学説判例研究~行政法~原告適格

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原告適格

(訴えの利益= ⅰ原告適格 + ⅱ狭義の訴えの利益)

1、「法律上の利益」の解釈

[解釈の対立]

取消訴訟を提起できる者は、処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益」(9条1項)をもつ者でなければならない。が、ここでいう法律上の利益とは何か必ずしも明確ではない。
とくに、処分の相手方以外の第三者が他人に対する処分によって不利益な効果を受けたときや、道路の公用廃止のような一般処分によって不利益を受けた者が出訴したとき、いかなる場合に法律上の利益が認められるか問題となる。この解釈としては、①「法律上保護された利益」説と②「法的な保護に値する利益」説がある。

①「法律上保護された利益」説 (通説・判例)

実定法の保護している利益であるとする。
すなわち、出訴した者の不利益が、実定法によって保護された利益なのか、それとも反射的利益にすぎないのかを法の趣旨に照らして解釈し、それによって原告適格の有無を決定すべきとするものである。

最判S53・3・14 主婦連ジュース訴訟判決
誤認を招きやすい商品表示の認可によって消費者が不利益を受けても、不当景品類及び不当表示防止法は公益保護を目的とし、個々の消費者を保護する趣旨ではないから、個々の消費者の受ける不利益は反射的利益で法的利益ではないとし、消費者には認可の取消しを求めて不服を申し立てる適格はないとした。

②「法的な保護に値する利益」説

訴えの利益は、元来、個々の実定法の趣旨・目的によって決まるのではなく、違法な行政処分によって原告が受けた(または受ける)実生活上の不利益ないしリスクに着目しこれが裁判上の保護に値するかどうかによって、判断されるべきであると考える。

※批判と反批判(原田尚彦「行政法要論」)

通説は、保護に値する利益では明確な判定基準を見出せないから、訴えの利益の認定が解釈者の恣意に流れる恐れがあると批判し、法の保護する利益説によると実定法の規定が判断基準になるから客観的な認定が可能だと主張する。
これに対して、個々の行政法規の趣旨目的は客観的に明確ではなく、解釈者の一存でいかようにでも断定できるものだと批判する。事実、訴えの利益の認定過程をみると、原告の主張利益が裁判上の保護に値するかどうかをまず判定し、これが保護に値するかとの心証に達した場合には、法解釈上これを法の保護する利益であると構成して訴えの利益を根拠付けるというやり方がなされていて、結局、この有無を真に決するものは、原告の主張する利益が保護に値するかどうかの法秩序全体の価値に照らしての直接的な判断であると主張する。すなわち、訴訟要件認定の段階で、なお法の保護する利益説に従い、実定法解釈に固執する意義があるのかどうか疑わしいという。

[両説の違い]

①法律上保護された利益説

⇒ 専ら実定法の趣旨目的を配慮して一刀両断に有無を断定する。

②法的な保護に値する利益

⇒ 法の趣旨ではなく、原告が現実に受ける不利益の性質、程度など利害の実態に着目する。ケース毎に救済の必要性を判定する。

[判例の傾向]

判例は、法律上保護された利益説に固執しているが、行政処分の根拠法条だけでなく、当該法律の目的や関連法規、さらには憲法上の権利その他法秩序全体を考慮にいれて法の趣旨を解釈し、救済の必要が認められる場合には原告適格を柔軟かつ広範に承認するようになった。

・公益と個別的利益を峻別する初期の判例「最判S53・3・14主婦連ジュース訴訟判決

・公益と個人的利益は重なり合う場合がある{A}最判H元・2・17新潟空港訴訟判決
さらに、この判決は、法律の範囲を広く捉える{B}(=法律上保護される利益を広げる)。

・被侵害利益の内容・性質も勘案して判断した「最判H4・9・22もんじゅ訴訟判決
この判決は、仮に処分が違法であり、その結果として事故が発生した場合の被害の性質を考慮するという重要な考え方を示し、行訴9条2項の解釈指針に直接つながる判例法の到達点となった。

最判H元・2・17 新潟空港訴訟判決
新潟空港の周辺住民が運輸大臣の日本航空に対する定期航空運送事業免許の取消訴訟を提起。

{A}「当該処分を定めた行政法規が、不特定多数者の具体的利益をもっぱら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、かかる利益も右にいう法律上保護された利益に当た」る。

{B}「当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規及びそれと目的を共通する関連法規の関係規定によって形成される法体系の中において、当該処分の根拠規定が、当該処分を通して……個々人の個別的利益をも保護すべきものとして位置付けられているとみることができるかどうかによって決すべき」といい、判断基準を示した。

