学説判例研究~憲法~徴兵制(平和的生存権)

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徴兵制

平和的生存権

自衛隊の存在は認められても、徴兵制は認められない。

(自衛隊の存在を否定することは現実的ではない。長谷部恭男(2006)は、「日本だけが公然と非武装を宣言することは、周辺国家に日本侵略を合理的なものとし、かえって国家間の関係を不安定にする」ことや、「自衛のための戦力なしで侵略に対処するのは困難であることを挙げた上で、それでも非武装を求めるなら、その理由はこれが特定の『善い生』であるからということにならざるをえない」といったことを指摘する:『憲法の理性』東京大学出版、3-22頁)

徴兵制とは、兵役を義務として強制するものであるから、徴兵制による兵役は、憲法18条が禁じる「意に反する苦役」にあたる。

1980(S55)年8月15日、稲葉誠一議員の質問主意書「徴兵制度」に対する政府答弁書

「一般に、徴兵制度とは、国民をして兵役に服する義務を強制的に負わせる国民皆兵制度であって、軍隊を常設し、これに要する兵員を毎年徴集し、一定期間訓練して、新陳交代させ、戦時編制の要員として備えるものをいうと理解している。このような徴兵制度は、我が憲法の秩序の下では、社会の構成員が社会生活を営むについて、公共の福祉に照らし当然に負担すべきものとして社会的に認められるようなものでないのに、兵役といわれる役務の提供を義務として課せられるという点にその本質があり、平時であると有事であるとを問わず、憲法第13条、第18条などの規定の趣旨からみて、許容されるものではないと考える」。

また、前文については法規範性や裁判規範性の有無の問題(リーガルクエストⅠ142頁)があるにせよ、平和的生存権から徴兵制を否定する方法もある。

また、前文については法規範性や裁判規範性の有無の問題(リーガルクエストⅠ142頁)があるにせよ、平和的生存権から徴兵制を否定する方法もある。

水島朝穂『戦争の違法性と軍人の良心の自由』ジュリスト1422号42頁(2011)

名古屋高裁2008年4月17日判決(判時 2056号 74頁)が,平和的生存権を「複合的権利」として構成し,とりわけその自由権的側面において,9条違反の行為に加担・協力を強制されたときは,裁判所に違憲行為の差止めや損害賠償請求ができるとした点は注目される。また,岡山地裁2009年2月24日判決(判時2046号124頁)が平和的生存権の内容構成に関連して,「徴兵拒絶権,良心的兵役拒絶権,軍需労働拒絶権等の自由権的基本権として存在し,また,これが具体的に侵害された場合等においては,不法行為法における被侵害法益としての適格性があり,損害賠償請求ができることも認められるというべきである」とした点も重要である36)。「徴兵拒絶権」と「良心的兵役拒絶権」の区別について自覚があるのか。また,「軍需労働拒絶権」は,私企業(軍需産業)での特定態様の労働(戦争協力のための輸送,兵器の生産等)を拒否することで,軍需労働拒絶により解雇されない権利まで含むのかどうかは明確ではないものの,平和的生存権の具体化に向けた萌芽的試みといえよう。

「制服を着た市民」という考え(兵士の一部の特殊な考えを持った人々から解放し「制服を着た市民」とするために望ましいという考え)については、組織内に特殊な考えが広がるのを阻止しようとする趣旨だが、組織を外部からコントロール(シビリアンコントロール:リークエⅠ156-158頁)があれば、それでよいと考える。

なお、兵士の多様性について、前掲の水島朝穂の論文では、民間軍事会社(PMC:Private Military Company)の参入による「民営化」の傾向を分析している。

水島朝穂『戦争の違法性と軍人の良心の自由』ジュリスト1422号36-37頁(2011)

アフガン戦争やイラク戦争では,本来軍隊が担ってきた任務のかなりの部分に,民間軍事会社がコミットしている。端的な数字を示すと,1991年の湾岸戦争時,米軍人50人から100人に対して民間軍事会社の請負人contractor)は1人の割合だったものが,2003年のイラク戦争では10対1になったというのがその一例である。その結果,2010年1月~6月にアフガンとイラクで死亡した米軍人は235人だったが,同じ期間で請負人のほうは250人に達する5)。民間軍事会社は,直接戦闘行為に関与する,限りなく傭兵に近いものから,要人警護や軍事訓練,情報についてのコンサルティング業務,兵站(ロジスティック)機能全般の支援に携わるものまで,その活動のレンジはかなり広い。請負人は「非戦闘員」だが,実質は「武装した民間人」あるいは「軍服非着用の戦闘員」である。そこには国家による「暴力独占」の「ゆらぎ」があらわれている。

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