論証集~刑法各論8~詐欺

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論証集  刑法各論

詐欺罪


詐欺罪

詐欺罪は、欺罔行為によって、相手方が錯誤に陥り、それに基づいて財産上の処分行為をし、結果として財産的損害が発生するという因果経過を予定している犯罪である。

国家的法益と詐欺
本来の国家的法益に向けられている詐欺的行為に詐欺罪が成立するか。この点、詐欺罪は個人的法益に対する罪であり国家的法益に向けられた詐欺は定型性を欠くとして詐欺罪の成立を否定する見解もある。しかし、国家も財産権の主体足りうる以上、詐欺罪の成立を認めるべきである。よって、国または地方公共団体の財産的利益を侵害するものであれば詐欺罪は成立すると解する。

「財物」の意義
他人の占有する(他人の)財物。電気も「財物」に含まれること(245)及び親族相盗例(244)の準用があること(251)は窃盗罪と同様である。

口座振込による金銭取得
口座振込による金銭取得は、「財物」か「財産上の利益」か、明文上明らかでなく問題となる。思うに、振込・振替は日常的に行われる決済手段であり、振込による入金があれば金銭を自由に処分できる状態になったものといえる。とすれば、銀行に対する預金債権の取得というよりも、むしろ、現金に対する直接的支配を得たのと同視できる。したがって、「財物」を得たものといえる。

財物における財産的損害
財物取得において、相当の対価を支払っていたとしても、詐欺罪を構成するか。思うに、財産自体に対する利用・処分という本権の事実的機能を保護すべきである。また、1項詐欺罪には、背任罪のような「財産上の損害」という要件がないため、個々の財産の損害を予定していると考えられる。よって、1項詐欺罪は、財物交付自体が損害といえる個別財産に対する罪である。*最判平16・7・7

「財産上不法の利益」の意義
この点、財産上不法の利益とは、不法に財産上の利益を得ることをいい、財産上の利益とは財物以外の財産的利益の一切をいう。
労務・サービスの提供も含まれる。有償の役務に限定する見解もある。また、財物の移転と同視しうるだけの財産上の利得の具体性・確実性を要すると解すべきであろう。





不法原因給付と詐欺・恐喝

財物の交付行為が不法原因給付にあたる場合でも詐欺罪は成立するか。

不法原因給付にあたる場合は民法上被欺罔者に目的物の返還請求権はなく(民708)、反射的効果として所有権は欺罔行為者に移転するため、損害がなく詐欺罪を構成しないとも思えるため問題となる。思うに、被欺罔者は欺罔されなければ財物を交付しなかったのであるから、給付者はかかる財物を失うという損害を受けているといえる。また、返還請求権の有無は、詐欺罪が成立した後のことであり、詐欺罪の成立とは関係ないといえる。(そして、民法は、私人間の利益調整を主眼としているのに対し、刑法では、社会倫理秩序維持及び法益保護が主眼にあり、必ずしも一致する必要はない。)よって、詐欺罪は成立すると解する(判例)。

売春代金の支払いを免れる行為と2項詐欺
この点、明らかに公序良俗に反する売春契約に基づく債権の刑法上の要保護性は低い。よって、詐欺罪の処罰に値する法益侵害性を欠き、詐欺罪は成立しない(裁判例)。


欺罔行為

相手方が真実を知っていれば処分行為を行わないような重要な事実を偽ることをいう。右重要な事実に該当するためには、条件関係的側面のみならず、経済取引的側面からみて重要な事実であることを要する。人に対する、処分行為に向けられたものでなくてはならない。*最決平19・7・17

