論証集~行政法6~瑕疵ある行政行為

この記事の所要時間: 657

論証集  行政法総論

瑕疵ある行政行為

●違法性の承継(最判平21・12・17)<br>
関連する行政行為が段階的になされる場合において、後続処分の取消訴訟における違法事由として、先行処分の瑕疵を主張することができるか、違法性の承継が認められるかが問題となる。<br>
この点については、仮に後続処分の取消訴訟において先行処分の違法性を自由に争えるとするならば、先行処分の出訴期間が経過した後も、後続処分の取消訴訟において、実質的に先行処分の違法性を争えることになってしまい、行政上の法律関係を早期に確定するために出訴期間を定めた行訴法14条の趣旨に反することになる。<br>
よって、原則として、違法性の承継は認められず、後続処分の取消訴訟における違法事由として先行処分の瑕疵を主張することはできない。<br>
もっとも、個別法の仕組みを総合的に解釈して、実体法的観点から、①先行処分と後続処分が連続した一連の手続を構成し、②同一の目的を達成するために、両者が結合して初めてその効果を発揮する場合において、手続法的観点から、③先行処分を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられていない場合には、法律関係の早期確定の要請は後退し、例外的に、違法性の承継が認められると解すべきである。

●取消事由たる瑕疵と無効事由たる瑕疵(最判昭37・7・5)
行政処分の瑕疵は、行政処分が一般に公定力を有するとされているため、原則として、取消事由にもならない軽微な瑕疵を除き、取消事由たる瑕疵にすぎない。そして、公定力の根拠は、立法者が取消訴訟という訴訟類型を特に設けている以上(行訴法3条2項、3項)、行政処分に瑕疵があるときは、専ら取消訴訟の利用を想定しているとみられることにある(取消訴訟の排他的管轄)。
公定力の根拠を上記のように考えるのであれば、行政処分が取消訴訟の排他的管轄に服するのは、取消訴訟を経ることによって初めて無効とされる程度の瑕疵があるにすぎない場合ということになる。すなわち、行政行為に取消訴訟を経ないでも無効と扱うことが妥当とされるような重大な瑕疵がある場合には取消訴訟の排他的管轄に服さないと考えられる。
もっとも、国民が各自の判断で重大な瑕疵の有無を判断することとなれば、その判断が各自で異なることとなり、行政法秩序の安定を害することになりかねない。そこで、行政行為が無効とされるには、瑕疵の存在が客観的に明白であることも要求される。瑕疵の存在が客観的に明白である場合には、誰に対しても行政行為の有効性への信頼が生じないため、国民各自において行政行為が無効であると判断しても行政法秩序の安定を害さないからである。
したがって、行政処分に重大かつ明白な瑕疵がある場合には、無効事由たる瑕疵があることになる。
なお、瑕疵が明白である場合とは、特に権限ある国家機関の判断を待つまでもなく、何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に到達し得る程度に瑕疵の存在が明らかである場合をいう。(外見上一見明白説)。

●課税処分と当然無効(最判昭48・4・26)
一般に、瑕疵ある行政行為が無効とされるのは、当該行政行為の瑕疵が重大かつ明白な場合である(重大明白説)。そして、瑕疵が明白であるとは、とくに権限ある国家機関の判断を待つまでもなく、何人の判断によってもほぼ同一の結論に到達し得る程度に瑕疵の存在が明らかであることをいう(外見上一見明白説)。
では、瑕疵が明白であることは、行政行為が無効となるための必須の要件か。
この点について、瑕疵が明白であることが要求されるのは、行政行為が当然に無効と扱われることによって、当該行政行為が有効であると信頼した第三者を害することがないようにするためである。すなわち、瑕疵が明白である場合には、誰に対しても行政行為の有効性への信頼が生じないため、行政行為を当然無効と扱っても誰も不測の損害を被らないことが理由となっている。
したがって、行政行為の有効性を信頼する第三者の保護を考慮する必要のない場合には、例外的に明白性の要件は不要であると考える(明白性補充要件説)。
例えば、課税処分についてみると、課税処分は課税庁と被課税庁との間にのみ存するものであるから、その有効性を信頼する第三者の保護を考慮する必要はない。
したがって、課税処分については、重大な瑕疵があればそれだけで無効事由たる瑕疵があることになると考える。

