学説判例研究~行政法~ノート~11-15事件

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行政判例ノート 11~15

11:自治体の金員借入れと表見代理
【最判昭和34年7月14日】

■論点
・法令上、借入権限のない村長の金員借入れにより、消費貸借契約は成立するか。
・村長の借入金受領に対して、民法110条の適用はあるか。
・民法110条の「正当な理由」とはいかなる場合に認められるか。

■事実の概要
青森県S村の村議会は、昭和26年4月2日、一般会計の歳入調整のため大蔵省預金部または一般銀行から金250万円以内の借入金をなすことができる旨を決議した。これに基づき、S村村長は、同年5月12日、村議会の決議書抄本を携え、S村上級書記を帯同して、青森県町村吏員恩給組合に赴き、同組合に対してS村の名において金50万円の借り入れを申し入れた。同組合は、これに応諾して、必要な書類を作成し、即時同所において金50万円をS村村長に交付した。ところが、弁済期を過ぎても債務の弁済がなかったため、上記組合の権利義務を承継したX(青森県町村職員恩給組合・原告)が、S村に対して、貸金、利息等の支払いを求めて出訴した。
第1審は、①村の借入金を現実に受領する権限は村の収入役の専権に属するところ、S村収入役において借入金を受領した旨の主張立証がないから、Xの前主組合とS村との間に消費貸借契約は成立していない、②S村村長の借入金受領行為は、民法110条の定める権限踰越の定型的一事例である、③Xの前主組合がS村村長に受領の権限があると信ずるについては正当な理由があった、と判示し、Xの請求を認容した。2審も控訴を棄却した。

■判旨
破棄・差戻し
「普通地方公共団体の現金の出納事務は当該普通地方公共団体の収入役の専権に属し、普通地方公共団体の長においては収入および支出を命令し並びに会計を監督する権限を有するも、現金を出納する権限を有しなかったことは、改正前地方自治法の規定に照らし明らかである。従って前示50万円の金員を前示村長において借受けてその交付を受けたが、同村収入役が右金員を受領したことについては何等主張立証のないこと第1審判決の判示の如くである以上、Yの前主村とXの前主組合との間には右50万円についての消費貸借は成立するに至らなかったものと判断した第1審判決は正当である。」

「普通地方公共団体の長自身が他よりの借入金を現実に受領した場合は、民法110条所定の『代理人がその権限を越えて権限外の行為をなした場合』に該当するものとして、同条の類推適用を認めるのが相当であ」る。

「しかし、前叙の如く村の現金の出納事務は当該村収入役の専権に属し、村長はその権限を有しないことが法令の規定上明らかである以上、第1審判決が、たんに冒頭掲記のような事実を判示しただけで、何ら特殊の事情の存在を判示することなく、たやすく、Xの前主組合は、Yの前主村の村長が前示金員を受領する権限ありと信じたことにつき正当な理由があると判断し民法110条を類推適用してYの前主村の責任を認めたことは失当である。」

■解説
・(本判決では)①村長の借入金受領と消費貸借の成否、②村長の借入金受領と民法110条の適用、③民法110条所定の「正当な理由」の存否、の3つの論点にわたって最高裁の見解が示されている。

・平成18年改正前地方自治法は、現金の出納を含め、普通地方公共団体の会計事務を行う権限を出納長および収入役に与えていた(同法170条1項)。

・故に、当時の法制下では、S村の村長自らが借入金を受領するにとどまったとなれば、いくら村議会の決議があっても、金銭消費貸借は成立しなかったものとみるほかはなかったといえる。下級審および最高裁の判断は正当といえる。なお、平成18年改正により地方自治法は、特別職たる出納長および収入役の制度を廃止し、一般職の会計管理者を置くこととしたが、権限の独立性や代表権等、従前の位置づけに変更はない。

・S村村長の権限行使は、民法上の法定代理の一種と位置付けることができる。そして民法110条は法定代理にも適用ありとするのが判例・通説であり、本件のような場合に、別異に解して代理権踰越についての相手方の誤信を保護する必要性を全くなしとする理由は乏しい。

