学説・判例研究~憲法~表現への規制態様

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学説・判例研究 憲法

表現活動への規制態様

1、「表現の自由」に関する審査基準
(1)厳格な審査を行うための4つの基準
① 検閲ないし事前抑止の禁止
判例(札幌税関事件):「検閲」と「事前抑制」の概念を区別し、検閲は絶対的禁止とする。
※事前抑制の問題としては、裁判所による表現の事前差し止めなど

② 明確性の基準
表現活動は萎縮されないように、規制する法令は明確である必要がある。=公正な告知

③ 明白かつ現在の危険の基準 (clear and present danger)
要件 ⅰ規制する重要な政府利益の存在
ⅱ重大な害悪をもたらす危険の蓋然性が明白
ⅲ表現と害悪発生が時間的に切迫
ⅳ危険を回避するために規制することが必要不可欠 (芦部200頁)
※法律の合憲性の判断基準としての用法と、法律の適用の判断基準としての用法とがある。

④ LRA(より制限的でない他の選びうる手段)の基準または最小限のルール
LRA: less restrictive alternative
目的手段審査を前提とした「厳格審査基準」
規制手段は、立法目的達成に必要最小限でなければならない。

(2)芦部の基本枠組
A 検閲・明確性のない法律 ← 文面上無効になる局面
B 表現内容の規制
C 表現内容中立規制

2、表現の自由の類型論
(1)類型
表現の内容規制 (内容の悪性を理由とする規制、厳格な審査が必要と説明される。)
「見解規制」(viewpoint):特定の立場・観点・見解の表現を規制。←原則許されない
「主題規制」(subject matter):特定の主題(領域)の表現を規制。←定義づけ衡量

※定義づけ衡量(definitional balancing)とは、「表現の自由の価値に比重を置いてわいせつ文章[等]の定義を厳格にしぼり、それによって表現内容の規制をできるだけ限定しようとする考え方」(芦部183頁)。

表現の内容中立規制
「直接規制」:時・所・方法の規制(芦部)、手段・方法規制
間接的・付随的規制 (表現行為とは見なされない行為の規制、住居侵入、徴兵カードの毀損など)

Interactive憲法 B助教授の発言 「法令の文面だけからすると内容に基づく規制のように見えるのに、内容中立規制として扱うべき規制があるといわれることがあるのよ。それが、間接的・付随的規制ってわけ。つまり、特定の内容の表現の抑圧自体を目的としているわけではなくて、そうした表現活動から生ずる間接的(secondary)な害悪を抑えることを狙いとした規制が付随的に(incidentally)表現活動をも抑制することになってしまうという場合」

※直接規制は表現行為に対する規制だが、付随的規制は非表現行為に対する規制。
つまり、「付随的規制」と言って「表現の自由」の保護領域外の問題とする。

(2)批判
・内容と手段とは区分できない(表現には必ず行為が必要となる)。
・代替手段の有無を重視すべきである。
・判例の区分は恣意的である。

⇒機械的な類型論は避けなければならない。

3、判例
●恣意的な区分 ~「内容」と「内容中立」~
最二判S56.6.15 戸別訪問S56年判決
「公職選挙法138条1項の規定が憲法21条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和44年4月23日大法廷判決、なお最高裁昭和25年9月27日大法廷判決参照)とするところである」

「戸別訪問の禁止は、意見表明そのものの制約を目的とするものではなく、意見表明の手段方法のもたらす弊害、すなわち、戸別訪問が買収、利害誘導等の温床になり易く、選挙人の生活の平穏を害するほか、これが放任されれば、候補者側も訪問回数等を競う煩に耐えられなくなるうえに多額の出費を余儀なくされ、投票も情実に支配され易くなるなどの弊害を防止し、もつて選挙の自由と公正を確保することを目的としているところ(最高裁昭和42年11月21日第3小法廷判決、同43年11月1日第2小法廷判決参照)、右の目的は正当であり、それらの弊害を総体としてみるときには、戸別訪問を一律に禁止することと禁止目的との間に合理的な関連性があるということができる、そして、戸別訪問の禁止によつて失われる利益は、それにより戸別訪問という手段方法による意見表明の自由が制約されることではあるが、それは、もとより戸別訪問以外の手段方法による意見表明の自由を制約するものではなく、単に手段方法に禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約にすぎない反面、禁止により得られる利益は、戸別訪問という手段方法のもたらす弊害を防止することによる選挙の自由と公正の確保であるから、得られる利益は失われる利益に比してはるかに大きいということができる。以上によれば、戸別訪問を一律に禁止している公職選挙法138条1項の規定は、合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず、憲法21条に違反するものではない。」

