論証集~民法総則4~虚偽表示・錯誤

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論証集~民法総則4~虚偽表示・錯誤

虚偽表示

●「第三者」の意義
虚偽表示の当事者及びその包括承継人以外の者であって、虚偽表示に基づいて新たに独立の法律上の利害関係を有するに至った者をいう。

●転得者は「第三者」に含まれるか
悪意の譲受人からの善意の転得者は「第三者」(94Ⅱ)に含まれるか。思うに、94条2項の趣旨は、虚偽の外観作出に帰責性ある本人の犠牲の下、かかる外観を信頼して取引関係に入った第三者を保護する点にある。そこで、「第三者」とは、通謀虚偽表示後新たに独立の法律上の利害関係を有するに至ったものをいうと解する(判例)。そして、転得者であっても保護の必要性は変わらないので「第三者」に含まれると解する(判例)。

●譲受人善意・転得者悪意の場合
ひとたび善意の第三者が現れれば、その後の転得者は悪意であっても保護されるか。この点、法律関係の早期安定と簡明な処理を図るべく、善意の第三者が出現すれば、この者が絶対的に権利を取得し、権利関係が確定する(絶対的構成)と解し、転得者は悪意でも原則として保護されると解する(判例)。かく解すると、転得者が善意者を自らの道具として利用し、介在させた場合に、不都合が生じるとも思えるが、このような善意者は、独立の法律上の利害関係を有しないため、第三者にはあたらないといえるため、不当な結論を導くものではない。

●「善意」の意義
・無過失の要否
通謀虚偽表示の場合には、真意でないことについて表意者・相手方間に認識があるのみならず、通謀(主観的連絡)まである。このような表意者の帰責性の強さ(主観的悪性)と比較すれば、特別の注意を要求することなしに「善意」の第三者の保護を図るのが適切である。したがって、無過失は不要である(判例)。

・対抗要件の要否
原権利者・第三者の場合
94条2項により保護される場合には、権利者と第三者の関係は、前主・後主の関係であり、対抗関係とはならない。よって、登記は不要と解する(判例)。

不動産が転々譲渡した後、二重譲渡された場合
不動産がA→B→Cと移転した後(AB間は虚偽表示、登記はC)、A→Dと二重に譲渡した場合、CとDは対抗関係に立ち、いずれか先に登記を備えた者が優先する(177)。Aは、Cとの関係では自己の所有権を主張することは許されないが(94Ⅱ)、Cが登記を具備するまでは実体法上の無権利者となるわけではないから、あたかもAを起点とした二重譲渡があったのと同様に考えることができる。

・善意の判定時期
「第三者」たる地位を取得したとき

●94条2項の類推適用
<要件>
不動産の他人物売買においては、登記に公信力がない以上、所有者の追認なき以上、所有権を取得できないのが原則である。しかし、かかる原則を貫くと善意の相手方に酷である。そこで、相手方保護のための法律構成が問題となる。
思うに、94条2項の趣旨は、虚偽の外観作出に帰責性ある本人の犠牲の下、かかる外観を信頼して取引関係に入った第三者を保護する点にある。とすれば、①虚偽の外観が存在し、②外観作出に本人の帰責性があり③第三者がかかる外観を信頼した場合は、94条2項類推適用により相手方を保護すべきと解する。

<第三者の信頼の程度>
なお、③信頼の具体的内容については本人に直接の帰責性ある外観を信頼した場合には善意で足りると解する(判例)。他方、本人に直接の帰責性ある外観を基礎として、さらなる外観が作出され、その外観を第三者が信頼した場合には、あたかも権限逸脱の行為態様と同視できるから、110条の趣旨に鑑み、善意・無過失まで必要と解する(判例)。

●虚偽表示の詐害行為取消(424)
虚偽表示を詐害行為として取り消すことができるか。
無効な行為を取り消すことは論理的に不可能であるとして、債権者は94条により無効を主張できるのみ、とする見解がある。しかし、虚偽表示によって債務者の財産が散逸している以上、424条の適用を否定すべきではない。そこで、債権者は詐害行為取消の主張をもなしうると解すべきである。

錯誤

●動機の錯誤
意思表示の動機に錯誤がある場合、錯誤無効(95)を主張できるか。この点、錯誤とは内心的効果意思と表示行為の不一致を表意者が知らないことをいうが、動機は内心的効果意思の形成過程にすぎず、動機の錯誤では錯誤無効は主張できないとも思えるため問題となる。
思うに、契約における錯誤のほとんどが動機の錯誤であることに鑑みれば全く主張できないとすることは、表意者保護という95条の趣旨を没却してしまう。他方、内心を相手方は容易に知りうるものではないため、動機の錯誤において常に錯誤無効の主張を許すと、相手方の取引の安全を害する。そこで、動機の錯誤でも動機が明示又は黙示に表示されて意思表示の内容となった場合は「錯誤」にあたり錯誤無効を主張できると解する(判例)。

