847条に該当)を提起した。
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※八幡製鉄は、1959年下期から60年上期にかけての一年間に、自由民主党へ1950万円、その他の団体・派閥等へ1億2860万円を寄付していた。株主Xは、これらののうち、1960年4月14日の自民党への寄付350万円を取り上げた。(『新版 憲法判例を読みなおす』32頁)

※取締役・執行役は、会社に対して、法令・定款ならびに株主総会決議を遵守し、会社の為に忠実にその職務を行わなければない忠実義務(会社法355条)を負う。この忠実義務に違反(=任務懈怠)すると任務懈怠責任(423条1項)を負う可能性がある。任務懈怠責任が認められる要件は、①任務懈怠があること、②会社に損害があること、③任務懈怠と損害の間に因果関係が認められること、④帰責事由があること(④の証明責任は取締役・執行役側)である。役員等が会社に対して損害賠償責任を負う場合、本来、会社自身が責任追及すべきだが、役員等の間の同僚意識などから責任追及を怠ることもありうる。そこで会社法は、個々の株主に、会社のために役員等の責任追及の訴えを提起することを認めている。これが株主代表訴訟である。(『リーガルクエスト 会社法(第2版)』204、217、228頁)
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第一審 (東京地判S38・4・5判時330号29頁)
第一審判決は、特定の行為が定款の定める事業目的の範囲内か慰安かを判断する場合には、取引行為と非取引行為を分けて考える必要があるとの判断基準を設け
会社が無償で財産を出捐する非取引行為は営利の目的に反するので、どんな会社においても事業目的の範囲外になるとしつつ、「一般社会人としての合理的意思」によれば総株主の同意が期待できるような「社会的義務行為」としての寄附は例外として許されるとする。その上で判決は、特定の政党に対する寄付はこのような例外にあたらないとして、Xの請求を認めた。

第二審 (東京高判S41・1・31判時433号9頁)
控訴審において、Xは、会社の政治献金は参政権に重大な影響を及ぼす政治活動であり、自然人にのみ認められている参政権を侵犯するし、また、事故の反対する者に対する政治的支援を強要されることになる株主の参政権をも侵犯される、などの理由で、公序良俗違反(民法90条)として無効であるとの主張を追加した。

会社は、「独立の社会的存在」として、定款所定の事業目的にかかわらず社会的に有用な行為をなす能力を有するとし、さらに政党は代議制民主政の担い手として「公共の利益に奉仕するもの」であるとして、会社が政党に政治資金を寄附する能力を認めた。また、国民の参政権行使自体が会社の政治資金寄附によって影響されるわけではなく、会社が政治的関心をもって政治資金の寄附を行うことが全面的に否定されるべきとはいえない、などとして、一審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。
Xが上告。

2 判旨
<政治献金する権利能力を有するか>
「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有する」。「目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解する」。

会社は、「自然人とひとしく」、社会等の「構成単位たる社会的実在なのであるから、それとしての社会的作用を負担せざるを得ないのであつて、ある行為が一見定款所定の目的とかかわりがないものであるとしても、会社に、社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり、その期待ないし要請にこたえることは、会社の当然になしうるところである」。

「以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。憲法は政党について規定するところがな」いが、「憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。そして同時に、政党は国民の政治意識を形成する最も有力な媒体であるから、政党のあり方いかんは、国民としての重大な関心事でなければならない。したがつて、その健全な発展に協力することは、会社に対しても、社会的実在としての当然の行為として期待されるところであり、協力の一態様として政治資金の寄附についても例外ではない」。「会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。」「要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為である」
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ここでは、民法34条(当時の43条)の「目的の範囲」についての判断が示された。
本判決はこれを広く捉え、営利法人にとっては、ほとんどの行為が「目的の範囲」による制限を受けないものとなった。

大隅裁判官は、多数意見と結論を同じにしながらも、目的の範囲を広く解する論法を批判する意見を述べている。また、学者からも「あまりにも広げすぎて、目的の範囲内といっても、これでは実際上無限定に等しい」(浦部64頁)といった批判がなされている。

