学説判例研究~行政法~ノート~46-50事件

この記事の所要時間: 129

行政判例ノート 46~50

46:国民健康保険診療報酬明細書の訂正請求
【最判平成18年3月10日】

■論点
・個人情報訂正をしない旨を決定した機関による個人情報の訂正拒否事由該当性判断の適否。

■事実の概要
国民健康保険の被保険者(以下X)は、歯科診療を受けた訴外Aらの保険医療機関から訴外Bに対して請求され、その審査を経た後に保険者であるCが取得した19件の国民健康保険診療報酬明細書(以下本件レセプト)につき、京都市個人情報保護条例(以下本件条例)に基づいて、実施機関である京都市長(以下Y)に開示請求を行った。
その後、Xは開示された情報に誤りがあるとして、Yに訂正の資料を添付した上で記載事項の訂正を求めた。
これに対しYはYには訂正請求を調査するための権限もない等として訂正しない胸の決定処分をした(本件処分)。
そこでXは本件処分の取り消しを求めて出訴したのが本件である。
1審は、Xの請求を認容、2審も、Yの控訴を棄却した。

■判旨
破棄自判(原判決破棄、第1審判決取消し)。
「本件条例は、訂正請求があったときは、実施機関が必要な調査をした上、当該請求にかかる個人情報の訂正をする旨またはしない旨の決定をしなければならないとしているものの、実施機関に対してそのために必要な調査権限を付与する特段の規定をおいておらず、実施機関の有する対外的な調査権限におのずから限界があることは明らかである。」

「保険医療機関が自ら行った診療として本件レセプトに記載した内容が実際のものと異なることを理由として実施機関が本件レセプトに記録されたXの診療に関する情報を誤りのある個人情報として訂正することは、保険医療機関が請求した療養の給付に関する費用の内容等を明らかにするという本件レセプトの性格に適さないものというべきである。」

■解説
・訂正拒否が許される場面はいくつか想定されるが本件は「実施機関に訂正権限が付与されていないあるいは認められていない場合」に該当する。
・本件文書のように、実施機関に管理権がある文書であっても実施機関以外の第三者から提出されたものについて訂正が認められるかが問題となる。
これについては全面可能説・可能説・全面不可能説・不可能説が対立しているが、本判決は、第三者作成文書の性格や個別法令の解釈を斟酌した結果、地方自治体に第三者作成文書の審査権・調査権が認められない場合、個人情報保護条例上実施機関はこれを訂正することができないあるいは訂正しなくてもよいとする不可能説に立ったものといえる。
もっとも、最高裁は全面可能説に対して否定的な態度をとっているものの、可能説については一定の理解を示していることから、レセプト以外の文書については可能説を取る可能性もあるといえる。

47:公務員の守秘義務
【最決昭和52年12月19日】

■論点
・国家公務員法100条に規定のある「秘密」の意義について。

■事実の概要
被告人は、大阪国税局管下境税務署直税課に勤務し、所得税の課税事務に従事していたものであるが、職務上税務署長から配布を受けていた標準率表および効率表を、訴外Aに貸与した。
両表は大阪国税局が課税事務の資料として作成して、各税務署に配布していたものであり、外部に対して秘密とすることを要する文書として指定され、部外秘などとされており、また、「外部に漏洩することのないよう厳に注意されたい」旨の通達を添えて配布されたものであった。
両表を漏洩したということで被告人は起訴されたというのが本件である。
本件第1次1審は、被告人を無罪とした。本件第1次2審は、1審を破棄して、事件を差戻した。第2次1審は、被告人を無罪とした。第2次2審は、被告人を有罪とした。最高裁は、適法な上告理由にあたらないとしてこれを斥けたうえで、職権で次のように判示した。

■決定要旨
「国家公務員法100条1項の文言および趣旨を考慮すると、同条項に言う秘密であるためには、国家機関が単にある事項につき形式的に秘扱の指定をしただけでは足りず、右秘密とは、飛行地の事項であって、実質的にもそれを秘密として保護するに価すると認められるものをいうと解すべき」

■解説
・秘密の意義について、形式秘説と実質秘説が対立していたが、ラストボロフ事件控訴審を除き、すべての判例が形式秘説を採用していた。
・とはいえ、最高裁判例はいまだ出ておらず、本決定が実質秘説を最高裁も採用することを明らかにした。
・本決定以後も、本決定を確認する判例が出ており、確固たる判例として本判決は位置づけられている。」
・行政庁による秘指定も秘密の要件のひとつであるとする見解もあり、また本決定も形式的に秘扱の指定をしただけでは足りずとしていることから形式的な秘扱も必要であるとしていると読めないでもないが、意識的な判示ではないであろう。
・もっとも、行政庁には秘指定のされてないものでも実質秘性の高いものが存在しているし、そもそも、公務員が職務上知りえた秘密がすべて文書化されるわけではないから、秘指定を秘密の不可欠の要件とすることはできないであろう。

