論証集~民法総則9~時効

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論証集 民法 総則

時効

制度趣旨
① 永続した事実状態の尊重。
② 期間が経過することによる証拠提出の困難から、当事者を保護すべきである。
③ 権利の上に眠る者は保護に値しない。

●除斥期間との違い
除斥期間は、①当事者の援用を必要としない、②中断が認められない、③権利の発生時を起算点とする、④権利消滅の効果は遡及しない。

●時効の援用(時効学説)
時効の援用の意義が明文上明らかでなく問題となる。
この点、「取得す」(162)、「消滅す」(167)という文言を重視して、時効期間の経過により時効の効果が確定的に生じるとする見解がある。この見解は、援用は訴訟上の単なる攻撃防御方法に過ぎないものとする点で、145条が「援用」を要求した趣旨たる当事者意思の尊重に反する。そこで、時効の効果は時効の完成によって不確定なものとして発生し、当事者の援用を停止条件として確定的に発生すると解する(停止条件説)。

●時効の援用と放棄
1 援用できる「当事者」(145)の意義
いかなる者が時効を援用できるのか、「当事者」(145)の意義が問題となる。
この点、時効制度の趣旨は永続した事実の尊重にある。とすれば、かかる永続した事実状態に利害関係を有する者は広く「当事者」に含まれるというべきである。そこで、「当事者」とは時効により直接に利益を受けるもののみならず、間接的に利益を得るものも含むと解する。なお、援用の効果は相対効であるから、これによって当事者意思の尊重に反することはない。

2 判例
判例が援用を認めた当事者(直接利益を受ける者)
⇒ 債務者、連帯債務者、保証人、連帯保証人、物上保証人、抵当不動産の第三取得者、詐害行為の受益者 [61]、譲渡担保の精算義務につき目的物の譲受人
*後順位抵当権者は否定
⇒ 時効の援用によって、直接に義務又は物的負担を免れた者、との基準を採用しているといわれる。

3 援用の効果
当事者意思の尊重という145条の趣旨からして、援用の効果は相対的なものと解すべきである(相対効)。

4 時効の利益の放棄-時効完成を知らずしてなした債務の承認
時効完成を知らずに、債務の承認をした場合時効の利益の放棄(146反対)にあたるか。
ここに、「放棄」とは時効完成後に行う、時効の利益を享受しないとする積極的意思表示であるから、時効の完成を知って行うことを前提とする。
とすれば、知らずに承認しても「放棄」にはあたらないと解すべきであろう。もっとも、一度承認があったことによる債権者の期待も保護すべきだし、支払の意思がある以上、援用を否定しても債務者に酷ではない。そこで、時効完成後知らずに承認した後の援用は禁反言(1Ⅱ)に照らし許されないと解する(判例)。

5 保証人の時効の援用
主債務について時効完成後、債務者が援用・放棄しない場合に保証人が時効の利益を放棄して保証債務を承認し、後に保証人は主債務の時効を援用することができるか。
確かに、保証債務を承認し、後に主債務の時効を援用することは前後矛盾した行為といえ禁反言(1Ⅱ)に反するとも思える。しかし、時効完成を知らないで、債務の承認をなした保証人は、求償権を放棄する意思を持たない以上、時効の利益を喪失する理由はない。よって、保証人が主債務の時効を援用することは認められると解する(判例)。

●取得時効
1 自己の物の取得時効
自己物について時効取得が認められるか。「他人の」(162)と規定しているため問題となる。
この点、時効制度の趣旨は、永続した事実状態を尊重するとともに、権利を有することの立証の困難を緩和する点にある。そして、自己物であってもかかる趣旨は妥当するから、自己物についての時効取得も認められると解する。

2 不動産賃借権の時効取得
賃借権の時効取得が認められるか。債権は一時的給付を目的とし、永続的事実状態の尊重を趣旨とする時効制度になじまず、賃借権は「所有権以外の財産権」(163)にあたらないとも思えるため問題となる。
この点、不動産賃借権は、目的物の占有を不可欠の要素とし、永続した事実状態を観念しうる。また、不動産賃借権は、今日においては、地上権と同様の機能を果たしている。とすれば、不動産賃借権も「所有権以外の財産権」に含まれ、時効取得の対象となると解すべきである。もっとも不動産所有者の利益を考慮し、その時効中断の機会を保障すべきである。そこで、①目的物の継続的用益という外形的事実が存在し、②かつそれが賃借の意思に基づくことが客観的に表現されている場合には「所有権以外の財産権」として、賃借権の時効取得を認めるべきと解する。

●時効取得と登記
時効取得を第三者に主張する場合、どの範囲で登記を必要とするかが問題となる。
この点、永続した事実状態の尊重という時効制度の趣旨と、公示による不動産取引安全という登記制度の趣旨との調和の観点から決すべきである。具体的には、時効完成前の第三者については、前主後主類似の関係にあるので対抗要件としての登記は不要と解する(判例)。他方、時効完成後の第三者については旧所有者を基点とした二重譲渡類似の関係 [66]に類似しているので、対抗要件としての登記が必要と解する(判例)。ただ、この場合でも、第三者が登記を備えた日からさらに時効取得に必要な期間占有を継続すれば登記なくして対抗できると解する(判例)。

※境界紛争方の場合の修正
この場合、時効取得者であっても、登記への期待可能性はないに等しい。それゆえ、時効完成後、時効の事実に不知な取得者に対して、二重譲渡構成を採るのは妥当でない。
また、第三者も、譲り受けた土地に当該土地が含まれるという期待は薄い。そこで、時効取得者がその事実を主張(162Ⅱ、145)すれば、遡って第三者は無権利となる(144)と解する。したがって、時効取得者は登記なくして時効による取得を主張できる。

●消滅時効
1 債権者取消権と時効中断効
債権者取消権を行使した場合に、被保全債権の時効は中断するか。
この点、債権者代位権を行使する場合には、被保全債権の権利行使の意思は明確となったといえる。また、第三債務者は被保全債権の消滅時効を援用しうる以上、債権者にそれを中断する手段を与える必要がある。したがって、債権者取消権を行使した場合に、被保全債権の時効は中断すると解する。

2 物上保証人と時効中断効
時効中断の相対効(148)の例外として、物上保証人にも時効中断の効果は及ぶか。
この点、物上保証人は「当事者」(145)にあたり時効の援用権を有するから、債権者に時効を中断する手段を与えるべきである。そこで、396条が被担保債権の時効中断効が物上保証人に及ぶことを前提にしていると解されることを根拠として、物上保証人にも時効中断の効果は及ぶと解する(判例)。

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