しかし、そもそも、民法34条の基になったイギリスの法制度は、19世紀半ば、法人の活動に対する警戒心が強い時代に確立されたものである。営利法人の活動の障害になるこの原則への批判が強まると、英米では、法人の目的として列挙された事項のほかに、「その他一切の適法な取引」などという一般条項が付け加えられた。特にアメリカでは多くの州でこの原則を制限・廃止する法律が制定されている(内田242頁)。わが国においても、民法34条を広く解釈しようとするのが主流であるといえ、本判決もこの流れで説明される。

民法学からの見解
・内田貴『民法1<第4版>』244頁
「民法や会社法が問題としているのは、あくまで営利活動を行うために会社に一般的権利能力を与えるということに過ぎない。かつまた、権利能力があるといっても、会社内部で政治献金が是認されるかどうかは別問題である。……たとえ政治的に政治献金絶対反対といった立場をとったとしても民法34条の解釈によってそれを実現しようとするのは、解釈論としては無理がある。」

・佐久間毅『民法の基礎1』356頁
「会社と取締役との関係ではこのようにいえるだろうが、政治献金は思想・信条の自由に直接関わるものであるから、会社と社員〔株主〕との関係では、社員の同意なしに会社が政治献金をすることも適法といえるかには、疑問もある。」

この二つの見解が示すように、民法34条の解釈、そして会社が被った損害の賠償を求める株主代表訴訟において、政治献金特有の問題(思想良心の自由・参政権の侵犯)を主張することは難しい。
そこで、法人による政治献金を真正面から否定するのであれば、株主個人の思想良心の自由・参政権が侵犯されたとして不法行為責任を法人に対して追及すべきであったと考える。もっとも、以下で本判決は、法人による政治献金の自由を認めている。
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<民法90条違反か>
「会社が、納税の義務を有し自然人たる国民とひとしく国税等の負担に任ずるものである以上、納税者たる立場において、国や地方公共団体の施策に対し、意見の表明その他の行動に出たとしても、これを禁圧すべき理由はない。のみならず、憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。」

「所論は大企業による巨額の寄附は金権政治の弊を産むべく、また、もし有力株主が外国人であるときは外国による政治干渉となる危険もあり、さらに豊富潤沢な政治資金は政治の腐敗を醸成するというのであるが、その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであつて、憲法上は公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、これをもつて国民の参政権を侵害するとなす論旨は採用のかぎりでない。」「株式会社の政治資金の寄附はわが憲法に反するものではなく、したがつて、そのような寄附が憲法に反することを前提として、民法90条に違反するという論旨は、その前提を欠くものといわなければならない。」

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<法人の人権享有主体性>
本判決は、特別な理由を示さずに、法人の人権享有主体性を認める。
(憲法上の権利は、本来その主体の価値に基づいて認められるものであり、社会からの期待ないし要請から認められるものではない。したがって、会社の社会的実在性から、「社会通念上、期待ないし要請されるものであるかぎり」、その権利能力を認めるという判示部分はこの理由になりえない(毛利・百選6版解説)。)

芦部説(=肯定説)
冒頭で述べたように、①法人の活動は自然人を通じて行われその効果は自然人に帰属することと、②法人は社会において自然人と同じく活動する実体であり重要な役割を果たしていることを根拠として認める。(芦部『憲法学Ⅱ』164頁)
↑批判
根拠①については、団体の人権を構成員たる自然人の人権に還元できるのであれば、最初から構成員の人権を用いて議論すればよい。②については、人権とは人格を有する自然人に認められるものであるのに人格を有しない法人になぜ認められるかという問いに対する答えになっていない。(長谷部123頁)

否定説
「人権はもともと中間団体(ここでいう法人)からの人権という課題をせおって登場してきたのだった、ということを忘れてはならない。今日の実体憲法解釈の問題としても、法人の権利主体性が法律以下の法規範によって認められるようになったということと、法人が自然人=個人と同じ意味で憲法上の権利の主体と考えてよいかということとは、別のことがらである。」(樋口182頁)
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<法人に人権享有主体性が認められる範囲>
本判決は、「会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有する」というだけで明確な理由付けはない。

