学説判例研究~行政法~ノート~1-10事件

この記事の所要時間: 3032

行政法判例ノート 1~10

1:国民健康保険事業の保険者の地位【最判昭和49年5月30日】

■論点
・国民健康保険事業を実施する地方公共団体である大阪市が、府に設置された国民健康保険審査会の裁決に対して取消訴訟を提起できるか。

■事実の概要
訴外Aから、X(大阪市)に対して転入届に加えて、国民健康保険の被保険者証の交付申請をしたところ、Xは、Aが大阪市内の居住実態がないとして被保険者証の不交付の決定と通知を行った。Aは、この処分に対して、Y(大阪府国民健康保険審査会)に審査請求したところ、YはXの行った処分を取り消して、Aを被保険者とする裁決をなした。Xは、このYの裁決の取消しを求めて出訴した。
1審は、Xの原告適格を認めた上で、Yの裁決を取り消した。2審もこれを支持した。

■判旨
原判決破棄、1審判決取消し、訴え却下。
「国民健康保険事業は、国の社会保険制度の一環をなすものであり、本来、国の責務に属する行政事務であって、市町村又は国民健康保険組合が保険者としてその事業を経営するのは、この国の事務を法の規定に基づいて遂行しているものと解される。」

「その事業主体としての保険者の地位を通常の私保険における保険者の地位と同視して、事業経営による経済的利益を目的とするもの、あるいはそのような経済的関係について固有の利害を有するものとみるのは相当でなく、もっぱら、法の命ずるところにより、国の事務である国民健康保険事業の実施という行政作用を担当する行政主体としての地位に立つものと認めるのが、制度の趣旨に合致するというべきである。」

「国民健康保険事業の運営に関する法の建前と審査会による審査の性質から考えれば、保険者のした保険給付等に関する処分の審査に関する限り、審査会と保険者とは、一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合と同様の関係に立ち、右処分の適否については審査会の裁決に優越的効力が認められ、保険者はこれによって拘束されるべきことが制度上予定されているものとみるべきであって、その裁決により保険者の事業主体としての権利義務に影響が及ぶことを理由として保険者が右裁決を争うことは、法の認めていないところであるといわざるをえない。・・・もし、これに反して、審査会の裁決に対する保険者からの出訴を認めるときは、審査会なる第三者機関を設けて処分の相手方の権利救済をより十分ならしめようとしたことが、かえって通常の行政不服審査の場合よりも権利救済を遅延させる結果をもたらし、制度の目的が没却されることになりかねないのである。」

■解説
・本件の争点は、国民健康保険事業を実施する地方公共団体である大阪市が、府に設置された国民健康保険審査会の裁決に対して取消訴訟を提起できるかどうかである。

・最高裁は、結論として大阪市の出訴権を否定した。理由の骨子は、①保険者としての市町村の地位がもっぱら行政作用を担当する行政主体としてのそれであること、②審査会と保険者とは一般的な上級行政庁とその指揮監督に服する下級行政庁の場合と同様の関係に立つこと、③もし処分庁からの取消訴訟を提起し得るとすれば、手続きの遅延によりかえって通常の行政不服審査の場合よりも相手方の権利救済にもとる結果になること、である。

2:日本鉄道建設公団の地位【最判昭和53年12月8日】

■論点
・本件新幹線の工事の実施計画の認可は、抗告訴訟の対象となる行政処分(行訴法3条2項)にあたるか。行政の内部的行為に過ぎないのではないか。
・特殊法人たる鉄建公団の法的地位、および、その国との関係の法的性質

■事実の概要
日本鉄道建設公団(以下、「鉄建公団」)が、成田新幹線東京・成田空港間工事の実施計画の申請をY(運輸大臣)に対して行い、Yから認可を受けたことについて、成田新幹線の通過予定地内に土地を所有するXらが、本件認可の取り消しを求めた出訴した。
1審は、本件認可は、Yの右公団に対する内部的な行為であって、特定の国民に向けられた具体的な処分とはいえず、また、訴訟事件としてとりあげるに足りるだけの争いの成熟性を欠くとして、Xらの訴えを却下した。控訴審も、本件認可の処分性を否定した。