そこで、係争の処分(定期航空運送事業免許)の根拠法令に加え、関連法令(国際民間航空条約、飛行場周辺航空機騒音防止法)まで含めた解釈を行った。

航空法1条の目的規定は、航空機の航行に起因する障害の防止を図ると定めるが、これは「右条約(国際民間航空条約)の第16付属書として採択された航空機騒音に対する標準及び勧告方式に準拠して、……航空機騒音の排出規制の観点から……騒音基準適合証明制度」が導入された際に「新たに追加されたものであるから、……航空機の騒音による障害が含まれることは明らかである。」
また、関連法規である「飛行場周辺航空機騒音防止法」は、運輸大臣に騒音を防止するための各種措置を講ずる権限を与えているのだから,航空運送事業免許の審査においては,その趣旨を踏まえる必要がある。とすると、運輸大臣は、航空運送事業免許の審査に当たって、申請事業計画を騒音障害の有無および程度の点からも評価すべきであり、この点の判断を誤った場合には、免許処分は裁量の逸脱となりうる。したがって新規路線免許により生じる航空機騒音によって、社会通念上著しい障害を受けるものには、免許取消しを求める原告適格が認められる。

最判H4・9・22 もんじゅ訴訟判決
高速増殖炉もんじゅの周辺住民が内閣総理大臣の原子炉設置許可処分の無効確認を求めた訴訟。

「当該行政法規が、不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである」とした。

原子炉等規正法が許可条件として定めている技術的基準について、原子炉事故がもたらす災害による災害による被害の性質を考慮に入れたものであると解釈し、同法は「単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む」と示した。

※9条2項が加えられた現在における意義
判例による「法律上保護された利益」説は、「保護に値する利益」説に歩み寄り、両説はあまり異ならなくなった。しかし、両説の対立は、行政訴訟の目的を行政処分の適法性をめぐる紛争の解決を通じて国民の利益の救済にあると見るのか、実定法の予定する実体法上の権利ないし法益保護にあると見るのかという、訴訟制度の本質理解にかかわる原理的な見方の相違に起因している。そこで、訴えの利益の認定の面では実益を失しているとはいえ、理論的意味まで失っていない。(原田尚彦)

2、行訴9条2項の解釈

[判例の動揺]

判例の大勢は、前述のように、1990年代に入ると、訴えの利益の認定に柔軟な態度をとり、第三者訴訟の原告適格の緩和・拡大の方向を辿ってきた。
しかし、なかには已然として旧来どおりの頑なな態度を堅持するものもある。例えば、都市計画道路の事業認定を争う原告適格を域内の地権者に限定して、騒音等の公害を訴える周辺住民らの原告適格を否定する(最判H11・11・25 環状6号線訴訟判決)など、極端に狭く限定しているものもないではない。

[9条2項の新設]

このような中で、平成16年(2004年)の行訴法改正で、新たに9条に2項が付加され、「法律上の利益」の有無は、処分の根拠法令の文言だけでなく、広く関連する法令の趣旨・目的をも視野に入れ、違法な処分によって害される原告の利益の内容や性質、侵害の態様や程度をも勘案して判断すべきであるとの解釈指針が明示された。

※新設の意義
訴えの利益をことさらに狭く限定し実体判断を回避してきた裁判所の消極姿勢に変更を迫る立法者からのメッセージと受けとめられる。しかし、1項の「法律上の利益」の文言自体を変えて、「法的利益」などにすべきだったとの批判がある。

[法定された考慮事項]

処分・裁定の根拠法令の文言のみによることなく判断
①当該法令の趣旨及び目的
②当該処分において考慮されるべき利益の内容および性質
③(①の考慮に当たって)当該法令を目的と共通にする関連法令の趣旨および目的
④(②の考慮に当たって)当該処分が違法な場合に、害されることとなる利益の内容および性質
ならびにこれが害される態様および程度

 ①は、法令の趣旨・目的に遡り、その法令が実現しようとしている行政過程での利益調整のあり方について精査することを要請するもの。
②は、紛争の実質から切断された表面的な法令解釈により訴えが却下されるのを防ぎ、具体的事案において国民の権利利益の実効的救済を確実にする訴訟運用を担保しようとするもの。
③に関しては、個別の行政処分の際に行政庁が法令上考慮しなければならない要素を拡大するものであるから、「目的を共通にする関連法令」か否かという形式的な思考に固執すべきではない。個別の事案において「法律上の利益」の認定に漏れをなくすという立法趣旨を踏まえた解釈態度が必要である。
④に関しては、②の判断手段となるものなので、係争処分の根拠法令の保護範囲として解釈可能な利益に限られる。しかし、④は違法な処分を仮定した上での利益侵害の態様や程度の問題を考慮に入れるものであるから、争われている処分の根拠法令の仕組みから一旦切り離された思考が必要である。基本権侵害にあたるような場合は、憲法論を踏まえた法令解釈をすることにより原告適格を拡大することができる。

[9条2項のリーディングケース]

最大判H17・12・7 小田急高架訴訟判決

小田急線連続立体交差事業認可処分取消、事業認可処分取消が求められた訴訟。周辺住民の原告適格が問題となったが、環状6号線訴訟判決を変更し、事業地外の一定範囲の住民等にまで原告適格を拡大した。