少数意見
多数意見と結論を同じにしながらも、松田裁判官の意見(入江、長部、岩田裁判官が同調)は、「会社の行う寄附は、それが会社従業員の福祉のため、会社所在の市町村の祭典のため、社会一般に対する慈善事業のため、あるいは、政党のためなど、その対象を異にするによつて、各別に考察すべきものであり、その間に段階的にニユアンスの差があるものと考える。」したがって、多数意見が「会社と自然人の行う政治資金の寄附を同様に解するごとくいうことに対して大なる疑を持つ」という。

芦部説
「法人の政党に対する政治資金の寄附(政治献金)という政治的行為の自由(表現の自由の一態様として、憲法21条で保障される)を自然人のそれと全く同列のものと解し、この政治献金をほとんど無限定に認めた」として批判されている。芦部説は、「政治的活動の自由のような領域においては、自然人よりも制約を受ける程度は当然に強いとみるべき」として、人権享有主体性に「特別の限界」を認めている(芦部『憲法学Ⅱ』172,174頁)。

人権共有主体性を肯定する説が示すように、法人・団体の存在を無視することはできない。そして、あえて全ての法人の人権共有主体性を否定することはないと考える。もちろん、法人の人権共有主体性を認めることは、個人の人権に対する侵犯の危険性を高める。そこで、認められる範囲は狭く解釈すべきである。具体的には、芦部説の根拠(①法人の活動は自然人を通じて行われその効果は自然人に帰属すること、②法人は社会において自然人と同じく活動する実体であり重要な役割を果たしていること)のうち、①にあてはまる事例のみで認め、法人と個人が対立する場面では、本来の享有者である個人の権利保障を重視する解釈がなされるべきであると考える。
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三、国労広島地本事件(最判S50・11・28)(民集29巻10号1698頁)(百選6版Ⅱ150事件)
1 事件の概要
国鉄労働組合X(原告・控訴人=附帯被控訴人・上告人)は、昭和35年から36年にかけて、国鉄労組広島地方本部から脱退した元組合員Y(被告・被控訴人=附帯控訴人・被上告人)らに対して、未払いの一般組合費と臨時組合費の支払いを求めた。このうち問題となったのは、臨時組合費の①炭労資金(350円)、②安保資金(50円)、③政治意識昂揚資金(20円)である。元組合員Yは、①~③は、自由意志に委ねられるべきものであるので、いずれも納付義務はないことを主張して争った。

※炭労資金 組合自身の闘争のための資金ではなく、他組合の闘争に対する支援資金。
安保資金 安保反対闘争に参加して処分を受けた組合員を救援するための資金。
政治意識昂揚資金 総選挙に際し特定の立候補者支援の為にその所属政党に寄付する資金。

2 判旨
組合員は、「活動の経済的基礎をなす組合費を納付する義務を負うものであるが、これらの義務(以下「協力義務」という。)は、もとより無制限のものではない。労働組合は、労働者の労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的とする団体であつて、組合員はかかる目的のための活動に参加する者としてこれに加入するのであるから、その協力義務も当然に右目的達成のために必要な団体活動の範囲に限られる。」
しかし、労働組合の活動は、「決して固定的ではなく、社会の変化とそのなかにおける労働組合の意義や機能の変化に伴つて流動発展するものであり、今日においては、その活動の範囲が本来の経済的活動の域を超えて政治的活動、社会的活動、文化的活動など広く組合員の生活利益の擁護と向上に直接間接に関係する事項にも及び、しかも更に拡大の傾向を示しているのである。」

