論証集~民法債権各論7~賃貸借

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論証集  債権各論

賃貸借

●不動産賃貸借の物権化
不動産賃借権に基づく妨害排除請求権は認められるか。確かに、賃借権は債権であり物権ではないから物権的請求権である妨害排除請求権は認められないとも思える。しかし、物権的請求権は、物権の円満な支配状態が害されている場合に、円満な支配状態を回復するために認められ、物権的請求権の法的根拠は、物権の不可侵性及び排他性にあると解される。そして、債権についても、物権同様の不可侵性及び排他性が認められれば、債権といえども妨害排除請求が認められる余地があると解する。そして、不動産については、対抗力を備えうる(605、借地借家10Ⅰ、31Ⅰ)などの点で物権化しており、対抗要件を備えた不動産賃借権は直接排他的支配性が認められる。したがって、対抗要件を具備した場合には、賃借権に基づく妨害排除請求権は認められると解する。これに対して、動産賃借権については、対抗力ある不動産賃借権におけるような物権類似の不可侵性、排他性が認められないため、動産賃借権に基づく妨害排除請求は認められない。

●賃貸借契約の解除―信頼関係破壊の法理
賃貸借契約のような継続的契約に541条が適用されるか。616条が591条1項を準用していないため、用法違反等による解除ができるかが問題となる。この点、541条は解除の一般的規定である以上、適用は否定すべきではない。もっとも、賃貸借契約は当事者間の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから、軽微な義務違反の場合に解除を認めるべきではない。そこで、当事者間の信頼関係が崩されるような義務違反の場合に解除を認めるべきと解する(判例)。他方、信頼関係の破壊が著しい場合は契約の継続は困難であり催告は無意味なので無催告解除できると解する (判例)。

無断転貸・譲渡と解除
賃借権が無断譲渡・転貸された場合612条2項に基づき賃貸借契約を解除できるか。この点、612条2項の文言を形式的に当てはめれば常に解除ができるとも思える。しかし、事情を問わず常に解除権の発生を認めるのは妥当ではない。思うに、612条2項は賃貸借契約が当事者の個人的信頼関係を基礎とする継続的契約であることに鑑み、無断転貸・譲渡がなされた場合には、背信性が推認されるため、信頼関係が破壊されたとして、賃貸人保護の観点から解除権を認めたものと解される。とすれば、無断転貸・譲渡があっても信頼関係の破壊があったと認めるに足りない特段の事情があった場合は解除できないと解すべきである(判例)。

●賃貸人の地位の移転
賃借人が賃借権の対抗要件を具備している場合、建物譲受人に賃貸人たる地位が当事者の合意なく移転するか。この点、賃借関係は、賃貸目的物の所有権に結合する一種の状態債務関係として、所有権と共に移転すると解する。よって、建物譲受人に賃貸人たる地位が当事者の合意なく移転すると解する。
では、賃貸人の地位の移転は、使用収益債務につき免責的債務引受の側面を有するが、賃借人の承諾は必要か。思うに、賃貸人の貸す債務は所有者であれば誰でも履行可能な没個性的債務である。よって、特段の事情ない限り不要と解する。

●土地賃借権の瑕疵
建物と土地賃借権が売買の目的とされたが土地に欠陥があった場合売買の目的物に瑕疵があったとして瑕疵担保責任(570)の追及ができるか。この点、建物と共に売買の目的とされたのは、土地そのものではなく、土地の賃借権であるところ、債権の売主はその実現について当然に責任を負うものではない(569参照)。また、土地の欠陥は本来賃貸人の修繕義務(606Ⅰ)の履行によって補完されるべきものである。
よって、瑕疵担保責任の追及はできないと解する。

●賃借権の対抗力と他人名義の建物登記
土地賃借権の対抗要件としての建物登記(借地借家10)は妻や長男名義でも有効か。この点、他人名義の登記はそもそも無効であるし、かかる結論を認めることは取引の安全を害する。よって、妻や長男名義では有効とならないと解する(判例)。

●賃借人の死亡と同居人の地位
賃借人が死亡し、相続人がいる場合、相続権のない同居人は引き続き賃貸家屋に居住できるか。思うに、同居人は賃借人の生前は賃借人の賃借権を援用して当該家屋に居住する権利を対抗しえたのだから、この法律関係は賃借人の死後も変らないというべき。よって、賃借権は相続人に相続されるものの、建物賃貸人に対しては相続人が承継した賃借権を援用できると解する。また、さしたる理由もないのに、相続による賃借権取得を奇貨として、従来から同居人が正当に有していた居住の利益を奪うことは、居住権保護の趣旨に反する。そこで、相続人が明渡請求してきた場合は権利濫用(1Ⅲ)として対抗しうると解する。 *相続人がいない場合は借地借家法36条。