つり銭詐欺
ⅰ 店員が余分のつり銭を支払おうとしているのを知りながら、そのまま黙ってつり銭をもらった場合は1項詐欺罪が成立する。
なぜなら、信義則上告知義務を履行せず不作為の欺罔行為があるといえるからである。
ⅱ つり銭を受領し、しばらくしてつり銭が余分にあることに気づいたが黙って持ち帰った場合は占有離脱物横領罪が成立する。
ⅲ つり銭を受領し、家に持ち帰って勘定したところ、つり銭が余分にあることに気づいたが黙っていた場合は占有離脱物横領罪が成立する。
ⅳ 余分なつり銭について返還要求があったにもかかわらず、行為者がその旨を否定し返還を免れた場合は2項詐欺罪が成立する。

無銭飲食
支払の意思も能力も無いにも関わらず、注文する行為は、注文の際には支払意思を伴うのが通常であることからすれば、支払意思があるかのように装って注文する作為による詐欺と解する。





非対面営業システムを採用したホテルの無銭宿泊と2項詐欺罪の成否

(事案)利用客甲乙が従業員と顔を合わせる必要がないように配慮した入室管理システムを使用したホテルでの無銭宿泊事件
(論証)
詐欺罪が成立するには、①欺もう行為、②錯誤、③錯誤に基づく処分行為、④財産上の利益の移転、⑤損害が必要である。
では、欺もう行為があったといえるか。
ここに、欺もう行為は、その相手方を錯誤に陥れ、その処分行為を惹起しうる危険性を有する行為でなくてはならない。
甲乙は宿泊の申込はしてないものの、入室した行為自体が、代金を支払って宿泊する旨の挙動によって示した欺もう行為といえる。
もっとも、欺もう行為は、人に向けられたものでなければならないが、本件では甲乙らが入室したホテルはいわゆるラブホテルであり、利用客が従業員と対面することなく、案内パネルの脇にかけてある利用したい客室の鍵をとってその客室に入ることができるようになっており、従業員に対し直接口頭で宿泊を申し込むものではないから、人に向けられた欺もう行為がないようにも思える。
しかし、本件ホテルでは、客が入室した場合には、チャイムがなると共に、フロントに設置してあるモニター画面上の当該客室番号の表示が白色から赤色に変わり、入室状況を把握できるようになっている。そして、甲乙らはこのシステムを理解していたのであるから、甲乙らの入室行為は、機械装置による入室管理システムの背後にいる従業員に向けられた行為であるといえる。したがって、従業員を錯誤に陥れ、その処分行為を惹起しうる危険性を有する行為があるといえる。よって、欺もう行為が認められる。また、当時フロントの業務を担当していたAは、甲乙の入室行為により、入室した以上は宿泊代金を確実に支払うものと誤信させ(②)、同室の利用を許容したのであるから、処分行為(③)も財産上の利益の移転及び損害(④⑤)も認められる。そしてAは、甲乙らが入室した午前零時ころから他の客室の掃除などをしており、甲乙らが入室時点ではその事実を確認しておらず、その後の午前2時ころ、フロントのモニター画面を見てそれを認識していることから、この時点で錯誤に基づく財産的処分行為があったといえ、既遂となる。したがって、甲乙には午前2時から翌日の午前12時までの客室の利用行為について詐欺罪の共同正犯が成立し、甲乙が入室した午前0時からAが右事実を認識する午前2時までの客室の利用行為についてはAの処分行為が認められないので利益窃盗となり、不可罰である。


キセル乗車

キセル乗車について詐欺罪利得罪(246Ⅱ)が成立するか。この点、乗車駅での乗車券呈示を欺罔行為とする見解(乗車駅基準説)があるが、乗車時に乗り越しの申告義務は無く、欺罔行為を欠く。他方、下車駅において改札を通過する行為を欺罔行為とする見解(下車駅基準説)もあるが、改札係は債権の存在を認識していないのであるから、処分意思が認められない。以上より、キセル乗車について詐欺利得罪は成立しないと解する。*  交付意思必要説の多数は、「改札を通過した後はもう請求しない」という決済する意思があれば交付意思が認めることができると解し、事実上交付意思不要説に接近した結論が採られている。なお、詐欺罪肯定説に立ってとしても、自動改札を通過した場合は、人に対する欺罔行為がないので、詐欺罪が成立する余地はなく、鉄道営業法29条の無賃乗車罪が成立するにとどまる(かりに駅員が自動改札の状況を監視していたとしても、利益を直接的に交付しているのは人ではなく、機械である)。


