論証集~行政法2~他の法律との関係

この記事の所要時間: 96

論証集  行政法総論

他の法律との関係

●法律による行政の原理と信義則(最判昭62・10・30)
課税処分にいかなる要件の下で信義則を適用できるかを論じる前提として、そもそも課税処分に信義則の適用の余地があるかが問題となる。<br>
この点について、信義則は法の一般原理であるので(民法1条2項参照)、課税処分にも信義則が適用される余地があると解する。<br>
では、課税処分に信義則が適用される余地があるとして、いかなる要件の下で信義則を適用できるかが問題となる。<br>
この点については、租税法律主義(憲法84条)の支配する租税法の領域においては、納税者間の平等・公平が要請されるので、合法性の原則が強く働く。そのため課税処分に信義則の法理を適用し、法律による行政の原理を修正することには慎重を要するべきである。<br>
そこで、納税者間の平等・公平を犠牲にしてもなお納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえる特段の事情がある場合に、初めて課税処分に信義則を適用できると解する。<br>
この特段の事情の判断に当たっては、少なくとも、①税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと、②納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、③後に当該表示に反する課税処分が行われたこと、④そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと、⑤納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者に責めに帰すべき事由がないこと、が必要である。

●法律による行政の原理と信義則(最判昭56・1・27)
地方公共団体が行政計画を策定した後に当該計画を変更した場合、当該地方公共団体は計画の継続を信頼して損害を被った私人に対して不法行為責任を負うか。
この点について、行政計画には、その特質として、事後的な社会経済的諸条件の変化に伴う柔軟な見直しが行われることがあるので、私人の側も、事後的な変更があり得ることを前提に、事業活動に関する意思表示を行うべきである。
そうであるとすれば、地方公共団体は、原則として、行政計画の変更によって損害を被った私人に対して不法行為責任を負わないと解する。
もっとも、いかなる場合においても、変更前の行政計画を信頼した私人が、当該行政計画の変更による不利益を常に甘受しなければならないとすることは公平に反する。
そこで、①行政主体が私人に特定の行政計画に従った特定の活動を促す個別具体的な行為を行い、②それに動機づけられた当該私人の活動が当該行政計画の相当長期間の継続を前提とするものである場合に、③当該行政計画の変更が当該私人に社会観念上看過できない程度の積極的損害を及ぼし、かつ、④損害を補償する等の代償的措置を講ずることなく施策を変更したときは、当該行政計画の変更は、それがやむを得ない客観的な事情によるもの出ない限り、信義則上、当該私人との間に形成された信頼関係を不当に破壊するものといえる。
よって、上記のような場合には、地方公共団体は、例外的に、当該行政計画の変更によって損害を被った私人に対して不法行為責任を負うと解する。

●農地買収処分と民法177条(最判昭28・2・18)
行政法上の法律関係において、民法177条は適用されるか。
この問題について、かつては、いわゆる公法・私法二元論から民法177条の適用はないとする見解が有力に主張されていた。
しかし、行政法上の法律関係を具体的に規律する行政法令が整備された現時点では、個別の場面でどのような法を適用するのかという実定法の具体的な解釈が必要である。
したがって、行政法上の法律関係に民法177条が適用されるか否かは、公法・私法二元論によって決定されるわけではなく、当該法律関係を形成する行政処分の根拠法の趣旨や仕組みに則した解釈によって決定される。
この点に関し、最高裁判例には、自作農創設特別措置法(以下、「自創法」という)に基づく農地買収処分が行われた事案において、農地買収処分には、民法177条の適用がないとして、真実の所有者に対してではなく登記簿上の所有名義人に対してなされた農地買収処分を違法としてものがある。
この判例は、一見すると農地買収処分が公法上の行為であることを理由に民法177条の適用を排除したものであるかのようにも見えるが、そのように理解することは妥当ではない。なぜなら、判例は自創法の仕組みを踏まえつつ上記判断をしているからである。
すなわち、不在地主の農地を買収するという目的を有し、農地所有者が不在地主であることを買収の要件とするという定め方をしている。そこで、判例は、民法177条のように登記を基準とするのではなく、真実の農地所有者が誰であるのかを調べて買収を行わせるというのが自創法の仕組みであると解釈し、上記判断をしたと解される。

