学説判例研究~行政法~ノート~31-35事件

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行政判例ノート 31~35

31:信義則による地方公共団体の時効主張の制限
【最判平成19年2月6日】

■論点
・地方自治法236 条の消滅時効の主張について民法上の信義則の適用を受けるか。

■事実の概要
広島市で原子爆弾に被爆し、戦後ブラジルに移住したX ら(原告)は、平成3 年から同7 年にかけてブラジルから一時帰国し、広島県知事に対して被爆者援護法等(原爆被爆者援護法又はその前身の原爆被爆者医療法・原爆被爆者特別措置法)に基づく申請をした結果、5 年間の健康管理手当の受給権を得た。X らがその後間もなくブラジルに出国したことから、広島県知事は、402 号通達(国外に居住地を移した被爆者についてはその受給権を失権扱いとする昭和49年の厚生省公衆衛生局長通達)を根拠として、X らに対する健康管理手当の支給を打ち切った。平成14年、X らはY(広島県・被告)に対し未支給分の支払等を求めて出訴した。
翌年、厚生労働省が402 号通達を廃止したため、Y はX らに健康管理手当を支給することとしたが、本件健康管理手当のうち、X らの提訴時点で支給月の末日から5 年を経過していた分については、地方自治法236 条所定の時効により受給権が消滅したとして、その支給をしなかった。
1審は、Xらの請求棄却。これに対して2審は、402号通達は「正当な法律の解釈を誤ったものであって、国家補償的配慮から認められた被爆者の権利を、長期間にわたり否定してきたのであり、本件に地方自治法236条2項を適用することは、その奪われた権利を回復する道を閉ざすものであって、著しく正義に反」し、「Xらが権利を行使することができなかったのは、Yが支給義務があるのに、402号通達に従って本件健康管理手当を支給しなかったためであり、YがXらの権利行使を妨げたのと同視することができる」としてXらの請求を認容した。

■判旨
上告棄却。
地方自治法236条2項が時効援用の制度の適用を排除する趣旨は「性質上、法令に従い適正かつ画一的にこれを処理することが、当該普通地方公共団体の事務処理上の便宜及び住民の平等的取扱いの理念(同法10条2項参照)に資する」ことにある。この趣旨から「普通地方公共団体に対する債権に関する消滅時効の主張が信義則に反し許されないとされる場合は,極めて限定されるものというべきである」。
しかし、「既に具体的な権利として発生している国民の重要な権利に関し、法令に違反してその行使を積極的に妨げるような一方的かつ統一的な取扱いをし、その行使を著しく困難にさせた結果、これを消滅時効にかからせたという極めて例外的な場合においては、上記のような便宜を与える基礎を欠くといわざるを得ず、また、当該普通地方公共団体による時効の主張を許さないこととしても、国民の平等的取扱いの理念に反するとは解されず、かつ、その事務処理に格別の支障を与えるとも考え難い。」

本件において、「上告人が上記規定を根拠に消滅時効を主張することは許されないものというべきである。」

■解説
・信義則の適用は、公法の領域においても広く承認されているところであるが、地方自治法236条2項後段は、地方公共団体に対する権利で金銭の給付を目的とするものについては時効を要しないとしていて、信義則違反の対象となる援用がないため信義則違反の主張が成り立たないとも考えられるから問題である。
・本判決は、「極めて限定される」としながら、Yの法令遵守義務違反およびこれによる国民の「重要な権利」の行使を妨げたこと、ならびに自治法236条2項が公法上の債権につき消滅時効の援用を不要とした趣旨を事務処理上の便宜および住民の平等取扱いの要請に求め、消滅時効の主張の信義則に反し認めないとしても、立法趣旨に反することはないとして、Yによる消滅時効の主張を斥けた。

32:条例による新たな規制と配慮義務
【最判平成16年12月24日】

■論点
・新たに制定された条例により、すでに許可申請手続を進めていた事業者の権利に重大な制限を課すような場合、条例の定める手続きにおいて、その事業者の地位を不当に害することのないよう配慮する義務があるか。

■事実の概要
Ⅹ(産業廃棄物処理業者・原告)は、三重県紀伊長島町内に産業廃棄物中間処理施設を建設することを計画し、本件施設に係わる事業計画書を三重県尾鷲保健所長に提出した。その後、三重県及び紀伊長島町の関係各機関との間の事前協議会によってXの本件計画を知った紀伊長島町は、伊長島町水道水源保護条例を制定した。この条例は、水質汚濁あるいは水源枯渇をもたらすおそれのある事業場等であると町長に認定された規制対象事業場の設置を、紀伊長島町水道水源保護地域において禁止するものであった。本件施設の建設予定地が水道水源保護地域に指定され、Ⅹは、条例の規定に従ってY(町長・被告)に協議を求めた。しかし、Yは、地下水取水量が日量95m3であることを重視した紀伊長島町水道水源保護審査会の意見に従って、「水道水源の枯渇をもたらし,又はそのおそれのある」事業場にあたるとして、本件施設を規制対象事業場に認定した。
一方で、Ⅹは、廃棄物処理法15条1項に基づいて、知事に対して本件施設の設置許可の申請を行い許可を受けた。しかし、紀伊長島町水道水源保護条例に基づいて規制対象事業場に認定されているので、本件施設を設置することができなかった。そこで、Ⅹは、町長による規制対象事業場認定処分の取消しを求めて出訴した。
1審、2審は、本件認定処分を適法としてXの請求を棄却した。

