論証集~憲法2~私人間効力、公共の福祉、幸福追求権

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私人間効力

直接適用すると、国家の過度の介入を招来し私的自治を害する。
他方、資本主義の高度化に伴い、大企業等の社会的権力による人権侵害の危険が増大している点で、適用の必要性も否定できない。
そこで、一般条項に憲法の趣旨に取り込んで解釈・適用することによって、人権規定を間接的に適用するものと解する。

*三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)[12]
憲法19条や同法14条の規定は、直接私人相互間の関係に適用されるものではないが、私人間における相互の社会的力関係の相違から生ずる事実上の私的支配関係において、右規定の保障する自由や平等に対する具体的な侵害又はそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、場合により、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によって、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で右侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存する。

「公共の福祉」(12、13、22Ⅰ、29Ⅱ)

人権相互の矛盾衝突を調整するための実質的公平の原理

幸福追求権

14条以下の人権規定は憲法制定当時重要だった人権を列挙したに過ぎず、社会の進展に伴い「新しい人権」も13条の幸福追求権の一つとして保障されるべきである。
そして、公権力に対して個人の自由な領域を確保するため、広く一般的行為の自由も保障されると解する。

どぶろく事件(最判平1・12・14)
「自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり、・・・これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法31条、13条に反するものではない」

最判平12・2・29→自己決定権と信仰による輸血拒否
「患者が、輸血を受けることは自己の宗教上の信仰に反するとして、輸血を伴う医療行為を拒否するとの明確な意思を有している場合、このような意思決定をする権利は、人格権の一内容として尊重されなければならない。」
→ その後の時点で意思を直接確かめることができなくなったとしても、従前の輸血拒否の意思は継続していると考えることができる。

プライバシー権

自己に関する情報をコントロールする権利

違憲審査基準
ⅰ 誰が考えてもプライバシーと思われるもの。
ⅱ 一般的にプライバシーと考えられるもの。
ⅲ プライバシーに該当するか判然としないもの。
→ ⅰについて
人格的生存に不可欠なものであり、最も厳格な審査基準によって、合憲性判断をしなければならない。具体的には、①目的が必要不可欠で、②手段が必要最小限度である場合に限り合憲となる。
→ ⅱ・ⅲについて
原則として、「厳格な合理性の基準」が妥当する。具体的には、①目的が重要で、②目的と手段との間に実質的関連性が認められる場合には合憲となる。

ア 最判昭44・12・24→被疑者の写真撮影と肖像権
13条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定しているのであって、これは、国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。
これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。しかしながら、個人の有する右自由も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけでなく、公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受けることは同条の規定に照らして明らかである。そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があるのであるから(警察法2条1項参照)、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容ぼう等が含まれても、これが許容される場合がありうるものといわなければならない。

イ 最判昭56・4・14→前科照会回答とプライバシーの権利
前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益 [7]を有するのであって、市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏えいしてはならないことはいうまでもないところである。前科等の有無が訴訟等の重要な争点となっていて、市区町村長に照会して回答を得るのでなければ他に立証方法がないような場合には、裁判所から前科等の照会を受けた市区町村長は、これに応じて前科等につき回答をすることができるのであり、同様な場合に弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取扱いには格別の慎重さが要求されるものといわなければならない。

ウ 最判平15・9・12→講演会参加者のリストの提出とプライバシー侵害
「本件個人情報(講演会参加学生の学籍番号・氏名・住所・電話番号)は、Y大学が個人識別等を行うための単純な情報であって、その限りにおいては、秘匿されるべき必要性が必ずしも高いものではない。・・・しかし、このような個人情報についても、本人が、自己が欲しない他者にはみだりにこれを開示されたくないと考えることは自然なことであり、そのことへの期待は保護されるべきものであるから、本件個人情報は、Xらのプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。」
→ 秘匿性の低い情報であっても、他人に知られたくないという期待は法的保護に値することを示した。

エ 和歌山カレーライス毒物混入事件(最判平成17・11・10)[時の判例Ⅴ、憲法3]
→ 被告人の容貌と刑事裁判における写真撮影・イラスト等とこれらの週刊誌への掲載
1 人はみだりに自己の容貌、姿態を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有し、ある者の容貌、姿態をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、被撮影者の活動内容、撮影の場所・目的・態様、撮影の必要性等を総合衡量して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍すべき限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである。
2 写真週刊誌のカメラマンが、刑事事件の被疑者の動静を報道する目的で、勾留理由開示手続が行われた法廷において同人の容貌、姿態をその承諾なく撮影した行為は、手錠をされ、腰縄を付けられた状態の同人の容貌、姿態を、裁判所の許可を受けることなく隠し撮りしたものであることなどの判示の事情の下においては、不法行為法上違法である。
3 人は自己の容貌、姿態を描写したイラスト画についてみだりに公表されない人格的利益を有するが、上記イラスト画を公表する行為が社会生活上の受忍限度を超えて不法行為法上違法と評価されるか否かの判断に当たっては、イラスト画はその描写に作者の主観や技術を反映するものであり、公表された場合も、これを前提とした受け取り方をされるという特質が参酌されなければならない。
4 刑事事件の被告人について、法廷において訴訟関係人から資料を見せられている状態及び手振りを交えて話している状態の容貌、姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は、不法行為法上違法であるとはいえない。
5 刑事事件の被告人について、法廷において手錠、腰縄により身体の拘束を受けている状態の容貌、姿態を描いたイラスト画を写真週刊誌に掲載して公表した行為は、不法行為法上違法である。

オ 最判平20・3・6[速判vol.3、憲5] →住基ネットによる個人情報管理・利用とプライバシー
「憲法13条は、国民の私生活上の自由が公権力の行使に対しても保護されるべきこ とを規定しているものであり、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由を有するものと解される。
・・・住基ネットによって管理、利用等される本人確認情報は、氏名、生年月日、性別及び住所からなる4情報に、住民票コード及び変更情報を加えたものにすぎない。このうち4情報は、人が社会生活を営む上で一定の範囲の他者には当然開示されることが予定されている個人識別情報であり、変更情報も、転入、転出等の異動事由、異動年月日及び異動前の本人確認情報にとどまるもので、これらはいずれも、個人の内面にかかわるような秘匿性の高い情報とはいえない。そして、住民票コードは、住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等を目的として、都道府県知事が無作為に指定した数列の中から市町村長が一を選んで各人に割り当てられたものであるから、上記目的に利用される限りにおいては、その秘匿性の程度は本人確認情報と異なるものではない。
また、・・・事実によれば、住基ネットによる本人確認情報の管理、利用等は、法令等の根拠に基づき、住民サービスの向上及び行政事務の効率化という正当な行政目的の範囲内で行われているものということができる。
・・・そうすると、行政機関が住基ネットにより住民である被上告人らの本人確認情報を管理、利用等する行為は、個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表するものということはできず、当該個人がこれに同意していないとしても、憲法13条により保障された上記自由を侵害するものではないと解するのが相当である。」

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