●租税滞納処分と民法177条(最判昭35・3・31)
国が登記名義に基づいて不動産を差し押さえたものの、当該不動産について所有権を主張する未登記の第三者が存在する場合、国と当該第三者のいずれが優先するか。租税滞納処分に、私法上の強制執行手続の場合と同様、民法177条の適用があるかという問題と関連して問題となる。
この点について、かつては、公法・私法二元論の立場から、公法上の行為の行為である租税滞納処分に私法である民法177条の適用はないとする見解が湯力に主張されていた。
しかし、行政法上の法律関係を具体的に規律する行政法令が整備された現在では、個別の場面でどのような法を適用するのかという実定法の具体的な解釈が必要であるので、公法・私法二元論を論拠とする反対説は採用できない。
そこで、租税滞納処分に民法177条の適用があるかの問題は、租税滞納処分の根拠法の趣旨や仕組みに則した解釈によって決定される。
租税滞納処分により滞納者の財産を差し押さえた国の地位は、民事執行における差押債権者の地位に類似している。それゆえ、租税債権が公法上のものであるからといって、国が私法上の債権者よりも不利益な扱いを受ける理由はないので、租税滞納処分であっても私法上の強制執行手続と同じ扱いをすべきである。
したがって、課税滞納処分に民法177条の適用があると解する。
よって、設問の場合、国と当該第三者で先に登記を備えた方が優先する。

●安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求と会計法30条(最判昭50・2・25)
会計法30条は、国に対する債権につき5年の消滅時効期間を定めるが、国が公務員に対して負う安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権についてこの規定が適用されるか。適用されないとすれば、同請求権の消滅時効期間は何年か。
会計法30条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利について5年の消滅時効を定めた趣旨は、国権利義務を早期に決裁する必要があることなど主として行政上の便宜を考慮したことに基づくものである。
そうだとすれば、会計法30条の規定は、行政上の便宜を考慮する必要がある金銭債権であって他に時効期間につき特別の規定のないものについて適用されると解すべきである。
国が公務員に対する安全配慮義務違反の懈怠によって違法に公務員の生命、健康等を侵害し、損害を受けた公務員に対して損害賠償義務を負う事態は、その発生が偶発的であって多発するものとはいえない。
そうだとすれば、国に対する損害賠償請求権については、会計法30条の趣旨である行政上の便宜を考慮する必要はない。
また、国が義務者であっても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係の目的や性質を異にするものではない。
よって、会計法30条の規定は、国が公務員に対して負う安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権については適用されず、同請求権の消滅時効期間は民法167条1項により10年となる。

●行政法規違反の法律行為の民事上の効力(最判昭30・9・30、最判昭35・3・18)
行政法規に違反する法律行為がなされた場合、その民事上の効力はどのように判断されるべきか、その判断基準が問題となる。
判例は、ある行為を規制する行政法規について、それが強行法規(効力規定)であればそれに違反する法律行為は無効であるが、それが取締法きであればそれに違反する法律行為は有効であるという解釈を行っている。
しかし、ある行政法令が強行法規であるか取締法規であるかを判別する基準が必ずしも明確ではないので、定型的に判断するのは困難である。
そこで、個々の行政法規の趣旨・目的、取引の安全、当事者間の公平・信義等を総合的に勘案し、個々の取引関係ごとに個別具体的に民事上の効力を判断することが妥当である。
例えば、運送事業の無許可影響についてみると、無許可営業に対する社会的非難はそれほど大きない一方で、運送というサービスを果たした業者の報酬請求権を否定して客が支払いを免れることは当事者間の公平を害することになる。したがって、運送契約の効力は有効と考えるべきである。

●公物と取得時効(最判昭51・12・24)
公物について、取得時効により所有権を取得することが可能か、公物に民法162条が適用されるかどうかについて明文の規定がないため問題となる。
国有財産法18条1項は、行政目的に供されている公物について、本来公用又は公共の用に供する財産であることを理由に、その公用を妨げるおそれのある公物の管理及び処分を制限するとともに、これに私権を設定することを禁止している。
他方、取得時効は、一定期間の経過により原始的に私権の取得を認めるという効果と有するため、公物の時効取得を認めることは、国有財産法18条1項の趣旨に矛盾する。
したがって、公物そのものを時効取得することはできない。
しかし、公物上の長期間の占有がなされた場合であっても、永続する事実状態の尊重という時効制度の趣旨は妥当し得るといえる。また、私人による平穏かつ公然の占有が公物の上に存在している場合には、当該公物は客観的に公物の性質を失っているはずである。
よって、いったん公物とされた物は一切取得時効の対象とならないと解するべきではなく、公用が黙示的に廃止されたといえる場合には、その後の当該物について時効取得が可能となると解する(黙示的公用廃止説)。
そして、公物の公用が黙示的に廃止されたといえる場合とは、具体的には、①長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、公物としての形態、機能を全く喪失し、②その物の上に他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、③そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはや当該物を公物として維持すべき理由がなくなったときをいうものと解する。

フォローする