学説判例研究~憲法~外国人の人権

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学説判例研究~憲法~外国人の人権

前提問題:外国人は人権享有主体となるか、どの範囲で認められるか。

第三章で保障している権利のうち「すべて国民は」というように、国民に限定しているような書き方がしてある条文については日本国籍を持つ者だけにその権利を認めるという見解がある(文言説)。

この見解は、文理に忠実であるが、形式的すぎて妥当でない。憲法は国際主義の立場から条約および国際法規の遵守を定め(98条)ているし、人権の国際化の傾向が顕著である今日において、外国人には原則として人権が認められるべきである。もっとも、人権の性質上、外国人に付与することが妥当でないものもある。

そこで、外国人には権利の性質上、適用可能な人権規定はすべて及ぶと考える(性質説)。

 国際協調主義とあわせて、人権の前国家的性質を論拠とする予備校本があるが、用法には注意しなければならない。人権が前国家的性質を有すると言うなら、全て外国人にも保障されるべきものになるからである。
性質説の論拠として人権の前国家的性質を挙げるには、前国家的性質を有する権利とそうでない権利を区別・論証した上で、さらに適用可能な性質とは何かを示す必要が生じる。これらは議論がかぶる為、読み手の理解を阻害する危険がある。時間・字数に制約のある試験で、わざわざ書く必要は無い。

ただし、「権利の性質」の判断基準により、外国人の人権が制限される範囲が異なってくるため、制限される際には、その制限が正当化される根拠を慎重に検討する必要がある。

最大判平成17年1月26日 外国人管理職受験請求事件上告審

※受験資格確認の訴えについて
本事件は、地裁において、受験資格を確認する訴えは昨年度試験が実施済みであるから、原被告間の法律関係に何らの影響を及ぼすものでなく確認の利益がないとされた。さらに、今年度の受験資格を確認する訴えは、まだ今年度の管理職選考実施要綱が決定されておらず、(要綱が決定しないと実施するかどうかもわからない)として確認の利益がないとして訴えを却下した。このように受験確認の訴えは困難を伴う。  ⇒「もう遅い、まだ早い判決」になりやすい。

当然の法理について

本判決は、「原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであ」ると述べていて、「当然の法理」という考え方に沿う言い回しをしている。

「当然の法理」とは、「法の明文の規定が存在するわけではないが、公務員に関する当然の法理として、公権力の行使または国家意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには、日本国籍を必要とするものと解すべきである」という内閣法制局(1953年3月25日)が発表した見解であるが、法律上の根拠がなく問題である。

最高裁は公権力行使等地方公務員の「職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有する」という理由で、「原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべき」と解釈している。これはまさに「当然の法理」と同様の考え方である。

最高裁は、この考え方の根拠として、国民主権の原理(1条、15条1項)を挙げるが、選挙権ならばともかく公務就任権が制限される根拠としては弱い。また、15条の趣旨は、主権が天皇から国民へ移ったことを明示的に示すために、公務員の選定罷免権は「国民固有の」権利であると記した点にあるから、外国人の権利が制限される根拠として妥当ではない。
したがって、外国人の人権に大きな制限を課しているにも関わらず、法律の根拠を有しない「当然の法理」を追認したと評価できる本判決は、法治主義の見地から批判される。

「想定の法理」について
本判決は、「公権力行使等地方公務員」には「原則として」国民の任用を「想定」し、外国人の任用を「我が国の法体系の想定するところではない」という表現を用いているから、当然の法理とは異なる、「想定の法理」という見解を打ち出したのだという考えがある。
想定の法理では原則として国民の任用を想定しており外国人の就任を許容するかどうかは例外を認める余地があると解される(法学教室解説69)。

「公権力行使等地方公務員」について

滝井裁判官の反対意見

本判決の法廷意見は、「公権力行使等地方公務員」の職務の執行は、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するという。したがって、国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治のあり方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものだから、原則として、日本国籍を有する者が、公権力行使等地方公務員に就任することが想定されていると解釈している。

しかし、外国人の地方参政権については憲法上許容されることに鑑みると、参政権の側面を有する権利全てについてその保障が日本国民に限るとしているわけではないし、地方行政における補助機関は長の指揮命令の下で職務を行うのであって(地方自治法154条)、法令や上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない(地方公務員法32条)のだから、これらに外国人が就任する自由については国民主権からの制限はない。国民主権原理から考えるなら、公権力を行使する公務員は知事、市町村などの長などに限定して考えるべきである

もっとも、国民主権の原理に基づく制約がない職であっても、一定の職について日本国籍を有するものに制限することも、法律において許容され、かつ、合理的な理由があれば許されると考える。
職業選択の自由の合理性の有無は、「目的の重要性」、その「目的と手段との実質的関連性」の有無によって判断する。

本件で問題となっているのは、管理職に昇任する候補者の選考の段階であるから、その段階で、日本国籍を有しないことを理由に一律に排除することは、人事の適正な運用を図るという目的の正当性は是認できるが、手段として実質的関連性を欠き、合理的な理由に基づくものではない。

特別永住者に対する考え方

泉裁判官の反対意見

本判決の法廷意見は、国籍を理由とした差別的取扱いを禁止する労働基準法3条,112条、地方公務員法58条3項について、普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではないと解釈し、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもないとした。

最高裁のこの考えは、在留外国人を一義的に捉えているが、特別永住者とそのほかの外国人とは区別して考えるべきである。特別永住者は法律で永住権が与えられ、地方公務員になる事について法で制限されておらず、憲法上の平等原則や職業選択の自由を原則として日本国民と同様に有する法的地位を持つからである。