■判旨
上告棄却。
「本件認可は、いわば上級行政機関としての運輸大臣が下級行政機関としての日本鉄道建設公団に対しその作成した本件工事実施計画の整備計画との整合性等を審査してなす監督手段としての承認の性質を有するもので、行政機関相互の行為と同視すべきものであり、行政行為として外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分にあたらない」

■解説
・本判決においては、特殊法人たる鉄建公団の法的地位、および、その国との関係の法的性質に、焦点が当てられている。

・本判決は、運輸大臣と鉄建公団との関係を、上級行政機関と下級行政機関との関係と同視し、本件認可が行政機関相互の行為であることを決めてとして、その処分性の否定を導いている。本判決は、鉄建公団を行政組織における機関に類する地位に立たしめ、その国との関係を裁判所の介入を受けない行政組織内部の関係として、性格づけていることになる。

・行政機関性の判断基準
本判決が立脚する本件控訴審判決は、鉄建公団が鉄建公団法にもとづき設立された法人であること、国の出資、運輸大臣による役員の任免、運輸大臣の監督等を判断基準として、鉄建公団を「国家行政組織の一環をなすもの」と性格づけている。

3:診療報酬支払事務の委託【最判昭和48年12月20日】

■論点
・社会保険診療報酬支払基金(Y1)および東京都国民健康保険団体連合会(Y2)は、医師に対して直接の支払い義務を負うか否か。
・健康保険法76条5項および国民県央保険法45条5項に基づき、保険者が基金および国民健康保険団体連合会に対して行う、療養の給付に関する費用の審査・支払事務の委託をめぐる法律関係を如何に解すべきか。

■事実の概要
X(原告)は、医師である訴外Aに対し金200万円の債権を有していた。東京地裁は、Xからの申請に基づき、AがY1(社会保険診療報酬支払基金。以下「基金」という)に対して有する診療報酬の債権につき、差押えおよび転付命令を発し、昭和37年7月12日にY1に送達された。
また、同様に、AがY2(東京都国民健康保険団体連合会)に対して有する診療報酬の債権につき、差押えおよび転付命令が、東京地裁より発せられ、昭和36年2月14日にY2に送達された。
Y1およびY2に送達された命令の内容は、Aが診療担当者として第三債務者たるY1に対して有する昭和37年5月1日より同年6月30日までの診療報酬合計102万1842円の債権、およびAが診療担当者として第三債務者たるY2に対して有する昭和35年12月1日から昭和36年1月31日までの診療報酬合計10万1674円の債権につき、差押えならびに転付命令を発するというものであった。これに基づき、Xは、Y1に対し上記金員から源泉徴収税額を控除した金員とその遅延損害金の支払いを求めて出訴した。
ところが、昭和36年12月、Aは、将来支払いを受けるべき昭和36年12月分より翌37年11月分までの診療報酬を訴外B(中央医療信用組合)に対し譲渡し、その旨をY1に対し通知していた。そこでY1は、このような将来発生すべきことが確定している診療報酬の譲渡が将来の債権の譲渡として有効なものであるから、Xの主張する債権差押えおよび転付命令は、当時すでに被転付債権が不存在であったために効力を有さず、Xに対する金員の支払い義務がないと抗弁した。そして、Y2は、診療報酬債権の債務者は保険者であり、Y2は単に保険者から支払事務の委託を受けているに過ぎないものであるから、診療報酬債権に対する強制執行の第三債務者に該当せず、Y2にも金員の支払い義務はない旨を主張した。
1審は、Xの請求を認容したが、2審は、1審判決を取り消して、Xの請求を棄却した。

■判旨
破棄差戻し。
・「社会保険診療報酬支払基金法(以下基金法という)によれば、Y1(基金)は、各種の健康保険について、診療担当者から提出された診療報酬請求書の審査を行うとともに、政府その他の保険者が診療担当者に支払うべき診療報酬の迅速適正な支払いをすることを目的とする法人であり(1条、2条)・・・これらの規定によれば、Y1が保険者等から診療報酬の支払い委託を受ける関係(基金法13条3項参照)は公法上の契約関係であり、かつ、Y1が右委託を受けたときは、診療担当者に対し、その請求にかかる診療報酬につき、自ら審査したところに従い、自己の名において支払いをする法律上の義務を負うものと解するのが相当である。」

