学説判例研究~行政法~ノート~56-60事件

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行政判例ノート 56~60

56:パチンコ球遊器に関する通達
【最判昭和33年3月28日】

■論点
・パチンコ球遊器は、物品税法1条1項の「遊戯具」に含まれるか。
・また、10年間課税されなかった、パチンコ球遊気に対して、東京国税局長からの通達を機縁として、課税がなされた場合、それは通達課税にあたり、違法ではないか。

■事実の概要
旧物品税法1条1項は課税対象物品の一つとして「遊戯具」を挙げていたが、パチンコ球遊器についての明記はなかった。そして、約10年間、一部の例外を除いて、パチンコ球遊器には物品税が賦課されなかった。が、昭和26年3月2日に、東京国税局長からパチンコ球遊器は「遊戯具」にあたる旨の通達(本件通達)が管下税務署長に対して発せられ、これに従って、Yら(品川・大森、蒲田・墨田各税務署長。被告)はXら(パチンコ球遊器製造業者4名。原告)に対して物品税賦課処分(本件各処分)を行った。
Xらは、被課税額計約238万円を納付した後、本件各処分の無効確認と納付金の返還を求めて出訴した。
1審・2審とも原告敗訴。

■判旨
上告棄却
物品税は当初は消費税として出発したが「その後次第に生活必需品その他いわゆる資本的消費財も課税品目中に加えられ」ていったこと、「いわゆる消費的消費財と生産的消費財との区別はもともと相対的」で「パチンコ球遊器も自家用消費財としての性格をまったく持っていないとはいい得ないこと」等の理由にかんがみれば、「社会通念上普通に遊戯具とされているパチンコ球遊器が物品税法上の『遊戯具』のうちに含まれないと解することは困難であ」る。

「なお、論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであっても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基づく処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであって、採用し得ない。」

■解説
・行政組織法上、上級行政機関がその指揮監督権に基づいて下級行政機関の権限行使・事務処理を指揮するために発する命令のことを訓令というが、文書で発せられたものはとくに「通達」と称することが多い。東京国税局長から管下各税務署長に対して発生られた本件「通達」もその一例である。

・通達の行政作用や国民の法益にとっての実際上の意味は大きいが、通達の法的性質は法律・条令や「行政立法」とは基本的に異なるとされている。本事件との関係でいうと、租税法律主義(憲84条・30条)のもとでは「通達課税」は許されないのであり、通達それ自体は国民の納税義務を生じさせる法的効果をもたず、課税処分を行うための法的根拠にならない。

・本事件では、通達にかかわって、①本件通達が示した法律解釈の適否、②本件通達を契機として行われた課税処分の憲法適合性(「通達課税」か否か)が争われた。本判決は、前者を肯定した上で、<通達の内容が法律の正しい解釈に合致する限り、通達を契機としていても、課税処分は法律の根拠に基づくと言える>旨を判示した。

57:墓地・埋葬等に関する通達
【最判昭和43年12月24日】

■論点
・墓地埋葬に関する通達の変更は、取消訴訟の対象となる行政処分に当たるか。

■事実の概要
墓地、埋葬等に関する法律13条は、「墓地(等)の管理者は、埋葬(等)の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない」と定め、21条はこれに違反した者について罰則を定めている。
同胞13条について、厚生省環境衛生課長は、昭和24年8月22日に、東京都衛生局長に対して「従来から異教徒の埋、収蔵を取り扱っていない場合で、その仏教宗派の宗教的感情を、著しく損うおそれある場合」には「正当の理由があるとして拒んでも差支えない」との通達を発した。が、その後、規制宗教と特定の宗教団体との間で紛争が生じ、埋葬拒否等の事件が多発した。
そこで、厚生省公衆衛生局環境衛生部長は、内閣法制局第一部長から厚生省公衆衛生局長あての、13条の立法趣旨に照らすと「依頼者が他の宗教団体の信者であることのみを理由としてこの求めを拒むことは『正当の理由』によるものとはとうてい認められない」旨の回答を得た上で、昭和35年3月8日に、各都道府県指定都市衛生所管部局長に対して、通達を発した。
墓地を経営する真言宗の一寺院X(原告)は、違法な本件通達により、異宗徒の埋葬の受受忍が経罰をもって強制され、墓地処分権が侵害されるなどとして、Y(当時の厚生大臣。原告)を相手に、本件通達の取消しを求めて出訴した。
1審、2審とも本件通達は取消訴訟の対象とはならないとして、Xの訴えを不適法として却下した。

