論証集~刑法各論6~窃盗

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論証集  刑法各論

窃盗罪

●財産罪の客体
財物の意義
財物の意義が問題となる。この点、財物を広く管理可能なものとする見解もある。しかし、かく解すると、利益窃盗を不可罰とする現行法と矛盾する虞があるし、罪刑法定主義に反する虞もある。そこで、財物とは有体物をいうと解する。

財産的価値
財物は財産的価値を有して初めて保護に値すると認められる。ここに、財産的価値とは、通常は金銭的な交換価値を意味するが、例外的には、交換価値がないが所有者・占有者にとって主観的価値があり、刑法上の保護に値するものも、財物に含まれる。

禁制品の財物性
禁制品も財物にあたるか。この点、奪取罪の保護法益は財物の占有そのものと解する。とすると、法令上私人による占有が禁止されている禁制品の占有は保護に値せず、財物にあたらないとも思える。しかし、禁制品も没収に一定の手続を要するものである以上、法定の手続によらなければ没収されないという限度において、その占有は保護に値するといえる。よって、禁制品も財物にあたると解する。

●財産罪の保護法益
奪取罪の保護法益が明文上明らかでなく問題となる。
占有説
この点、所有権その他本権と解する見解もある。確かに、終局的には所有権その他本権が保護されるべきである。しかし、財物の利用形態の複雑化した現代社会においては所有権その他本権を保護する前提として、財物の占有そのものを保護する必要があるといえる。こう考えることが、自力救済禁止原則とも調和的といえよう。よって、奪取罪の保護法益は事実上の占有それ自体と解する(判例)。
平穏占有説
思うに、奪取罪の保護法益は、究極的には所有権その他の本権であるが、財産関係の複雑化した現代社会においては、占有それ自体を保護する必要がある。もっとも、一見して不法な占有は保護に値しない。そこで、「他人の占有」(242)とは、外観上一応平穏といえる占有をいうと解する。

●不法領得の意思
窃盗罪における不法領得の意思の要否・内容が問題となる。
この点、客観面が占有侵害という点で同一であるにもかかわらず、盗取行為が毀棄罪より重く処罰されるのは、国民にとって誘惑的行為で犯しやすい犯罪のため厳しく禁圧する必要があるからである。したがって、犯罪の区別は主観面によらざるを得ず、不法領得の意思が必要である。そして、①現行法上不可罰な利益窃盗との区別、②毀棄罪との区別、の観点から、その内容は①権利者を排除し所有者として、②物の経済的用法に従い利用・処分する意思と解する(判例)
* ①は、現代における物の利用価値の重大性を考慮すれば、一般に権利者が許容しないであろう程度・態様の利用をする意思と解すべきである。②は利欲犯的性格の基礎づけるものであるので、その物本来の経済的用法に従ったものである必要は必ずしもなく、その財物自体のもつ利益や効用を享受する意思であればよい。

●窃盗罪―占有の意義
占有の意義
財物を事実上支配していることをいう。客観的に財物を支配している事実と、主観的にこれを支配する意思を必要とする。

死者の占有 [33]
被害者が生前に有していた占有は、被害者を死に至らしめた犯人に対する関係では、被害者の死亡と時間的・場所的に近接した関係にある場合には、なお刑法上保護に値するものといえる。したがって、かかる場合には、一連の行為を全体として評価し、占有奪取が認められるものと解する。なお、人の死亡と無関係な第三者の死体から死者が生前から持っていた財物を奪った場合は、占有の侵害はなく、占有離脱物横領罪が成立すると解される。

占有の他人性
(1) 共同占有
一方が他人の占有を排除し、財物を自己の単独の占有下に移した場合には、窃盗罪が成立する(判例)。
(2) 上下主従関係
上下主従関係がある場合に下位者に占有が認められるか。思うに、上下主従関係がある場合、上位者が物に対する事実的支配を及ぼしているのであり、下位者はその補助者にすぎないといえる。よって、原則として占有は上位者にあり、下位者に占有は認められないと解する。もっとも、両者間に高度の信頼関係があり、下位者に財物につき、ある程度の処分権が委ねられている場合は下位者にも占有があると解する。
(3) 封緘委託物
封緘委託物につき委託者・受託者どちらに物の占有があるかが問題となる。この点、封印・施錠がなされている場合には、その内部は委託者の事実上の支配が及んでいるといえる。よって、委託者に占有があると解する。なお、全体をそのまま領得すれば横領罪(5年以下)であり、中身を抜き取れば窃盗罪(10年以下)となるのは不均衡との指摘がなされるが、業務上横領罪(10年以下)もあることを考慮すれば、不合理とまではいえない。
(4) 置き忘れた物
占有の有無の判断基準。
ア ①被害者が忘れ物に気づいた時点や忘れた場所からの距離、②忘れた場所の開放性、③被害者が忘れた場所を明確に記憶していたかどうか、④周囲の人が忘れ物に気づいていたかどうか、など。
イ もっとも、最高裁は、諸般の事情を考慮するといっても、特に忘れ物をしてから領得するまでが、極めて接着しているような場合には、そのことだけで占有を肯定するという理解が広まりつつある。
ウ なお、他人が排他的に支配する場所に遺留された財物の占有は、その場所の支配者に移る。
これに対して、その場所につき一般人の立入りが自由であって管理者の排他的支配が十分でない場合には、当該財物は誰の占有にも属しない占有離脱物となる。*最決平16・8・25

窃取
「窃取」とは、他人の占有する財物を、その占有者の意思に反して自己の占有に移転させる行為をいう。
他人の財物に対する事実上の支配を侵すにつき密接な行為をなしたときに実行の着手が認められ、他人の占有を侵害して財物を自己の占有に移したとき既遂となる。
* 既遂時期は事後強盗か強盗罪かの区別の基準となる。未遂の段階でなされた暴行脅迫は財物の奪取に向けられたものとして強盗であるが、既遂の段階でなされた暴行脅迫はすでに占有を取得した財物の取り返しを防ぐものとして事後強盗である。
**最決平19・4・13
「専らメダルの不正取得を目的として上記のような機能を有する本件機器を使用する意図の下、これを身体に装着し不正取得の機会をうかがいながらパチスロ機で遊戯すること自体、通常の遊戯方法の範囲を逸脱するものであり、パチスロ機を設置している店舗がおよそそのような態様による遊戯を許容していないことは明らかである。そうすると、被告人が本件パチスロ機『甲』55番台で取得したメダルについては、それが本件機器の操作の結果取得されたものであるか否かを問わず、被害店舗のメダル管理者の意思に反してその占有を侵害し自己の占有に移したものというべきである。したがって、被告人の取得したメダル約1524枚につき窃盗罪の成立を認めた原判断は、正当である。」

●親族相盗例
親族相盗例(244)の適用には、誰と誰が親族である必要があるのか。
この点、244条1項は、法は家庭に入らずという政策的理由から、一身的処罰阻却事由を定めたものと解される。
そして、全関与者が親族関係になければ、もはや家庭内での処理に委ねるべきではなく、通常の刑事システムに委ねるべきである。
よって、親族関係は行為者と目的物の所有者及び、占有者との間に必要と解する(判例)。

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