訴訟詐欺

訴訟詐欺において詐欺罪が成立するか。この点、詐欺罪が成立するには、欺罔行為があり、被欺罔者が錯誤に陥り処分行為をなし、財産的損害が生じ、これらが因果関係で結ばれていることが必要である。
ⅰ まず、欺罔行為に基づく錯誤はあるか。
確かに、形式的真実主義や弁論主義をとる民事訴訟制度のもと、裁判所は錯誤に陥ったかどうかを問わず当事者の主張に拘束されて一定の裁判をしなければならないので欺罔行為に基づく錯誤はないとも思える。
しかし、自由心証主義のもとでは裁判官は事実を誤認することはありうるし、錯誤に陥ることは否定し得ない。
よって、欺罔行為に基づく錯誤はあるといえる。
ⅱ また、処分行為もあると解する。
なぜなら、被害者が処分行為をなすことは必要ではなく、被欺罔者の処分行為に基づき、損害が発生すれば足りるからである。
すなわち、被欺罔者たる裁判所は判決により被告の財産を処分できる地位にあるところ、かかる地位に基づき、裁判所自体が処分行為をなしたといえる。以上より、詐欺罪が成立する(判例)。


自己名義のクレジットカードの不正使用

自己名義のクレジットカードを支払の意思も能力も無いのに使用し、商品を購入した場合、詐欺罪(246)が成立するか。まず、欺罔行為及びそれによる錯誤はあるといえるか。加盟店はカードの有効・無効のみを問題にすれば足り、支払意思・能力まで考慮する必要がなく、錯誤に陥る余地がないとも思えるため問題となる。思うに、加盟店は代金支払の意思も能力もない者に対しては、信義則上取引を拒絶する義務を負い、支払意思・能力の有無に無関心とはいえない。よって、欺罔行為およびそれによる錯誤は認められる。そして、錯誤によって加盟店は、商品を交付したのだから、錯誤に基づく処分行為もあると解する。としても、財産的損害はあるか。加盟店は後に信販会社から商品代金の立替払を受けられるため、損害がないとも思えるため問題となる。思うに、詐欺罪は個別財産に対する罪であり、交付した商品自体を利用処分できなくなるという本権の事実的機能の点で加盟店に財産的損害があるといえる。したがって、損害があるといえる。以上より、加盟店を被欺罔者・処分行為者・被害者とする1項詐欺罪が成立すると解する(裁判例)。


承諾を得た他人名義のクレジットカードの使用

名義人本人から同意を得て、他人名義のクレジットカードを使用する行為に詐欺罪が成立するか。この点、クレジットカードシステムは、カード名義人の個別的な信用に基づき、一定限度内の信用を供与する制度であり、名義人本人が承諾をなしたとしても、名義人本人でない者の利用を加盟店は許してはならないものとされている。とすれば、利用者と名義人の同一性は極めて重要な要素であり、この点を偽ることは、欺罔行為及びそれに基づく錯誤を構成する。また、商品の交付という処分行為が行われ、加盟店には、その商品の喪失という損害が認められる。よって、詐欺罪が成立すると解する。*最決平16・2・9
クレジットカードの規約上、会員である名義人のみがクレジットカードを利用できるものとされ、加盟店に対しクレジットカードの利用者が会員本人であることの確認義務が課されているなど判示の事実関係の下では、クレジットカードの名義人になりすまし同カードを利用して商品を購入する行為は、仮に、名義人から同カードの使用を許されており、かつ、自らの使用に係る同カードの利用代金が会員規約に従い名義人において決済されるものと誤信していたとしても、詐欺罪に当たる。


