学説判例研究~行政法~ノート~16-20事件

学説判例研究~行政法~ノート~16-20事件

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行政判例ノート 16~20

16:法律行為の要件たる行政行為の欠缺
【最判昭和36年5月26日】

■論点
・知事の許可を経ないでされた農地売買契約の効力

■事実の概要
Xは、昭和27年10月28日にY1(被告)から農地の所有権および耕作権を農地法3条による県知事からの許可を条件として買い受ける契約を結んだ。Xは、代金の一部を即日支払い、残代金は、所有権移転登記時に支払うこととされた。ところが、Y1は、昭和29年1月9日に県知事の許可を得て、その農地をY2(被告)に売渡し、所有権移転登記手続を行った。そこで、Xは、Y1とY2の農地所有権移転行為の無効の確認と、Y1がXに対して農地の所有権移転登記手続をなすこと等を求めた。
1審は、Xの請求を棄却した。2審で、Xは、「XとY1との間の本件農地売買契約は知事の許可を停止条件とするいわゆる条件付法律行為であ」る、と主張したが、控訴審判決は、農地の所有権移転を目的とする法律行為は都道府県知事の許可を受けない以上全然法律上の効力を生じないものであることは農地法3条4項(現3条7項)の明定するところであり、この場合知事の許可はその法律行為の効力発生要件である、と判示してXの請求を斥け控訴を棄却した。

■判旨
上告棄却
「原判決が、農地の所有権移転を目的とする法律行為は都道府県知事の許可を受けない以上法律上の効力を生じないものであり(農地法3条4項)、この場合知事の許可は右法律行為の効力発生要件であるから、農地の売買契約を締結した当事者が知事の許可を得ることを条件としたとしても、それは法律上当然必要なことを約定したに止まり、売買契約にいわゆる停止条件を付したものということはできないとしたことは正当である。」

■解説
・農地の所有権を移転するには、一定の例外を除き、行政庁(当時は都道府県知事。現在は農業委員会)の許可を受けなければならない。この許可を受けないで農地の売買契約を結んでも、その効力は生ぜず(農3条7項)、また、懲役刑を含む罰則が科される(64条)。この許可は所有権移転行為の成立要件ではなく、効力要件であると解されている。すなわち、農地の売買契約は行政庁の許可を得る以前に締結、成立させることができるが、所有権移転の効力は許可があるまで生じないとされる。したがってこの許可は私法上の法律行為を有効ならしめる補充行為であり、講学上の「認可」に当たる。また、売買契約の成立に基づいて生ずる法的効果のうち、所有権移転以外のもの(主として契約の債権的効果。許可申請に協力する義務等も含まれる)は許可以前に発生することに注意しなければならない。

17:恩給権と担保
【最判昭和30年10月27日】

■論点
・恩給金受領委任担保の効力
・恩給金受領委任契約の解除権の放棄の特約と恩給法11条の関係

■事実の概要
Xは、昭和25年4月7日に、訴外Aに金6万5000円を貸し付け、Y(被告)は、Aの当該債務について連帯保証をした。Aは、本件債務の担保として同人の恩給証書及び恩給金受領の委任状をXに交付した。その後、Xは、Aの債務の完済前に、Aが担保とした恩給証書及び恩給金受領の委任状をAに返還した。以上の事実関係につき、当事者間に争いはない。さらにAがその債務の弁済を怠ったので、Xが連帯保証人たるYにAの債務の弁済を求めたのが本件である。
これに対して、Yは、XがAに恩給証書と委任状を返還したことにより、Yは民法504条により、その保証債務を免れたものであると抗弁した。
1審および2審は、ともにYの抗弁を排し、Yに本件債務の弁済を命じた。2審は、「恩給を受くる権利はこれを担保に供することができないことは恩給法11条の規定によって明らかであるから、右恩給担保は無効といわなければならない。従って該担保が一旦有効に成立したことを前提とするYの右抗弁は理由がない」と判示した。