■判旨
上告棄却
「元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取り扱いに関するもので、国民の権利義務重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない(①)。このように、通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない(②)。
また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたっては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取り扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。(③)」

本件通達は、従来の法律の解釈や取扱いを変更しているが、「もっぱら知事以下の行政機関を拘束するにとどま」り、「国民が直接これに拘束されることはなく、従って、右通達が直接にXの所論墓地経営権、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受忍義務を課したりするものとはいいえない。また、墓地、埋葬等に関する法律21条違反の有無に関しても、裁判所は本件通達における法律解釈等に拘束されるものではないのみならず、同法13条にいわゆる正当の理由の判断にあたっては、本件通達に示されている事情以外の事情をも考慮すべきものと解せられるから、本件通達が発せられたからといって直ちにXにおいて刑罰を科せられるおそれがあるともいえず、さらに・・・Xの主張するような損害、不利益は・・直接本件通達によって被ったものということもできない。」

「現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならない」から、本件通達の「取消を求める本件訴は許されないものとして却下すべきものである。」

■解説
・本判決は、最高裁としては最も概括的に、通達の一般的な法的性質を説明している。判旨中の①②③はそれぞれ、私人・行政作用・裁判所との関係での法的効果を通達は有しないことを述べており、学説上もこのような基本的性格についてはほぼ異論はない。

・本件通達は、厚生大臣の補助機関から都道府県知事・指定都市の長の補助機関へと発せられている。国の行政機関と地方公共団体は本来上下関係には立たず、自治体の事務についての「通達」類は原則として行政指導たる意味を持つにとどまるが(自治245条の4・1項参照)、本件通達は、旧制度のもとでのいわゆる機関委任事務の処理に関して、国の主務大臣が国の下級機関としての知事等を指揮監督するために発したものである。

・本事件では、本件通達の適法性よりも前に、これに対する取消訴訟の許容性が争点となった。Yは「法律上の争訟」性と取消訴訟の対象性(いわゆる処分性)の2点を問題にし、1審・2審判決は両者を明確に区別せず論じたが、本判決は直接には後者の問題として扱い、その中に前者の問題も吸収させているようである。
取消訴訟の対象性が肯定される要件として、最高裁は、おおむね行政の諸行為の法的性質の<個別的・分析的考察方法>をとり、(a)「公権力」性、(b)その効果の①直接性、②個別具体性、③法的効果性、を厳格に要求してきたと言える。通達については、一般的には(b)の③および①の欠如を理由として本件通達の処分性を否定したと見てよいであろう。

58:都市計画と公害防止計画の適合性
【最判平成11年11月25日】

■論点
・都市計画法の制定以前に認可処分を受けていた、環状6号線拡幅公示計画は、その後、制定された都市計画法に基づき、公害防止計画に合致する必要があるか。
・都市計画の事業地へ、通勤、通学する者は、当該事業認可処分の取消訴訟における原告適格を有するか。
■事実の概要
Y(建設大臣。被告)が、訴外A(東京都知事)および訴外B(首都高速道路公団)に対して、環状6号線を拡幅する都市計画に関する事業認可(都市計画法59条2項)および承認処分を行ったことに対して、Xら(同事業の事業地内の不動産につき権利を有する者。原告)が、①環6拡幅事業について環境影響評価をしていないのは都市条例違反である、②これらの道路により深刻な公害が生じることから都市計画法の環境配慮義務規定に違反している、③これらの道路は土地の合理的利用に反し、公共性がない、④Xらの財産権、幸福追求権、人格権が侵害されると主張し、よって環状6号道路は違法であるとして、本件各処分の取消しを求めた。
1審、2審とも、①地権者以外のXらには原告適格がない、②本件の対象となった処分はいずれも適法である、とした。
■判旨
上告棄却
「事業地内の不動産につき権利を有する者は、認可等の取消しを求める原告適格を有するものと解される。」
「これに対し、事業地の周辺地域に居住し、又は通勤、通学するにとどまる者については認可等によりその権利若しくは法律上保護された利益が侵害され又は必然的に侵害されるおそれがあると解すべき根拠はない。」「本件各処分に係る事業地の周辺地域に居住し又は、通勤、通学しているが事業地内の不動産につき権利を有しないXらは、本件各処分の取消を求める原告適格を有しないというべきである。」