●錯誤の態様
・内容の錯誤
表示行為の意味に関する錯誤である。表意者が、相手方や一般人が受け取るのとは違う意味を自分の表示行為に結びつけた場合である。

・表示上の錯誤
表示行為そのものに関する錯誤である。表意者が自分の意図していた表示行為とは違う表示行為をした場合である。

・共通錯誤
表意者に重大な過失があった場合も錯誤を主張できるか。
95条但書が表意者に無重過失を要求するのは、相手方を保護するためである。しかし、相手方も同一の錯誤に陥っていた場合には、相手方を保護する必要性に乏しい。したがって、共通錯誤の場合には、表意者は重大な過失があっても錯誤を主張できる。

●要件
1 「要素の錯誤」の意義
要素の錯誤とは、この点に錯誤がなければ表意者は意思表示しなかったであろうし、意思表示をしないことが一般取引通念にてらし妥当な場合をいう(判例)

2 表意者に重過失ある場合(95但)
問題の錯誤が法律行為の要素に錯誤のある場合に該当しても、錯誤に陥ったことにつき表意者に重大な過失があるときは、表意者は錯誤無効を主張することができない。

3 相手方の悪意・有重過失
95条但書が、表意者に重過失ある場合に、錯誤無効の主張をなしえないとしたのは、表意者の保護と相手方の保護との調整を図るためである。とすれば、悪意または重過失の相手方に保護を及ぼす必要はないから、相手方が悪意の場合には、95条但書の適用はないものと解する。

●効果
1 錯誤無効の主張適格
錯誤無効は誰からでも主張できるか。
思うに、錯誤による無効は、90条による無効など、強度の公益的要請に基づく無効とは異なり、表意者を保護するための相対的無効である。とすれば、原則として錯誤無効は表意者からのみ主張でき、相手方および第三者は主張できないと解する(判例)。

●錯誤無効と96条3項の類推適用
錯誤無効の場合にも96条3項の類推適用が認められると考える。
まず、解釈論として、一般に、「無効」とは、法律効果が当初から発生しないことであり、誰からも主張できる。これに対して、錯誤による無効は表意者本人を保護するための制度である。そのため、原則として、錯誤無効を主張できるのは、表意者に限られる。それ故、錯誤無効は「無効」とは異なり、表意者が錯誤無効の主張をして初めて意思表示の効力が失われるという点で取消に類似しているといえる。よって、錯誤無効については取消の規定を類推適用すべきである。
次に、実質的にも、詐欺は人を欺いて錯誤に陥らせることなので、錯誤と共通する。また、双方の要件を満たす場合、表意者が詐欺取消を主張すれば96条3項が適用されるのに対し、錯誤無効を主張すれば、96条3項が適用されないのならば、96条3項が無意味になってしまう。
さらに、錯誤と詐欺を比較すると、自分で勝手に勘違いした場合を想定している錯誤よりも他人に騙された詐欺の方が本保護の要請が強いはずなのに、96条3項によって、錯誤の場合に表意者の保護が薄くなってしまうのはバランスを失する。
よって、錯誤の場合にも、96条3項を類推適用すべきである。

●債権者代位行使の前提としての無効の主張
表意者以外は原則として錯誤を主張することはできない。
しかし、表意者が錯誤を認めている場合には、表意者保護の趣旨に反することはないため、合理的必要がある場合には、第三者からの主張を認めるべきである。そこで、表意者が錯誤を認めている場合は、表意者の債権者は自己の債権を保全するための債権者代位権行使の前提として例外的に無効主張できると解する(判例)。

●第三者の保護
95条には、例外に関する定めはない。したがって、錯誤無効は、善意の第三者にも対抗できるものと解する(判例)。

※学説では、詐欺を理由とする意思表示の取消しが善意の第三者に対抗できないとされていること(96Ⅲ)との均衡上(表意者が錯誤に陥っている点では、錯誤による意思表示も、詐欺による意思表示も同じ。他人に騙された者〔被詐欺者〕よりも、自分で間違った者〔錯誤者〕の帰責性の方が大きい)、錯誤無効にも96条3項を類推適用するべきであるとする見解が有力である。

●適用範囲
1 詐欺と錯誤の関係
両者の要件を満たすならば、二重効を認めて差し支えない。したがって、選択的主張が許される。

2 錯誤と瑕疵担保責任
錯誤と瑕疵担保責任が共に成立する場合に、両者はどのような関係に立つか。
担保責任の規定は錯誤の特則とする見解がある。しかし、有償契約の等価的均衡を目的とする瑕疵担保責任が、表意者保護を目的とする錯誤の特則であるわけがない。両者は要件・効果・目的を異にするものであるから、請求権競合となり、選択的に適用しうると解する。

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