「労働組合の活動の範囲が広く、かつ弾力的であるとしても、そのことから、労働組合がその目的の範囲内においてするすべての活動につき当然かつ一様に組合員に対して統制力を及ぼし、組合員の協力を強制することができるものと速断することはできない。」
「問題とされている具体的な組合活動の内容・性質、これについて組合員に求められる協力の内容・程度・態様等を比較考量し、多数決原理に基づく組合活動の実効性と組合員個人の基本的利益の調和という観点から、組合の統制力とその反面としての組合員の協力義務の範囲に合理的な限定を加えることが必要である。」
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<労働組合の法的性格について>
一般に、非営利法人の目的の範囲を広く捉えると、本来の公益的な目的が阻害される恐れがある。したがって、非営利法人の目的の範囲は厳格に解する傾向にある(→税理士会等)。労働組合は、非営利であるが、本判決は、社会の変化に応じて組合の活動の範囲を広く許容する立場を示した。
また、労働組合は憲法が明文で認める団体であるという点にも注目すべきである(28条)。
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<炭労資金について>
「労働組合の目的とする組合員の経済的地位の向上は、当該組合かぎりの活動のみによつてではなく、広く他組合との連帯行動によつてこれを実現することが予定されているのであるから、それらの支援活動は当然に右の目的と関連性をもつものと考えるべきであり、また、労働組合においてそれをすることがなんら組合員の一般的利益に反するものでもないのである。それゆえ、右支援活動をするかどうかは、それが法律上許されない等特別の場合でない限り、専ら当該組合が自主的に判断すべき政策問題であつて、多数決によりそれが決定された場合には、これに対する組合員の協力義務を否定すべき理由はない」。

<安保資金について>
「労働組合の政治的活動とそれ以外の活動とは実際上しかく截然と区別できるものではなく」、「労働組合の活動がいささかでも政治的性質を帯びるものであれば、常にこれに対する組合員の協力を強制することができないと解することは、妥当な解釈とはいいがたい。」
「これに対し、いわゆる安保反対闘争のような活動は、究極的にはなんらかの意味において労働者の生活利益の維持向上と無縁ではないとしても、直接的には国の安全や外交等の国民的関心事に関する政策上の問題を対象とする活動であり、このような政治的要求に賛成するか反対するかは、本来、各人が国民の一人としての立場において自己の個人的かつ自主的な思想、見解、判断等に基づいて決定すべきことであるから、それについて組合の多数決をもつて組合員を拘束し、その協力を強制することを認めるべきではない。」
「労働組合が共済活動として行う救援の主眼は、組織の維持強化を図るために、被処分者の受けている生活その他の面での不利益の回復を経済的に援助してやることにあり、処分の原因たる行為のいかんにかかわるものではなく、もとよりその行為を支持、助長することを直接目的とするものではないから、右救援費用を拠出することが直ちに処分の原因たる政治的活動に積極的に協力することになるものではなく、また、その活動のよつて立つ一定の政治的立場に対する支持を表明することになるものでもないというべきである。したがつて、その拠出を強制しても、組合員個人の政治的思想、見解、判断等に関係する程度は極めて軽微なものであつて、このような救援資金については、先に述べた政治的活動を直接の目的とする資金とは異なり、組合の徴収決議に対する組合員の協力義務を肯定することが、相当である。」
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反対意見
天野・高辻両裁判官は、安保反対闘争の政治的性格を強調して、組合員の政治的自由を侵すため、安保資金について組合員の協力義務は認められないと意見する。
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<政治意識昂揚資金について>
「政党や選挙による議員の活動は、各種の政治的課題の解決のために労働者の生活利益とは関係のない広範な領域にも及ぶものであるから、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは、投票の自由と表裏をなすものとして、組合員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断ないしは感情等に基づいて自主的に決定すべき事柄である。したがつて、労働組合が組織として支持政党又はいわゆる統一候補を決定し、その選挙運動を推進すること自体は自由であるが(当裁判所昭和四三年一二月四日大法廷判決参照【三井美唄事件】)、組合員に対してこれへの協力を強制することは許されないというべきであ」る。

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<審査枠組みについて>
「目的の範囲」と「協力義務の限界」の二段階の審査を行っているのだと理解することができる。
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四、南九州税理士会事件(最判H8・3・19)(民集50巻3号615頁)(百選6版Ⅰ39事件)
1 事件の概要
南九州税理士会Y(被告・控訴人・被上告人)の会員である税理士X(原告・被控訴人・上告人)は、日本税理士連合会の方針の下に税理士法を業界に有利な方向に改正するための政治工作資金として、使途を南九州各県税理士政治連盟へ配布する旨を明示した特別会費5000円の徴収決議に反対してその納入を拒否した。そこで、Yは、会費滞納者に対して役員選挙の選挙権・被選挙権を停止させる会則条項をXに適用して役員選挙を実施した。これに対してXは、役員選挙の無効確認、納入義務不存在の確認等を求めて出訴した。