・本件に民法110条の類推適用を認めるとして、S村村長に借入金受領権限があったとXの前主組合が信ずべき「正当な理由」があったか否かについて、同条の「正当な理由」とは、「無権代理行為のなされた際に存する諸般の事情から客観的に観察して、通常その種取引に立つ者ならば、代理人に代理権があるものと信ずるのがもっともだと思われる」ような事情を指し、すなわち、代理権の不存在についての相手方の善意無過失を意味するのであって、正当理由の有無の判定は、詰まるところ、「地方自治体の財政健全維持と取引の安全との両要請をどのように調和させるか」という性格も帯びる。

・本判決が、村長の無権限が法令の規定上明らかである以上容易には正当な理由があるとは判断しがたいと判示しているのも、また、本件差戻し後の判決(仙台後半昭和37.2.27)が、S村村長自らが認証した村議会の議決書「謄本の提出があったからといって同村長が借入の交渉をする正当な権限を有すると信ずる根拠となることはあっても・・・公法の明文上村長固有の権限外とされる現金収受行為が本件の場合にかぎり・・村長にその権限があるものと信ずるにつき正当の理由となるものではない」と判示しているのも、共に正当とみるべきである。

12:取締法規違反の法律行為
【最判昭和35年3月18日】

■論点
・食品衛生法上の食肉販売業の許可を受けていなかった当事者との間で結ばれた売買契約の成否

■事実の概要
X会社(原告)はY(被告)に食肉を引き渡したが、Yは代金の一部を支払ったのみだったので、残代金および遅延損害金の支払を求めたのが本件である。
Xは、Yが代表取締役を務める訴外A会社と食肉の取引を行っていたが、Aからの代金の支払いが滞っていたので、取引を一時中断していた。その後、Aが自衛隊に食肉を納入するために、Xとの取引の再開を要請したが、訴外Aの支払い能力への危惧等の理由から、取引再開の申出を断った。そこでYは、自己所有の自動車を担保に供し、かつY個人として食肉を買い受けたい旨申し入れ、Xがそれを承諾して売買契約が成立した経緯がある。
第1審はXの請求を認容した。原審において、Xは食肉販売業の許可を受けていないYとの間では、本件売買契約は成立していないと主張したが、Yが食肉販売許可を受けていないとしても単なる行政取締法規にすぎない食品衛生法による許可の有無はYを当事者とする本件売買契約の私法上の効力に何らの消長を及ぼすものではないと判示した。

■判旨
上告棄却
「本件売買契約が食品衛生法による取締の対象に含まれるかどうかはともかくとして同法は単なる取締法規にすぎないものと解するのが相当であるから、Yが食肉販売業の許可を受けていないとしても、右法律により本件取引の効力が否定される理由はない。それ故右許可の有無は本件取引の私法上の効力に消長を及ぼすものではないとした原審の判断は結局正当」である。

■解説
・本件では、行政法上の規制が私法上の効力にどのような影響を及ぼすのかが問題となる。

・ほとんどの(行政)法規について、規定の文言自体からは私法上の効力への影響は明らかではない。したがって、解釈論的な営為によってこの問題に回答することが求められている。

・判例は、無許可・無資格者の行為について、法律が特に厳格な要件で一定の資格に限定して一定の営業を許している場合に、営業の名義を貸与する契約(名板貸し、斤先掘(きんさきぼり))は、無効としているが、本判決をはじめとして、一般に特定の営業を行うことを一定の資格者以外の者が行うことを禁止していたとしても、この禁止に反して行われた取引行為の私法上の効力は原則として有効とするものが多い。例えば、無免許の待合営業、無尽会社の営業区域外の営業、無免許運送業者の運送契約、司法書士法9条に違反してなされた第三者との和解契約など。しかし、弁護士法72条に違反してなされた債権取立委任契約の当事者間での効力を無効とするものもある。

13:統制法規違反の法律行為
【最判昭和30年9月30日】

■論点
・臨時物資需給調整法とそれに基づく加工水産物配給規則(本件統制法令)に違反した売買契約の効力

■事実の概要
昭和24年9月25日、Xは、Yに煮干いわし100貫を代金24万円売渡し、即日引き渡した。Yが代金を支払わないためXがそれを訴求したのが、本件である。
本件売買当時、煮干いわしは、臨時物資需給調整法とそれに基づく加工水産物配給規則により統制されており、公認あるいは登録されている者以外は、煮干いわしの売買を禁止されていた。
1審は、Xの一部勝訴。2審は、Xの請求をすべて棄却した。

