学説判例研究~行政法~ノート~41-45事件

学説判例研究~行政法~ノート~41-45事件

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行政判例ノート 41~45

41:食糧費と情報公開
【最判平成15年11月11日】

■論点
・情報公開が、個人情報に該当する場合の判断

■事実の概要
Xら(大阪府住民)は、大阪市公文書公開条例(以下、「本件条例」)に基づき、Y(大阪府市長)に対し、昭和63年7月から平成4年3月までの間の大阪市財政局財務部財務課に係る食糧費の支出関係の文書の公開を請求した。これに対し、Yは、支出決議書および支出命令書は本件条例6条2号(個人情報に関する不開示条項)、3号(法人・個人等の事業執行情報に関する不開示条項)等に該当することを理由として全部非公開とする決定をした。Xらはこの処分の取消しを求めて出訴。
第一審・第二審は、「プライバシーに関係しないことが明らかな情報については、6条2号の非公開事由に該当しない」とし、また「個人情報であっても経済的側面に関する情報は3号によって処理する」とした。Yが上告。

■判旨
一部破棄差戻し、一部破棄自判、一部上告棄却
ⅰ).「本件条例6条2号にいう「個人に関する情報」については、「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから、個人の思想、信条、健康状態、所得、学歴、家族構成、住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく、個人に関わり合いのある情報であれば、原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。」

ⅱ).「もっとも、6条は、2号において「個人に関する情報」から「事業を営む個人の当該事業に関する情報」を除外した上で、3号において「法人その他の団体に関する情報または事業を営む個人の当該事業に関する情報」と定めて、個人に関する情報と法人等に関する情報とをそれぞれ異なる類型の情報として非公開事由を規定している。これらの規定に照らせば、本件条例においては、法人等を代表する者が職務として行う行為等当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については、もっぱら法人等に関する情報としての非公開事由が規定されているものと解するのが相当である。したがって、同条2号の非公開情報に(は)当たらないと解すべきである。」

ⅲ).「(次に、)国および地方公共団体の公務員の職務の遂行に関する情報は、公務員個人の社会的活動としての側面を有するが、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き、公務員個人が同条2号にいう「個人」に当たることを理由に同号の非公開情報に当たるとはいえないものと解するのが相当である。」

ⅳ).「そうすると、本件条例が、同市の公務員の職務の遂行に関する情報が記録された公文書について、公務員個人の社会的活動としての側面があることを理由に、これを全て非公開とすることができるものとしているとは解し難いというべきである。」

■解説
・各地の情報公開条例は、個人に関する情報についての不開示条項をもつが、その規定の仕方には、①個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものを不開示とする「個人識別型」と、②通常他人に知られたくないもの等と情報内容に一定の限定を加えて不開示とする「プライバシー型」、がある。
本件条例6条2号は①の類型に該当するが、個人が識別されれば、但書所定の例外事由に当たらない限りすべて不開示とする文言説と、個人が識別される情報でも実質的にプライバシーが問題とならない場合には公開を認める限定説とに、考え方は分かれる。本判決は、ⅰ)の部分では文言説を採用しているように見えるが、ⅲ)では限定説寄りの立場で判断していると考えられる。本判決以降もこの枠組みを維持し、すなわち、「個人に関する情報」については内容的に非限定であるとし、「法人等の行為そのものと評価される行為」のみ事業執行情報として開示・不開示の判断がされる。また、「公務員の職務遂行に関する情報」は、公務員の私事に関する情報が含まれる場合のみ、個人情報として不開示となる。

42:審議検討に係る情報の公開
【最判平成6年3月25日】

■論点
・意思形成過程情報の情報公開(憲法判断含む)

■事実の概要
京都に事務所を置くX(市民運動団体)が、鴨川の河川管理者であるY(京都府知事)の設置した鴨川改修協議会に提出されたダムサイト候補地点選定位置図(以下、「本件文書」)の公開を、京都府情報公開条例(以下、「本件条例」)に基づいて請求したところ、Yはこれを非公開とする旨の決定をした。Xはこの処分の取消しを求めて出訴。
なお、本件文書は、本件条例5条6号のいう「(公開することにより)著しい支障が生じるおそれがある」場合に該当するとして非公開の決定がなされたが、地質等の自然条件や用地確保等の可能性等が考慮されていない未成熟な初期の段階の資料であった。
第一審は、住民の知る権利の重要性から、「著しい支障」は客観的かつ高度の蓋然性が存在していなければならないとして、Xの請求を認容。対して第二審は、本件処分は相当であるとして、Xの請求を棄却した。すなわち、「本件文書は、意思形成過程における未成熟な情報であり、公開することにより、府民に無用の誤解や混乱を招き、協議会の意思形成を公正かつ適正に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるものに該当する」からである。
Xが上告。

■判旨
上告棄却
「本件文書が、本件条例5条6号に当たるとして、Yがした本件文書を公開しない旨の決定が適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。」