※選挙運動としての政治的主張をするための訪問を禁止するなら、それは内容規制(主題規制)ではないか。

●恣意的な区分 ~「直接規制」と「付随的規制」~
最大判S49.11.6 猿払事件上告審
郵政事務官で猿払地区労働組合協議会事務局長を務めていた者が、衆議院議員総選挙に際し労働組合協議会の決定に従い、日本社会党を支持する目的で選挙用ポスターを公営掲示場に掲示・配布したところ、一般職公務員の政治的行為を禁止した国公法102Ⅰ(人事院規則14-7 Ⅴ③、Ⅵ⑬)に該当するとして、同法110Ⅰ⑲により起訴された事件。

(公務員の政治的行為の制限の正当化理由について)
「表現の自由は、民主主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであ」る。そして、政治的行為は、「政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法21条による保障を受ける」。
……「ところで、国民の信託による国政が国民全体への奉仕を旨として行われなければならないことは当然の理であるが、」……「憲法15条2頁の規定からもまた、公務が国民の一部に対する奉仕としてではなく、その全体に対する奉仕として運営されるべきものであることを理解することができる。」
「行政の中立的運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、公務員の政治的中立性が維持されることは、国民全体の重要な利益にほかならないというべきである。」

(審査基準について)
「したがつて、公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り、憲法の許容するところであるといわなければならない。」  ※合理的関連性の基準
そして、「合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かを判断するにあたつては、禁止の目的、この目的と禁止される政治的行為との関連性、政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の3点から検討することが必要である。」
※〔目的審査〕①禁止の目的、〔手段審査〕②関連性・③得られる利益と失われる利益との均衡

(あてはめ)
「公務員の政治的中立性を損うおそれのある政治的行為を禁止することは、まさしく憲法の要請に応え、公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置にほかならないのであつて、その目的は正当なものというべきである。また、右のような弊害の発生を防止するため、公務員の政治的中立性を損うおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められるのであつて、たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損う行為のみに限定されていないとしても、右の合理的な関連性が失われるものではない。」※新判例との違いに注意
「次に、利益の均衡の点について考えてみると……、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を、これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは、同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは、単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、かつ、国公法102条1項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく、他面、禁止により得られる利益は、公務員の政治的中立性を維持し、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから、得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり、その禁止は利益の均衡を失するものではない。」

※結局は、公務員の「政治的」内容をもつ表現が「中立性」「公正らしさ」を害するということではないのか。そうであれば、これは内容規制(主題規制)である。
また、文章等の掲示・配布の禁止は、表現の自由に対する直接規制と考えられる。
●公務員の政治的行為に関する新判例
最二判H24.12.7 国公法・目黒社会保険事務所職員事件(堀越事件)上告審
社会保険庁東京保険事務局目黒社会保険事務所に勤務の年金審査官であった者が、日本共産党を支持する目的を持って、都内のマンションなどに「しんぶん赤旗」をポスティングした行為について、国公法102Ⅰ(人事院規則14-7Ⅵ⑦⑬(Ⅴ③))、110Ⅰ⑲違反であるとして起訴された事件。