■判旨
上告棄却
本件売買当時の臨時物資需給調整法および、それに基づく加工水産物配給規則は、「強行法規であると解される」

■解説
・行政上の禁止規定を、単なる取締規定と強行規定(効力規定)に区別し、後者の違反のみが法律行為の無効をもたらす、と説くのが、今日なお一般的である。
14:独禁法違反の法律行為
【最判昭和52年6月20日】

■論点
・独禁法に反する金銭消費貸借契約の効力

■事実の概要
X(原告)は、ちょうちん等を製造販売する零細な個人企業である。Xは、Y信用組合から、750万円を借り受ける旨の金銭消費貸借契約を締結した際に、借り入れた750万円のうち200万円を定期預金とすること、さらに、本件貸付とは別に400万円の別口貸付を受け、かつ、その借入金を即時に定期預金とすることを条件とした。その結果、YのXへの名目貸付額は1150万円となったが、Xが実際に手にしたのは、444万5850円であった。
Xは、このような契約は、経済的弱者の地位にあるXに対し不当に不利益な取引条件を強制したものであり、公序良俗(民90条)に反し、さらに「優越的地位の濫用」に該当し、独禁法19条に違反する無効な法律行為であるとして、750万円の債務の不存在の確認を求めた。
1審は、本件取引を独禁法違反と認め、契約をすべて無効とした。2審も、本件貸付を独禁法違反とし、一部を除き、Xの請求を棄却した。

■判旨
一部破棄・差戻し
Yの本件貸付は、独禁法19条に違反する。

「独禁法19条に違反した契約の私法上の効力については、その契約が公序良俗に反するとされるような場合は格別として、Xのいうように同条が強行法規であるからとの理由で直ちに無効であると解すべきではない。けだし、独禁法・・20条は、専門的機関である公正取引委員会をして、弾力的な措置をそらしめることによって、同法の目的を達成することを予定しているのであるから、同法上の趣旨に鑑みると、同法19条に違反する・・行為の私法上の効力についてこれを直ちに無効とすることは同法の目的に合致するとはいい難いからである。」

「前記取引条件のゆえに実質金利が利息制限法に違反する結果を生ずるとしても、その違法な結果については後述のように是正されうることを勘案すると」、本件貸付ならびに本件別口貸付、本件定期金預金契約は、いまだ民法90条にいう公序良俗に反するものということはできない。

「しかし、右取引条件のゆえに実質金利が利息制限法1条1項所定の利率を超過する結果を生じ、ひいては遅延損害金の実質的割合も同法4条1項所定の割合を超過する結果を生じている以上、右超過部分は、同法の法意に照らし違法なものとして是正しなければならない」として、本件貸付契約中利率及び遅延損害金の割合に関する約定の一部を無効とした。

■解説
・本判決は、いわゆる即時両建預金の強制を独禁法上の優越的地位の濫用に当たることを明示したという点でも、また、独禁法違反行為の私法上の効力について判断を下したという点でも、初めての最高裁判決である(本解説は後者の点のみを扱う)。

・独禁法違反による無効の類型(判例・学説)
(1)独禁法違反行為を全面的に無効とする「無効説」
(2)公序良俗に反しない限り有効であるとする「有効説」
(3)違反行為の履行前は無効もあり得るが、実行後は当事者間の契約関係は無効だが、「これに基づき既に履行せられたいわば物権的法律関係」は有効であるという相対的ないし制限無効説
(4)規定の趣旨と違反行為の違法性程度、取引の安全等諸般の事情から個別具体的に考えるべきであるという「個別具体的判断説」

・判旨は、独禁法違反行為も「直ちに無効」とはいえないとしか述べていないところから、上記の個別具体的判断説をとったとも読める。しかし、その根拠の1つとして挙げられている公取委の機能という点からは、有効説をとったと理解するのが素直な読み方であろう。

・もっとも、本判決は、利息制限法違反部分は「同法の法意に照らし」無効とした点のみに意味がある。すなわち、独禁法違反行為の私法上の効力という角度から考えなくとも、利息制限法の解釈問題として処理し得るとしたと受け取るべきであるとも考えられる。そうすると、本判決が有効説をとったということも割り引いて考えなくてはならず、本判決の射程距離については、本件事案の特殊性、すなわち、本件はたまたま利息制限法の適用が可能であった両建預金に関するものであるという点に留意すべきであり、最高裁がその他の独禁法違反行為にまで有効説をとるものかは不明である。

