論証集~会社法~代表訴訟

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代表訴訟

趣旨・要件・判決効

取締役の責任追求の請求の相手方

株主代表訴訟を提起するためには、まず、会社に対して、当該取締役の責任を追求するよう請求する必要がある(847条1項・3項)。
この際、会社を代表する機関は監査役(386条2項1号)である。

この場合、386条1項の解釈として、多数説は、訴訟行為の前提となる意思決定も監査役に委ねたものと考えている。もっとも、文理を重視して訴訟行為の前提となる意思決定は未だ取締役に留保しているとの見解もある(少数説)。

そこで、株主による請求が「株式会社御中」として監査役ではなく会社に対する請求となっている場合でも、847条1項の提訴請求にあたるかが問題となる。
会社に対して提訴請求する趣旨は、取締役の責任を追求する義務を負う会社に対して、訴訟を提起することの要否及び当否を検討する機会を与える点にある。
そうだとすれば、株式会社宛に届いたとしても、担当部署に回付される仕組みが構築されている場合には、上記趣旨を全うできる。
それ故、かかる場合には、有効な提訴請求というべきである。

請求の趣旨(847条、規則217条1項)の特定の程度

そもそも、株主代表訴訟において、株主が訴訟を提起する前に、原則として、会社の監査役に対して訴えの提起を書面で請求することが要求されている趣旨は、取締役等の責任を追求する訴訟を提起する権能は、本来は会社にあることから、訴訟を提起するかどうか判断する機会を会社に与えるためである。
とすれば、提訴請求を受けた会社としては、より詳しい事実関係につき調査することが可能であるため、多少幅のある記載であっても不都合はない。
また、株主との関係では、会社の方に大量の情報が偏在しており、一般の株主にとっては、取締役等の違法行為の具体的な内容、損害の範囲を正確に知り得ない場合も多いから、幅のある記載を認めないと株主が会社に提訴請求できる場面が限られてしまい、株主の利益を害する。
さらに、文言上も847条1項本文は「書面その他の法務省令で定める方法で」とする
みであり、何らの限定を加えていないにもかかわらず、これを受けた規則217条で「請求の趣旨」を厳密に要求するのは、法律の範囲を逸脱する。
したがって、当該事案の内容、会社が認識している事実等を考慮し、会社において、いかなる事実・事項について責任の追及が求められているのかが判断できる程度に特定されていれば足りると解すべきである。(東京地裁平成8年6月20日)。

追及しうる責任の範囲

損害賠償とは異なる債権の行使についても責任追及訴訟の対象とすることができるか、「責任」の意義が問題となる。
株主代表訴訟の趣旨は、取締役間の馴れ合いによって会社や株主の利益が害されることを防止する点にある。

そして,会社が取締役の責任追及をけ怠するおそれがあるのは,取締役の地位に基づく責任が追及される場合に限られない。

また、株主代表訴訟の対象が取締役の地位に基づく責任に限られるとすると,会社を代表した取締役の責任は株主代表訴訟の対象となるが,同取締役の責任よりも重いというべき貸付けを受けた取締役の取引上の債務についての責任は株主代表訴訟の対象とならないことになり,均衡を欠く。

さらに、取締役は,このような会社との取引によって負担することになった債務についても,会社に対して忠実に履行すべき義務を負うと解されることなどに鑑みると、「取締役の責任」には,取締役の地位に基づく責任のほか,取締役の会社に対する取引債務についての責任も含まれると解する。

もっとも、取引と無関係な会社の所有権に基づく請求、不法行為に基づく請求等については「責任」の範囲に含まれない。

確かに、会社が訴えの提起を怠る可能性が高いという事情は取締役が負う一切の債務に当てはまるものではあるが,「取締役の責任」の追及という代表訴訟の性格や「取締役の責任」という文言が表す意味内容にも照らし、全く無関係な責任を含むと解するのは制度趣旨に沿わないからである。(最高裁H21.3.10参照)

*大阪高判昭54・10・30[74]
「商法267条〔会社法847条〕の規定により、株主が会社のために訴を持って追求することができる『取締役ノ責任』には、取締役が法令又は定款に違反した結果生じた会社に対する損害賠償責任や会社に対する資本充実責任だけでなく、不動産所有権の真正な登記名義の回復義務も含まれると解するのが相当である。けだし、・・・訴提起懈怠の可能性が少なくないことに鑑み、その結果、会社すなわち株主の利益が害されることとなるのを防止してその利益を確保することにあるところ、取締役間の特殊の関係に基づく訴提起懈怠の可能性は、取締役が会社に対し不動産所有権の真正な登記名義の回復義務を負っている場合でも異なるところはないからである。」

提訴請求権の濫用

847条1項但書は、株主ないし第三者の不正な利益を図ること、又は会社に損害を加える目的を想定している。
具体的には、①総会屋が訴訟外で金銭を要求する目的で代表訴訟を提起したような場合、②株主が、株式会社に対して事実無根の名誉毀損的主張をすることにより、株式会社の信用を傷つける目的で代表訴訟を提起した場合、③極めて軽微な違法行為についての嫌がらせのみを目的とする提訴、④会社と意思を通じた申立手数料の節約を図ることを目的とする提訴等である。
もっとも、株主代表訴訟が、内紛・売名、取締役に損害を加える目的・動機で提起されても、直ちに権利濫用とはいえない。なぜなら、純粋に会社の利益のためにこの種の訴訟が提起されることを期待するのは非現実的だからである。

