論証集~行政法5~行政行為

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論証集  行政法総論

行政行為

行政行為の効力

講学上の行政行為の定義が問題とされるのは、行政行為には他の行為には認められない特殊な効力が法律上認められるため、行政行為の範囲を明確にする必要があるからである。
公定力とは、違法な行政行為であっても、当然に無効であると認められる場合を除いては、正当な取消権限を有する国家機関によって取り消されるまでは有効なものと扱われるとする効力を言う。公定力の根拠は、取消訴訟の排他的管轄に求めることができる。そして、公定力の趣旨は、行政目的の早期実現、行政上の法律関係の安定にある。
不可争力とは、一定期間を経過すると、私人の側から行政行為の効力を争うことができなくなる効力を言う。不可争力の趣旨は、行政上の法律関係の早期安定になる。
執行力とは、行政行為の内容を行政権が自力で実現することのできる効力をいう。執行力の趣旨は、行政行為の内容の早期実現、裁判所の負担軽減にある。
不可変更力とは、一度行った行政行為について、処分庁は自ら変更することができない効力をいう。審査請求に対する採決等、争訟裁断的性質をもつ行政行為についてのみ認められる効力であり、その趣旨は、行政上の法律関係の早期安定にある。

公定力の根拠

公定力とは、違法な行政行為であっても、当然に無効であると認められる場合を除いては、正当な取消権限を有する国家機関によって取り消されるまでは有効なものと扱われるとする効力を言う。
では、公定力が認められる根拠についてはどのように考えるべきか。
そもそも、立法者が取消訴訟という訴訟類型(行訴法3条2項、3項)を特に設けたのは、処分に何らかの違法があるときは、専らこの手続の利用を想定したためであると考えられる。
このような立法者意思からすれば、それ以外の訴訟類型で処分の有効性を争うことは原則としてできないことになり、(取消訴訟の排他的管轄)、そのことの反射的効果として公定力が導かれることになる。
したがって、公定力が認められる根拠は、取消訴訟を定める行政事件訴訟法の存在に求めることができる。

公定力と国家賠償

国家賠償請求訴訟において公務員の行った行政行為の違法性を主張するに際し、あらかじめ取消訴訟によって当該行政行為の違法性を確定しておく必要はあるか、国家賠償請求訴訟において行政行為の違法性を主張することが、当該行政行為の公定力に抵触するかが問題となる。
この点について、公定力は行政行為の方効果にかかわる効力であるところ、国家賠償請求訴訟において争われるのは、行政行為の方効果ではなく、金銭賠償を認める前提としての行政行為の違法性にすぎない。

したがって、国家賠償請求訴訟において行政行為の違法性を主張することは、当該行政行為の公定力に抵触しない。よって、国家賠償請求訴訟においては、あらかじめ取消訴訟で当該行政行為の違法性を確定しておく必要はない。

では、課税処分のような、行政行為の内容が金銭の支払いにかかわるものである場合にも、その違法性を主張して直ちに国家賠償請求を認めることができるか。これを認めると、実質的に行政行為の公定力を潜脱する結果となってしまうとも思えるため問題となる。

この点、行政行為の内容が金銭の支払いにかかわるものである場合には、実質的に課税処分の取消訴訟と同一の効果を生じさせることとなって、課税処分等の不服申立方法・期間を制限した趣旨を潜脱することになり、課税処分の公定力をも否定することになるから、あらかじめ取消訴訟で当該行政行為の違法性を確定しておく必要があるとする見解がある。

しかし、効果を同じくするのは課税処分が金銭の徴収を目的とする行政処分であるからにすぎず、課税処分の公定力と整合させるために法律上の根拠なくそのように異なった取扱いをすることは、相当でない。
そもそも、金銭の徴収や給付を目的とする行政処分についてのみ、法律関係を早期に安定させる利益を優先させなければならないという理由はない。
また、専門的・中立的期間による事前の審査という趣旨についても、取消訴訟に前置される他の不服申立てに係る審査機関にも多かれ少なかれ共通するものであり、特に他の不服申立てに係る審査機関と区別するだけの理由はない。

さらに、国家賠償においては,取消しと異なり故意過失が要求され、また、その違法性判断について職務行為基準説を採れば、この点でも要件に差異があるから、出訴期間の実質的な延長とは言い難い。

さらに、立証責任についても、違法性を積極的に根拠付ける事実については請求者側に立証責任があるから、課税処分から長期間が経過した後に国家賠償訴訟が提起されたとしても、課税主体側が立証上困難な立場に置かれるという事態は生じない。

よって、当該行政処分が金銭を納付させることを目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないと解すべきである(最高裁H22.6,3参照)。

公定力と刑事訴訟

行政命令に違反したことを理由に刑事責任を問われて起訴された者が、刑事訴訟においては当該命令は違法・無効であるとして無罪主張するためには、あらかじめ取消訴訟によって当該命令の違法性を確定しておく必要はあるか。刑事訴訟において行政行為の違法性を主張することが、当該行政行為の公定力に抵触するかが問題となる。
この点について、あらかじめ取消訴訟によって当該命令の違法性を確定しておく必要があるとする、被告人は、罪を犯したことを理由に処罰されるのではなく、取消訴訟で勝訴できなかったことを理由に処罰されることになりかねない。しかも、取消訴訟には出訴期間の制約がある(行訴法14条1項、2項)ため、そもそも取消訴訟を提起できない場合すらありうる。
したがって、刑事訴訟は、その特殊性から公定力との抵触を論じることがそもそも適当ではない領域として理解すべきである。
よって、刑事訴訟において行政命令の違法・無効を主張して無罪主張するためには、あらかじめ取消訴訟によって当該命令の違法性を確定しておく必要はない。

不可変更力

不可変更力とは、一度行った行政行為について、処分庁は自ら変更することができない効力をいう。
では、行政行為一般に不可変更力は認められるか。
この点について、行政庁が誤って違法又は不当な行政行為をした場合には、適法性ないし合目的性の回復の要請から、行政庁が自ら取消し、変更する必要がある。
そのため、行政行為一般に不可変更力は認められない。
もっとも、行政行為のうちでも紛争裁断的性質をもつ行政行為に不可変更力が認められないとすると、無限に争いが蒸し返されて紛争裁断作用が機能しなくなる。そのため、行政行為のうちでも紛争裁断的性質をもつ行政行為については、処分庁が自ら取消、変更する必要はない。これは、民事訴訟の裁判の場合にも、判決の変更が制限されているのと同様(民訴法256条参照)、紛争裁断作用の特質といえる。
したがって、紛争裁断的性質をもつ行政行為については、例外的に、不可変更力が認められる。

裁決の公定力と不可変更力(最判昭30・12・26)

裁決庁がいったん下した裁決を取消し、新たに裁決をやり直した場合、新たな裁決は先の裁決の不可変更力に反し違法である。では、不可変更力に反した裁決は効力を有するか。
この点については、違法な行政行為であっても、その違法が重大かつ明白なものでない限り、公定力が発生し有効である。そして、不可変更力に反する違法があっても、重大かつ明白な違法とは限らないので、新たな裁決にも公定力が発生する場合がある。
したがって、上記のような場合には、不可変更力に反した新たな裁決は、権限ある国家機関によって取り消されるまで、効力を有する。

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