学説判例研究~行政法~ノート~26-30事件

学説判例研究~行政法~ノート~26-30事件

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行政判例ノート 26~30

26:専決による支出と賠償責任
【最判平成3年12月20日】

■論点
・違法な支出の決済を行った公務員に対する損害賠償において、決済を行った公務員が法令上の決済権限を有していなかった場合、監督者である自治体、あるいは決済を行った公務員個人のいずれが損害賠償責任を負うか。

■事実の概要
大阪府水道企業は、同府下の水道事業等を行うために地方公営企業法に基づいて設置された地方公営企業であり、その業務を執行させるため大阪府に管理者が置かれ、大阪府水道部は、その管理者の権限に属する事務を処理させるために設けられた組織である。
大阪府の住民であるXらは、昭和57年5月31日に水道事業費から会議接待費として各飲食店に対して支出された分(本件支出分)は、会議接待が実在しないのにこれがあったかのように仮装してなされた違法な支出であるとして、地方自治法242条の2・1項4号(平成14年改正前のもの。以下、「旧4号」)に基づき、大阪府に代位して、Yら(当時の大阪府水道企業の管理者、水道部長・次長・総務課長)に対し損害賠償請求を求めた(代位請求住民訴訟)。
1審は、請求を一部認容した。2審は、Y及びX、いずれの控訴を棄却した。

■判旨
①破棄差戻し
「(旧4号)にいう『当該職員』とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味するものである。」

「管理者が(事務処理の範囲を定める)右訓令等により法令上その権限に属する財務会計上の行為を特定の補助職員に専決させることとしている場合においては、当該財務会計上の行為を行う法令上の権限が右補助職員に委譲されるものではないが、内部的には、右権限は専ら右補助職員に委ねられ、右補助職員が常時自らの判断において右行為を行うものとされるのであるから、右補助職員が、専決を任された財務会計上の行為につき違法な専決処理をし、これにより当該普通地方公共団体に損害を与えたときには、右損害は、自らの判断において右行為を行った右補助職員がこれを賠償すべきものであって、管理者は、前記のような右補助職員に対する指揮監督上の帰責事由が認められない限り、右補助職員が専決により行った財務会計上の違法行為につき、損害賠償責任を負うべきいわれはないものというべきだからである。」

②一部破棄自判、一部上告棄却
・「(旧4号)にいう『当該職員』とは、当該訴訟においてその適否が問題とされている財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するとされている者及びこれらの者から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者を広く意味するものであり、およそ右のような権限を有する地位ないし職にあると認められない者を被告として提起された同号所定の『当該職員』に害する損害賠償請求又は不当利得返還請求に係る訴えは、法により特に出訴が認められた住民訴訟の類型に該当しない訴えとして、不適法と解するのが相当である。」

■解説
・本判決は、管理者の権限に属する財務会計上の行為を補助職員が専決により処理した場合において、管理者が賠償責任を負うのは、指揮監督上の義務に違反し、故意または過失により当該補助職員の財務会計上の違法行為を阻止しなかったときに限られる
、というのである。

・したがって、訓令等の事務処理上の明確な定めにより専決を任された補助職員の財務会計上の違法行為によって生じた損害の賠償責任は、自らの判断において当該行為を行った当該補助職員が負うべきことになる。

27:国民健康保険の保険料と租税法律主義
【最大判平成18年3月1日】

■論点
・国民健康保険料徴収は、租税法律主義に制約される性質のものか。

■事実の概要
旭川市国民健康保険の一般被保険者である原告Xが、平成6年度分から平成8年度分の保険料について、条例で保険料率を定めず、これを告示に委任することが、租税法律主義を定める憲法84条またはその趣旨に反するなどとして、被告Y(旭川市)に対して賦課処分の取消しを求めた訴訟。(本件条例は、具体的な保険料率の定めは市長の告示に委任されていて、具体的な保険料率は条例においては規定されておらず、その代わり保険料率の算定方法を定めるのみだった。)
1審は、賦課要件条例主義、賦課要件明確主義に反するとして、本件賦課処分を取消した。2審は、租税法律主義に反するものではないとして、1審判決を取消した。

■判旨
上告棄却。
「国又は地方公共団体が、課税権に基づき、その経費に充てるための資金を調達する目的をもって、特別の給付に対する反対給付としてではなく、一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は、その形式のいかんに関らず、憲法84条に定める租税に当たる」が、市町村が行う国民健康保険の保険料は「被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである。」「旭川市における国民健康保険事業に要する経費から約3分の2は公的資金によって賄われているが、これによって、保険料と保険給付を受け得る地位とのけん連性が断ち切られるものではない。」したがって、「憲法84条の規定が直接に適用されることはない」(国民健康保険税は形式が税である以上憲法84条の規定が適用される)。
しかし、「租税以外の公課であっても、賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては、憲法84条の趣旨が及ぶ」。この判断は「賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどのその規律の在り方については、当該公課の性質、賦課徴収の目的、その強制の度合い等を総合考慮」する。「市町村が国民健康保険の保険料も、憲法84条の趣旨が及ぶが、条例において賦課要件をどの程度明確に定めるべきかは、賦課徴収の度合いのほか、社会保険としての国民健康保険の目的、特質等をも総合考慮して判断する」。

