論証集~刑法各論1~自殺関与・同意殺人・傷害・暴行

この記事の所要時間: 653

論証集  刑法各論

自殺関与・同意殺人

●自殺関与罪
通説はその根拠、すなわち生命侵害に対する同意が完全な正当化力をもたない根拠を、生命がすべての自己決定の源泉であるところに求める。
すわなち、自己決定の余地を永遠に失しめるような自己決定を許容することは、自己決定という概念そのものと矛盾するのである。
この点、被害者が自ら行う際に意思決定の自由ないし自立性を奪われているか・失っているかということを基準に(間接正犯形態での)殺人罪の成否を判断すべきである。
*最決平16・1・20

●自殺関与罪の実行の着手時期
自殺関与罪の実行の着手時期が明文上明らかでなく問題となる。
この点、自殺関与罪の処罰根拠は、自殺者は自己の生命について処分の自由を有するが、生命という法益の重大性ゆえに、刑法がパターナリズムの観点から介入し、他人の関与を排除する点にある。
とすれば、自殺関与罪は独立の犯罪類型として、自殺の教唆・幇助行為がなされた時点で実行の着手を認めるべきとも思える。
しかし、同意殺人罪との均衡からは妥当でないし、202条の趣旨が自殺者の生命の保護にあるとすれば、その具体的危険が生じたときに実行の着手を認めれば足りる。
そこで、自殺行為の開始時が実行の着手時期と解する。

●同意殺人罪
同意の要件
ⅰ 嘱託・承諾は、被殺者本人の意思によるものであること。
ⅱ 通常の事理弁識能力のある者の自由かつ真意に基づくものであること。
ⅲ 嘱託は明示的なものであること(承諾は黙示でもよい)
ⅳ 嘱託・承諾は、被殺者の殺害時に存在すること

同意があったのにないと誤信した場合・同意がないのにあると誤信し場合
錯誤の問題として処理される。同意殺人罪の限度で重なり合いが認められるので、同意殺人罪が成立することになる。

傷害罪・暴行罪

●傷害罪
傷害の意義
人の生理的機能を害すること

●失神と傷害罪の成否
気絶も「傷害」に該当するか。
生理的機能の障害を生じさせたことを傷害というが、気絶・失神は器質的変化を伴わない場合には一定程度の時間的継続が必要と解する。そのように解さなければ、昏酔強盗は、すべて強盗致傷ということになってしまいかねず妥当でないからである。
*最決平17・3・29

●傷害罪の客体―胎児性致死傷
胎児の段階で過失によって傷害を負わせ、その傷害が出生後にも影響を及ぼした場合。
思うに、胎児は母体の一部であるから、胎児に傷害を負わせることは、母体の一部に傷害を負わせることに他ならない。
よって、母親に対する過失傷害罪が成立すると解する。
この点につき、胎児傷害が母体傷害であるならば、自己堕胎は不可罰であるはずではないかとの批判があるが、胎児に母体と異なる要保護性が認められることと、胎児が母体の一部であることは矛盾するものではなく、かかる批判は当たらない。

●傷害罪の故意
暴行罪の規定(208)において、「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは」とされていることからすれば、本罪は故意犯であるとともに暴行の結果的加重犯を含むと解される。したがって、暴行の故意があれば足りる

