論証集~行政救済法4~原告適格・訴えの利益

この記事の所要時間: 559

論証集  行政救済法

原告適格・訴えの利益

●団体の原告適格
多数人の共通利益を法律上又は事実上代表する住民団体や消費者団体等が原告となって取消訴訟を提起することは適法か、いわゆる団体訴訟の可否が問題となる。
団体訴訟の可否については、①個々人が原告適格を有している場合にも団体に原告適格を認めるべきかという問題と、②個々人については原告適格が認め難いものの、それらの共通の利益を代表する団体に原告適格を認めることができるかという問題がある。
まず、①の問題については、訴訟を一本化することにより紛争の一回的解決が可能になり訴訟経済に資すること、団体が有する訴訟追行に必要な専門知識を活用することが可能になること、個々人の少額の損害を団体がまとめることにより泣き寝入りを防ぎ行政救済に資することなどを理由として団体に原告適格を認める見解がある。
しかしながら、この見解によると、団体が敗訴した場合に敗訴判決の既判力が団体構成員に及ばないため、後に個々の構成員が出訴することが妨げられず、紛争解決の実効性を欠くことになる。
したがって、①の場合には、団体の原告適格は認められない。
次に、②の問題については、現行法上明文の規定がない限り、このような形での団体訴訟を肯定することは困難である。
したがって、②の場合にも、団体の原告適格は認められない。
よって、団体訴訟は認められない。

●狭義の訴えの利益
取消訴訟における狭義の訴えの利益とは、当該処分を取り消す実際上の必要性をいい、狭義の訴えの利益が認められない場合、取消訴訟は却下される。
原告適格が、当該訴訟について当該原告が訴訟を追行する正当な資格を有するかどうかという特定の原告の主観的な側面に関する問題であるのに対し、狭義の訴えの利益は、具体的な周囲の状況という客観的な側面からみて、当該訴訟を維持・追行する法律上の利益があるかどうかの問題である。
狭義の訴えの利益の有無は、判決言渡時において、①処分が取消訴訟によって除去すべき法的効果を有しているか否か、②処分を取消すことによって回復される法的利益が存在するか否かという観点から判断すべきである(行訴法9条1項括弧書)。

●狭義の訴えの利益と名誉・信用
取消訴訟の狭義の訴えの利益は、処分の効力が失われた後であっても回復すべき「法律上の利益」があれば失われない(行訴法9条1項括弧書)。では、処分によって名誉・信用を害されるおそれがあるにすぎない場合であっても、回復すべき「法律上の利益」があるといえるか、同文言の解釈が問題となる。
この点について、取消訴訟は、違法な処分の法的効果により原告の権利利益が侵害されている場合に、その法的効果を排除することを目的とする訴訟であって、事実上の効果の排除を目的とする訴訟ではない。
したがって、「法律上の利益」とは、法律上の権利ないし法律の保護する利益に限定される。すなわち、名誉・信用を害されるおそれのような事実上の影響については、「法律上の利益」には含まれないと解される。
よって、処分によって名誉・信用を害されるおそれがあるにすぎない場合には、回復すべき「法律上の利益」があるとはいえない。
最判昭和55年11月25日は、運転免許停止処分の記載された運転免許証を所持することにより名誉等を侵害される可能性が継続するとしても、これは処分がもたらす事実上の効果にすぎないとして、狭義の訴えの利益を否定した。
なお、最判平成21年2月27日は、一般運転者として扱われ、優良運転者である旨の記載のない運転免許を交付されて免許証の更新期間の更新処分を受けた者に、狭義の訴えの利益を肯定した。

●審査請求前置の意義
審査請求前置主義(行訴法8条1項但書)が採用されている場合において、適法な審査請求を裁決庁が誤って不適法として却下したときには、審査請求の要件を満たしていると解すべきか。満たしているとすれば、原告としては、改めて審査請求することなしに取消訴訟を提起することができるため問題となる。
確かに、適法な審査請求を裁決庁が誤って却下した場合には、理論的には審査請求や裁決を経たことにはならないので、審査請求前置の要件を満たさないようにも思われる。
しかし、審査請求前置が要求されるのは、行政処分に対する司法審査に先立って、当該処分の当否について、行政庁に反省の機会を与えることにより、行政の自主的解決を促すところにある。
そうであれば、行政庁は自らの過誤により自制機能を果たしていないのであるから、原告に対しさらに改めて審査請求を行うことを要求することは、適法な審査請求をした原告の負担において行政庁の過誤を救済することになり、不合理である。
よって、適法な審査請求を裁決庁が誤って不適法として却下したときには、審査請求前置の要件を満たしていると解すべきである。

●違法判断の基準時
処分がなされた時点からは事実状態の変動や法令の改変があり、取消訴訟の口頭弁論終結時においては、処分時と適法・違法の判断が異なることになる場合がありうる。
そこで、取消訴訟において争われている処分の違法性が、どの時点を基準に判断されるかが問題となる。
この点について、取消訴訟は行政処分の成立段階での瑕疵を理由に事後的にその適法性を審査する訴訟である。
また、仮に口頭弁論終結時を基準とすると、裁判所に口頭弁論終結時まで行政処分の効力を存続させるべきか否かの判断権限を与えることになり、その結果、行政処分の適法性に関する行政庁の第1次判断権を侵害することになってしまう。
よって、取消訴訟において争われている処分の違法性は、処分の時点を基準に判断されるべきである。

●原告の主張制限
取消訴訟の訴訟物は行政処分の違法性一般であるから、原告は、取消訴訟において処分についての一切の違法事由を主張できるとも思える。しかし、行訴法10条1項は、取消訴訟の原告は、「自己の法律上の利益に関係のない違法」を主張できないことを定めている。この規定は、取消訴訟の原告適格が認められたことを前提として、原告の違法事由の主張を制限するものである。
では、どのような主張であれば、「自己の法律上の利益に関係」がある主張として許されるのか、同文言の解釈が問題となる。
この点については、同条項の趣旨から検討する必要がある。
取消訴訟は、原告が行政処分によって被った権利利益の侵害の救済を目的とする主観訴訟である。そのため、仮に原告が自らの権利利益に関係のない違法事由を主張することを認めると、取消訴訟の目的に反することになる。このことから、行訴法10条1項は、取消訴訟における原告の主張制限を定めているのである。
したがって、「自己の法律上の利益に関係のない違法」とは、行政庁の処分に存する違法のうち、原告の権利利益を保護する趣旨で設けられたのでない法規に違背したにすぎない違法をいう。
よって、行政庁の処分に存する違法のうち、原告の権利利益を保護する趣旨で設けられた法規に違背した旨の主張であれば、「自己の法律上の利益に関係」がある違法事由の主張として許されることになる。

フォローする