・独禁法の各条項のうち、不当な取引制限、私的独占や不公正な取引方法に関しては、判例・学説とも無効とする傾向が固まりつつある。

15:普通保険約款の認可
【最判昭和45年12月24日】

■論点
・保険業法10条の定める主務大臣の認可なしに行われた約款変更に基づく船舶海上保険契約の効力

■事実の概要
昭和30年8月10日、Xは、Y保険会社との間で、Xの所有する船舶5隻に関して、保険金額を1隻500万円とし、補てんの範囲を全損および救助費とする船舶海上保険契約が締結された。その際、使用された船舶海上保険普通約款3条には、保険会社の免責事由が列挙されていた。その第2号に「襲撃、捕獲、拿捕又は抑留(海賊による場合はこれを除く)」との記載があった。しかし、最初からカッコ内の文言には棒線が2本引かれ、抹消されていた。
この約款の変更は、保険業法10条の定める主務大臣の認可なしに行われ、その後も認可を受けることなく、例外なしにこの形の約款によって保険契約が締結されてきた。
昭和31年2月24日、保険対象である5隻の船が海賊行為によって放火沈没させられた。Xが全損を理由に保険金支払いを請求。これに対しYは、本件損害は海賊の襲撃によるので免責事由に該当するとして(カッコ書きの適用はないと主張)、保険金の支払いを拒否した。
1審は、約款の変更について主務大臣の認可を受けていないとしても、契約の私法上の効力には影響がないとして、Xの請求を棄却した。2審は、主務大臣の認可を受けない約款の変更は、効力を生じないとして、Xの請求を認容した。

■判旨
破棄自判
「主務大臣の認可を受けない保険約款の変更は、如何なる種類の保険においても、すべて一律にその効力を有しないものとするのは相当でない。船舶海上保険においては、一般の火災保険や生命保険とは異なり、保険契約者となる者すなわち船舶海上保険を利用する者は、多くは商行為をなすことその他営利的な目的をもって船舶を航海の用に供する者であり、相当程度の営業規模と資力を有する企業者であるのが普通であって、保険業者に比して必ずしも経済的に著しく劣弱な地位にあるとはいえない。このような者については、同種の保険を反復してその各条項を子仔細に検討し、契約の締結にあたっては、自己の合理的な判断と計算に基づいてその内容を定めることが期待され」ている。「保険業者としても・・約款その他の契約内容を一方的に自己の有利にのみ定めることはできないのであって、保険約款の内容を保険業者の定めるところに委ねても、必ずしもその合理性を確保しえないものではない。」

「したがって、(船舶)海上保険についても・・主務大臣の認可を受けないだけでもそれだけでただちに約款が無効とされるものではないというべきである。してみれば船舶海上保険につき、保険業者が普通保険約款を一方的に変更し、変更につき主務大臣の認可を受けないでその約款に基づいて保険契約を締結したとしても、その変更が保険業者の恣意的な目的に出たものでなく、変更された条項が強行法規や公序良俗に違反しあるいは特に不合理なものでない限り、変更後の約款に従った契約もその効力を有すると解するのが相当である。」

■解説
・理論上・講学上の「認可」は、行政庁が第三者の法律行為を補充して、その法律上の効力を完成させる行為と定義される。これは、当事者間の私的合意が、特定の行政目的の実現を妨げないように、私人の法律関係の形成に行政が補完的に介入する法手段である。

・したがって、理論上、認可は行為の効力要件であり、認可を欠く行為は無効となる。これに対して、理論上の許可は法的効力にかかわらない。許可対象となる行為は事実行為であり、許可を得ずにそれを行っても無効とはならない。
理論上の認可の具体例は、農地の権利移転に対する知事の許可(農地3条1項)、銀行の合併に対する内閣総理大臣の認可(銀行30条)、河川占用権の譲渡に関する河川管理者の承認(河34条)等である。

・保険業法には、免許を受けずに行った約款変更の効力に関する規定はない。
保険業の性質と、このような保険業法の規定の総合的な解釈から、一般に、保険業の免許は講学上の「許可」とされている。

・通説は、保険約款の変更許可を講学上の「許可」にすぎないと解する。したがって、通説は、認可を得ずに変更された約款の私法上の効力は、強行法規に違反したり、公序良俗違反がないかぎり否定されないと解する。