学説判例研究~行政法~レジュメ~取消訴訟の判決の効力

この記事の所要時間: 119

行政法~レジュメ

取消訴訟の判決の効力


判決の種類

  1. 却下判決 …訴訟要件を満たさず不適法であるとして訴訟の入り口で門前払いとなるもの
  2. 認容判決 …原告の請求を理由ありとして、処分・裁決の全部または一部を取り消すもの
  3. 棄却判決 …原告の請求を理由なしとして、退けるもの
  4. 事情判決 …争われている処分・裁決が違法であって取り消すべきであるにもかかわらず、公の利益に著しい障害をもたらす場合に、請求棄却とするもの(31条)

事情判決

公共の福祉を理由とする請求棄却判決である。原告の権利保護への配慮が欠如しているとの批判がある。

[代表例]
・最判昭和33・7・25百選Ⅱ204 事件
土地改良区の設立認可処分の取消訴訟に事情判決を適用
・最判平成4・1・24百選Ⅱ182 事件
土地改良事業の施行認可処分の取消訴訟 (→原状回復が社会通念上不可能になっても訴えの利益は失われず、事情判決によって対応すべし)
・最判昭和51・4・14百選Ⅱ214 事件
公職選挙法上の選挙訴訟に、「一般的な法の基本原則」として事情判決を適用(←批判:公職選挙法219 条の明文の規定を無視)

※法律による行政の原理とは
行政に対して国会で定めた一般的なルール(法律)を根拠になされることを要求する原理(実質的法治主義)であり、具体的には次の点。
・法律の優位の原則(行政活動は、現に存在する法律に違反して行ってはならない)
→憲 41 条。
・法律の留保の原則(行政活動には、法律の根拠を要する)
→憲 41 条、30 条・84 条(租税法律主義)は 41 条を具体化。
・法律の法規創造力の原則(行政は法律の授権がない限り法規を創造できない)
→憲 41 条。

[事情判決は「法律による行政の原理」に反しないか?]

違法である行政庁の処分が取り消されることは、「法律による行政の原理」(憲法41条等)とこれを担保する裁判を受ける権利(憲法第32条)の要求する原則である。そこで、事情判決はこれに反しないか。→概ね学者は事情判決制度に批判的。

[制度の正当性]

・1項前段で、原告に対する損害賠償・損害の防止の程度・方法等を考慮するよう求めている。
権利保護への配慮 → 和解的解決の可能性)
・1項後段で、主文で違法宣言することを定めている。
適法性コントロールへの配慮

 ⇒ 事情判決制度は、法治主義の例外と捉えて慎重に適用されるべき。

[違法宣言]

「判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない」(31条1項後段)

札幌地判平9・3・27 二風(にぶ)谷(たに)ダム事件
北海道収用委員会(被告)は、国を起業者とする北海道の1級河川沙流川水系二風谷ダム建設工事(本件事業)について収用裁決をした。この収用裁決の対象とされた土地の所有者および相続人Ⅹ(原告)が、事業認定の際にダム建設によるアイヌ民族およびアイヌ文化に対する影響が考慮されておらず、土地収用法20条3号「事業計画が土地の適正かつ合理的な利用に寄与するものであること」という要件を満たしてない違法があり、これに続く本件収用裁決違法であるとして、この取消しを求めた事案。

(昭和61年12月、建設大臣が事業認定を行い(取消訴訟は捏起されず)、平成元年2月、北海道収用委員会が権利取得裁決及び明渡裁決(両裁決をあわせて収用裁決という)を行った。これに対し、Xが審査請求したが、平成5年4月、建設大臣が請求を棄却したため、Ⅹが収用裁決の取消訴訟を捏起した。)

(違法性の承継について)
Xは、収用裁決に対してのみ取消訴訟を提起した。事業認定が違法なら、この違法性が収用裁決に承継されて収用裁決も違法となるというⅩの主張(違法性の承継)を本判決も認めたため、争点の中心は事業認定の違法性の有無となる。

「本件事業認定は違法であり、本件事業認定後の事情によっても右違法が治癒されないから、それに引き続く本件収用裁決は、右違法を継承し、その余について判断するまでもなく、違法である。」
「本件事業認定は土地収用法20条3号に違反し、その違法は本件収用裁決に承継されるというべきである」