■判旨
上告棄却
「一般に取引の実際において恩給を担保に供するといえば、債務者たる恩給金受領権者が恩給証書と委任状とを債権者に交付して恩給金の受領を債権者に委任し、同人をしてその受領した恩給金を債務の弁済に充当せしむべきことを約すると同時に、右委任契約の解除権を放棄する特約をなすことによって、実質上恩給受領権自体に質権を設定すると同一の効果を収めることを指称するのであるから、他に特段の事情の認むべきものなき本件においては、・・・前示一般の事例による事実と認むべきに拘らず、原審が恰も恩給を受くる権利そのものに質権を設定したものの如くに解して、Y主張の前示抗弁を排斥したのは失当の誹りを免れないけれども、いわゆる恩給担保の実質的関係が前説示のとおりである以上、その恩給金受領の委任と受領する恩給金による債務の弁済充当についての合意はもとより有効であるが、その委任契約の解除権の放棄を特約することは恩給法11条に対する脱法行為として無効たること勿論であって、債務者は何時でも恩給金受領の委任を解除し恩給証書の返還を請求し得るのであるから、・・民法504条にいわゆる『担保を喪失又は減少したる』場合に該当しないこと明白である。」

■解説
・本件は、国からの恩給を受領する権利を借金の担保とすることが認められるかが争点となった事案についての最高裁判例である。

・恩給とは、一定年限勤務して退職した国の公務員の退職後、本人またはその遺族に対し、国庫または国の指定する団体が給付する一時金または年金である。

・恩給については、本人および遺族の生活保障という社会政策的見地から、恩給法11条が「恩給ヲ受クルノ権利ハ之ヲ譲渡シ又ハ担保ニ供スルコトヲ得ズ」として、但し書きにて例外的に認められる「国民生活金融公庫及別ニ法律ヲ以テ定ムル金融機関ニ担保ニ供スル」場合を除いて、譲渡またはそれを担保に供することが禁止されており(1項)、恩給権の差押も原則として禁止されている(3項)。

・本件では、Aが担保に供した恩給証書と恩給受領の委任状を返還したことが、民法504条所定の担保の喪失・減少に該当するかが主たる争点であるが、その前提として、恩給法による恩給権担保の禁止規定との関係で、戦前から実際上広く行われてきたいわば脱法行為たる恩給担保の効力が問題となった。
1審および2審では、恩給法11条により恩給を受ける権利は担保に供しえないから、X・A間で行われた恩給担保は無効であり、当該恩給担保が一旦有効に成立したことを前提とするYの抗弁は理由がないとされたが、最高裁は、恩給金受領の委任と受領した恩給金による債務の弁済充当にについての合意は有効とした上で、恩給法11条により、当該委任契約の解除権の放棄の特約は許容されないとした。それゆえいつでも恩給金受領の委任を解除し恩給証書の返還を請求しうるのであるから、それは、民法504条にいう「担保を喪失し、又は減少させた」場合に該当しないとしたものである。

・古くから、恩給法11条との関係で、恩給権につき本件事例のような受領委任、債務の弁済充当、債務完済までの委任契約不解除特約が脱法行為に該当するかが問題となった。外観上は、恩給担保金融においては、債務者が恩給証書を債権者に預け自己に代わって恩給を受領させ(受領委任)、それを債務弁済に充てさせる(弁済充当)のみであるから恩給法11条等が禁止する担保設定には該当しないが、委任解除法規特約がなされることにより結果的に受給権を質入れされているのと同一の状態になりその脱法行為該当性が問題となったのである。大審院は、受領委任契約及び弁済充当特約は有効であるが、委任契約の不解除特約は、公序良俗違反または恩給法11条の脱法行為に該当して無効であると判断してきたが、この判断を最高裁として踏襲したのが本件である。

18:生活保護受給権と相続
【最判昭和42年5月24日】

■論点
・生活保護受給権は相続されるか。

■事実の概要
肺結核のため昭和17年から国立岡山療養所で闘病生活を送ってきたXは、生活保護法に基づき医療扶助及び生活扶助(日用品費)を受給していた。昭和31年8月、兄から毎月1500円の仕送りを受けることになったため、福祉事務所長はこれを収入と認定し、日用品費月額600円を廃止し、残額900円を医療費の一部負担額とする旨の保護変更決定を行った。 これを受けてXは、岡山県知事に対する不服申し立てを経て、Y(厚生大臣)に不服を申し立てたが却下する旨の裁決(本件却下裁決)を受けた。そこで、本件の生活保護基準は、健康で文化的な最低限度の生活を維持するには足りず違法である等と主張して、本件裁決の取り消しを求める訴えを提起した。
1審は、Xの請求を認容したが、2審は請求を棄却した。Xは、上告後まもなく死亡し、その養子夫婦X‘・X“が受給権を相続したとして訴訟承継を主張したため、上告審では本案の前提として、本件訴訟の承継の可否が争点となった。本判決はこれを認めず、本件訴訟の終了を宣言した。