●適法な転貸借と解除と他人物転貸借の終了時期(最高裁H9.2.25)
適法な転貸借がなされた場合において、原賃貸借契約が債務不履行により解除された場合に、転貸借もまた終了するか。この点、適法な転貸借といえども、有効な賃貸借契約の存在を前提として初めて、転借権を賃貸人に対抗できることになる。それ故、賃貸人に対抗できる転借権を存続させることも転貸人の使用収益させる義務の内容となる。ところが、前提となっている賃貸借契約が債務不履行解除されてしまい、明け渡しが請求されると、賃貸権限を回復することはもはや事実上不可能であり、義務を履行しえないことになる。そこで、賃貸人が転借人に明渡を請求した時点で、転貸借関係は履行不能により消滅すると解する。一方、賃貸権限のない者が行う他人物賃貸借においては、賃貸権限を取得して適法に使用収益させることが賃貸人の義務の内容となる(601条、559条、560条)。そして、賃借人が現実に使用収益をしている間はこの義務は履行不能とまではいえず、現実に明け渡しを余儀なくされるまで契約は終了しないということになる。よって、他人物賃貸借においては、現実に明け渡しを余儀なくされた時点で終了すると解する。

●賃借物の全部滅失
(1) 両当事者に帰責がない場合
危険負担の債務者主義の問題となり、536条1項により賃料債務は消滅し、賃貸借契約は終了する。
(2) 賃貸人に帰責がある場合
本来、債務者に帰責事由があるので債務不履行の問題となり、賃借人が解除しない限り、賃料債務は存続するはずである。
しかし、使用収益債務が不能であるのに、その対価である賃料債務のみが存続するというのは現実性を欠く。
また、賃貸借契約は、人的信頼関係を基礎とする継続的契約である。
かかる継続的契約の特殊性から、賃料債務は発生せず、賃貸借は解除を待たずに終了する。
あとは、損害賠償の問題として処理される。
(3) 賃借人に帰責がある場合
本来、債務者には帰責事由がないので危険負担の債権者主義の問題となり、536条2項によって賃料債務は存続するはずである。
しかし、使用収益債務が不能であるのに、その対価である賃料債務のみが存続するというのは現実性を欠く。
また、賃貸借契約は、人的信頼関係を基礎とする継続的契約である。
かかる継続的契約の特殊性から、賃料債務は発生せず、賃貸借は解除を待たずに終了する。
あとは、損害賠償の問題として処理される。

●賃貸人の交代と敷金
賃貸人の地位の移転があった場合に敷金関係も移転するか。この点、敷金契約は、賃貸借契約において賃貸人の賃借人に対する一切の債権を担保することを目的とする。すなわち、敷金は担保としての性格を有し、賃貸借契約と密接不可分の関係にある。とすれば、賃貸人の地位の移転と共に、従たる契約として(担保の随伴性により)敷金関係も移転すると解すべきである。よって、敷金関係も移転すると解する(判例)。

●賃借人の交代と敷金
賃借人の地位の移転があった場合、敷金関係も移転するか。この点、敷金関係の移転を認めてしまうと敷金交付者たる旧賃借人の予期に反して不利益を被らせてしまう。また、賃貸人は、賃借権譲渡の承諾に際して新たな敷金の取り決めをなすことにより自らの利益を確保できる。よって、特段の事情なき限り敷金関係は移転しないと解する (判例)。
[特段の事情]
敷金交付者が賃貸人との間で敷金をもって新賃借人の債務不履行の担保をすることを約した場合。
新賃借人に対して敷金返還請求権を譲渡した場合。
移転の際に承諾が不要となった場合。

●敷金返還請求権の発生時期
賃貸借契約終了後の明渡請求と敷金返還請求は同時履行の関係に立つか、敷金返還請求権の発生時期と関連して問題となる。この点、敷金は、賃貸借契約において賃借人の負担する一切の債務を担保することを目的とする。よって、敷金返還請求権は賃借物明渡し時に発生すると解する(判例)。同時履行の抗弁権・留置権を明渡請求に対してなすことはできない。

●賃料債権の二面性
継続的法律関係としての賃貸借契約に基づいて賃借人が負う賃料支払義務には、①賃借人は賃貸人に対し、一定期間許容される賃貸借目的物の使用収益に対する対価として、一定の場所において一定賃料を支払うという基本たる義務の面(抽象的賃料債権)と、②賃借人が現実に賃借人をして一定期間賃貸借目的物を使用収益しうる状態に置かれたことによって、賃貸人に対し一定の場所において一定の賃料を支払うべき個々の義務の面(具体的賃料債権)があるとの見解がある。
抽象的賃料債権は、賃貸人が賃貸借契約に基づき賃借人に対して負う債務関係に結合してのみ譲渡することができる。それ故、賃貸人の地位の承継と同義である。
他方、具体的賃料債権は、賃借人が使用収益をなすに応じて時間の経過とともに発生するものであり、それに基づいて賃料の支払いを請求しうるものである。したがって、請求力、給付保持力は具体的な賃料債権が発生して初めて認められる。

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