レポート集~社会政策~労使関係

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社会政策レポート

労使関係

古くから日本の労使関係は,企業が正規従業員を採用するにあたって,特定の職務を遂行できる能力をもっていることを基準にするのではなく、新規学卒者またはそれに近い若年者を出身学校・人物などを基準に採用し,企業内で養成訓練を行って適職に配置し昇進させる慣行があった。また,企業が勤務している従業員を重過失なく解雇することや,従業員が正当な理由なく転職することは「悪」であるとする考えが存在し,これらに反して解雇,転職が行われた場合には,道徳的な非難、解雇反対・解雇手当要求の労働争議,また、強制貯金の没収や一部支給停止などの制裁が加えられることが当然とされてきた。このような雇用慣行が終身雇用制を生みだすこととなる。

日本の正規従業員は、一般に、企業に定着する以前の若年期と定年時を除いては離職率が低く,勤続年数が長くなった。こうした雇用慣行は,第 1 次世界大戦のころから徐々に制度化されていく。毎年 4 月に新規学卒者を採用する定期採用,企業内における養成訓練施設の設置,定期昇給により長期勤続者を優遇するという目的の年功賃金,自己都合退職者より会社都合退職者(とりわけ定年退職者)に有利な退職金制度など,採用から定年までの雇用保障の制度,会社都合退職の場合の補償の制度が,作りあげられた。

経営上の理由で過剰人員が発生した場合,企業は残業規制,配置転換,一時休業などの方法で可能な限り解雇者を出さないように努め,やむをえずに人員整理を行う場合においても,希望退職者を募集し、それに応じて退職するものには退職金を割増して支払うなどの方法をとり,これらの条件について,労使交渉が行われるという慣行ができてきた。大企業では、企業別組合によって、労働組合と企業の結束を深め、労使協調主義を強める。不十分な国の社会福祉を補う形で手厚い企業内福利厚生制度が作られ、労働者の企業への帰属意識は強まっていった。

しかし、最近では、進行するグローバリゼーションや1990年代後半以降の経済不況によって、長期継続の雇用慣行や年功制は崩壊しつつあるといえる。すなわち、進行するグローバリゼーションによって日本の賃金は国際的に高水準となり、高コスト構造の年功賃金は国際競争の中で不利な条件となった。さらに不況下において、多くの日本企業が経営不振に陥る傾向が見られ、新規採用の削減や人員調整などが頻繁に行われるようになった。こうして、パートや派遣などの非正規職労働が拡大していったのである。

非正規雇用によって企業の低コスト化は成功したが、企業の都合で雇入れと解雇が繰り返され、労使関係を不安定なものにさせた。正規雇用との収入の格差もあり、現在では、こうした雇用の流動化は見直すべきだという声が高まっていて、平成21年度の年次経済財政報告(経済財政白書)では、「賃金、家計所得の格差拡大」の原因を「非正規労働者の増加」としている。現状の正規労働者に対しては年功賃金を適用し、非正規労働者に対しては適用しないとする2元的な賃金体系は問題である。

年功賃金の転換策としては、年俸制を導入する企業も見られる。これは、年間単位で定められた労働者の目標の達成度に応じて評価される賃金体系である。能力主義によって組織内の活性化や生産効率の向上が期待できるが、達成度の明確な評価基準を定めることが困難な業種もあり、日本の企業には普及していないのが現状である。

ところで、終身雇用制が形成される契機となった、戦後や高度経済成長期とは、国内の社会環境は大きく変化している。女性や高齢者の労働人口の比重も増え、労働者の仕事や生活に関する意識やニーズも多様化している。キャリア形成における認識転換が求められているのである。従来、個人のキャリア形成は、長期雇用の関係の下で、会社任せの状況であった。しかし、求められる能力の激変、組織内において自発性が尊重されるようになったことから、個人が自ら主導して、組織や社会のニーズに合ったキャリア形成を図る重要性が増しているといえる。

終身雇用は高コスト構造である年功賃金を生み出すなど、現在の日本の経済事情に適していない。やはり転換策が求められており、実際に転換を図る企業も増えている。今後、ますます進むグローバリゼーションによって、企業はより一層の雇用戦略を採らざるを得ないであろう。

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