(事業認定の違法性の有無)~比較衡量~
「土地収用法20条3号所定の要件は、事業計画の達成によって得られる公共の利益と事業計画により失われる公共ないし私的利益とを比較衡量し、前者が後者に優先すると認められる場合をいう……この判断をするに当たっては行政庁に裁量権が認められるが、行政庁が判断をするに当たり,本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、安易に軽視し、その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず、又は本来考慮に入れ若しくは過大に評価すべきでない事項を過大に評価し、このため判断が左右されたと認められる場合には、裁量判断の方法ないし過程に誤りがあるものとして違法になるものというべき」

「両者の比較衡量を試みる場合は、……後者の利益がB規約〔市民的及び政治的権利に関する国際規約〕27条及び憲法13条で保障される人権であることに鑑み、その制限は必要最小限度においてのみ認められるべきであるとともに、国の行政機関である建設大臣としては、先住少数民族の文化等に影響を及ぼすおそれのある政策の決定及び遂行に当ってはその権利に不当な侵害が起らないようにするため、右利益である先住少数民族の文化等に対し特に十分な配慮をすべき責務を負っている

「建設大臣は、本件事業計画の達成により得られる利益がこれによって失われる利益に優越するかどうかを判断するために必要な調査、研究等の手続を怠り、本来量も重視すべき諸要素,諸価値を不当に軽視ないし無視し、したがって、そのような判断ができないにもかかわらず、アイヌ文化に対する影響を可能な限り少なくする等の対策を講じないまま、安易に前者の利益が後者の利益に優越するものと判断し、結局本件事業認定をしたことになり、土地収用法20条3号において認定庁に与えられた裁量権を逸脱した違法があるというほかはない。」
大阪地判昭57・2・19 近鉄特急料金訴訟 第一審判決
近畿日本鉄道株式会社(近鉄)は、地方鉄道法(鉄道事業法施行により昭和62年廃止)21条の定めるところにより、昭和55年3月8日、特別急行料金改定(値上げ)について、Y(大阪陸運局長一被告・控訴人=被控訴人・被上告人)から認可処分を受けた。そこで、通勤定期乗車券を購入して日常的に近鉄を利用し特急に乗車していたⅩら〔原告・被控訴人=控訴人・上告人)が同認可処分の取消しを求めて取消訴訟を捏起し、また、国に対する損害賠償請求訴訟(以下略)を捏起した。

上記利用形態に着目し、「単なる利用の可能怪があるにすぎない者」とは区別されるとしてⅩらの原告適格を肯定した上で、認可処分を違法と判断。
「本件認可処分は、それをした被告陸運局長が無権限である点で違法である。」
 ↓しかし、
私鉄特急料金の値上げ認可の取消しを利用者が求めた近鉄特急料金訴訟において、値上げ認可を違法と認定しつつ、これを取り消せば「利用者が1日約10万人にものぼる近鉄特急の運行に多大の混乱を惹起するばかりか、特急料金を徴収している他の私鉄……にも影響を及ぼしかねない」ことを主たる理由に事情判決を下した。

最高裁平1・4・13 近鉄特急料金訴訟 上告審判決
原告適格を否定した。
「地方鉄道法(大正8年法律第52号)21条は,地方鉄道における運賃,料金の定め,変更につき監督官庁の認可を受けさせることとしているが,同条に基づく認可処分そのものは,本来,当該地方鉄道の利用者の契約上の地位に直接影響を及ぼすものではなく,このことは,その利用形態のいかんにより差異を生ずるものではない。また,同条の趣旨は,もっぱら公共の利益を確保することにあるのであって,当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することにあるのではなく,他に同条が当該地方鉄道の利用者の個別的な権利利益を保護することを目的として認可権の行使に制約を諌していると解すべき根拠はない。そうすると,たとえⅩらが近畿日本鉄道株式会社の路線の周辺に居住する者であって通勤定期券を購入するなどしたうえ,日常同社が運行している特別急行旅客列車を利用しているとしても,Ⅹらは,本件特別急行料金の改定(変更)の認可処分によって自己の権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者に当たるということができず,右記可処分の取消しを求める原告適格を有しないというべきであるから,本件訴えは不適法である」


既判力

形成力とは、形成判決によって宣言されたとおりの権利・法律関係の変動を生じさせる効力。当事者及び裁判所は、判決で確定した内容と矛盾する主張・判断を後の訴訟で行うことができない(民訴114条)。

