論証集~刑法各論7~強盗

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論証集  刑法各論

強盗罪

●強盗罪
行為 暴行・脅迫
人の反抗を抑圧する程度のものでなければならない。

強盗の手段たる暴行・脅迫の判断基準
反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫であるか否かはどのように判断すべきか。思うに、暴行・脅迫は社会通念を基礎に定められた行為類型たる構成要件の該当性の問題である。とすれば、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫か否かは、社会通念にしたがって決すべきである。その判断に当たっては、暴行・脅迫の内容のほか、犯行の時刻・場所、犯人及び被害者の数・年齢・性別・体格等を総合考慮しなければならない。
強盗の手段たる暴行・脅迫の対象
この点、事後強盗罪の規定を参考にして、占有者ないし占有補助者のほか、逮捕ないし財物を取り戻そうとする者までを含めるのが適切であると考える。

財物奪取と因果関係
客観的に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を加えたが被害者が反抗を抑圧されず憐憫の情等から財物を交付した場合に強盗罪は既遂となるか。思うに、「強取」とは、相手方の反抗を抑圧するに足る暴行・脅迫を加え、その意思に反して財物を奪取することをいう。
とすれば、このような場合、強盗罪の予定する因果関係を充足していない。よって、未遂となると解する。

●暴行後の領得意思
事後的奪取意思を生じて財物を奪取した場合に強盗罪(236Ⅰ)が成立するか。思うに、強盗罪は暴行・脅迫を手段として財物を奪取する犯罪であるから、暴行・脅迫は財物奪取に向けられている必要がある。とすれば、事後的に奪取意思を生じた場合は、財物奪取に向けられた暴行・脅迫がないので強盗罪は成立しないと解する。178条(準強姦)のような規定が設けられていないこともかかる解釈と合致する。ただし、新たな暴行・脅迫がなされていたと評価できる場合には、強盗罪が成立する。そして、被害者はすでに反抗抑圧状態にあるので、新たな暴行・脅迫は、自己の先行行為によってつくられた反抗抑圧状態を継続するに足りるものであればよいと解する。

●財物奪取後の暴行・脅迫と2項強盗の成否
強盗罪の犯人が財物に対する返還請求権を侵害することは原則として別個の犯罪を構成しない。なぜなら、返還請求権は強盗罪によりその違法評価が尽くされているからである。もっとも、強盗罪の犯人が、被害者に対する新たな不法手段によって返還請求等を免れる行為については、このような評価が尽くされているということはできず、被害財物とは別個の財産的法益を侵害するものとして、2項強盗罪が成立すると解すべきである。

●強盗利得罪
処分行為の要否
強盗利得罪(236Ⅱ)が成立するには、被害者の処分行為は必要か。思うに、強盗罪は、暴行・脅迫を手段として被害者の意思に基づかずに財産を奪取する犯罪であり、被害者の瑕疵ある意思に基づく恐喝とは異なる。よって、処分行為は不要と解する。

「財産上不法の利益を得」の意義
財産上の利益は、財物以外の財産上の利益一切をいうが、およそ抽象的に財産的な利益を得た場合に2項強盗罪の成立を認めると、処罰範囲が拡張しすぎる。そこで、1項強盗における財物の移転と同視できる程度の財産上の利得の具体性および確実性が必要であると解する 。

●推定相続人による親殺しによる相続開始と強盗利得罪の成否
相続を開始させて財産上の利益を得ようと企て、推定相続人である子がその親を殺した場合、236条2項の財産上の利益の移転があったといえるかが問題となる。この点、相続に乗じて財産を奪おうとうする行為はあたかも被害者に暴行・脅迫を加え、被害者の所有する財産を強取するのと同視しうることを理由にこれを肯定する見解がある。しかし、相続には一定の法定の手続が必要であり、単に被相続人を殺しただけでは、包括的・抽象的な利益の移転しか認められない。よって、236条2項にいう具体的な利益の移転は認められない。

●経営上の権益の奪取と強盗利得罪の成否
相手方が実質的に経営する全会社及び全店舗の什器備品・従業員等を利用して同店舗等を営業し、その売上金を収受すること等を含む経営上の権益が、236条2項の「財産上不法の利益」にあたるかが問題となる。この点、殺害された被害者から行為者が何らかの財産上の利益を取得した場合に、単なる殺人罪ではなく奪取罪である2項強盗殺人罪が成立するためには、処罰範囲を限定するため、1項強盗における財物の強取と同視できる程度にその殺害行為自体によって被害者から「財産上不法の利益」を強取したといえる関係にあることが必要であると解する。経営上の権益なるものは、相手方が死亡したことによって直接得られた利益というよりは、相対的な地位の向上により得られた事実上の利益にすぎない。また、かかる経営上の権益を得るためには、別途、取締役会や株主総会を要する場合が多い。とすれば、相手方の死亡の時点で具体的・確実性をもった利益の移転は認められないと解する。よって、経営上の権益は236条2項の「財産上不法の利益」には当たらない。(神戸地裁H17.4.26)。

