論証集~民法総則7~無権代理

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論証集 民法 総則

無権代理

●無権代理と表見代理
無権代理とは、代理行為をした者がその法律行為について代理権を有していないか、または代理権を有しているが授権された範囲を越えて代理行為をした場合をいう。
表見代理とは、無権代理人と本人との間に法定の緊密な関係が存在する場合、相手方保護のために代理権があったのと同様に取り扱う制度である。
表見代理責任は補充責任ではなく、無権代理の一態様であり、無権代理の特別規定であるから無権代理責任と選択的に追及してよい。

●相手方の催告権・取消権
・ 催告権 悪意でも認められる。
期間内に確答がなければ、追認拒絶となる
・ 取消権 善意であれば認められる。
本人、代理人のいずれにしてもよい。
法的性質は撤回である。取消をなすと無権代理の法律関係は消滅するから、無権代理責任・表見代理責任の追及はできなくなる。

・表見代理の要件が存在する場合にも無権代理人の責任(117)を追及できるか
表見代理責任(109、110、112)が成立する場合、これを抗弁として無権代理人の責任(117Ⅰ)を免れることができるか。
思うに、表見代理責任は取引の相手方を保護するための制度であり、無権代理人が表見代理の成立を主張立証して責任を免かれることは制度趣旨に反する。よって、表見代理責任の成立を理由に無権代理責任を免れることはできないと解する(判例)。

●117条2項の「過失」の意義
117条のよって、無権代理人は無過失責任という重い責任を特に負わせているのであり、そのように他人の重い責任によって保護を受ける相手方には無過失を要求するのもやむをえない。したがって、ここでの「過失」は通常の意味に理解すべきであり、重大な過失と解するべきではない(判例)。

●無権代理と相続 ☆
1 無権代理人の本人相続
ⅰ 無権代理人が本人を相続した場合、無権代理人は本人の地位に基づいて追認拒絶することができるか。
この点、悪意の相手方を保護する必要はないし、善意の相手方が契約取消権(115)を失うような解釈をすべきでない。そこで無権代理人と本人の資格は併存すると解される。
ⅱ しかし、両者の地位が併存するとしても、相手方が追認を要求する場合に、無権代理をした者が、本人の地位に基づいて追認拒絶することは矛盾挙動であり、信義則(1Ⅱ)に反する。よって、追認拒絶することは信義則に反し許されないと解する。

2 本人の無権代理人相続
本人が無権代理人を相続した場合、本人は本人の地位に基づいて追認拒絶できるか。
この点、相続によっても、無権代理人の地位と本人の地位は併存すると考えられる。そして、本人が無権代理人を相続して追認拒絶をしても、無権代理人が本人を相続した場合と異なり、何ら信義則に反することはない。よって、追認拒絶できると解する。

3 本人の無権代理相続における、無権代理人の責任
この点、本人は無権代理人の地位を相続している以上、無権代理人の責任は当然に負うと解する。しかし、特定物給付義務については、被相続人たる無権代理人はその履行に応ずることはできなかったのであるから、相続という偶然の事情により、相手方に特定物の給付を受けられるという利益を与えるべきではない。そこで、追認拒絶を認めた趣旨から、特定物の給付義務は拒めると解する。

4 相続人が無権代理人を相続後、本人を相続した場合
相続人が、無権代理人の地位を相続した後、さらに、本人の地位を相続した場合、本人の地位に基づいて追認拒絶をなしうるか。
この点、相続によっても、無権代理人の地位と本人の地位は併存すると考えられる。そして、判例は、無権代理人が本人の地位を相続した場合と同様に扱い、追認拒絶をすることは信義則(1Ⅱ)に反するとする。しかし、まず本人が死亡し次に無権代理人が死亡した場合には追認拒絶しても信義則に反しないことになり、相続という偶然の事情により結論が左右され妥当でない。相続人はそのような無権代理を行った無権代理人そのものではないから、信義則に反することはなく追認拒絶をなしうると解する。

5 共同相続
追認権が無権代理人を含む相続人に共同相続された場合いかに処理されるか。
この点、追認権は相続人全員に不可分に帰属するから、共同相続人全員が共同して、無権代理行為を追認しない限り、無権代理行為は有効にならないと解される。ただし、他の共同相続人が追認している場合は、無権代理人は信義則(1Ⅱ)上追認拒絶できず、無権代理行為は有効となる。

6 無権代理人が後見人に就任
無権代理人が後見人に就任した後、追認拒絶をすることができるか。
この点、無権代理人が追認を拒絶することは前後矛盾した行為であり、信義則に反するとも思える。しかし、後見人は本人の利益を図る義務を負う(869、644)し、なにより、本人たる制限能力者の利益を保護する必要がある。他方で、取引の相手方の利益も無視してはならない。そこで、追認をすることにより本人が被る不利益と追認拒絶することにより相手方が被る不利益などを総合考量して、信義則(1Ⅱ)に反するか否かによって、追認拒絶の可否を判断すべきと解する。

<具体的判断基準>
① 契約締結にいたる交渉の経緯、無権代理行為以前に無権代理人と相手方との間でなされた法律行為の内容と性質
② 追認をすることにより本人が被る不利益と追認拒絶することにより相手方が被る不利益
③ 契約の履行につき、後見人就任までの間の交渉の経緯
④ 無権代理人と後見人の人的関係、後見人の契約締結の関与の程度
⑤ 本人の意思能力につき相手方が認識し、認識しえた事情
* 最判平6・9・13は、無権代理人と後見人は別人であることに注意。この判例は後見人の姉が無権代理をした事案である(かかる場合に上記基準を使う)。無権代理人と後見人が同一人物の場合は追認拒絶は信義則上許されないとする(最判昭47・2・18)。

7 本人の追認拒絶後に無権代理人が本人を相続
本人が追認拒絶後に、無権代理人が本人を相続した場合、無権代理人は相手方の履行請求を拒めるか。
この点、無権代理人が履行請求を拒むことは前後矛盾した行為となり、信義則上認められないとも思える。しかし、相続前に既に本人が追認拒絶し、権利関係が確定している以上、もはや追認を問題にする余地はない。かかる確定した権利関係を主張し、履行請求を拒むことは信義則に反しないというべきであろう。よって、履行請求を拒めると解する(判例。

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