・「Y2は、国民健康保険法83条、84条に基づき国民健康保険の保険者を会員として設立された法人であり、・・同法上の保険者となる国民健康保険組合及びY2は、これを公法人と解するのが相当であり、また同法45条5項に基づき保険者とY2との間に審査及び支払いに関して締結される委託契約は公法上の契約であると解せられる。しかも、Y2の有する前記権限はY1の基金法13条に基づく権限と全く類似するから、Y2の権限についても同条の規定を類推適用し、Y2が保険者から審査および支払いの委託を受けたときは、Y1と同様に診療機関に対し直接療養給付等の費用の支払い義務を負うものと解するのが相当である。」

■解説
・本件の争点は、次の2点に集約される。第1に、Y1・Y2がAに対する支払い義務を負うか否か、第2に、本件においてAが行った診療報酬債権の譲渡は将来の債権の譲渡と解されるか否か、である。前者は、健康保険法76条5項および国民健康保険法45条5項に基づいて保険者が基金および国民健康保険団体連合会に対して行う、療養の給付に関する費用の審査・支払事務の委託をめぐる法律関係を如何に解すべきかという問題である。本判決のテーマでる行政の範囲の問題に関わるのは前者であるため、この争点について解説する。

・本件の委託をめぐる法律関係においては、診療担当者たるAが本来の審査支払義務者たる保険者に対し診療報酬請求権を有することはいうまでもない。しかし本件では、その上でさらに診療報酬審査・支払事務を委託されたY1・Y2が保険者と同等の法的地位に立ち、保険者のみならずY1・Y2までもがAに対して直接に支払い義務を負うか否か(すなわち、Y1・Y2が診療報酬債権の強制執行における第三債務者に該当するか否か)が争われた。

・結局、Y1・Y2が「自己の名において支払をする法律上の義務を負う」との解釈によって決着を見た。こうして、委託の法律関係においてY1・Y2はAに対して自ら直接に支払義務を負うとされ、この当然の帰結として、強制執行における第三債務者にも該当すると解される結果となった。

・判例のいう「公法上の契約関係」の意味
保険者とY1・Y2間の委託契約は、基金法、健康保険法および国民健康保険法等の種々の法的規律によって取り巻かれている。この委託契約を「純粋な当事者間の自由な委託契約とするのは、保険者と支払機関の間の法律関係が、実際には、法令等による細かな規律を数多く付従的条項として含む、当事者の自由な合意を許さないことを考えれば無理がある」と判断するに至り、「純粋な当事者間の自由な委託契約」との解釈を排斥しようとするために、この「公法上の契約関係」の概念が用いられたものと見るのが相当であろう。

4:商工会議所への自治体職員派遣【最判平成10年4月24日】

■論点
・市民の税金で雇用され、市民のために働くことが原則である自治体職員を、商工会議所に派遣し、その間の給与の支払いを市が行うことは地方自治法204条および地方公務員法24条、25条等に反する違法な行為に該当するか。

■事実の概要
茅ヶ崎市は、Y2(茅ヶ崎商工会議所)との間で、3年間の派遣期間で、市の職員をY2に派遣する旨の協定を結び、派遣職員は、双方の身分を併有し、派遣職員に対する給与、休暇、懲戒その他の福利厚生については、市の関係規定を適用して市が行うことが取り決められた。
Y1(茅ヶ崎市長)は、常勤職員Aに対して、条例(「本件免除条例」)に基づく、1年間の職務専念義務の免除(以下、「職専免」)を行い、同時に、条例に基づき、市に勤務しないことについての任命権者としての承認も黙示に行った。
Aに対して派遣期間中に支払われた、給与約541万円につき、茅ヶ崎市の住民X(原告)らは、職専免を行いY2に派遣したAに対する本件給与支出が違法であるとし、支出した給与相当額の金員を、Y1に対しては損害賠償請求、Y2に対しては不当利得返還として求める住民訴訟を提起した。
第1審は、本件職専免による長期の派遣は、地公法35条、本件免除条例2条に違反し、本件給与支出は、地自法204条、地公法24条および25条に反する違法な公金支出にあたると判旨した。
第2審は、本件職専免は、Y1の裁量に委ねられており、その裁量権の行使に濫用・逸脱はなく、また、本件給与支出は、違法ではないと判旨した。