■判旨
・多数意見
「生活保護法の規定に基づき要保護者または被保護者が国から生活保護を受けるのは、単なる国の恩恵ないし社会政策の実施に伴う反射的利益ではなく、法的権利であって、保護受給権とも称すべきものと解すべきである。しかし、この権利は、被保護者自身の最低限度の生活を維持するために当該個人に与えられた一身専属の権利であって、他にこれを譲渡しえないし(59条参照)、相続の対象ともなり得ないというべきである。また、被保護者の生存中の扶助ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利についても、医療扶助の場合はもちろんのこと、金銭給付を内容とする生活扶助の場合でも、それは当該被保護者の最低限度の生活の需要を満たすことを目的とするものであって、法の予定する目的以外に流用することを許さないものであるから、当該被保護者の死亡によって当然消滅し、相続の対象となり得ない、と解するのが相当である。また、所論不当利得返還請求権は、保護受給権を前提としてはじめて成立するものであり、その保護受給権が右に述べたように一身専属の権利である以上、相続の対象となり得ないと解するのが相当である。」

■解説
・本判決は、生活保護の受給権が一身専属権であり相続の対象とならない等として訴訟承継を認めず、主文で本件訴訟の終了を宣言した。その上で、生活保護法8条に基づく厚生大臣の保護基準設定行為に広範な裁量を認め、本件基準に浮いてその逸脱または濫用はなく違法でないという意見を付加している。

・生活保護法は、(その法の趣旨として)要保護者の現在の困窮状況に即応して最低生活保障を行うことを目的とする点で、その死亡後は、受給権の相続、さらに一定範囲の遺族の権利承継も一切否定する趣旨であるようにみえる。しかしながら、保護受給権の迅速な実現、行政による給付遅滞の防止という要請を重視するならば、法の予定する目的以外に流用することを許さないという論拠のみで、生存中に受給し得た保護費ですでに遅滞にあるものの給付を求める権利についてまで、要保護者の死亡により例外なく消滅すると結論付けるのは、一面的であるように思われる。

19:公衆浴場経営者の地位
【最判昭和37年1月19日】

■論点
・公衆浴場の適正配置規定に違反する営業許可の効力

■事実の概要
X1、X2は、それぞれ京都市内で公衆浴場を経営している者であるが、京都府知事が訴外Zに与えた営業許可は、条例に規定された適正配置基準に違反するものであるとして、その無効確認を求めて出訴した。すなわち、ZとX1の経営する公衆浴場との最短距離は208mにすぎず、X2の公衆浴場とは250m以上の距離はあるけれども、X1・X2・Z3者の利用圏内の人口数が京都府公衆浴場新設に関する内規にいう2000人を割ることになると主張する。
1審は、原告が法律上の利益を有しないとして、訴えを却下した。2審も1審を支持し、控訴を棄却した。

■判旨
破棄差戻し
「公衆浴場法が許可制を採用し前述のような規定を設けたのは、主として『国民保健及び環境衛生』という公共の福祉の見地から出たものであることはむろんであるが、他面、同時に、無用の競争により経営が不合理化することのないように濫立を防止することが公共の福祉のため必要であるとの見地から、被許可者を濫立による経営の不合理化から守ろうとする意図をも有するものであることは否定し得ないところであって、適正な許可制度の運用によって保護せらるべき業者の営業上の利益は、単なる事実上の反射的利益というにとどまらず公衆浴場法によって保護せられる法的利益と解するを相当とする。」

■解説
・公衆浴場法は、公衆を入浴させる施設を「公衆浴場」(1条1項)と定義し、「業として公衆浴場を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならない」(2条1項)と定める。当該営業許可は、いわゆる警察許可の性質をもつと解されている。警察許可性は、社会公共の秩序維持のために、社会的弊害の発生を未然に予防することを目的としている。警察規制は、専ら公益のために行われるものであるから、当該規制によって享受される利益は、いわゆる事実上の反射的利益として、一般的公益の中に吸収解消されるものであり、個々人に個別的保障される「法律上の利益」(行訴9条・36条)にあたらないと解されている。本件の1審及び控訴審が採る。
しかし、本件において、公衆浴場の適正配置規制は確かに公共の福祉のため必要であるとの見地から定めらえたものであるにせよ、同規制がもたらす公衆浴場業者の営業上の利益は、専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、個々人の個別的利益として保護せられる「法律上の利益」と解するを相当とすると判示された。