財産上の損害

財産上の損害の意義
この点、明文はないが、詐欺罪が財産犯である以上、実質的な財産上の損害という要件が必要であると解される。そして、財産上の損害の有無は被害者が獲得しようとして失敗したものが、経済的に評価して損害といいうるものかどうかにより決定すべきである(実質的個別財産説)。(反対説 個別財産の移転等の場合には詐欺により個別の財産権を喪失したこと自体が損害である(形式説、最判平13・7・19))。

欺罔手段を用いて、債権の支払時期を早めた場合
この点、明文はないが、詐欺罪が財産犯である以上、実質的な財産上の損害という要 件が必要であると解される。そして、財産上の損害の有無は被害者が獲得しようとして失敗したものが、経済的に評価して損害といいうるものかどうかにより決定すべきである。具体的には、欺罔手段を用いなかった場合に得られた支払とは社会通念上別個の支払に当たるといいうる程度に支払時期を早めた場合には、詐欺罪が成立すると考える。

不法原因給付と詐欺罪
交付行為が不法原因給付に当たるとしても、交付以前の財物・利益には何の不法性も認められないから、詐欺罪が認められる(通説)。

157条2項と詐欺罪
157条2項は当然に詐欺罪の類型を含むものであり、詐欺罪の成立は認められないと解する 。


財物交付の約束

財物の詐取を目的として欺罔行為を加え、錯誤に陥った被欺罔者に財物交付の約束をさせた場合、財物の請求権の取得について、2項詐欺罪(既遂)が成立するか、それとも財物に関する1項詐欺罪の未遂が成立するにとどまるか問題になる。
思うに、財産上の利益を詐取したというためには、財物の移転と同視しうるだけの具体性・確実性が必要である。とすれば、単なる約束だけでは具体性・確実性が不十分であり、1項詐欺未遂が成立するにとどまると解すべきである。なお、財物交付の約束で、借用書や契約書など、それ自体に経済的価値のある文書が交付されている場合は、その段階で文書を客体とする1項詐欺罪が成立する。





誤振込と詐欺罪の成否

誤振り込み金であることを知りながらその払い戻し請求をする行為が詐欺罪における欺罔行為を構成するかが問題となる。確かに、民事判例上、誤振り込みであっても受取人と振込先の銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人は、銀行に対し、上記金額相当の普通預金債権を取得することからすれば、行為者は、銀行との間で有効に成立した預金契約に基づき自己の預金の払戻しを求めたに過ぎないから、何ら欺罔行為をしたわけでないとも思える。
しかし、他方、銀行実務では、誤振り込みをした者からの申出があれば、受取人の預金口座への入金処理が完了している場合であっても、受取人の承諾を得て振込依頼前の状態に戻す、組戻しという手続が執られている。また、受取人から誤った振込みがある旨の指摘があった場合にも、自行の入金処理に誤りがなかったかどうかを確認する一方、振込依頼先の銀行及び同銀行を通じて振込依頼人に対し、当該振込みの過誤の有無に関する照会を行うなどの措置が講じられている。そして、これらの措置は、普通預金規定、振込規定等の趣旨に沿った取扱いであり、安全な振込送金制度を維持するために有益なものである上、銀行が振込依頼人と受取人との紛争に巻き込まれないためにも必要なものということができる。したがって、銀行にとって、払戻請求を受けた預金が誤った振込みによるものか否かは、直ちにその支払に応ずるか否かを決する上で重要な事柄である。
とすれば、これを受取人の立場から見た場合、受取人においても、銀行との間で普通預金取引契約に基づき継続的な預金取引を行っている者として、自己の口座に誤った振込みがあることを知った場合には、銀行に上記の措置を講じさせるため、誤った振込みがあった旨を銀行に告知すべき信義則上の義務があると解される。そうすると、誤った振込みがあることを知った受取人が、その情を秘して預金の払戻しを請求することは、詐欺罪の欺罔行為に当たり、また、誤った振込みの有無に関する錯誤は同罪の錯誤に当たるというべきである。




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