「(また)府または国等の意思形成の過程における情報であって、公開することにより、当該または同様の意思形成を公正かつ適正に行うことに著しい支障が生じるおそれのあるものが記録されている公文書の公開をしないことができる旨を定めていた右条の規定が、憲法21条1項その他所論の憲法の各規定に違反するものでないことは、当裁判所大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。」

■解説
・意思形成過程情報が公開されると、住民に無用な誤解や混乱を与えたり、一部の情報利用者にのみ不当な利益・不利益を与える等のおそれがある。他方、行政機関自身の法益を最優先して、過度に広く解釈すれば、府民参加の開かれた府政の一層の推進を図るといった情報公開制度そのものの趣旨が損なわれることとなる。したがって、意思形成過程情報の公開・非公開の判定においては、恣意的な判断に偏ることのないように努め、個別具体的に請求権者の法益と行政機関の法益とが比較衡量されなければならない。

・第一審が示したような客観的かつ高度の蓋然性を要求すると、本条項の趣旨、文言から離れ、過度にその内容を限定することになる。そこで第二審及び最高裁は、「著しい支障を及ぼすおそれ」を緩やかに文理解釈し、Yの立証した客観的事情を考慮して、本件処分に違法はないと判断したものと思われる。

43:非公開情報の単位
【最判平成19年4月17日】

■論点
・情報公開法(以下法とする)6条2項に相当する規定なく、1項に相当する規定しかない県条例において、法6条2項と同様の部分開示ができるか。

■事実の概要
愛知県住民(以下X)が愛知県公文書公開条例(以下本件条例・論点における条例と同様)に基づき、愛知県知事(以下Y)に対し愛知県商工部万博誘致対策局の食料費の支出に関する予算執行書、支出金調書等(以下本件文書)の公開を請求した。
これらの文書は、会議等の懇談会の開催に要する食料費の支出のために作成されたものであり、また、各懇談会の相手方出席者が識別される記載があるものを含んでいた。
Yはこれらの公開請求に対して、個人に関する情報について規定のある本件条例6条1項2号に該当するとして一部を非公開とする決定(本件非公開決定)をした。
本判決は、一度最高裁で差し戻しを受けた上で再び上告として最高裁にあがってきたものであり、一度目の最高裁では「公務員の職務遂行に関する情報は、公務員個人の私事に関する情報が含まれる場合を除き非公開情報に該当されるとはいえない」とした上で、懇談会の出席者が公務員であるか否かが確定されていないとして控訴審に差し戻した。
さらに、差戻審において「本件条例を非公開事由に該当する独立した一体的な情報をさらに細分化し、その一部を非公開とし、そのあまりの部分にはもはや非公開事由に該当する情報は記録されていないものとみなして、これを公開することまでをも実施機関に義務付けているものということはできない。」とした。

■判旨
一部破棄自判、一部上告棄却。
「本件文書中に非公開情報に該当しない公務員の懇談会出席に関する情報が記載されている場合にはその記載がいかなる欄や箇所にあるかを問わずすべてこれを公開すべきである」とした。

「本件文書中に、非公開情報に該当しない公務員の懇談会出席に関する情報とこれに該当する公務員以外の者の懇談会出席に関する情報とに共通する記載部分がある場合、それ自体非公開情報に該当すると認められる記載部分は、公開すべき公務員の本件各懇談会出席に関する情報としてこれを公開すべき」であるとした。

■解説
1. 従来の判例はこのような問題について差戻審と同様の見解を採用していた。(独立一体説)
しかしながら、学説は独立一体説に総じて批判的であったところ本判決がなされた。
もっとも、小法廷判決であったことから、判例変更ではなく、本判決と従来の判決との関係が問題となる。
これについては、藤田裁判官の補足意見に詳細は記載されているが、要するに従来の判例がいうところの「一体的な情報」とはなにかということが問題であり、有意性のない情報については部分開示義務がないとしている(法6条1項ただし書)ことからすれば、「一体的な情報」の範囲を情報公開法本来の趣旨・目的に照らし、最小限の有意な情報という意味に限定化して扱う限り、本判決と従来の判決に違いは出ないのである。

2.従来の判決がいう独立した一体的な情報という概念は、非公開情報の単位を判断する上で誤解を与えやすいものであったといえるが、本判決がでたことにより、独立した一体的な情報を縮小解釈し、誤解をかいしょうできるようになるといえる。
とはいえ、未だ下級審では独立一体説を採る判決もあり、本判決で持って争いに決着をつけることもできなかったとも言える。

44:情報公開条例と本人開示
【最判平成13年12月18日】

■論点
・情報公開条例に基づく個人情報の本人開示は認められるか。

■事実の概要
原告ら(以下Xら)は兵庫県の公文書の公開等に関する条例(以下本件条例)に基づき、兵庫県知事(以下Y)に対し、X本人の分娩に関する診療報酬明細書の公開を請求した。
これにたいしてYは本件文書に記載されている情報は、個人の健康状態等心身の状況等に関する情報であって特定の個人が識別されるもののうち、通常他人に知られたくないものであり、本件条例8条1号に該当し、不開示情報に当たるとし、公開しない旨の決定をした。
1審は、Xらの請求を棄却した。しかし、2審は、「本件条例第8条1号の規定は、そこに記載されている個人情報が当該本人以外の者に公開されることによって当該本人のプライバシーが侵害されるのを防止することをもってその趣旨とするものであり、その趣旨からすれば、公開を請求する当該本人の個人情報を記載した公文書は同号所定の公文書には含まれないものと解するのが相当であり、当該本人からの請求であるにもかかわらず、形式的に同号所定の公文書に該当するとしてその公開を拒むのは、制度の趣旨を無視し、文理にとらわれた形式論というよりほかはない」とし、本件処分を違法とした。

