学説判例研究~行政法~レジュメ~公法と私法の関係

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行政法レジュメ

公法と私法の関係

伝統的学説(田中二郎)

「行政法とは行政の組織及び作用並びにその統制に関する国内公法である」(上p69-p83)
公権と私権の違い → 公法領域では私権とは異なる公権の存在が予定されていた
・国家的公権として下命権・強制権・形成権
・個人的公権として自由権・受益権・参政権

公法私法二分論

戦前は、行政裁判所と司法裁判所の二つの訴訟管轄があったので、どちらの裁判所に係属するかどうかを決定するうえで、公法私法二分論の実益があった。しかし戦後、行政裁判所が廃止されたこと、また、日本国憲法76条と裁判所法3条によって、「一切の法律上の争訟」が司法裁判所に属するようになり、公法私法二分論の妥当性が疑われた
伝統的学説(田中)は戦後も有効であるとした
現在の通説は、公法私法二分論を否定する
 →公法の特殊性を強調しすぎるのは実定法の趣旨を見誤らせる

<判例>

最判昭和49年7月19日
現業公務員の勤務関係は「基本的には、公法上の規律に服する公法上の関係である」
最判平成元年6月20日(百里基地訴訟)
  「憲法9条…は、私法的な価値秩序とは本来関係のない優れて公法的な性格を有する規範であるから、私法的な価値秩序において、右規範がそのままの内容で民法90条にいう『公ノ秩序』の内容を形成し、それに反する私法上の行為の効力を一律に否定する法的作用を営むということはな」く、「私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、民法90条にいう『公ノ秩序』の内容の一部を形成する」
 「自衛隊の基地建設を目的ないし動機として締結された本件売買契約が、その私法上の契約としての効力を否定されるような行為であつたとはいえない」
<判例:公法と私法の区別にはふれず個々の法令解釈によっているもの>
最判昭和50年2月25日
「会計法30条が金銭の給付を目的とする国の権利及び国に対する権利につき5年の消滅時効を定めたのは、国の権利義務を早期に決済する必要があるなど行政上の便宜を考慮したことに基づく」。安全配慮義務による損害賠償責任の消滅時効期間は民法167条1項の10年と解すべき
 最判昭和59年12月13日
「公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。」
 最判平成元年9月19日
「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」という建築基準法65条は、「建物を建築するには、境界線から50センチメートル以上の距離を置くべきものとしている民法234条1項の特則を定めたもの」である
最判昭和28年2月18日
「農地買収処分は、国家が権力的手段を以て農地の強制買上を行うものであつて、対等の関係にある私人相互の経済取引を本旨とする民法上の売買とは、その本質を異にするものである。従つて、かかる私経済上の取引の安全を保障するために設けられた民法177条の規定は、自作法による農地買収処分には、その適用を見ないものと解すべきである。されば、政府が同法に従つて、農地の買収を行うには、単に登記簿の記載に依拠して、登記簿上の農地の所有者を相手方として買収処分を行うべきものではなく、真実の農地の所有者から、これを買収すべき。」
最判昭和31年4月24日 
「租税債権がたまたま公法上のものであることは、この関係において、国が一般私法上の債権者より不利益の取扱を受ける理由となるものではない。それ故、滞納処分による差押の関係においても民法177条の適用がある」
<判例:公権に関するもの(私法上の権利との違い→譲渡や相続)>
最判昭和30年10月27日
金の受領を債権者に委任し、債権者が受領した恩給金を債務の弁済にあてると同時に、委任契約を解除するという契約は、実質的に恩給担保であり恩給法の脱法行為として無効(恩給法11条3項は恩給受給権の譲渡・担保・差押を禁止していた)
最判昭和42年5月24日
生活保護法の規定に基づき国から生活保護を受けるのは反射的利益ではなく法的権利であり、「被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であつて、他にこれを譲渡し得ないし、相続の対象ともなり得ないというべきである。」
 
最判昭和53年2月23日
「普通地方公共団体の議会の議員の報酬請求権は、公法上の権利であるが、公法上の権利であつても、それが法律上特定の者に専属する性質のものとされているのではなく、単なる経済的価値として移転性が予定されている場合には、その譲渡性を否定する理由はない。」
「公法領域と私法領域は、その境界線を明確に引くことはできないし、両者のあいだに質的な差異があるとまではいえないとしても、だからといって基幹部分における基本的な特徴を語ることの意義は失われるものではない」(櫻井=橋本10頁)

権力関係

一般権力関係
 通常の公法上の権力関係。国に対する納税者たる国民の地位や、許認可関係
特別権力関係
 公的な目的を達成するために、法律上の原因によって一方(国)が包括的な支配権で他方を支配する関係
<特別権力関係の例> 国公立学校の学生、国家公務員、収監者 (現在の国立大学法人の学生の在学関係は、特別権力関係ではないと解されている。(塩野41頁)
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特別権力関係のもとの、規律保持を目的とした懲罰や懲戒については、司法審査を認めるべきではないとされた
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しかし、現在の通説は、特別権力関係の存在に否定
<判例:大学の在学関係>
最判昭和29年7月30日
「学生の行為に対し、懲戒処分を発動するかどうか、懲戒処分のうちいずれの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基かないと認められる場合であるか、もしくは社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者に任された裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、懲戒権者の裁量に任されているものと解するのが相当である。」
最判昭和52年3月15日
「一般市民社会の中にあつてこれとは別個に自律的な法規範を有する特殊な部分社会における法律上の係争のごときは、それが一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、その自主的、自律的な解決に委ねるのを適当とし、裁判所の司法審査の対象にはならない」。「大学は、国公立であると私立であるとを問わず……、一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成している」。「単位授与(認定)行為は、他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであつて、裁判所の司法審査の対象にはならない」。
→最高裁は、大学の在学関係について、特殊な部分社会としている。(特別権力関係とは言っていない)
 <判例:議会による議員の懲罰>
最高裁昭和35年10月19日
裁判所法3条の「一切の法律上の争訟とはあらゆる法律上の係争という意味ではない。」法律上の係争の中には「その中には事柄の特質上司法裁判権の対象の外におくを相当とするものがあるのである。けだし、自律的な法規範をもつ社会ないしは団体に在つては、当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せ、必ずしも、裁判にまつを適当としないものがあるからである。本件における出席停止の如き懲罰はまさにそれに該当するものと解するを相当とする。」

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