20:道路の自由使用
【最判昭和39年1月16日】

■論点
・公有地である道路の利用権とその侵害に対する妨害排除請求権は認められるか。
・また、妨害排除請求権の法的根拠はどのようなものか。

■事実の概要
Xらは、村道をはさんで宅地と耕地との有していたため、Xらの生活及び農業経営は、もっぱら上記村道を通じてなされていた。また、Xらは、村道への出入り口に自費で踏み板を設置したり、道路敷の保護の為に自己の宅地を使って排水溝を開設したりしてきた。ところが、Y(被告)が、上記道路上に槙(まき)を植栽し、石材を堆積したりなどして、Xらのみならず一般住民の通行を不可能ならしめたばかりか、道路上に納屋を建築するなどして道路の機能一切を消滅させた。そこで、XらがYに対し、通行妨害の排除を求めて提訴した。
1審・2審は、Xらが有する通行の自由は、地方公共団体の行政行為に基づく反射的効果にすぎず、その妨害によって直ちに、その第三者に対して妨害排除請求をすることができないとして請求を却下した。

■判旨
破棄差戻し
「地方公共団体の開設している村道に対しては村民各自は他の村民がその道路に対して有する利益ないし自由を侵害しない程度において、自己の生活上必須の行動を自由に行い得べきところの使用の自由権(民法710参照)を有するものと解するを相当とする。勿論、この通行の自由権は公法関係から由来するものであるけれども、各自が日常生活上諸般の権利を行使するについて欠くことのできない要具であるから、これに対しては民法上の保護を与うべきは当然の筋合いである。故に一村民がこの権利を妨害されたときは民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これが排除を求める権利を有することは、また言をまたないところである」が、原判決は、そのような妨害排除請求権をXが有するか否かについて十分に事実関係を審理していないとして、原判決を破棄差戻した。

■解説
・本件は、村道における私人(Y)の通行妨害行為に対して、妨害を受けた私人(Xら)が、妨害行為の排除を求めた事案であり、いわゆる「生活妨害」の差止訴訟である。Xらは、いかなる法的根拠に基づいて、公道におけるYの妨害行為の排除を求めることができるかが問題となる。

・道路、河川、海岸といった公物は、本来一般公衆の使用に供することを目的とする公共施設であるから、何人も他人の共同使用を妨げない限度で、その用法にしたがい、自由に使用することができる。これを「自由使用」または「一般使用」という。この公物の自由使用は、公物が一般公衆の使用に供せられている結果、その「反射的利益」としてこれを享受し得るにとどまり、権利としての使用権が与えられているものではないと考えられている。

・本件1,2審では、Xらの通行の利益を、もっぱら道路管理者との関係における反射的利益としてのみとらえて、その利益享受が第三者によって妨害されたからといって、直ちに妨害排除を請求し得る権利を有するものではないとして請求を棄却した。
これに対して、本判決は、村民各自が村道に対して有する「通行の自由権」を認め、この「通行の自由権」が妨害されたときには、「民法上不法行為の問題の生ずるのは当然であり、この妨害が継続するときは、これが排除を求める権利を有する」として、「通行の自由権」が私法上保護され得ることを示した。

・「通行の自由権」については、公道での通行妨害のみならず、公道と同様に公法的規制の反射的利益として一般公衆の通行が認められる建築基準法上の位置指定道路における通行妨害の事案においても認められるところとなっている。

・通行妨害等の生活妨害の差止めを求める際の法的根拠としては、土地所有権、占有権や通行地役権等の物権に基づいてその妨害の排除を求めることができるとする物権的請求権説、生命・身体・名誉等の人格的利益の侵害が差止請求の根拠になるとする人格権説、民法709条の効果として差止めが認められるとする不法行為責任説に大別される。
物権的請求権説に対しては、そのような権利を有していない者は保護を受けられないこと、人格権説に対しては、実定法上の根拠がなく、人格権の概念自体が曖昧であること、不法行為責任説に対しては、民法709条の効果として金銭賠償が原則とされていること等、それぞれに批判がなされているが、人格権説が判例・学説ともに有力となっている。
本判決も「民法710条参照」としており、人格権を前提にしていると考えられる。

・人格権または人格権的利益とは、民法710条においても保護法益として挙げられている生命、身体、名誉等「主として人格的属性を対象とし、その自由な発展の為に第三者の侵害に対して保護されなければならない諸利益」と説明され、最判昭和61.6.11は、「人格権としての名誉権」に基づく侵害行為の差止めを認めている。

・横浜地判昭和59.12.26は、「現代の社会生活上各種四輪自動車の使用は必須のものといってよい」として、徒歩による通行のみならず、自動車での通行も「通行の自由権」の範囲として認めている。