「本件条例は、保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に規定した上で、その算定に必要な費用及び収入の各見込額並びに予定集能率の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を、市長の合理的な選択にゆだねたものであり、また、上記見込額の推計については国民健康保険事業特別会計の予算及び決算の審議を通じて議会による民主的統制が及ぶものということができる」から、本件条例が、「保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で、市長に対し、同基準に基づいて保険料率を決定し、決定した保険料率を告示の方式により公示することを委任したこと」が「憲法84条の趣旨に反するということはできない。」

■解説
本判決のポイントは以下の3点にまとめられる。①憲法84条の適用される租税とは、国または地方公共団体が資金調達目的で、特定の給付に対する反対給付でないものとして課する金銭給付であるとし、国民健康保険料は、保険給付を受けることの反対給付として徴収されており、たとえ事業費の2/3が保険料収入以外で賄われているとしても、保険料と保険給付を受けうる地位とのけん連性が断ち切れることはないと判示。②国民健康保険税は、形式が税である以上、憲法84条が直接適用される。③国・地方公共団体が賦課する租税以外の公課であっても、その性質に応じて法律・条例によって適切な規律がなされるべきであり、賦課徴収の強制等の点で租税に類似する公課には憲法84条の趣旨が及ぶとした。

28:租税関係と信義則
【最判昭和62年10月30日】

■論点
・民法の規定の信義誠実原則が行政上の法律関係に適用されることに争いはないが、租税関係の場面ではどのような場合に適用されるか。

■事実の概要
酒類販売業を営む訴外Aの実弟で養子の原告Xは、昭和29年からAに代わり店を運営していた。Xは昭和46年分から同50年分所得税について、承認を受けないまま自己(X)名義で青色申告を行った。被告Y(税務署長)は、Xにつき青色申告の承認があるかどうかの確認を怠って、X名義の青色申告書を受理すると共に、昭和47年分から同50年分までについては、Xに青色申告用紙を送付し、その申告に係る所得税額を収納し続けた。
しかし、Aの死亡に伴う相続税の調査で、Xにつき青色申告の承認がないことが判明し、Yはこれを白色申告とみなす更正決定と、青色特典分(青色申告は白色申告より税額が有利になる。)につき過小申告加算税の賦課決定を行った。これら処分は信義則に反して違法であるとしてXが出訴した。
1審は、信義則を理由に昭和46年から同49年までの処分を取り消した。2審も原判決を認容した。

■判旨
破棄差戻し。
「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合がある」が、実際に信義側が適用が検討されるのは、「租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合」に限られる。
「特別の事情が存するかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責に帰すべき事由がないかという点の考慮は不可欠のものである」。

「本件更正処分がYのXに対して与えた公的見解の表示に反する処分であるということはできない」ため、「本件更正処分について信義則の法理の適用を考える余地はない」

■解説
・本判決は、「租税法規に適合する課税処分」についても信義則が適用されうることを一般論として認めるとともに、信義側が適用される具体的な要件を示した判決として知られている。
・本判決は、行為要件を厳しく課すことにより、租税法律関係における信義則の適用については慎重さを求め、納税者間の平等や公平を犠牲にしても、なお納税者の信頼を保護しなければ正義に反するという「特別の事情」が必要であるとする。この「特別の事情」が存在しているかどうかの具体的な判断要素として、最高裁は、①税務官庁の公的見解の表示と、②表示に反する課税処分により納税者が経済的不利益を受けたこと、③公的見解の表示への信頼に基づき行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことの三要件を挙げている。

29:工場誘致施策と信頼の保護
【最判昭和56年1月27日】

■論点
・選挙結果による政策変更に伴って生じた損害につき、不法行為責任を導き出せるか。

■事実の概要
昭和45年11月、沖縄のY村(宜野座村・被告)の前村長Aは議会の議決を得た上で、Ⅹ会社(原告)に対し、製紙工場誘致に全面的に協力することを言明した。これをうけてⅩは昭和46年5月、工場建設を決定し、水利権設定の申請に必要なA村長の申請同意書を得た。また同年8月、工場予定地の明渡しのための補償料を支払い、村長も昭和47年10月には工場の機械設備発注に必要な融資を促進するため沖縄振興開発金融公庫に融資の依頼文書を送付している。そして、同年12月までにⅩは機械設備の発注と工場敷地の整地工事を完了した。
しかし、昭和47年の12月に実施された村長選挙において、工場誘致反対派のBが村長に選出され、Bは、Ⅹが提出した本件工場の建築確認申請書を沖縄県の建築主事に送付せず、付近住民の建設反対、社会情勢の変化、さらには工場予定地上流での農業ダム建設計画等を理由として、昭和48年3月に建築確認申請に不同意である旨の通知を行い、Ⅹは工場の建設・操業を断念するに至った。Xは、何らの代償的措置も講じることなく、一方的に協力を拒否することは信義則等に反するものとして民法709条に基づく損害賠償、そして建築確認申請書を送付しなかったことにつき国家賠償法1条正基づく損害賠償を請求した。
1審、2審とも信義則違反を認めず、Xの請求を棄却した。