「旧法の下で適法、有効に決定された都市計画において定められた都市施設を整備する事業を行う場合には、施行者は直ちに当該事業の認可等の申請を行えば足り、その要件とされるほう61条1号の適用においても、事業の内容が旧法下で決定された都市計画に適合していれば足りると解すべきである。そうすると、旧法の下においては都市計画の基準として公害防止計画に適合することを要するとはされていなかったのであるから、旧法の下において決定された環状6号線整備計画は、その後に定められた公害防止計画に適合するか否かに係らず、現行法下においてもそのまま適法、有効な都市計画とみなされるものというべきであり、右整備計画に適合するものとしてされた環状6号線道路拡幅事業の認可に違法はない。」

「原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」

■解説
・本判決は、都市計画事業認可における都市計画法13条1項柱書にある公害防止計画への適合性要件をめぐって、環境影響を蒙る計画道路沿道住民等の原告適格について、これまでの拡大傾向の判例に最高裁として歯止めをかけた判例である。この論点については、本判決の判例変更を明言した小田急立体交差化事業訴訟最高裁判決(本書Ⅱ-177事件)で解説があるので、そちらに譲る。

・公害防止計画は、通常の規制では環境基準を達成することができない公害激甚地域、あるいは公害激甚地域となるおそれのある地域について、環境基準という目標を達成するために定められる計画である。

・公害防止計画は、都市計画法の用途地域規制のような国民に向けて直接法的拘束力を有する計画ではないが、環境基準の達成は政府共通の目標でありその手段を指し示す共通の計画として公害防止計画を位置づけているのであり、その意味で関係行政機関および関係する計画を拘束する性質を有するといえる。

・本判決は、公害防止計画と都市計画との関係で、2つの論点を提示している。第1の論点は、公害防止計画適合性が旧法下では都市計画(本件においては整備計画)の要件となっていないために、公害防止計画適合性の審査をしない整備計画でも認可基準となる、とした点である。都市計画法61条で、都市計画事業認可の要件として事業が都市計画に適合していることを求めているが、本件整備計画は公害防止計画への適合性を求められる以前に決定されたものであるので、Xらはこれをそのまま基準としたことの違法を主張した。
第2に、13条1項柱書が、当該事業が公害防止計画の執行を妨げなければ、それ以上公害防止計画適合性を要求するものではない、としている点である。この点は、計画間の拘束性についての議論である。

59:行政行為の成立
【最判昭和57年7月15日】

■論点
・行政行為はどの時点で成立するか。

■事実の概要
給油場の設置許可を持つXは、昭和48年3月初めころ、Y(高砂市長、行政庁)に対し、消防法11条1項に基づいて給油取扱所への変更許可申請を行った。Yは給油取扱所への変更許可申請の際、事前に近隣住民の同意書を提出させておりXに対しても同意書の提出を求めた。しかしXは終始これを拒否、YはXに対し許可書原本を交付していない。一方で、通産省から48年度の給油取扱所変更枠を得るためにはXが昭和48年3月31日までに、本件変更許可処分の効力が生じていなければならないという事情があることから、Xの元請け会社である訴外Aの課長は「同意書を提出するまで本件変更許可の受理に対して異議は申しません」との念書を差し入れ、これと引き換えに許可書の写しの交付を得た。(給油取扱所の設置等については、元売りの会社に委任状が交付され、元売りの会社が官庁での手続きを行うのが一般的)。そして、YがXに対して同意書の提出を求めたので、XがYに対して訴えを提起した。
1審は、Xの主位的請求をいずれも認容した。2審も1審を支持し、Yの控訴を棄却した。