第一審 (熊本地判S61・2・13 判時1181号37頁)
南九州各県税政の性格について、「政治的実働部隊」と認定した。そのうえで、強制加入の公益法人である税理士会が、会員の政治的信条を無視して政党や特定政治家の後援会に政治資金を寄附することは、法人の「目的の範囲内」とはいえず、本件決議は民法43条に違反し無効である。税理士法改正運動に賛成するか否かは、各税理士がその自主的な思想・判断等に基づいて決定すべきことであって、それについて多数決で会員を拘束しその協力を強制することは許されない、などと判示した。

第二審 (福岡高判H4・4・24 判時1421号3頁)
税理士会が税理士業務の改善進歩や法改正に関し、関係団体に働きかけ、その目的に沿った活動をする団体に寄附することは、法人の「目的の範囲内」である。税政連は政治資金規正法上の政治団体であるが、特定政治家の支持を本来の目的とする団体ではない。特別会費の南九州各県税政への拠出が特定政治家の一般的な政治的立場の支援となるという関係は「うえんかつ希薄」である。などといい、本件決議は会員の思想信条の自由の侵害にはならないと判示した。第一審判決を取り消しXの請求を棄却。
Xが上告。

2 判旨
「税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。」
税理士会は、「法が、あらかじめ、税理士にその設立を義務付け、その結果設立されたもので、その決議や役員の行為が法令や会則に反したりすることがないように、大蔵大臣の前記のような監督に服する法人である。また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない」。「税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。」

以上のような税理士会の法的性格からすると、「その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で」、「会員に要請される協力義務にも、おのずから限界がある」。
「特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。なぜなら、政党など規正法上の政治団体は、政治上の主義若しくは施策の推進、特定の公職の候補者の推薦等のため、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された政治団体であり(規正法3条等)、これらの団体に金員の寄付をすることは、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だからである。」
そうすると、公的な性格を有する税理士会が、「このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり(最高裁昭50年11月28日第3小法廷判決参照【国労広島地本事件】)、税理士会がそのような活動をすることは、法の全く予定していないところである。税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する要求を実現するためであっても、法49条2項【現49条6項】所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。」

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<税理士会の法的性格>
法により設置された非営利団体である。また、会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない、強制加入団体である(税理士法52条)。

<審査枠組みについて>
国労広島地本事件とは異なり、「協力義務の限界」については触れられず、「目的の範囲」のみで審査されている。したがって、法人内部の衝突に関する事案で使われる統一した審査枠組みは確立されていないといえる。
(もっとも、論旨を黙示的に踏襲しており、強制加入団体である税理士会の会員については思想・信条や主義・主張の点で、多数決原理に基づく税理士会の活動やそのための会員への協力義務への要請にも「おのずから限界がある」としているのだという見解(百選5版解説)もある)

<法人とその構成員とが対立する場合の基本的な判断枠組>
以上の判例の立場を意識して判断枠組みを定立すると、「法人の目的」「協力義務」の解釈に関わらず、当該法人の性質(営利か非営利か、強制加入か任意かなど。)と、構成員が受ける不利益の内容と程度を総合考慮して決すべきということになる。
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国労広島地本事件・南九州税理士会事件では、八幡製鉄事件とは異なり、法人の人権享有主体性についての一般的な議論に触れられていない。以下2判例では、営利法人との法的性格の違い、法人とその構成員とが衝突する場合の解決方法について着目する。
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五、参考・引用文献
憲法判例百選Ⅰ・Ⅱ <第6版>、2013年

芦部信喜『憲法<第5版>』岩波書店、2011年
芦部信喜『憲法学Ⅱ』有斐閣、1994年
高橋和之『立憲主義と日本国憲法<第2版>』有斐閣、2010年
長谷部恭男『憲法<第5版>』新世社、2011
樋口陽一『憲法<第3版>』創文社、2007年
樋口=山内=辻村=蟻川『新版 憲法判例を読みなおす 下級審判決からのアプローチ』日本評論社2011年

内田貴『民法1<第4版>』東大出版会、2008年
佐久間毅『民法の基礎1』有斐閣、2008年
伊藤=大杉=田中=松井『会社法<第2版>(LEGAL QUEST)』有斐閣、2011年