論証集~行政法7~撤回・取消

この記事の所要時間: 434

論証集  行政法総論

撤回・取消

●法令に明文の根拠がない場合の職権取消し及び取消権の制限
行政行為の職権取消しは、法令に明文の根拠がない場合に、行うことができるか。いったんなされた行政行為を白紙に戻すことは、特に授益的行為の職権取消の場合に、行政行為の名宛人等に不利益を与えることがあるため問題となる。
この点について、行政行為の職権取消は原始的瑕疵のある行政行為を取り消して瑕疵のない法的状態を回復する行為である。このような行政行為の職権取消の性格からすると、法令に明文の根拠がない場合であっても、これを行うことが法律による行政の原理に適合し望ましいといえる。
したがって、行政行為の職権取消は、法令に明文の根拠がない場合にも、行うことができる。
また、職権取消は行政行為に当初から瑕疵があったことを前提としているため、その効果は原則として遡及する。
もっとも、いったん行政行為が行われると、それを基礎として新しく法律関係が形成されていくため、無条件にこれを取消すことができるとするならば、行政行為を信頼した相手方等の利益を害することになりかねない。
したがって、行政行為の職権取消を実際に行うか否かは、取消をすることによって守ろうとする利益と、これによって影響を受ける相手方等の不利益とを利益衡量することによって決定すべきである。
また、職権取消自体が可能であるとしても、法律による行政の原理と、国民の信頼の調和の観点から、一定の場合には遡及効の制限を認めるべきである。
具体的には、瑕疵ある利益的処分がなされたことについて、申請者に責めに帰すべき事由がない場合には、瑕疵ある行政行為がなされた責任は主として行政庁の側にあるため、申請者の信頼を保護すべく、職権取消の効果は遡及しないというべきである。

●法令に明文の根拠がない場合の授益的行為の撤回及び撤回権の制限(最判昭63・6・17)
授益的行為の撤回は、法令に明文の根拠がない場合でも、行うことができるか。
この点について、授益的行為の撤回は、相手方にとって侵害的行為そのものであることを理由に、明文の根拠を要するとする考え方がある。
しかし、法律による行政の原理からすれば、許認可権を与えられた行政庁は、義務違反者の許認可を撤回する権限をも有しているはずであるので、反対説は採用できない。
そもそも行政行為の撤回とは、後発的事情により行政行為の効力を将来に向かって除去する行為であり、その目的は公益適合性の回復になる。そして、行政上の法律関係は、事情の変遷に応じて、常に公益に適合するものであることを必要とする。
したがって、行政庁は、法令に明文の根拠がない場合でも、公益適合性の回復のために、行政行為の撤回をすべき場合がある。そして、このことは、行政行為が授益的行為の場合であっても異ならない。
よって、授益的行為の撤回は、法令に明文の根拠がない場合でも行うことができる。
もっとも、いったん授益的行為が行われると、それを基礎として新しく法律関係が形成されていくため、無条件にこれを撤回することができるとするならば、授益的行為を信頼した相手方等の利益を害することになりかねない。
したがって、授益的行為の撤回を実際に行うか否かは、撤回をすることによって守ろうとする利益と、これによって影響を受ける相手方等の不利益とを利益衡量することによって決定すべきである。
●上級行政庁の撤回権
上級行政庁は、下級行政庁が行った行政行為を撤回する権限を有するか。上級行政庁が有する下級行政庁に対する監督権限に、撤回権が含まれるかが問題となる。
この点について、撤回は、処分権限と表裏の関係にあるといえるため、許認可権限を与えられた下級行政庁の義務ないし権利といえる。
また、上級行政庁に撤回権を認めなくても、上級行政庁は下級行政庁に対して撤回命令を発することや取消権を行使することによって行政目的を達成し得るので、特段の不都合はない。
したがって、上級行政庁は、下級行政庁が行った行政行為を撤回する権限を有しない。

●撤回が認められる場合の補償(最判昭・49・2・5)
例えば、卸売市場の敷地内の使用許可を受けて飲食店を営んでいた者につき、卸売市場の拡張の必要から、使用許可が撤回されたときのように、私人に対し、本来の使用目的外での行政財産の使用を許可した後で当該使用許可を撤回した場合、補償は必要か。撤回の名宛人となる私人にとっては、撤回によって使用許可により生じた権利(行政財産の使用権)を失うという経済的不利益を被ることになるので、何らかの補償が必要ではないかが問題となる。
この点について、当該使用許可は、あくまでも目的外使用許可という形で、行政財産本来の用途を害さない限りで例外的に認められているにすぎない。
そのため、当該使用許可は、公益上の必要が生じた場合には使用できなくなるという内在的制約を有するものであるから、そのような制約が現実化したとしても補償の問題は生じない。
したがって、行政財産の使用権を失ったことに対する補償は、原則として不要である。
もっとも、使用許可に際して、私人が使用対価を支払っており、未だそれを償却していない場合や、使用許可に際して別段の定めがある場合等特別の事情がある場合には、撤回によって生じた損失には内在的制約の範囲を超えるものが含まれることになるため、その部分については、例外的に補償が必要となる。

フォローする