論証集~会社法~会社分割

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会社分割

意義
(1) 新設分割
会社分割により営業を承継する会社が分割により新しく設立される会社(新設会社)である場合のこと。
(2) 吸収分割
会社分割により営業を承継する会社がすでに存在する他の会社(承継会社)である場合のこと。

債権者を害するおそれがない場合の提訴権の有無

条文上、行為によって害されるおそれのある債権者であったか否かによって原告適格の有無を区別していない。
実質的にみても、会社が債権者を害するおそれがないと判断して、手続を進め、効力発生日が到来した場合には、債権者としては、救済手続として無効の訴えを提起することに頼らざるを得ず、これを認めなければ債権者にとって不利な結果となる。
よって、実体的にみると債権者を害するおそれがない場合にも、必要な個別催告を受けなかった者は、828条2項9号の「承認をしなかった債権者」に準ずるものとして無効の訴えの提訴権を有すると解する。

新設分割の債権者保護手続の趣旨

810条1項2号が分割会社に対して履行を請求できない債権者に異議手続を認めた趣旨は、実質的には、免責的債務引受ないし債務者の交替による更改(民法514条)にあたり、債権回収リスクが増大し、債権者を害する可能性が高いから、これを保護する点にある。
他方、分割会社に履行を請求できる債権者については、分割会社が分割の対価を得ているはずであり、その財産状態は維持されるため、当該債権者を害するおそれはない。それ故、債権者異議手続の対象とならない。
もっとも、810条1項2号第2括弧書きにおいて全ての債権者に債権者異議手続を認めたのは、この場合、分配可能額による制約が課されず(812条)、新設分割会社の財産が減少するので、債務の履行を請求できる債権者を害する可能性があるからである。

知れている債権者の意義
「知れている債権者」は、金銭債権を会社に対して有している者であることを前提としている
∵「弁済」等をすることができなければならない。

①債権者が誰か
②債権の発生原因
③債権の内容(弁済期・額)
おおよそわかっていることをいう。

会社と債権者で債権の存否について訴訟が継続している場合、その債権者は「知れている債権者」といえる。(判例)
∵訴訟の相手方については、訴状等によって素性が知れている。

無効の訴え(828Ⅰ⑨)

履行の見込みがないことが分割無効原因となるか

(無効原因否定説)
たしかに、改正前商法では事前の開示事由として「債務の履行の見込みのあること」をあげていたので、債務の履行の見込みがあることが実体的な合併の要件だと考えられていた。
しかし、現行の会社法施行規則205条7号では、「債務…の履行の見込みに関する事項」を事前開示事項としているだけであり、ここから債務の履行の見込みがあることが合併の実体的な要件として必要されているとは読み取れない。
よって、「債務の履行の見込み」がないことは、無効原因にはならず、この点を理由としてX社が本件会社分割は無効であると主張することはできない。
そうだとしても、「債務の履行の見込み」がないのに、『債務の履行は確実である』と不実の記載をしていたこと自体が、合併の無効原因となるとして、X社は合併無効を主張できないか。
思うに、「債務…の履行の見込みに関する事項」を事前開示事項とした趣旨は、会社分割は会社の分断による会社財産基盤の弱体化をもたらす危険性がある点で、会社債権者に合併よりも重大な影響を及ぼす可能性が高く、債務の履行の見込みの有無が、会社債権者が合併に異議を述べるか否かを決定する上で重要な事項であるから、これに関して異議を述べる機会を与える点にある[43]。
とすれば、この点に不実の記載がなされた場合、特に、債務の見込みが無いにもかかわらず、見込みがあると偽って記載したような場合には、債権者が、合併に対して異議を述べるか否かを決定する機会を不当に奪うものといえる。
よって、「債務の履行の見込み」がないのに、『債務の履行は確実である』と不実の記載をしていたこと自体が、合併の無効原因となる。

(無効原因肯定説)
確かに、改正前商法では「債務の履行の見込みのあること」が事前の開示事由とされており、これが実体的な合併の要件だと考えられていたのに対して、会社法(会社法施行規則)では「債務の履行の見込みに関する事項」で足りると文言が変更されている。
しかし、当該規定文言の変更は、会社法規定前の登記実務が当該規定文言を理由に分割会社・承継会社・設立会社のいずれかが帳簿上債務超過であると分割の登記を受理しなかった点を改めさせる必要から行われたものである。
とすれば、会社法の下でもいずれかの会社に債務の履行の見込みが無いことが会社分割の実体的な要件であることは変わりがない。
そこで、債務の履行の見込みが無い場合には、合併の実体的な要件を欠くので、これが無効原因となる。

[参考]
名古屋地判平16.10.29
商法374条の2第1項3号には、分割会社が本店に備え置くべき書類として「各会社の負担すべき債務の履行の見込みあること及びその理由を記載したる書面」が挙けられているが、同規定は、形式的にかかる書面の作成、備え置き義務を定めているにとどまらず、分割会社が負っていた債務を分割計画書の記載に従って新設会社が承継する場合においても、分割会社が同債務を負う場合においても、その履行の見込みがない限り、会社分割を行うことができないことを定めているものと解される。
そして、同規定の趣旨が会社債権者の保護にあることからすると、この債務履行の見込みは、分割計画書の作成時点、分割計画書の本店備え置き時点、分割計画書の承認のための株主総会の各時点だけ存すればよいのではなく、会社分割時においてこれが存することを要するものと解するのが相当である。また、債務の履行の見込みは、各会社が負担する個々の債務につき、その弁済期における支払について存在することを要すると解される。

相対的効力を有する会社分割の可否

「債権者の承諾を得ずして会社分割により本契約上の地位を第三者に承継させた場合は、債権者はこれに拘束されない」との特約は有効といえるのかが問題となる。
会社分割は会社法所定の手続を経て行うことにより当然に効力を発生し、会社分割の効力発生自体に債権者の同意は要求されていない。
また、会社法の組織法上の行為においては画一的法律関係を要求すべきであるから、相対効を生じさせるような特約は予定されていない。
よって、無効と解すべき。

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