しかし、憲法前文、1条は国民主権を宣言し、この原理は統治権を行使する主体は統治権の行使の客体である国民を同じ自国民であることをその内容として含んでいることから、特別永住者たる外国人の地方公務員就任権は無制限に許されるものではなく、合理性を有する制約に服する。

ここで、職業選択の自由は、単に経済活動の自由を意味するにとどまらず、職業を通じて自己の能力を発揮し自己実現を図るという人格権的側面を有する。さらに、特別永住者は地方公共団体の住民の1人として、制限はあるもののその自治事務に参加する権利を有する。これらの事情の基に、合理性の有無は「目的の重要性」、その「目的と手段との実質的関連性」の有無で決せられるべきである。

判断枠組み

法廷意見は、憲法14条1項の平等原則違反の審査基準として、合理性の基準を適用するが、「公権力行使等地方公務員の職」と「これに昇任するのに必要な職務経験を積みために経るべき職」の一体的な管理職任用制度による「人事の適正な運用」という目的を「合理的な理由」として、外国人の管理承認を一律に排除する手段も可能としているので妥当でない。

また、法廷意見は、公権力行使公務員への就任について外国人が排除されることを前提に、一体的管理職任用制度で採用されるといずれ公権力公務員につく可能性が高いため、受験の時点で外国人に対して禁止してもよいという考えをとっている。

しかし、この考え方は、外国人を差別しない任用制度の可能性を十分に議論しないで、一体的な任用制度も許されるという判断を先行させそこから差別の合理性を検討している。制度を人権に優先させていて賛成できない。

東京高判平成9年11月26日 外国人管理職受験請求事件控訴審

本判決は、外国人の公務就任権は国民主権との関係で保障はないが、憲法上禁止されているわけではないという。そして、公務員の職務内容を統治作用の関わり度合いに分けて考えると国民主権原理に反さない管理職も存在し、この管理職については22条1項、14条1項の保障が及ぶといい、当然の法理とは異なる考えを示した。

公務員の分類は、次の三つに大別している。①国の統治作用である立法、行政、司法の権限を直接に行使する公務員、②公権力を行使し、又は公の意思の形成に参画することによって間接的に国の統治作用に関わる公務員、そして、③それ以外の上司の命を受けて行う補佐的・補助的な事務又はもっぱら学術的・技術的な専門分野の事務に従事する公務員である

①の公務員は、国の統治作用に直接に関わるから、法律をもってしても、外国人がこれに就任することを認めることは、国民主権の原理に反し、憲法上許されないとする。
また、②の公務員についても、国の統治作用に関わる職務に従事するものではあるが、その関わりの程度は、①の公務員に較べれば間接的であり、しかも、その職務内容は広範多岐にわたるから、その職務の内容、権限と統治作用との関わり方及びその程度を個々、具体的に検討することによって、国民主権の原理に照らし、外国人に就任を認めることが許されないものと外国人に就任を認めて差支えないものとを区別する必要があるという。
これに対し、③の公務員は、国の統治作用に関わる蓋然性及びその程度は極めて低く、外国人がこれに就任しても、国民主権の原理に反するおそれはほとんどないと示した。

以上のように本判決は、②の公務員の一部と③の公務員が国民主権に反さない管理職であると示して、これらの管理職には22条1項、14条1項の保障が及ぶことを確認した。
そこで、本件では、被控訴人の管理職にも事案の決定権限を有しない管理職が一割強存在するのであるから、一律に外国籍の職員から受験機会を奪うことは違法な措置と言わなければならないと判断した。

最判平成7年2月28日 外国人地方参政権訴訟上告審

本判決は、国民主権の原理や憲法15条1項の規定、そして、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素であることから、憲法93条2項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解釈する。

憲法第8章の地方自治に関する規定は、住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務は、その地方の住民の意思に基づきその区域の地方公共団体が処理するという政治形態を憲法上の制度として保障しようとする趣旨であるといって、永住者等その居住する区域の地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至ったと認められるものについて、法律をもって、地方公共団体の長、その議会の議員等に対する選挙権を付与する措置を講ずることは、憲法上禁止されているものではないという。

しかしながら、右のような措置を講ずるか否かは、専ら国の立法政策にかかわる事柄であって、このような措置を講じないからといって違憲の問題を生ずるものではないとしているので、本判決は許容されるとする立場に立っている。

もしも、被選挙権まで認められて、知事や市長に外国人がなってもよいということになれば、その下で働く者も当然外国人で構わないことになるから、管理職就任権も解禁されることになるだろう。

許容説

①憲法により地方自治が保障されているが、それは住民の意思に基づいて行われる必要がある。②外国人に地方自治体での選挙権を認めることのほうが、より地方自治の理念に適合する。③「国政の在り方は国民が決定する」という国民主権の原理に影響を与えない。④憲法15条1項では「国民」としているのに対し、93条2項では「住民」として使い分けている。

要請説

国民主権にいう国民とは、その政治社会を構成する全ての人を指すというべきである。なぜなら国民主権の原理は治者と被治者の同一性を本来的内容とするものであるからである。とすると、日本の政治社会の構成員である定住外国人も、この主権者に含まれると考えられる。よって、定住外国人には、地方・国政を問わず、選挙権・被選挙権が保障されるべきである。この権利を付与する立法がなされないなら、立法不作為である。

違憲説

憲法は国政・地方とも「日本国民」以外に参政権を付与することを禁止しているので、法
律を制定すれば違憲となる。