論証集~刑法各論~公務執行妨害罪

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公務執行妨害罪

公務の範囲

1 「職務」の範囲
私企業的・現業的公務は「職務」にあたるか。
この点、公務に業務妨害罪と公務執行妨害罪の二重の保護を与えるべきではないとしてこれに反対する見解もある。
しかし、公務は公共の福祉に奉仕するものとしてより厚く保護されても不当とまではいえないし、文理上そのような制限もない。
よって、「職務」に当たると解する

本罪にいう「職務」とは、広く公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれるとするが、単純な機械的、肉体的労務は除かれる。

2 「職務を執行するにあたり」の意義
「職務を執行するにあたり」(95Ⅰ)の意義が問題となる。
思うに、公務執行妨害罪の保護法益は公務の円滑な執行にある。
とすれば、かかる法益保護の観点から「職務を執行するにあたり」とは現実に職務の執行中である場合および職務と時間的に接着し一体的関係にある行為をいうと解する(判例)。

職務行為の適法性

1 「職務」の適法性の要否
「職務」(95Ⅰ)は適法であることを要するか。
この点、不適法な公務は刑法的保護に値しない。
よって、「職務」の適法性は書かれざる構成要件要素として当然に必要と解する(判例)。
そして、適法な職務といえるには①当該公務員の一般的抽象的職務権限に属し、②当該公務員が具体的職務権限を有し、③公務としての有効要件である法律上の手続・要件の重要部分を履践していること、が必要と解する。

2 職務の適法性の判断基準
職務の適法性が構成要件要素であるとして、かかる適法性をいかに判断すべきか。
この点、公務員の主観を基準に判断すべきとする見解がある。
しかし、これでほとんどの公務が適法となり、客観的に不適法な公務に対する人権保障が図れない。
他方で、裁判時を基準に、裁判所が事後的・客観的に判断すべきとする見解がある。
しかし、これでは誤認逮捕において刑事訴訟法上は要件を充足し適法であるにもかかわらず、刑法上は不適法となり反撃行為を罰することができなくなり、ひいては公務の円滑な執行を害する。
職務執行時に適法であれば公務の要保護性は認められるから、行為時を基準に、裁判所が客観的に適法性を判断すべきと解する(判例)。

3 職務の適法性の錯誤
二分説(有力説)
職務の執行が適法であるにも関わらず、これを違法であると誤信して妨害した場合、故意は阻却されるか。
思うに、公務の保護と公務対象者の権利保護との適切なバランスを図るべく、職務の適法性を基礎づける事実を誤認している場合には、事実の錯誤とし、前提事実の認識に欠けるところはなく、単にその評価を誤認している場合には法律の錯誤として処理すべきである。

<二分説からの帰結>
二分説によれば、行為者が、事実を正しく認識しつつも、法令の不知・誤解にもとづき、公務員の行う職務執行を違法なものとして誤信してこれを妨害したというケースでは、法律の錯誤の事例であり、原則として故意が阻却されない。
例えば、緊急逮捕の要件を充足する逮捕行為が行われた際に、行為者が、緊急逮捕のことを知らず、逮捕状のない逮捕はおよそ違法だと思いこんで、これを妨害したという場合が1例である。
これに対し、行為者が、警察官の呈示した逮捕状を偽造文書だと信じ込み、その結果、逮捕を違法だと考えて抵抗したという場合であれば、それは事実の錯誤であり、故意は阻却されよう。

暴行の程度

「暴行」(95Ⅰ)の程度が問題となる。
思うに、公務執行妨害罪の保護法益は公務の円滑な執行にある。
とすれば、暴行も公務の円滑な執行を妨げ得る程度であればよいといえる。
そこで、「暴行」には、直接公務員の身体に向けられる直接暴行のみならず、公務員の身体に物理的に影響を与える間接暴行も含むと解する(判例)

他罪との関係

本罪の保護法益は公務であるから、罪数も妨害された公務の数によって決定される。手段たる暴行・脅迫は別罪を構成せず吸収されるが、傷害罪・恐喝罪・強盗罪・殺人罪等が成立する場合には観念的競合となる。

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