■判旨
一部破棄自判、一部破棄差戻し。
「給油業者がした給油取扱所変更許可申請につき、その元売り業者に対し許可書の写しが交付された場合、それが、同人らの懇請に応じ、昭和47年度の給油取扱所の変更の枠を確保することを目的として、あたかも許可処分があったかのような状況を作出するためにされたものにすぎず、Xに対する許可処分そのものは隣接住民の同意書の提出を待って、許可書の原本を交付することによって行うものとされ、Aらも、もとよりこれを了承して許可書の写しの交付を受けたのであるから、この交付をもってXに対する許可処分の外部的意思表示がされたものとみることはできない。」

■解説
・本件において変更許可処分は行政処分として有効に成立していない

・一般に行政処分は行政庁がその意思を決定し、これを外部に表示したときに成立する。
本件許可書の原本の作成と写しの交付は便宜的な措置であって、本件変更許可申請に対しおそらく許可処分がなされないまま事態が推移したであろうと思われる。
それゆえ最高裁が、この様な便宜的措置が講じられていたとしても、本件許可処分の外部的意思表示がされたものということはできず、本件許可処分は行政処分としていまだ成立していない。

60:所在不明者に対する送達
【最判平成11年7月15日】

■論点
・所在不明の地方公務員に対する懲戒処分はどのような手続きによるか

■事実の概要
Y(県)の土木事務所に勤務していたXは平成3年1月28日最後の住所を出奔し、以後所在不明になった。Y県知事はXを懲戒処分として免職することを決定。Xの上司が同人最後の住所に赴きその妻に人事発令通知書及び処分の理由を記載した処分説明書を読ちみ上げたうえ交付した。(①)またYは平成3年3月30日付けの公報にXに対する人事発令通知書の内容を掲載した(②)。
地方公務員の懲戒処分手続きについては、地方公務員法29条4項をうけて条例で定められることとなっている。そしてY県の「職員の懲戒手続き及び効果に関する条例」は、その2条において、懲戒処分としての免職処分はその理由を記載した書面を当該職員に交付して行われなければならない」と規定しているが職員が所在不明で処分を通知することが不可能な場合の手続きについては規定がない。そこでX(の不在者財産管理人)は行政処分が現実に効力を生ずるためにはそれが相手方に到達して、相手方が現実に了知し、又は相手方の了知しうべき状態に置かれる必要があり、本件処分はこれに当たらず効力を生じていないとして訴えを提起した。
1審は、本件処分は有効と判断した。2審は、本件処分の適法性を否定し、その効力を認めなかった。

■判旨
破棄差戻し。
「所在が不明な公務員に対する懲戒処分は地方公務員ついてはこの様な規定は法律にはなく、条例にもこの点に関する規定がないから、所在不明のY県職員に対する懲戒処分の内容がY県公報に掲載されたことをもって直ちに当該処分が効力を生じると解することはできない。」
「しかし、従前から所在不明となった職員に対し懲戒免職処分の手続きにつき当該職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を公報に掲載する方法で行ってきた。そうであるとするなら、Y県職員であったXは自らの意思により出奔して無断欠勤を続けたものであって、右の方法により懲戒免職処分がされることを十分に了知しえたものというのが相当である。」
■解説
・行政行為の効力が生じるのは特別の規定のない限り、意思表示の一般的法理に従いその意思表示が相手方に到達したとき、すなわち、相手方が現実に了知し、又は相手方の了知しうべき状態に置かれた時である。そして、本件懲戒処分については特別の定めは存在しない。したがって、行政行為の意思表示が被処分者に到達したときに効力が発生すると考えられる。そして、Yが同種の処分を従前から本件と同様の手続きで行ってきたこと、Xの立場、処分原因となった事実(自らの意思による出奔)を考慮すれば、本件送達方法により懲戒免職がされることをXは十分了知しえた。