●同時傷害の特例
① XとYとの間に第2暴行について共謀がない場合で、傷害が第1、第2のいずれの暴行によるか不明の場合
② XとYとの間に第2暴行について共謀がない場合で、傷害が第1暴行による結果であることが明らかである場合
③ XとYとが共謀して第2暴行を加えた場合で、傷害が第1,第2のいずれの暴行によるか不明の場合
④ XとYとが共謀して第2暴行を加えた場合で,傷害が第1暴行による結果であることが明らかである場合のいずれかが考えられる。
そして,その基本的考え方は,
①の場合→同時傷害と認められる場合には,XとYとは同時傷害となり,それぞれ傷害罪が成立する。同時傷害が認められない場合にはいずれも暴行罪にとどまる。
②の場合→同時傷害とならないので,Xに傷害罪,Yに暴行罪がそれぞれ成立する。この場合,Xは,第1暴行と第2暴行を一連の行為と考える余地が高いので,全体とし
て1個の暴行と捉えるか,ないしは包括一罪と考えるのが妥当である。
③の場合→Yに承継的共同正犯が認められる場合には,XとYとは傷害罪の共同正犯が成立する(通常は認めがたい)。承継的共同正犯が認められない場合には,続いて同時傷害の検討をして,同時傷害が認められる場合にはXとYとには同時傷害が成立する。同時傷害が認められない場合には,Xは,全体で傷害罪(Xには第1暴行及び第2暴行に関与しているので,少なくとも傷害がいずれかの暴行から生じている以上Xには結果責任が生じる),Yは暴行罪のみが成立する。
④の場合→Yに承継的共同正犯が認められる場合には,Yにも傷害罪が成立する。承継的共同正犯が認められない場合には,Xだけが傷害罪で,Yは暴行罪となる(Xについては,上記②参照)。

●同時傷害の特例と傷害致死罪
傷害致死罪に同時傷害の特例は適用されるか。
文言上、「傷害」の場合のみを予定していると思えるため問題となる。
思うに、同時傷害の特例は、疑わしきは被告人の利益に、とする利益原則に対する重大な例外であるから、その適用範囲は限定的に解すべきである。よって、傷害致死罪には適用されないものと解する。
* 判例は傷害致死罪には適用されるとする(最判昭26・9・20)が、強姦致死罪には適用されない(仙台高判昭33・3・13)。

●同時傷害の特例と共犯関係
共犯関係がある場合に同時傷害の特例は適用されるか。
この点、同時傷害の特例は挙証責任の転換を図るものであり、厳格に解釈すべきであり、共犯関係がある場合には、少なくとも先行行為者は傷害の罪責を負うのであるから、適用すべきでない、とも思える。
しかし、「傷害」について、同一の機会に複数人が暴行をなしている以上、207条の要件は満たしている。それにもかかわらず207条の適用を否定するには根拠としては不十分である。そもそも、条文上、意思の連絡がある場合とない場合を区別すべき根拠はない。また、意思の連絡がある場合の方が、意思の連絡がない場合と比べて当罰性は高いといえる。よって、共犯関係がある場合にも同時傷害の特例は適用されると解する。

●時間的場所的接着性の程度と同時傷害の特例
第1暴行と第2暴行との間の時間的場所的接着性が要求されるかが明文なく問題となる。
207条が「疑わしきは被告人の利益に」の原則に対する例外であることからすれば、同条の要件は厳格に解すべきである。
よって、同条の適用は外形的に共犯類似の現象がある場合に限定される。すなわち、同時犯の暴行の時間的、場所的同時性又は接着性がない限り本条は適用されないのが原則である。
もっとも、時間的場所的接着性がない若しくは希薄であったとしても、①行為態様、②暴行をした者同士の関係、③動機の共通性等を考慮して、第1暴行と第2暴行が社会通念上同一の機会に行われた一連の行為と認められるならば、同条の適用の前提条件たる外形的な共犯類似の現象があるといえる。
よって、かかる場合には、同条が適用されると解する。(福岡高裁s49.5.20、東京高裁H20.9.8参照)。

●暴行罪等
暴行の意義
人の身体に対する不法な有形力の行使

●暴行罪―身体接触の要否
暴行罪の成立に、身体との接触は必要か。
この点、人の身体との接触を必要とすると、傷害結果発生の現実的危険を有する有形力の行使でさえも不可罰となり妥当でない。
よって、暴行罪の成立に身体的接触は不要と解する。

●凶器準備集合罪
この点、凶器準備集合罪の個人的法益に対する罪としての側面を重視し、凶器準備集合罪を予備罪と捉える見解がある。
しかし、凶器準備集合罪は公共的な社会生活の平穏をも保護法益とするものであり、妥当でない。立法の沿革に鑑みれば、公共危険犯、すなわち公共的な社会生活の平穏に対する抽象的危険犯と解すべきである。したがって、実行行為の開始後も、本罪は成立するし、凶器準備集合の状況が社会生活の平穏を害しうる態様のものであれば、成立する。

フォローする