■判旨
破棄差戻し。
・「本件派遣職員はその派遣期間中、市自身の事務に従事していないのであるから、本件免除条例に基づく適法な職務専念義務の免除が必要であることはもちろんであるが、これに加えて、市が本件派遣職員に対して給与全額を支給するためには、本件給与条例11条前段に定める勤務しないことについての適法な承認が必要である」

・本件条例は、「職務専念義務の免除や勤務しないことについての承認について明示の要件を定めていないが、処分権者がこれを全く自由に行うことができるというものではなく、職務専念義務の免除が服務の根本基準を定める地方公務員法30条や職務に専念すべき義務を定める同法35条の趣旨に違反したり、勤務しないことについての承認が給与の根本基準を定める同法24条1項の趣旨に違反する場合には、これらは違法になると解すべきである。
そして、本件においては、本件派遣の目的、Y2の性格及び具体的な事業内容並びに派遣職員が従事する職務の内容のほか、派遣期間、派遣人数等諸般の事情を総合考慮した上、本件職務専念義務の免除については、本件派遣のため本件派遣職員を市の事務に従事させないことが、また、本件承認については、これに加えて、市で勤務しない時間につき給与を支給することが、右各条項の趣旨に反しないものといえるかどうかを慎重に検討するのが相当である」として、派遣先での業務内容と、それと市の商工業の振興策との関連性等について、更なる審理の必要があるとして、原審に差し戻した。

■解説
・事件当時、多くの自治体において、職務命令、職専免、休職・退職等の方法により、第三セクター等に自治体職員が派遣され給与支出等が行われていたが、職員派遣に関する法制度は未整備であり、給与支出等の適否についても下級審裁判所の判断が分かれていた。本判決は、職専免による自治体職員派遣についての一般的・抽象的判断基準を示したところに意義がある。

・本判決後、派遣職員の身分取り扱いや処遇等について統一的なルールを確立する必要から、公益的法人等派遣法が制定された。

5:自治体関連団体による博覧会の開催【最判平成16年7月13日】

■論点
・地方公共団体と外郭団体との間で結ばれた契約について、民法108条の類推適用がされるか。
・地方公共団体と外郭団体との間の契約について、民法116条の類推適用があるか。

■事実の概要
名古屋市は、市制100年の記念行事として、平成元年7月15日から11月26日まで世界デザイン博覧会を開催した。Y4(財団法人世界デザイン協会)の会長にはY1(市長)が、副会長にはY2(助役)が、監事にはY3(収入役)がそれぞれ就任した。しかし、入場者が下回り赤字が予想されたため、デザイン博で使用した諸施設・物件の売却のための契約がY4と市の間で締結された。契約のしかたは、代金額が8000万円以上になると、議会の決済が必要になるため、それを避けるために、50個の契約に分割して売買契約を締結した。
名古屋市の住民であるXは、本件契約は、Y4の赤字隠しのためのものであり、公費の濫費であるとして、地方自治法242条の2・1項4号に基づいて出訴した。
1審は、請求の一部を認容した。原審は、契約の締結の一部に裁量の逸脱・濫用があるとして、Y1・Y4に対してY4の残余財産である2億1000万円の損害賠償責任を認めた。

■判旨
一部破棄自判、一部破棄差戻し、一部上告棄却。
「普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約締結行為であっても、長が相手方を代表または代理することにより、私人間における双方代理行為等による契約と同様に、当該普通地方公共団体の利益が害されるおそれがある場合がある。そうすると、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表して行う契約の締結には、民法108条が類推適用されると解するのが相当である。そして、普通地方公共団体の長が当該普通地方公共団体を代表するとともに相手方を代理ないし代表して契約を締結した場合であっても同法116条が類推適用され、議会が長による上記双方代理行為を追認したときには、同条の類推適用により、議会の意思に沿って本人である普通地方公共団体に法律効果が帰属するものと解するのが相当である。」