[取消判決の主文]
「××の処分を取り消す。」
→取り消された処分は,初めから存在していなかったものとみなされる。
(行政庁の職権取消しなどの行為を要せず,判決の確定によって取消しの効果が生じる)

[取消判決の遡及効]
・民訴では形成判決が常に遡及効を伴うとは限らない。
・取消訴訟では,法律による行政の原理を担保するために、
違法な処分は処分時に遡って取り消されるのが通常。
※職権取消しが遡及効を持つのと同じ理由

最高裁平3・4・26 熊本水俣病認定遅延国賠訴訟 上告審判決
Ⅹら(原告・被控訴人・被上告人)は,昭和47年12月から同52年5月にかけて,公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法(以下「救済法」という)3条1項,またこれを引き継いだ公害健康被害補償法(昭和62年法97号による改正前のもの。以下「補償法」という)4条2項に基づき,水俣病と認定すべき旨の申請を熊本県知事に対して行った。しかし,同52年12月に至っても知事から何らの応答処分もうけなかったため,Ⅹらは,知事の処分遅延により,申請者として焦燥,不安の気持ちを抱くことになり精神的苦痛を被っているとして,この認定業務を委任したYl(国一被告・接訴人・ヰ告人)と費用負担者であるY2(熊本県一被告・控訴人・上告人)に対し,国家賠償法に基づいて慰謝料等の請求をした。なお,本件訴訟に先立って,認定申請に対する不作為の違法を確認する判決が確定している(熊本地判昭和51・12・15判時835号3頁)。


形成力

取消訴訟の結果、当該処分の効力は処分時に遡って消滅する。

[第三者効(対世効)]
範囲が問題となる。(「第三者」とは誰のことか)

<原告と対立関係にある第三者……当然に第三者効が及ぶ>
(例)土地所有者X が収用委員会の行った収用裁決の取消訴訟を提起した場合の起業者Z
→収用裁決が取り消されると,Z は収用裁決の存在を前提とする主張ができない
⇔その代わり,第三者の訴訟参加(22 条),第三者の再審の訴え(34 条)により,自己の権利を防御

<原告と利益を共通にする第三者……争いがある>
(例1)鉄道利用者X が、行政庁の鉄道運賃値上げ認可処分の取消訴訟を提起した場合の別の利用者X’
→認可処分が取り消された場合X’もその判決を援用して値上げがなかったことを主張できるか
(例2)土地区画整理事業の施行地区の土地所有者Xが、事業計画決定の取消訴訟を提起した場合の別の土地所有者X’
→事業計画決定が取り消されると,X の所有地が施行地区から除外されることになるのか,全土地所有者に対して計画が取り消されたことになるのか?

[(利益を共通にする第三者について)説の対立]
絶対的効力説 ⇒ 効力及ぶ(※裁判例:大阪地判昭和57年2月19日(近鉄特急料金訴訟一審))
取消判決が出れば、処分は誰に対しても存在しなかったことになる。
論拠:①行政上の法律関係は画一的に規律する必要がある。
②一般処分の取消訴訟は必然的に代表訴訟的性格がある。

相対的効力説 ⇒ 効力及ばない(※裁判例:東京地決昭和40年4月22日(健康保険医療費値上げ事件))
取消訴訟は原告の個別的利益を保護する訴訟であり、
処分は原告との関係で存在しなかったことになるだけになる。
論拠:①一般処分等に取消判決の絶対的効力を認めるのであれば、訴訟参加していない第三者の権利保護などに手当をする必要があるが法は絶対的効力に対応した手続きを整備していない。
②取消訴訟の目的は、第一義的には訴えを提起した原告の個人的な権利利益の回復にあり、取消判決の絶対的効力まで認めることはできない。

cf.東京地決昭和40年4月22日 健康保険医療費値上げ事件

※取消判決の効力を論ずる前に、処分性や原告適格がネックとなって訴えが却下されることも多い
*最大判平成20・9・10
*最判平成元・4・13 百選Ⅱ171事件(近鉄特急料金訴訟上告審)


拘束力

行政庁は、取消判決の趣旨に従って行動することを義務づけられる。(行訴33条)

反復禁止効
積極的行為義務
処分のやり直し:申請拒否処分の取消(2項)
手続違法を理由とする申請認容処分の取消(3項)