レポート集~租税論~所得税の歴史的変遷

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租税論レポート

所得税の歴史的変遷

所得税は、正確にいえば個人所得税と法人所得税の両方を指すが、わが国では前者を所得税、後者を法人税と呼んでいる。所得税が初めて創設されたのはイギリスで、1799年にW.ピットがナポレオン戦争の臨時財源として始めた。イギリスの所得税は、この創設当初より分類所得税という特色をもち、不動産所得から勤労所得まで 5 種類に分類し,各種所得別に税率を異にして課税する。現在の主流である総合所得税とは違っていた。

所得税は世界へ広まり、わが国では1887年に創設された。商工業発達に応じた近代税制を目指すとともに、行政費や国防費の財源を確保することが目的であった。この所得税は、課税対象を個人の所得に限定し、1~3%の5段階の単純累進税率を採用し、年300円以上の所得ある者に対して総合課税された。しかし、扶養者数の多少など、個人的事情は考慮されていない点で問題があった。第二次世界大戦後、再び総合所得税に戻され、1950年のシャウプ勧告に基づく改革では、譲渡所得を全額課税し、利子所得の分離課税を廃止するなど、総合課税として徹底された所得税が形成された。

わが国の現行所得税では、次の算定式が用いられる。
[ (総収入-必要経費控除) -所得控除]×税率-税額控除=税額

まず、1 年間にわたる各種所得を集計して総収入を求め、それから必要経費が控除される。税法において所得は、利子,配当,不動産,事業,給与,退職,山林,譲渡,一時,雑の10種類に分けられる。各種所得ごとに収入金額を計算するが,所得の種類による担税力や取得方法の差を考慮して,必要経費と特別控除が差し引かれる。これが総所得となって、ここから所得控除が差し引かれて課税所得が表される。所得控除としては、基礎,配偶者,配偶者特別,扶養,障害者,老年者,寡婦 (寡夫),勤労学生,雑損,医療費,生命保険料,損害保険料,社会保険料,小規模企業共済等掛金,寄付金の15種類がある。その後、5%~40%の6段階に区分された超過累進税率に従う税率が掛けられ、配当,外国税額,住宅取得に伴う税額控除を受けて納税額が確定する仕組となっている。

世界的に近代の税制は所得税が中心となっている。所得税の長所としては次の3点が挙げられる。①他の租税とくらべて資源配分の効率性を攪乱する程度が少ない。②累進税率構造を通じて、所得再配分機能を発揮する。③所得税構造に内在するビルト・イン・スタビライザーの機能によって、経済の安定に寄与する。これらの利点の中でも、所得再配分の機能こそが所得税が存在する意義である。

所得再配分とは、自由経済を尊重する一方で、国家としての福祉を果たすため、弱者を救済しようとする富の不平等是正策である。日本国憲法では第26条において社会権や生存権を保障しており、所得再配分は国家の当然の使命である。また、所得再配分の手法としては、高所得者から低所得者へ所得を移転させる垂直的再分配、同一の所得階層または職種間で稼得能力のある者からない者へと移転させる水平的再分配、現役世代から高齢世代へ移転する「世代間再分配」、老後や病気のときに支給する「時間的再分配」とがある。現行の所得税においては、累進課税を採用していて、高所得者から低所得者へ所得を移転させる機能が強い。

現在の累進課税は、超過累進という方法が、世界的に主流となっていて、わが国でも採用されている。超過累進は、課税標準をいくつかの段階に区分し、各段階に漸次累進する税率を適用して税額を算出し、その合計を納付額とするものである。累進所得税は、高所得者ほど平均税率が増加するので累進的である。この仕組によって、所得再配分の機能が果たされるのである。

しかしながら累進課税にも問題は生じる。第1に、所得税によって人々の労働意欲が薄れてしまう恐れがある。利益が出るほど税額は上がり、事業意欲も低下してしまい、結果として経済全体を沈滞させるとの懸念は強い。近年ではアメリカをはじめとする各国が税率を引き下げ、悪影響を緩和しようとしている。第2に、所得税は1年間の所得に対して掛けられるため、生涯を通じて同じ所得だった人同士であっても、税負担が異なる場合がある点である。公平な租税を目的とする所得税が累進課税の特質により矛盾が生じる。最後に、累進税率はインフレが生じて物価水準が上昇した場合、実質所得が変わらなくとも、所得金額が上昇し、税負担が増加するという点である。この問題を避けるためには、物価水準の変動につれて、つねに税率表を調整することが求められる。

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