他の2項犯罪より厳格に捉える説
強盗罪においては処分行為が不要と解される以上、2項強盗成立においては、処分行為に変わるメルクマールとして「財産上不法の利益」を厳格に解すべきである。具体的には、当該財産上の利益の回復が事実上不可能若しくは著しく困難な状態になったというような現実状態まで必要であると解する。

●暗証番号の聞き出し行為と2項強盗罪の成否
被害者から銀行等のキャッシュカードを窃取した者が暗証番号が分らないため、更に被害者に対し、反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫を加えて暗証番号を聞き出した行為につき、2項強盗罪が成立するか。暗証番号が「財産上の利益」に当たるかが問題となる。「財産上の利益」は、財物以外の財産上の利益一切をいうが、およそ抽象的に財産的な利益を得た場合に2項強盗罪の成立を認めると、処罰範囲が拡張しすぎる。そこで、1項強盗における財物の移転と同視できる程度の財産上の利得の具体性および確実性が必要であると解する。
そして、キャッシュカードとその暗証番号を併せ持つことは、ATMを操作してその預貯金残額の範囲内で金銭の払戻しを受ける地位を得ることである。そうすると、このような経済的利益は、236条2項にいう「財産上の利益」として財物と同様に保護するのに十分な具体性、現実性をもった利益であるとみるのが相当である。(神戸地裁H19.8.28参照)よって、暗証番号は「財産上の利益」に該当する。

●事後強盗罪
窃盗の機会
事後強盗罪における暴行・脅迫はいつなされることが必要か。思うに、事後強盗罪が強盗罪として、処断されることからすれば、窃盗の機会、すなわち窃盗の現場及び窃盗行為から時間的場所的に接着して暴行脅迫がなされる必要がある。ただし、罪証隠滅目的は、時間的場所的に離れていても認められよう。*最判平16・12・10
被害者方で財物を窃取した犯人が、誰からも発見・追跡されることなく、いったん同所から約1km離れた場所まで移動し、窃取の約30分後に再度窃盗をする目的で被害者方に戻った際に逮捕を免れるため家人に脅迫したなどの事実関係の下においては、その脅迫は、窃盗の機会の継続中に行われたものとはいえない。

未遂・既遂の区別
事後強盗罪の主眼はあくまで財産犯であることから、窃盗の既遂・未遂を基準に事後強盗罪の既遂・未遂を判断すべきである。

事後強盗の予備
事後強盗の目的も「強盗の目的」(237)に含まれるか。思うに、事後強盗罪が「強盗として論」(238)じられるのは、その違法性において単純強盗罪(236)と異なるところがないからである。とすれば、事後強盗の目的も単純強盗の目的も異なって扱うべきではない。そこで、事後強盗の目的も「強盗の目的」に含まれると解する。

暴行脅迫の程度
事後強盗罪も強盗として処罰される以上、被害者の反抗を抑圧するに足りる暴行・脅迫をなすことが必要である。
●事後強盗罪の共同正犯
事後強盗罪において、窃盗行為にはなんら関与しておらず暴行脅迫行為の時点で窃盗犯人と意思を通じて共同してそれをなした者に事後強盗罪の共同正犯が成立するか。先行する窃盗行為については共同実行の事実がないため、暴行・脅迫についての共同正犯しか成立しないとも思えるため問題となる。
思うに、事後強盗罪は「窃盗」という身分を構成要件要素とする身分犯であり、共犯と身分の問題として処理すべきである。この点、事後強盗罪が財産罪であることからすれば、窃盗犯のみが犯しうる犯罪というべきである。(また、不真正身分犯と解すると、事後強盗罪が暴行・脅迫罪を基本犯とする加重類型ということになり、事後強盗罪が財産罪であることと整合しない。)そこで、事後強盗罪は窃盗という身分による真正身分犯と解する。そして、65条1項の「共犯」には共同正犯も含まれる。以上より、65条1項が適用され暴行脅迫行為の時点で加功した者にも事後強盗罪が成立すると解する。

●窃盗犯の認識と客観の不一致の存在と事後強盗罪の成否
客観的には逮捕される危険はなかったのに行為者の主観においては逮捕されると思い込んでいた場合に、事後強盗罪が成立するかが問題となる。238条の意義は窃盗犯が逃亡する際にに暴行・脅迫を加えることが多いという刑事学的実態に着目し、逮捕者や追跡者の人身保護の観点から、強盗として処断する点にある。そして、窃盗犯が逮捕のおそれがあると認識してさえいれば暴行・脅迫に至る危険性が高いといえるから、強盗として重く処罰すべき必要性は、客観的にも逮捕される危険がある場合と異ならない。よって、行為者が自ら逮捕されるものと思っていれば足りる。

●事後強盗罪の「窃盗」には窃盗幇助が含まれるか
事後強盗罪の主体たる「窃盗」には窃盗幇助にすぎない者も含まれるかが問題となる。事後強盗罪の趣旨は、窃盗の本犯が窃盗行為の後に暴行・脅迫を加えることが多いという実態を考慮してこれを強盗と同じく処断する点にあること、及びその法定刑の重さを考えると、「窃盗」には正犯のみが含まれ、窃盗の幇助は含まないと考えるのが妥当である。