「悪意」(847条8項)の意義

判例:①不当訴訟であるか(不当訴訟要件)

→不当訴訟要件:請求に理由がないこと、具体的には

ⅰ原告の主張自体が失当なこと
ⅱ立証可能性が低いこと
ⅲ被告の抗弁成立の蓋然性が高いこと
を認識しつつ提訴した場合

②不当訴訟の成否とは無関係に、原告に不法不当な利益を得る目的があるか
(不法不当目的要件)

→正当な株主権の行使とは相容れない不法不当な目的で提訴した場合
のいずれかの要件を満たせば「悪意」になる。

会社に課された罰金は代表訴訟の責任の範囲に含まれるか

会社に課された罰金を代表訴訟で取り戻せるのかが問題となる。
確かに、法人が罰金を払ったあとに、取締役に責任追及としてその金額請求したら結局責任全く負わないことになってしまい、刑事罰としての罰金の意義を没却する。それ故、代表訴訟では穴埋めできないとも考えられる。
しかし、条文上、責任の範囲につき制限はない。また、罰金を課せられる原因行為は取締役等の行為によって引き起こされたものである。
したがって、因果関係が認められる限り、罰金であっても責任の範囲に含まれると解する(日本航空電子工業事件、東京地裁H8.6.20参照)

代表訴訟提起後に提訴請求した場合の代表訴訟の帰趨

提訴前置主義の趣旨は、取締役の責任を追求する訴えの訴訟物は、会社の取締役に対する請求権であり、本来、この訴訟物について原告として訴訟を追行する適格を有するのは会社であるから、先ずは会社にその訴訟追行の機会を与えるべきであり、会社がその機会を与えられたにもかかわらず、訴えを提起しないときに初めて、株主に、会社のためにその訴訟を追行する適格を与えるのが相当であるとの考えによるものであると解される。

そして、株主が、会社に対して訴えの提起を請求することなく訴えを提起し、その後に会社に対して同一の訴えの提起を請求した場合には、たとえ会社がその請求に応じて訴えを提起したとしても、その訴えは、二重起訴に当たるものとして却下されるおそれがあるから(民事訴訟法142条)、会社に対し、真に訴えを提起する機会を与えたことにはならない。

したがって、代表訴訟提起後に提訴請求したとしても、提訴前置主義の瑕疵は治癒せず、適法とならない。また、適法に代表訴訟提起後に、提訴請求の内容となっていない主張を追加することもまた、提訴前置主義の趣旨に反し許されないと解する。(東京地裁H4.2.13、大阪高裁H18.6.9参照)

責任追求に関する監査役の裁量権

監査役は、取締役が責任を負うと認められる場合であっても、取締役が無資力であったり、賠償額が少額に過ぎ、勝訴しても会社に利益がない場合には、提訴しなくても任務懈怠にならない。この点につき裁量を認めないと、会社に不当な不利益を及ぼすことになるからである。
また、取締役の責任の一部免除等に対する監査役の同意権(425条3項1号、426条2項、427条3項等)の存在との均衡から、責任追及により取締役を破産させ終任させるよりその地位を継続させた方が会社の将来の利益が大きいとか、取締役の責任追及は会社の信用を害する等の政策的理由に基づく不提訴も許されると解すべきである(規則218条3号)。

退任取締役による従業員引抜と忠実義務違反

退任取締役が従業員を勧誘し、退社させたことは忠実義務違反とならないか。
この点、在任中に退職勧誘した場合当然に忠実義務違反となるとする見解がある。
しかし、取締役在任中の行為とはいえ、自ら教育した子飼いの部下等に退職し自己の計画中の事業に参加するよう勧誘することが当然に忠実義務違反となると解するのは、従業員を会社の財産としかみず、人的関係を無視する見解であり妥当でない。
加えて、実態は共同経営者間の争いの結果会社に残る側と追い出される側の人材分捕り合戦の様相を呈している場合、直ちに忠実義務違反とすることは本質を見誤るものであり妥当でない。
そこで、従業員の引抜行為が忠実義務違反に当たるか否かは、取締役の退任の事情、退職従業員と取締役の関係、人数等会社に与える影響の度合いを総合考慮して不当な態様であるか否かによって判断する。

*退任取締役によって設立された会社に対しては、350条に基づいて損害賠償請求をする余地がある。∵従業員らの引き抜き行為は、従業員らに会社を退職してその後新たに設立した会社に就職するよう求めるもので、設立会社にとっては、従業員の募集行為という代表者の職務の範囲に含まれるといえる。
*取締役でない被用者が引き抜きに関与した場合、被用者は、使用者の正当な利益を労使間の信頼関係に反するような態様で侵害してはならないという雇用契約上(民法623条)の付随義務ないし信義則上の義務を負う。それ故、右義務違反につき債務不履行責任(民法415条)を負うとともに,不法行為責任(民法709条)を負う。