最二判H24.12.7 国公法・世田谷事件(厚生労働省職員国家公務員法違反事件)上告審
厚生労働省課長補佐たる厚生労働事務官であった者が、日本共産党を支持する目的を持って、共産党機関紙「しんぶん赤旗」を東京都世田谷区の警視庁職員官舎の各集合郵便受け32か所にポスティングした行為について、国公法102Ⅰ(人事院規則14-7Ⅵ⑦)、110Ⅰ⑲違反であるとして起訴された事件。
※両判決は、判決日と法廷が同じ。ほぼ同じ文章。

(公務員の政治的行為の制限の正当化理由について)
猿払上告審と同じ。

(判断枠組みについて)
はじめに、国公法102条1項にいう政治的行為を、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが現実的に起こり得るものと解するとして限定した。そして、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるかどうかは、当該公務員の地位、その職務の内容や権限等、当該公務員がした行為の性質、態様、目的、内容等の諸般の事情を総合して判断するとした。
この「限定」を前提として審査基準をたてる。
※千葉裁判官は合憲限定解釈ではないが、合憲限定解釈と評価できる。違憲の疑いがあるから限定解釈しているのか、ただ単に法律解釈として限定したのかは、結局は同じである。

(審査基準について)
公務員に対する政治的行為の禁止は、国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべき。

「本件罰則規定による政治的行為に対する規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうか」は、「本件罰則規定の目的のために規制が必要とされる程度と、規制される自由の内容及び性質、具体的な規制の態様及び程度等を較量」するといい、参照判決としてよど号ハイジャック記事抹消事件が示され、それと同様の比較衡量の基準(積極的に利益考量したもの)が用いられた。

(国公法102条1項について、あてはめ)
公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは、国民全体の利益の保護のためであって、規制の目的は合理的かつ正当。
公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為のみを対象とするので、その制限は必要やむを得ない限度にとどまり、罰則規定が不明確とも過度に広汎ともいえないので、合憲であるとする。

(両事件の結論)
管理職としての地位及び職務に関して裁量の余地があるか否かによって判断が分かれた。

・堀越事件<無罪>「本件配布行為は、管理職的地位になく、その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による行為と認識し得る態様で行われたものでもない」

・厚生労働省職員国家公務員法違反事件<有罪> 被告人は、「国家公務員法108条の2第3項ただし書所定の管理職員等に当たり、」「指揮命令や指導監督等を通じて他の多数の職員の職務の遂行に影響を及ぼすことのできる地位にあったといえる。」「このような地位及び職務の内容や権限を担っていた被告人が政党機関紙の配布という特定の政党を積極的に支援する行動を行うことについては、それが勤務外のものであったとしても、」「当該公務員による裁量権を伴う職務権限の行使の過程の様々な場面でその政治的傾向が職務内容に現れる蓋然性が高まり,その指揮命令や指導監督を通じてその部下等の職務の遂行や組織の運営にもその傾向に沿った影響を及ぼすことになりかねない。したがって、これらによって、当該公務員及びその属する行政組織の職務の遂行の政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生ずるものということができる。」そうすると、「公務員による行為と認識し得る態様ではなかったことなどの事情を考慮しても、本件配布行為には、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められ、本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当するというべきである。」

※判例変更だったかについて、千葉裁判官は、猿払を事例判決だったと説明し、矛盾するものではないという。また、本判決は小法廷判決だった。

4、まとめ
「直接規制・間接規制という区分は、その(オブライエン判決)後、アメリカの判例法理で内容に基づく規制・内容中立規制の区分との関連を明確にした上で、しかも適用対象に限って展開されていくことになっているわけで、本家でのその後の展開とは少し外れた形で日本独自の展開を遂げてしまった観が無きにしもあらずといったところがあるわ。」

B助教授がこういうように、アメリカと日本では違った展開がなされている。そして、日本の最高裁の展開は、広く間接的・付随的だと言って、審査を甘くしている。したがって、日本で展開された間接的・付随的制約は否定されるべきである。

4、参考文献
芦部信喜『憲法<第五版>』岩波書店、2011、186-205頁
長谷部恭男『憲法<第五版>』新世社、2011、198-200頁

(題材)
長谷部恭男『interactive憲法』有斐閣、2006、15章