●強盗致死傷罪
本罪における傷害の意義
(a) 広義説
法解釈の統一性の観点から、204条の「傷害」と同様に解すべきである。なお、このように解しても、平成16年改正により強盗致死傷罪の下限が引き下げられたのであるから、執行猶予を付することも可能であり、不都合はない。

(b) 狭義説
強盗罪における暴行は、相手方の犯行を抑圧する程度のものであるため、暴行が行われる場合には軽微な障害が生じることは当然予想され、手段としての暴行によって評価し尽くされているといえる。そこで、本罪における「傷害」とは、社会通念上一般に看過し得ない、医師の治療を要すると認められる程度のものをいう。

殺人の故意がある場合
240条が故意犯を含むかが問題となる。思うに、240条は強盗の機会に強盗行為と関連して死傷の結果が伴うことが刑事学上顕著であることに鑑み規定された特別犯罪類型である。とすれば、同条が人を殺し、または傷を負わせて財物を奪うという典型的な場合を除外しているとは考えにくい。また、結果的加重犯特有の「よって」という文言もない。さらに、「死刑又は無期懲役」という極めて重い法定刑からしても、同条は殺意ある場合も予定していることが伺える。よって、同条は故意犯を含むと解する(判例)。

●強盗の機会
いかなる範囲で強盗致死傷罪(240)が成立するか。思うに、240条は強盗の機会に強盗行為と関連して死傷の結果が伴うことが刑事学上顕著であることに鑑み規定された特別犯罪類型である。とすれば、必ずしも暴行・脅迫から直接生じた死傷に限定する必要はない。もっとも、強盗の機会における行為から死傷が生じれば常に強盗致死傷罪が成立すると解するのは成立範囲が広きに失する。そこで、単に強盗の機会に被害者に傷害の結果が生じればよいというものではなく,傷害の原因行為は,①これが強盗の機会における被害者等に向けられた暴行ないし積極的な行為であり、かつ、②強盗犯人の行為と傷害結果との間に刑法上の因果関係の存在することが必要である。(横浜地裁H21.6.25)

(密接関連性説)そこで、強盗と密接な関連性を有する行為から致死傷が生じた場合に強盗致死傷罪が成立すると解する。

未遂・既遂の判断基準
240条の第一次的法益が生命・身体の安全にあることに鑑み財物奪取が未遂でも、致傷・致死の結果が生じていれば既遂となる。
よって、240条の未遂犯は、犯人が殺意をもって殺害行為が未遂に終わった場合に限ることになる(傷害未遂は通常の強盗罪)。

●昏睡強盗罪の成否
睡眠薬で相手方を昏睡させて強盗を犯す計画で間違って睡眠薬ではなく、風邪薬を飲ませて強盗を犯した場合、昏睡強盗の実行行為性が認められるかが問題となる。 実行行為性は、構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為に認められる。睡眠薬と風邪薬を入れ間違えているが,風邪薬もアルコールと一緒に服用すれば意識障害を生じさせる危険性は十分ある。よって、風邪薬であっても,昏睡強盗の実行行為性は否定されない。

●強盗強姦殺人罪
強盗犯人が殺意を持って女子を強姦し殺害した場合いかなる犯罪が成立するか。この点、強盗強姦殺人(241後)一罪が成立する見解がある。しかし、強盗強姦の機会に犯人が被害者を故意に殺すことは刑事学上顕著とまではいえないし、同条には「よって」という文言がある。よって、同条は結果的加重犯であり、故意犯は含まないというべきである。そして、刑の不均衡および死の二重評価を回避すべく、強盗強姦罪と強盗殺人罪の観念的競合となると解すべきである(判例)。

●強盗強姦傷人罪
強盗犯人が女子を強姦し傷害した場合いかなる犯罪が成立するか。241条が人を負傷させた場合を特に規定していないため問題となる。この点、強盗強姦罪が成立するにとどまると解する見解 [48]もあるが、強姦が未遂特に中止未遂におわったときに刑が不均衡となる。また、強姦致傷行為が強盗の機会に行われたものであることから、別に強盗致傷罪の成立を認めうる。そこで、強盗強姦罪と強盗致傷罪の観念的競合と解する(裁判例)。

強姦が未遂の場合の強盗強姦罪
ⅰ まず、強盗が未遂の場合でも「強盗」(241前)といえるか。
思うに、強盗強姦罪の第一次的保護法益は強盗の機会における女性の性的自由の保護にある。
とすれば、「強盗」は既遂・未遂を問わないと解する。
ⅱ では、強盗が未遂の場合、強盗強姦罪は未遂となるか。
思うに、強盗強姦罪の第一次的保護法益は女性の性的自由の保護にある。
とすれば、既遂・未遂は強盗についてではなく、その姦淫行為につき判断すべきである。

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