■判旨
上告棄却。
「情報公開制度と個人情報保護制度は別個の目的を有する別個の制度ではあるが、互いに相容れない性質のものではなく、むしろ、相互に補完しあって公の情報の開示を実現するための制度ということができる。」

「特に本件のような個人に関する情報が情報公開制度において、非公開とすべき情報とされているのは、個人情報保護制度が保護の対象とする個人の権利・利益と同一の権利・利益を保護するためであると解されるのであり、この点において両者は表裏の関係にあるといえ、限定列挙された非公開情報に該当する場合にのみ例外的に公開請求を拒否することが許されるのである。」

「以上から考えれば、自己の個人情報の開示請求については、そのような請求を許さない趣旨の規定がある場合等は格別、当該個人の上記権利・利益を害さないことが請求自体において明らかなときは、個人に関する情報であることを理由に請求を拒否することはできないと解するのが条例の合理的な解釈であるというべきである。」

■解説
1.そもそもこのような問題が生じるのは、個人情報が非公開情報として規定されていることに加えてその非公開情報は開示請求された文書に記載されている当該情報の性質から画一的に判断されるべきことであるから、当該個人情報の本人であっても、情報公開条例に基づく公開請求の手続きではその本人に対しても当該個人情報を開示することはできないのではないかと考えられるところからきている。

2.これについて、肯定説の立場によると、終局的に個人のプライバシー侵害を防止するために両規定は存在するのであるから、本人開示を拒否する理由はないと考えられている。
本判決は個人情報保護制度が採用されていない状況の下出された判決であるから、個人情報保護制度が採用されると本判決の帰趨も変更されるかもしれない。

45:インカメラ審理
【最決平成21年1月15日】

■論点
・情報公開訴訟におけるインカメラ審理の許否、即ち、裁判所が情報公開訴訟で対象文書の不開示事由を審理するにあたり、裁判所限りで非公開・直接に当該文書を見分する方法で検証を行うことができるかという問題。

■事実の概要
沖縄県民であるXがヘリコプターの墜落事故に関する行政文書の開示請求を行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下法)に基づいて行った。
これに対し、外務大臣は、情報行為開法5条1号3号または5号の不開示事由該当を理由として、が言う商が保有する普天間飛行場付近及び宜野湾市における海兵隊ヘリCH53D機の墜落、アメリカ政府との協議及び連絡、事故分科委員会等にかかる各文書(以下本件不開示文書)の不開示決定を行った。
Xはこれを不服として、不服申立を提起するとともに、国(以下Y)に対して取消訴訟を提起した。
本件控訴時において、Xは法5条各号に該当するか否かを裁判所に判断してもらうために、裁判所が本件不開示文書を直接見分する必要があるとして、本件不開示文書の検証の申出をするとともにあらかじめ検証の立会権を放棄してかつ検証調書の作成にあたっても内容の詳細が明らかになる方法での調書作成をもとめない旨陳述した。
これについて控訴審は不開示部分の検証をYに求めたが、Yがそれを不服として即時抗告したのが本件である。

■決定要旨
破棄自判。申立て却下。
「不開示決定された文書を対象とする検証を被告に受忍させることは、それにより当該文書の不開示決定を取り消して当該文書が開示されたのと実質的に同じ事態を生じさせ、訴訟の目的を達成してしまうので、情報公開法による情報開示制度の趣旨に照らして不合理である。」
「よって、検証を行うために被告に当該文書の提示を命ずることは許されない。」
「立会権の放棄を前提とした本件検証の申出等は、上記のような結果を避けるためのものであるが、事実上のインカメラ審理を行うことを求めるものにほかならない。」

「裁判所は不開示決定された文書を直接見分して本案の判断をするにもかかわらず、原告はその内容を確認した上で弁論を行うことができず、被告も、当該文書の具体的内容を援用しながら弁論を行うことができない。また、裁判所がインカメラ審理の結果に基づき判決をした場合、当事者が上訴時に上訴理由を的確に主張することが困難になる上、上級審も原審の判断の根拠を直接確認することができないまま原判決の審査をしなければならない。」
「情報公開訴訟において証拠調べとしてのインカメラ審理を行うことは、民事訴訟の基本原則に反するから、明文の規定がない限り許されない。」

■解説
・本決定はインカメラ審理に関するはじめての最高裁決定であり、最高裁の判断である。」
・現在の立法案において、インカメラ審理に関する部分の改正案も出ており、改正法案が成立すれば、今回の争点は立法上の決着を見ることになるといえる。