「上記事実関係に基づいて考えると、デザイン博は、市の事業として行われたのであって、市は、Y4の設立に際し、Y4に市の基本的な計画の下でデザイン博の具体的な準備及び開催運営を行うことをゆだねたものと解することも可能であり、両者の間には実質的に見て準委任的な関係が存したものと解する余地がある。・・市が、Y4に対し、Y4がデザイン博の準備及び開催運営のために支出した費用のうち、市がY4にゆだねた範囲の事務を処理するために必要なものであって基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれないものを補てんすることは、不合理ではなく、市にその法的義務が存するものと解する余地も否定することができない。そして、上記の点は、本件各契約の締結に裁量権の逸脱、濫用があったか否かを判断する上で、重要な考慮要素となるというべきである。そうすると、デザイン博の準備および開催運営に関する市とY4との関係の実質、Y4が行ったデザイン博の準備及び開催運営の内容並びにこれに関して支出された費用の内訳を検討しなければ、本件各契約の締結について裁量権の逸脱、濫用があったかどうかを判断することはできない」として、更なる審理をさせるために、原審に差し戻した。

■解説
・(1)民法108条の類推適用について
本件のような地方公共団体と外郭団体の間の関係で、民法108条の双方代理禁止規定が類推適用されるのかという問題に関して、両者の関係を規律するために、特別の法理が確立していない現状では民法の類推適用を認めている。

・(2)民法116条の類推適用について
本判決は、116条の類推適用を認め、普通公共団体の議会が長による同法108条に違反する契約締結行為を追認した場合には、当該契約の法律効果が当該普通公共団体に帰属するとした。

・(3)本件各契約の締結に関する市長等の裁量権の逸脱・濫用
市とY4の関係について、「実質的にみて準委任的な関係が存したものと解する余地がある」としたうえで、本件各契約に裁量権の逸脱・濫用があったかを判断する要素として、市とY4の関係の実質、協会の準備・開催運営の内容、費用の内訳などを指摘し、判断をやり直すために高裁に差し戻している。
なお、差戻審判決(名古屋高判平成17.10.26)は、「名古屋市と控訴人協会との間に、実質的に見て準委任的な関係があり」、「協会が基本財産と入場料収入等だけでは賄いきれない費用については名古屋市において負担すべき義務があったものと解するのが相当である」、契約の締結において、裁量権の逸脱・濫用があったとは認められないとして損害賠償請求を棄却し、再上告も棄却、不受理決定がなされた。

6:指摘確認検査機関による確認事務の帰属【最判平成17年6月24日】

■論点
・指定確認検査機関(私人)が行った建築確認の取消訴訟の係属中に、行訴法21条1項に基づき、当該取消訴訟を市に対する損害賠償請求に変更することは許されるか。

■事実の概要
周辺住民が指定確認検査機関(本件会社)による建築確認の取消訴訟を提起した。しかし、訴訟継続中に建物が完成し検査が完了してしまったため(訴えの利益の消滅)、住民は、Y市(抗告人)に対する国家賠償請求訴訟に変更することの許可を申し立てた。原々決定はこれを認め、原決定もY市の即時抗告を棄却した。
原々審は訴え変更の許可を認め、原審もY市の即時抗告を棄却した。

■決定要旨
本件抗告を棄却する。
「建築基準法の定めからすると、同法は、建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについての確認に関する事務を地方公共団体の事務とする前提に立った上で、指定確認検査機関をして、上記の確認に関する事務を特定行政庁の監督下において行わせることとしたということができる。そうすると、指摘確認検査機関による確認に関する事務は・・・地方公共団体の事務であり、その事務の帰属する行政主体は・・地方公共団体である。」

「したがって、指定確認検査機関の確認に係る建築物について確認をする権限を有する建築主事が置かれた地方公共団体は・・・行政事件訴訟法21条1項所定の『当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体』にあたるというべきであって、抗告人は、本件確認に係る事務の帰属する公共団体に当たる」。「また、本件会社は本件確認を抗告人(Y市)の長である特定行政庁の監督下において行ったものであること、その他本件の事情の下においては、本件確認の取消請求を抗告人(Y市)に対する損害賠償請求に変更することが相当である。」

■解説
・争点である行訴法21条1項の趣旨は、処分等の取消訴訟を損害賠償等の訴訟に変更して、訴訟資料を継続利用されることにある。訴えの変更が相当であり、請求の基礎に変更がない場合、裁判所がこれを許すのである。しかし、指定確認検査機関(私人)が処分庁である場合(行訴法11条2項で被告適格あり)、行訴法21条により地方公共団体に対する損害賠償請求に変更されるとなると、新旧被告の実質的な同一性はなく、訴えの変更が相当か問題となる。また、変更を認めると、新被告(地方公共団体)の訴訟活動に支障が生ずるおそれがある。