①、③の考慮事項について
本件条例は、「都市計画の決定又は変更に際し、環境影響評価等の手続を通じて公害の防止等に適正な配慮が図られるようにすることも、その趣旨及び目的とするもの」である。
そして、「都市計画事業の認可は、都市計画に事業の内容が適合することを基準としてされるものであるところ」、都市計画の基準として公害防止計画への適合性が定められていることから、公害防止計画の根拠法令である「公害対策基本法等の規定の趣旨及び目的をも参酌し、……同法の規定は,事業に伴う騒音,振動等によって,事業地の周辺地域に居住する住民に健康又は生活環境の被害が発生することを防止し,もって健康で文化的な都市生活を確保し,良好な生活環境を保全することも,その趣旨及び目的とするものと解される。」

②、④の考慮事項について
「違法な都市計画の決定又は変更を基礎として都市計画事業の認可がされた場合に、そのような事業に起因する騒音、振動等による被害を直接的に受けるのは、事業地の周辺の一定範囲の地域に居住する住民に限られ、その被害の程度は、居住地が事業地に接近するにつれて増大するものと考えられる。また、このような事業に係る事業地の周辺地域に居住する住民が、当該地域に居住し続けることにより上記の被害を反復,継続して受けた場合、その被害は、これらの住民の健康や生活環境に係る著しい被害にも至りかねない」。
都市計画法の規定は、「その趣旨及び目的にかんがみれば、事業地の周辺地域に居住する住民に対し、違法な事業に起因する騒音,振動等によって……健康又は生活環境に係る著しい被害を受けないという具体的利益を保護しようとするものと解されるところ、……被害の内容,性質,程度等に照らせば、この具体的利益は,一般的公益の中に吸収解消させることが困難なものといわざるを得ない。」

より、

「公益的見地から都市計画施設の整備に関する事業を規制するとともに,騒音,振動等によって健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある個々の住民に対して,そのような被害を受けないという利益を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解するのが相当」

↓よって、

「都市計画事業の事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者として、その取消訴訟における原告適格を有する」

↓ ↓ ↓

本判決は、東京都環境影響評価条例で本件事業にかかわる「関係地域」内に住居する者につき、「事業が実施されることにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受けるおそれのある者」として、原告適格を認めた。

[その後の判例の傾向]

原告適格を柔軟に拡大する下級審裁判例が出現したが、他方で最高裁判決は、競輪の場外車券売場の設置許可取消訴訟(最判H21・10・15)において、「場外車券売場の設置により業務に著しい支障が生じる虞のある、周辺の学校や病院の設置者について原告適格がある」として、可能性を示したものの、施設周辺の住民等の原告適格は否定した。
また、医療法に基づく病院開設許可について周辺の医師・医師会の原告適格を否定したもの(最判H19・10・19)がある。

 近時の裁判例には、9条2項の解釈により原告適格を拡大する一方で、10条1項(「取消訴訟においては、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として取消しを求めることができない。」)により原告の主張を退けるものが見られる。

大阪池判H20・2・14は、風俗営業所(パチンコ店)の営業所拡張変更承認処分の取消訴訟において、当該営業所による騒音等による健康・生活環境に係る被害を直接的に受ける恐れのある周辺住民につき原告適格を肯定しつつ、原告らの主張は10条1項により失当であるとして請求棄却した。

3、団体訴訟

[団体訴訟の形態]

原告適格が緩和されると、地域住民や消費者などが共通の利益(行政法規によって守られる大衆的利益)を主張して、多数人が原告となって行政訴訟を提起することが多くなる。ときには、これら多数人を法律上または事実上代表する団体(自然保護団体、公害被害者を守るの会など)が原告となって共通する(集合的)利益を守るために訴訟を起こすこともある。これがいわゆる団体訴訟である。
①原告適格を広く認めて、あくまで主観訴訟の枠組みの中で裁判的保護を工夫するもの。
(アメリカなど)
②特別の訴訟形式を立法で導入して対応するもの。
(ドイツなど)

[わが国での動向]

団体訴訟を認めるかどうかについては、判例はいぜん消極的である。しかし、現代の行政訴訟は個人的利益擁護のためばかりでなく、社会的集団的利益を公権力に対し主張する手続としても機能すべきである。団体訴訟も一つの集団的紛争解決の技法として消極的に評価されなければならない。団体訴訟の是非は小手先の訴訟技術論のみによってではなく、こうした大局的視点に立って判断されるべき重要な現代的課題である(原田尚彦)。

※団体訴訟についての論争
団体訴訟を支持する論拠としては、①団体訴訟は多数人の集合的利益にかかわる紛争を事実上一挙に解決するのに適しており、訴訟経済にも合致する、②団体は多くの場合、個人よりも訴訟追行能力の面ですぐれている、③各個人としては希薄な利益でも団体訴訟を認めれば多数人に共通する利益が保護されうる等があげられる。

伊場遺跡訴訟(最判H元・6・20)は、こうした見地から、学者・文化人からなる文化財保存団体が史跡の指定解除処分の取消を求めて提起した訴えであったが、裁判所の認めるところとはならなかった。

反対する論拠としては、団体訴訟を認めなくても団体構成員が個人として出訴すれば目的を達成しうる。団体訴訟を認めると、団体が敗訴しても、既判力は団体構成員には及ばないから、同一事項につき再び出訴される恐れがある。

再反論として、取消訴訟は出訴期間の制限があるから心配はない。