論証集~刑法各論4~名誉毀損罪・侮辱罪

この記事の所要時間: 319

論証集  刑法各論

名誉毀損罪・侮辱罪

●名誉毀損罪・侮辱罪
名誉毀損罪―保護法益
人に対する社会的評価(外部的名誉)を保護法益とする、抽象的危険犯。人の経済的信用に対する評価は、信用毀損罪の保護の対象となり、本罪の名誉からは除かれる。

侮辱罪―保護法益
名誉毀損罪は外部的名誉、侮辱罪は名誉感情を保護法益とすると解し、これにより区別とする見解もある。しかし、かく解すると、侮辱罪も「公然」性を要件としたこととの説明が困難である。また、230条の2によって不可罰とされた表現活動が侮辱罪によって罰せられることになりかねず、表現の自由(憲21Ⅰ)に萎縮効果を与えかねない。そこで、侮辱罪の保護法益も外部的名誉であると解する。

「公然」の意義
不特定又は多数人が知りうる状態をいう。「事実を摘示」とは、人の社会的評価を害するに足りる具体的事実を表示することをいう。

伝播性の理論
特定、少数の者に事実を摘示した場合にも、伝播性があれば「公然と」と言えるか。この点、これを肯定する見解もある。しかし、本条の文理からは、「公然と」とは結果の公然性ではなく行為の公然性を意味していると解されるし、伝播させるかという相手方の意思によって犯罪の成否が決まるのは不当である。なにより、抽象的危険犯である名誉毀損罪の成立範囲が一層不明確・無限定となる。よって、特定、少数の者に事実を摘示した場合には、伝播性があっても「公然と」とはいえないと解する。

230条の2
要件(1) 「公共の利害に関する事実」
社会の大多数の利害に関する事実をいう。
これに当たるかどうかは、摘示された事実自体の内容・性質に照らし客観的に判断されるべきであり、私人の私生活上の行状も、その携わる社会的活動の性質及びこれを通じての社会への影響力の程度如何によっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、公共の利害に関する事実となりうる(判例)。

(2) 「目的が専ら公益を図る」ため
公益目的だけが唯一存在する必要はなく、主たる動機が公益を図ることであれば良いとするのが通説である。この目的の認定に当たっては、事実摘示の際の表現方法、事実調査の程度等が考慮されることとなろう。

(3) 「真実であったことの証明があった」
事実の重要部分について真実のものと判断するに足りる証拠があり、裁判所がそれにつき合理的疑いを容れない程度の心証を得たときという意味である。なお、事実が噂・風評として表示されても、事実証明の対象は、そのような噂・風評の存在ではなく、その内容となっている事実の真否である。

法的性質
この点、「これを罰しない」という文言、および真実性の証明等の立証責任は被告人にあるとの解釈を「疑わしきは被告人の利益に」の原則と調和させる観点から、230条の2は処罰阻却事由であると解する。
これにつき、かかる見解では230条1項に該当する行為はすべて違法行為となり表現の自由(憲21Ⅰ)を軽視するとの批判があるが、相当な根拠に基づいて行われた場合には、正当行為(35)として違法性を阻却すると考える自説からは、かかる批判は当たらない。

●名誉毀損罪―事実の真実性に関する錯誤
相当な根拠に基づいて真実である(=証明可能な程度に真実である)と誤信した場合には、230条の2により処罰は阻却されないが、これにつき名誉毀損罪(230条)の成立を認めると、表現の自由を著しく害する。
では、かかる場合をどのように処理すべきか。
この点、違法性の実質は社会的相当性を逸脱した法益侵害およびその危険にある。
そして、事実の公共性、目的の公益性が認められる場合に、相当な根拠に基づいた言論は表現の自由の正当な行使として、社会的相当性を有すると解すべきである。
よって、相当な根拠に基づいて真実であると誤信した場合には、正当行為(35条)として違法性が阻却されると解する。

フォローする