・「公共団体」の決め方には2つあり、「公権力の行使を担う公務員に対して指揮監督権を有する機関が組織法上所属する団体とする考え方」と、「その事務がほんらい帰属する団体を指すという考え方」がある。最判平成19.1.25は、後者をとったが、本決定も同じ決め方といえる。私人の公共団体該当性について、立て続けに最高裁は消極的判断を示したのである。

・なお、行政から相当程度独立して自己の名で公権力を行使している者が「公共団体」(国賠法1条)と解される例として、弁護士会がある。

7:公務員の勤務関係【最判昭和49年7月19日】

■論点
・公務員が、任用されて離職するまでの間、国や自治体との間で形成される権利義務関係は、公法関係、私法関係のいずれに属するか。

■事実の概要
現業一般職国家公務員たる郵政職員であるXらは、労働組合員であったが、局舎内への不法侵入・団体交渉の強要等の非違行為(法に反する行為)を理由として、国公法82条に基づき、Y(郵政局長)によって、懲戒停職処分に処せられた。
これに対して、Xらは、国公法82条の定める非違行為は存在せず、本件処分は不当労働行為に該当し違法であると主張し、それを理由とする取消訴訟を提起した。
Yは、これに対して、本件処分は国公法82条に基づき行った懲戒処分であるから、当該処分については、まず人事院に対し審査請求を提起し、その裁決を経た上で取消訴訟を提起すべきである(国公90条・89条1項・92条2項)ところ、Xらは、法定期限内に審査請求をしていないのであるから本訴は不適法であり却下されるべきであると主張した。
原審は、Xらが不当労働行為を懲戒処分の取り消し事由として主張している本件訴訟においては、国公法92条の2の適用はないとして、第1審判決を取り消した。

■判旨
上告棄却
「現業公務員は、一般職の国家公務員・・として、国の行政機関に勤務するものであり、国公法及びそれに基づく人事院規則の詳細な規定がほぼ全面的に適用されている・・などの点に鑑みると、その勤務関係は、基本的には、公法的規律に服する公法上の関係であるといわざるをえない。」

「(現業公務員の)勤務関係は、国公法が全面的に適用されるいわゆる非現業の国家公務員のそれとは異なり、ある程度当事者の自治に委ねられている面があるということができる。しかし、右の面も、結局は国公法および人事院規則による強い制約のもとにあるから、これをもって、現業公務員の勤務関係が基本的に公法上の関係であることを否定することはできない。」

■解説
・本件判決は、国公法およびそれに基づく人事院規則の詳細な規定がほぼ全面的に適用される現業公務員の勤務関係は、基本的に「公法上の関係」であるとする。この点で、(最高裁は)、国公法上の勤務関係説(※)に近い考え方を採っているといえる。ただ、現業の国家公務員に関しては、労働協約締結権が認められ(公労法8条)、国公法の適用が一部除外されるとともに、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法等の適用がある(同法40条1項)点に着目して、国公法が全面適用される非現業の公務員の勤務関係との間に一定の差異が存在することも認めている。最高裁が、現業公務員の勤務関係と非現業公務員のそれとの差異を質的なものとみているか、それとも単に量的に当事者の自治に委ねられている事項の広狭の問題にすぎないとみているかは、本件判決の内容からは明確に判断できない。

※公法上の勤務関係説
・公務員の勤務関係に対して法律・政令・条例等の規制が広く及んでいる現行の公務員法制の実態を踏まえたうえで、公務員関係が権力関係か非権力関係=労働契約関係かという対極的な判断基準ではなく、現行法の趣旨・目的を考慮したうえで公務員の勤務関係の特質を把握すべきであると主張する。