■判旨
一部破棄差戻し、一部却下。
「地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴って変更されることがあることはもとより当然であって、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。」しかし、「特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴」い、「施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる」場合には、「信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたってはかかる信頼に対して法的保護が与えられ」るべきである。
「施策が変更されることにより、……勧告等に動機づけられて……活動に入った者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び,地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめる」。

本件において、「工場の建設及び操業開始につきYの協力を得られるものと信じ」たものであるから、Yの協力拒否により建設が不可能となり、「Ⅹに多額の積極的損害が生じたとすれば、右協力拒否がやむをえない客観的事情に基づくものであるか、又は右損害を解消せしめるようななんらかの措置が講じられるのでない限り、右協力拒否はⅩに対する違法な加害行為たることを免れず、Yに対しこれと相当因果関係に立つ損害としての桓極的損害の賠償を求めるⅩの請求は正当として認容すべきものといわなければならない。」「やむをえない事情に基づくものであるかどうか、右協力拒否と本件工場の建設ないし操業の不能との因果関係の有無、Ⅹに生じた損害の程度等の点につき更に審理を尽くす必要があると認められるので……原審に差し戻す」。

■解説
・本判決は、国賠法1条によるか民法709条によるか明示していないが、信頼付与行為保護説の考え方に立って、政策変更により損害賠償責任が発生する基準を提示した。信頼付与行為保護説によると、ⅩとYの間には誘致契約というものが存在していなかったとしても、誘致を決定したYが、信頼を与える行為をおこないながら後の政策変更によりⅩの工場建設を断念させたことは、Ⅹの信頼を破壊する信義則違反の違法なものであり、国家賠償法1条による損害賠償が認められるべきである(この構成は、民法709条の不法行為の適用によっても同様の結果が導かれる)。
ほかの考えでは、誘致契約説によると、ⅩとYの間に、明示もしくは黙示の誘致契約ともいうべきものが成立しており、工場の建設・操業を阻止しようとするYの行為は、契約によるⅩへの協力義務に違反するものであり損害賠償責任を免れない。
損失補償説によると、Ⅹの工場建設への協力を拒否する結果となる政策変更は適法であっても、それによってⅩが投下した操業のための準備費用が回収できなくなったことは、行政の適法な行為によって特定の者に特別の犠牲が発生しているものであり,損失補償をもって救済するべきである。
計画担保責任説によると、自治体側からの個別的・具体的な信頼を与える行為がなかったとしても,自治体の政策(計画)を信頼して行動した者が,後の政策変更によって損害を被ったときには計画担保責任として損害賠償責任を負うべき場合があり,本件はその責任を負うべき場合にあたる。

30:国家公務員に対する国の安全配慮義務
【最判昭和50年2月25日】

■論点
・民間企業の労働契約関係においては、契約の規範的解釈により合意がなくても債務者が負うべき義務として使用者の労働者に対する安全配慮義務が認められる(多数説・下級審。後に最判昭和59・4・10で認められた)が、公務員関係においても認められるか。

■事実の概要
昭和40年7月13日、自衛隊員Aは車両整備工場で車両整備中に訴外Bが運転する大型自動車に頭部を轢かれて即死した。Aの両親Ⅹ1・Ⅹ2(原告)は、国家公務員災害補償法15条による補償金約80万円を受領した。Ⅹ1らは、その後4年余り経過した昭和44年7月になって初めて本件事故につきY(国・被告)に対して損害賠償を請求できることを知り、同年10月6日にYを被告として自動車損害賠償保障法3条に基づいて損害賠償を求める訴えを提起した。
1審は、本件訴訟提起時にはすでに不法行為に基づく損害賠償請求権は3年の消滅時効により消滅しているとして、Xらの請求棄却、2審も1審の判断を維持した。

■判旨
破棄差戻し。
国が公務員に対して負う義務は給与支払義務にとどまらず、「国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(以下『安全配慮義務』という。)を負っているものと解すべきである。もとより、右の安全配慮義務の具体的内容は、公務員の職直地位及び安全配慮義務が問題となる当該具体的状況等によって異なるべきもの」である。
「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はな」い。

■解説
・本判決は、従来労働契約関係について唱えられていた安全配慮義務法理を、最高裁として同関係について認める前に公務員関係に及ぼすことを明らかにしたもの。(この後、最判昭和59・4・10で民間企業の安全配慮義務も認められた。)
安全配慮義務法理は、従来労働契約関係について唱えられてきたものだが、本判決は労働契約関係との同質性に依拠して国の安全配慮義務を認めたのではなく、一般的な同義務の理論的根拠(ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において信義則上要請される当該法律関係上の付随義務)から導いている点が特徴的である。