■判旨
破棄差戻し。
「本件条例は、水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長との協議を求めるとともに、当該協議の申出がされた場合には、町長は、規制対象事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして、慎重に判断することとしているところ、規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮すると、上記協議は、本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。」
そして、前記事実関係等によれば、本件条例は「Xが町の区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり、Yは、Ⅹが本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており、また、同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。」
そうするとYは、「Ⅹに対して本件処分をするに当たっては、本件条例の定める上記手続において、上記のようなⅩの立場を踏まえて、Ⅹと十分な協議を尽くし、Ⅹに対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし、Ⅹの地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって、本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には本件処分は違法」となる。

■解説
・水道水源保護条例を合憲的に適用するためには、Ⅹの施設を規制対象事業場に認定する過程で、YにはXの地位に配慮することが強く求められる。

・本件では、水道水源の枯渇のおそれがあることが規制対象事業場に認定された理由となっている。日量95m3という地下水使用量が認定の理由であるが、水使用形態の工夫などによって地下水使用量は変更の余地があり、YとⅩとの協議や、行政指導などによって、地下水使用量を水源保護に支障をきたさない適正量に改めさせることもできたかもしれない。そこで、Ⅹの施設の設置を許容できる条件を探って協議や指導をすることなく、Ⅹの示した地下水使用量に基づいてⅩの施設を規制対象施設に認定してしまうことは、Ⅹの地位に配慮すべき要請を充たさないこととなる。本判決は、YがⅩと十分な協議を尽くし、「適切な指導をし,Ⅹの地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があった」と認定した。

33:行政権の濫用
【最判昭和53年5月26日 】

■論点
・権利濫用の禁止原則(民法1条3項)が行政上の法律関係にも適用されることについて異論はないが、行政側の権利濫用について適用されるか。

■事実の概要
Ⅹ会社(原告)の代表者Aは、個室付浴場業を営むぺく、山形県余目町に土地を購入し、山形県土木部建築課に個室付浴場業用建物の建築確認を申請して建築確認を得たうえで上記建物の建築に着手し、これを完成させ、建築確認済証の発行を受けた。また、個室付浴場業の営業に必要な公衆浴場法2条1項の許可(公衆浴場業の許可)を山形県知事から受けた。
ところが、個室付浴場業の開業については、地元民の反対運動を受け、余目町および山形県当局は上記個室付浴場業の開業を阻止する方針をたて、山形県当局はその開業前に上記開業予定地から約134.5メートルの屋巨離にある余日町の町有地に児童福祉施設たる児童遊園を設置すれば上記開業を阻止できるとして、同町に対して積極的に指導し、これを受けた同町は、急遽、児童遊園を設置することとし、山形県知事に対しその設置認可の申請を行い,同知事はこれを認可した(事件当時の児福35条3項)。
風俗営業等取締法4条の4第1項(現行風営28条1項)により、児童福祉施設から200m以内では個室付浴場業の営業は禁止されているが、Ⅹは個室付浴場業の営業を開始したため、山形県公安委員会はⅩに対し60日間の営業停止処分をした。Ⅹはこの営業停止処分の取消しを求めて出訴したが、訴訟係属中に営業停止期間が経過したため、山形県(被告)に対する国家賠償請求の訴えに変更した。
1審は、Xの請求棄却。2審は、本件児童遊園が児童福祉施設として最低基準を満たしている以上、客観的に見ると設置認可それ自体としては違法ということはできないが、設置認可がXの個室付浴場営業を「阻止、禁止することを直接の動機、主たる目的としてなされたものであることは明らかであり、・・・行政権の著しい濫用と評価しなければならない」として1審判決を取消し、Xの請求を認容した。

■判旨
上告棄却。
「原審の認定した右事実関係のもとにおいては、本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によってⅩが被った損害との間には相当因果関係があると解するのが相当であるから、Ⅹの本訴損害賠償請求はこれを認容すべきである。」

■解説
・「行政権の著しい濫用」を根拠に国賠法上の違法を導き出した本判決は、法の一般原理たる権利濫用の禁止が行政上の法律関係にも適用されることを確認した判決として知られている。実際、本判決の調査官解説は、権利濫用の禁止や公序良俗等の法原理が、国賠法上の違法性判断の基準となるとして、本件で権利濫用の禁止が援用されたことを示唆している。