8:建築基準法65条と民法234条【最判平成元年9月19日】

■論点
・民法234条1項と建築基準法65条の関係

■事実の概要
Y(被告)は、その所有地上に、隣接する土地の所有者X(原告)の了解を得ることなく、北側境界線に近接して、鉄筋3階建ての建物の建築に着手した。そこで、Xは、本件建築が234条1項に違反するとして、Yに対し境界線から50cm以内の建物部分の収去を求めて訴えを提起した。
これに対して、Yは、本件建物の敷地である自己の所有地は準防火地域内にあり、本件建物の外壁は耐火構造のものであるから、建築基準法65条により隣地境界線に接して建築することができると抗弁した。
1審は、建築基準法65条の要件に該当する、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、直ちに民法234条1項の適用が排除されるものではないとして、Xの請求を認容した。原審も、控訴を棄却した。

■判旨
原判決破棄、第1審取消し、Xの請求棄却
「建築基準法65条は、防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物について、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる旨規定しているが、これは、同条所定の建築物に限り、その建築については民法234条1項の規定の適用が排除される旨を定めたものと解するのが相当である。けだし、建築基準法65条は、耐火構造の外壁を設けることが防火上望ましいという見地や、防火地域又は準防火地域における土地の合理的な意思効率的な利用を図るという見地に基づき、相隣関係を規律する趣旨で、右各地域内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができることを規定したものとかいすべきであ」る。

■解説
・建基法には、建物の外壁と隣地境界線との距離について直接的に規律する原則的規定はなく、建基法上は、接境建築であっても原則として建築確認を得ることができる。

・さらに、建基法65条は、(準)防火地域における外壁が耐火構造の建物の接境建築を明文で許容している。これに対して、相隣関係を規律する民法234条1項の定めにより、民法上は、接境建築は認められていない。こうした状況のもとで、建基法65条と民法234条1項との関係について、学説および下級審判決で、主に特則説と非特則説とが対立してきた。本判決は、この点に関する初めての最高裁判決である。

・特則説とは、建基法65条を民法234条1項の特則と解して、相隣者の同意や接境建築を許す慣習(民236条)がなくても、建基法65条所定の要件を充足する限り、民法234条1項の適用を排除して、民法上の接境建築が許されると解する説であり、多数説とされている。・・本判決の多数意見も、民法234条1項は、まだ、日本が耐火外壁の建築物を知らなかった時代の産物であり、建基法65条は、都市や商業地域などにおける土地の合理的・効率的な利用を図るため、その例外を認めた規定であるとして、特則説を採用している。

9:農地買収処分と民法177条【最判昭和28年2月18日】

■論点
・自創法に基づく農地買収処分につき、民法177条の適用があるか。

■事実の概要
X(原告)は、戦前、訴外Aより、農地を買受け、代金支払い・土地引渡しを済ませたが、登記の移転は行われなかった。戦後の農地改革の際、地区農地委員会は、本件土地の所有者は登記簿上の名義人Aであり、かつ、Aは不在地主であると認定して、自作農創設特別措置法(以下、「自創法」)3条1項1号に基づき本件土地の買収計画を定めた。Xは、Y(県農地委員会)の裁決の取消しを求めて出訴した。
訴訟では、本件土地所有権の取得について、登記を有していないXは、第三者である地区農地委員会に対抗できないとするYの判断の適法性が主要な争点となった。
1審・2審はXの請求を認容した。

■判旨
上告棄却
「(自創法に基づく)農地買収処分は、国家が権力的手段を以って農地の強制買い上げを行うものであって、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。したがって、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は、自作法(自創法)による農地買収処分には、その適用を見ないものと解すべきである。されば政府が同法に従って、農地の買収を行うには、単に登記簿の記載に依拠して、登記簿上の農地の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく、真実の農地所有者からこれを買収すべきものである」。

大量的な行政処分である自創法上の農地買収につき、登記簿等の記載に従って買収計画を定めることは、「行政上の事務処理の立場から是認せられるところであるけれども、右買収計画に対して真実の所有者が・・・(自創法所定の異議を述べるときは、農地委員会は事実を審査して)その真実の所有権の所在に従って、買収計画を是正すべきもので」ある。

■解説
・登記簿上の名義人に対し自創法上の農地買収処分(買収計画の樹立)が行われた際に、名義人から農地を買い受けた者が権利主張してきた場合、国は民法177条に基づいて上記主張を排斥することを許されるであろうか。
本判決前、この問題に関する下級審の判決・・学説は様々であった。本判決は、否定説を採用して下級審の対立に終止符を打った。