●瑕疵の治癒
瑕疵の治癒とは、適法要件を欠く行政行為がされたものの、その後の事情の変化によって当該要件が充足された場合に、当初の瑕疵が治癒されたとして行政行為の効力を維持することをいう。
行政行為に適法要件を欠くといった瑕疵がある場合には、当該行政行為は取り消され(又は無効とされ)、行政庁としては、必要があれば最初から行政行為をやり直すのが原則である。
しかし、その後の事情の変化によっては、当該行政行為をできるだけ維持する方が行政行為をやり直すよりも効率的であり、私人の側にとっても必ずしも酷でないという利益状況が存することがある。このような場合にまで原則を貫くのであれば、行政行為の不必要な繰り返しとなるだけであり、行政経済の観点から好ましくない。
そこで、瑕疵の治癒という概念が認められるべきである。
もっとも、瑕疵の治癒は、法律による行政の原理の重大な例外であるので、あくまでも限定的に認められるべきである。
具体的には、手続をやり直してみても処分の内容の変更が全く期待できず、単に二度手間になるにすぎないような場合に限定して認められるべきである。

●違法行為の転換
違法行為の転換とは、ある行政行為が違法ないし無効であっても、これを別個の行政行為としてみたときには瑕疵がないと認められる場合に、その別個の行政行為とみて有効なものとして扱うことをいう。
行政行為に瑕疵がある場合には、当該行政行為は取り消され(又は無効とされ)、行政庁としては、必要があれば最初から行政行為をやり直すのが原則である。
しかし、その瑕疵が事情の変化によって非難に値しないものとなった場合にまでこの原則を貫くのであれば、行政行為のい不必要な繰り返しとなるだけであり、行政経済の観点から好ましくない。
そこで、違法行為の転換という概念が認められるべきである。
もっとも、違法行為の転換は、法律による行政の原理の重大な例外であるので、あくまでも限定的に認められるべきである。
具体的には、当初の行政行為と転換後の行政行為との間に目的、要件、手続、効果について同一性があり、転換が相手方の利益を害することがない場合に限定して認められると考える。

●理由の差替え
理由の差替えとは、同一の行政行為について、行政庁が処分時に示した処分理由とは異なる処分理由に変更することによって、行政行為の適法性を維持することをいう。
では、処分理由の付記が求められている処分の適法性が争われている取消訴訟において、行政側が理由の差替えをすることは許されるか、この点に関する明文の規定がないため問題となる。
この点について、取消訴訟の訴訟物は処分の違法性一般であり、処分理由は攻撃防御方法に位置付けられる。そうだとすると、行政側は、口頭弁論終結時まで、処分が適法であることにつき一切の法律上、事実上の根拠を主張できるはずである。
また、理由付記制度の趣旨は行政の恣意抑制機能と国民の争訟便宜機能にあるところ、処分時に理由が具体的に示されていれば、その趣旨は一応実現されていると考えられる。
したがって、理由の差替えは、原則として許される。
もっとも、理由の差替えによって処分の同一性が失われ、もはや別個の処分と評価せざるを得ないような場合には、訴訟上の不意打ちになるし、国民の争訟便宜機能という理由付記制度の趣旨に反することになるため、理由の差替えは許されない。
また、聴聞・弁明手続の対象となる不利益処分に関して、当該手続の段階で示されていなかった理由に差し替えることも許されない。なぜなら、これが許されるとすると、聴聞・弁明手続において当事者等の反論にさらされていない理由による不利益処分を認めることになり、これらの手続を保証した法の趣旨に反することになるからである。

フォローする