権利義務取締役としての忠実義務、競業避止義務

新たな役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する(346条1項)。よって、後任取締役が選任されていない場合は、退任取締役は忠実義務及び競業避止義務を引き続き負う。
もっとも、右辞任の申出から退任までの間に会社が後任取締役を選任できたものと認められ、後任取締役の早急な選任を要求されながら会社がその努力をせずに放置し取締役としての権利義務を継続させることが実質的に不適当と考えられる等特段の事情がある場合には、会社が前記条項を根拠に退任取締役の忠実義務、競業避止義務を主張することは信義則(民法1条2項)に反し許されず、右義務違反を理由とする損害賠償請求は権利の濫用(民法1条3項)であり認められない(高知地裁平成2年1月23日参照)。

開業準備行為と忠実義務違反

退任取締役がその在職中、営業開始及び設立手続きの準備のために、事務所候補地を選択したり、賃貸人と契約締結の交渉をするなどの開業準備行為を行った場合、忠実義務違反を構成するかが問題となる。

①356条1項1号の類推適用をする説
②総合考慮による356条1項1号の適用をする説

しかし、競業避止義務の外延が不明確になってしまうし、もともとは忠実義務とは別個に規定された定型的な規定であるから、同条は適用ないし類推適用されないと解するべきである。

会社の機会の奪取

会社の機会の奪取が忠実義務違反に当たる否かは会社の規模や種類、取締役の社内的立場等諸般の事情を考慮して判断すべきである。

会社が上場会社か閉鎖型会社か、及び、その取締役の社内的立場等により、その義務の程度は異なると考えられる。
すなわち、上場会社は広く業務展開する能力があり、特に常勤取締役は自己の能力すべてを会社に捧げるべきであるので、個人の資格で得た情報等も会社への提供義務があるといえる。
他方、将来の保障が必ずしもない中小企業の歩道族の取締役にそこまでの会社への忠誠を期待することは困難であるといえ、提供義務は認められない。

退任後の行為と忠実義務、競業避止義務違反

退任後は委任関係が終了するため、これを前提とする忠実義務及び競業避止義務は生じない。
よって、原則として退任取締役の行為は355条、356条1項1号違反とはならない。
もっとも、退任取締役がどのような行為をしても常に損害賠償が否定されるとすれば、あまりにも会社の利益を害する
退任取締役の行った行為が、その時期や態様に照らして、許される自由競争の範囲を超えた不正行為と評価できる場合には、信義則上、忠実義務、競業避止義務を負い、同義務違反行為は違法性を帯び、任務懈怠責任(423条類推適用)、不法行為責任(民法709条)を生じさせると解する。

客観的に返済の見込がない場合の借入れと任務懈怠

客観的に返済の見込がない場合の借入れが会社に対する任務懈怠を構成すると考える場合、何が会社に対する任務懈怠となるかが問題となる。
この点については、①会社債権者の損害拡大を阻止するため取締役には再建可能性・倒産処理等を検討すべき義務が善管注意義務として課されているとする説、②会社の信用を傷つける点に任務懈怠を認める説がある。

経営判断原則

企業の経営に関する判断は不確実かつ流動的で複難多様な諸要素を対象にした専門的、予測的、政策的な判断能力を必要とする総合的判断である。また、企業活動には一定のリスクを伴う。

このような企業活動の中で取締役が萎縮することなく経営に専念するためには、その権限の範囲で裁量権が認められるべきである。

したがって、取締役の業務についての善管注意義務違反又は忠実義務違反の有無の判断に当たっては、取締役によって当該行為がなされた当時における会社の状況及び会社を取り巻く社会、経済、文化等の情勢の下において、当該会社の属する業界における通常の経営者の有すべき知見及び経験を基準として、①前提としての事実の認識に不注意な誤りがなかったか否か及び②その事実に基づく行為の選択決定に不合理な点がなかったか否かという観点から、当該行為をすることが著しく不合理と評価されるか否かによるべきである。

経営判断の適用除外

経営判断原則は、取締役が誠実に経営判断を下したことが前提であるから、取締役が自己の利益を図るような狭義の忠実義務違反の事件には適用されない。

また、取締役が何らかの法令違反行為(裁判所の判断になじむから)をしている場合には経営判断原則は適用されない。というのも、取締役の法令順守義務(355条)は、最低限の規範的要求であるから、具体的法令に違反した場合には、経営判断の合理性が認められないからである。

もっとも、法令違反行為に経営判断原則の適用がないという理論が妥当するのは、経営上の決定が、必ず、あるいはほぼ確実に法令に違反することを認識しながら、あえて法令違反行為に出たような場合である。それ故、法令違反の可能性があることを認識しているにすぎない場合には、なお、その判断に至る前に通常行われるべき情報収集・調査・検討をしていたかを問題にする余地がある。

さらに、監督義務違反のように取締役の不作為が問題となっている場合にも積極的経営判断はしておらず、経営判断原則は適用されない。

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