・本判決は、登記簿上の記載によって買収を進めることを認めつつも、「真実の農地所有者」(自創法上、処分要件の存否を判断するに際し、当該農地の所有者とされるべき者)の異議のある場合に、調査により明らかとなった所有権の所在に従って、処分を是正すべきであると述べた。

10:租税滞納処分と民法177条【最判昭和35年3月31日】

■論点
・租税の強制徴収において、登記簿に基づき滞納者の財産を差し押さえる処分に民法177条の適用はあるか。

■事実の概要
原告Xは、昭和21年、訴外A会社より土地を買受け、代金を支払ったが、所有権移転登記手続きは未了のままだった。Xは、同年、魚津税務署長に対し本件土地を自己の所有とする財産税の申告をし、これを納入している。
その後、租税の滞納を理由に魚津税務署長がA所有の工場内の機械器具を差し押さえた際、土本件土地に関する富山県の徴税令書が送達され、本件土地がなおA名義になっていることを知った。そのため、Aは、工場の機械器具の差押えを解除し、本件土地を差押えるように、魚津税務署長に陳情し、魚津税務署長もこれを認めて、事務を所轄の富山税務署長Y1に引き継いだ。Y1は、本権と地を差押さえ、登記を経由した。そして、翌年、Y1は、Y2を本件土地の競落人とする公売処分を執行して登記手続も完了したため、Xは、①Y1に対して本件公売処分の無効確認を、②Y2に対して本件土地の所有権移転登記の抹消登記手続を求めて出訴した。
1回目の上告審では、「国が登記の欠缺を主張するにつき正当の利益を有する第三者に当たらないというためには、財産税の徴収に関し、原審の認定するような経緯があったということだけでは足りず、・・・所轄税務署長が・・・Xの意に反して・・・本件不動産をXの所有と認定し、あるいは、爾後・・右土地がXの所有であることを前提として徴税を実施する等、Xにおいて本件土地が所轄税務署長からXの所有として取り扱われるべきことをさらに強く期待することがもっともと思われるような特段の事情がなければならない」とし、破棄差戻しの判断を下した。
差戻し後の2審では、Xが敗訴。Xは上告して、差戻判決にいう「特段の事情」が存在する等の主張を行った。

■判旨
差戻し後の2審の判決破棄、Xの請求認容
①Xの財産税申告書は、本件土地が実質はXの所有であることを特記していた。②魚津税務署長は、Xの所有権取得を承認していた。③所有権取得後、Xは、本件土地上の建物を訴外Bに売り渡し、本件土地をBに賃貸した。その際、本件土地の徴税令書がAに送達されないよう、公租公課はBが代納するのでBに隷書を交付してほしい旨、Xが市役所に陳情した結果、Aへの令書をBが受け取り、BはXへの賃料をもって地方税等を代納していた。
「これらの事実・・に着目して考察するときは前上告審判決にいうXにおいて、本件土地が所轄税務署長からXの所有として取り扱われるべきことを強く期待することが、もっともと思われる事情があったものと認めるを相当と考える。」

■解説
・まず、本件訴訟のすべての審級を通じて、裁判所は、租税の強制徴収において、登記簿に基づき滞納者の財産を差し押さえる処分に民法177条の適用のあることを認めている。特に、差戻審は、この点に関する最初の最高裁判決であるので、判旨該当部分を紹介したい。
「滞納者の財産を差押えた国の地位は、あたかも、民事訴訟法上の強制執行における差押債権者の地位に類するものであり、租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱いを受ける理由となるものではない。それ故、滞納処分による差押えの関係においても、民法177条の適用がある。」

・本判決に限っていえば、本件の事実関係において、民法177条の第三者に被告行政庁Y1は該当するか否かが、主要な判断事項である。この点につき、民法上、第三者の善意・悪意は問われないが、背信的悪意者は第三者から除外されるとの考え方は通説的見解となっており、差戻審や本判決も、この見解を下敷きにしている。

・本判決は、結論として、本件のY1が登記の欠缺を主張するにつき正当な利益をもつ第三者に該当しないことを認めた。学説は、公権力の主体の行為に対し一般私人より強く信義則の遵守を求めたものとして、本判決を高く評価している。