34:選挙法上の住所
【最判平成35年3月22日】

■論点
・選挙法上の住所の意義

■事実の概要
選挙人であるⅩ(原告)は、同選挙において当選人と決定した訴外Aの当選の無効を主張して、町選挙管理委員会に異議を申し立てたが棄却され、その決定を不服とし県選挙管理委員会Y(被告)に訴願したが再び棄却されたため、大阪高裁に提訴した。その理由は、Aは町に居住し、選挙に立候補したのであるが、Aは既に町外に転住し、同所で飲食業・金融業を営んでおり、同町の住宅はその頃より空家となり送電も中止されていた。Aは同町に農耕地を所有しているが、それだけでは家族の生計は維持できず、これを主業とは認められない。したがってAの住所は町外にあり同町の被選挙権はない、というものであった。
大阪高裁は、Aは町外において営業活動とそれに必要な生活を営んでいるが、「住所は人の生活の中心となる本拠であって、右官業的活動の如きは人の社会活動の一部にすぎず、結局それが問題の人の生活の中心的重要部分を占めその本拠が生活全般の本拠となるか否かは、その人の生活の全般の客観的事情に主観的意思をも考慮して決すべき」であり、本件の場合、Aは町外居住地の住民となることを好まず、同町の住宅は空家にしているが、未だ仏壇・生活用家財等を置き、同町在住の父方に自己および家族の住民籍を置き長女を同人方から通学させ、田畑を耕し、同町民を構成員とする各種団体の役職に就任し、同町でその職務に従事しており,このような社会活動はすべて父方に寝泊まりし、そこを中心として行われているのであり、したがって客観的な生活実情においても主観的意欲からみてもAの住所は本件選挙当時同町にあったと認めるべきである、と判示し請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「公職選挙法及び地方自治法が住所を選挙権の要件としているのは、一定期間、一の地方公共団体の区域内に住所を持つ者に対し当該地方公共団体の政治に参与する権利を与えるためであって、その趣旨から考えても、選挙権の要件としての住所は、その人の生活にもっとも関係の深い一般的生活、全生活の中心をもってその者の住所と解すべく、所論のように、私生活面の住所、事業活動面の住所、政治活動面の住所等を分離して判断すべきものではない」。
「原判決は以上の見地に立って諸般の事実を認定し訴外Aの住所は虎姫町から長浜市に移転していないものと判示しているのであって,この原判示は肯定することができる。」

■解説
・住所については、民法22条がこれを各人の「生活の本拠」と定めているものの、公選法や自治法などの行政法規には住所に関する一般的規定がないため、この規定の適用の有無が問題になる。

・公選法上の住所については、すでに学生の住所が寮にあるのか郷里にあるのかが争われた事件で、最高裁は「およそ法令において人の住所につき法律上の効果を規定している場合、反対の解釈をなすべき特段の事由のない限り、その住所とは各人の生活の本拠を指すものと解するを相当とする」(本件判旨引用の最大判昭和29年)と判示し、公選法においてもこの民法の規定が適用されることを認めていて、本件最高裁もこれに従っている。

35:選挙法上の期間
【最判昭和34年6月26日】

■論点
・選挙法上の期間の計算方法について

■事実の概要
村選挙管理委員会は、昭和33年1月6日に、村長選挙の施行期日を同月13日とすることを告示し、選挙を行った。選挙に当選しなかったXは、選挙期日の告示に違法があることと、本件選挙を執行した村選挙管理委員会は違法に組織されたものであったこと等を理由として、本件選挙を全部無効とするように村選挙管理委員会に異議の申立てを行い、棄却決定を受けたため、Y(県選挙管理委員会)に、同旨の訴願を行った。しかし、これも棄却裁決を受けたため、裁決の取消しと本件選挙の全部無効を求めて訴訟を提起した。
原審は、公職選挙法(以下、「公選法」)34条6項5号について、「選挙期日を第1日として逆算し7日目に当たる日の前日に」という意味に解するのが相当とし、Xの請求を棄却。Xは、期日の計算については、民法に従って、初日を算入すべきではない旨を主張して、上告。

■判旨
上告棄却
「公選法34条6項5号の「少なくとも7日前に」の意味は、選挙期日の前日を第1日として逆算して7日目に当たる日以前を指すものと解すべく、原判決の解釈も結局これと同趣旨に帰し、本件選挙期日の告示に違法がないとしたのは正当であって論旨は理由がない。」

■解説
期間の計算方法について、公選法上は明文の規定がなく、その他行政法上も通則的な規定は存在しないため、この場合は民法の規定を適用または準用するべきであり、(結果は同じことであるが、)初日不算入の原則を採用した最高裁判決が正当である。
本件に民法140条・141条を適用すると、告示が1月6日午前0時になされたものだと擬制すれば、1月12日午後12時で7日間が完全に保障されたことになる。では、何故擬制されるのかというと、「告示は、告知のごとく、個々の相手方に対してなされるものではなく、ひろく一般に一定の事項を知らせるためのものであり、したがって、個々の相手方に対する具体的な到達の時点は問題とならないものであるから」、とされる。すなわち、このような擬制を用いても、選挙権・被選挙権を有する者の間に格別の不平等を生じないからである。
ところで、公選法では「何日前」型(ex.34条6項、41条等)と、「日前何日」型(ex.62条1項、86条11項等)が混在し、合理的理由もなく統一性を欠いていることには留意する必要がある。