48:弁護士法に基づく犯罪照会
【最判昭和56年4月14日】

■論点
・前科等の個人情報をみだりに公開されないことが法律上保護される利益にあたるかどうか。

■事案の概要
訴外株式会社A自動車教習所の技能職員であったもの(以下X)が、その解雇の効力を争っていたところ、Aからこれらの事件について委任されていた弁護士が、弁護士法23条の2に基づき照会の申出をなし、これを受けた今日と弁護士会が伏見区役所に対して「中央労働委員会、京都地方裁判所に提出するため」という理由でXの前歴等を照会したところ、伏見区役所から回付を受けた中京区長は、弁護士会宛に、Xの前科を報告した。
そして、これを知ったAの幹部らは、中央労働委員会および京都地方裁判所の構内等において、審理終了後に事件関係者や傍聴のために集まっていたものらの前でXの前科を摘示した。
Xは中京区長が過失によって前科の報告をしたことにより自らの知られたくない権利を侵害されたとして京都市(以下Y)に対して損害賠償を求めたのが本件である。
1審は、Xの請求棄却、2審は、Xの請求を一部認容した。
■判旨
上告棄却。
「前科等は人の名誉信用に直接かかわる事項であり、前科等のあるものもこれを妄りに公開されないという法律上の保護に価する利益を有するのである。」

「市区町村長が、本来選挙資格の調査のために作成保管する犯罪人名簿に記載されている前科等をみだりに漏洩してはならないということはいうまでもない。」

「・・・・・・弁護士法23条の2に基づく照会に応じて報告することも許されないわけのものではないが、その取り扱いには格別の慎重さが要求される。」

■解説
・弁護士会からの一般的な理由による照会に対して、報告を禁止されていない場合に当たるのか否かを厳格に審査することなく漫然と個人情報を提供したことに過失を認めたという点において本判決の意義が認められる。
・逆に、弁護士会による照会に対して報告しなかったことの違法性の意識が争われた事案においては、被照会者が報告義務を負うとした裁判例もあることから、被照会者は報告すべき個人情報の種類や範囲についての情報取り扱いの慎重さが要求されることとなり、本判決の意義も再確認されることとなる。

49:政令の公布
【最判昭和32年12月28日】

■論点
・被告人らの指令で行われた昭和23年7月31日の時点で政令201号が適用されるか否か。

■事実の概要
被告人らは当時の国鉄労組支部の闘争委員長等であった。
被告人らは、政府が占領軍最高司令官の指示に基づき、現業に従事する公務員の争議行為を国家公務員法の改正実施まで暫定的に禁止し、これに違反するものに対しては刑事罰を科す旨を定めた政令201号を昭和23年7月31日に公布、即日施行したことに対し、同日、国家公務員法の改正を阻止する目的でもって同支部組合員に対し、争議行為の指令を発した。
そのため、被告人らは昭和23年政令201号違反により起訴された。
差戻し後の原審では、法令の公布は官報によるとの不文律が存在しており、かつ、官報発送の手続き開始時の8月2日が公布の時であるとし、7月31日の被告人らの争議行為の指令は政令公布前の行為であるとして、それらの行為について無罪とした。

■判旨
上告棄却。
「成文の法令が一般的に国民に対し現実にその拘束力を発動するためには、その法令の内容が一般国民の知りうべき状態に置かれることが前提要件とせられるのであって、このことは、近代民主国家における法治主義の要請から言って、まさにかくあるべきであることといわざるを得ない。」

「公式令の廃止後は、法令公布の方法については、一般的な法令の規定を欠くにいたったのであって、実際の取り扱いとしては、公式令廃止後も、法令の公布を官報をもってする従前の方法が行われてきたことは顕著な事実ではあるが、これをもって直ちに、公式令廃止後も法令の公布は官報によるとの不文律が存在しているとまではいえないことは所論のとおりである。」
「しかしながら、公式令廃止後の実際の取り扱いとしては、法令の公布は従前どおり官報によってなされてきていることは上述したとおりであり、特に国家がこれに代わるほかの適当な方法をもって法令の公布を行うものであることが明らかな場合でない限りは、法令の公布は従前どおり、官報をもってせられるものと解するのが相当であって、たとえ事実上法令の内容が一般国民の知り得る状態に置かれえたとしても、いまだ法令の公布があったとすることはできない。」

■解説
・公布制には、形式的公布制と実質的公布制があり、形式的公布制とは、特定の形式的行為を持って了知したとみなす制度であり、実質的公布制とは、法の内容をすべてのものに実際に通達了知せしめる制度を指す。
・わが国においては、形式的公布制が採用されており、本判決においても、事実上一般国民の知り得る状態に置かれたとしても、いまだ法令の公布があったとすることはできないとされている。
・また、本判決の当該部分によって、特定の形式的行為としての社会的公布の余地は否定された(NHKラジオによる公布方法など)。
・確かに本判決は官報による公布が不文律であることを認めた判決ではないが、法治主義の原理から法令の施行要件としての公布制は形式的公布制であることを一般的命題として、官報による法令の公布はそれに適合していると判断したものであると解することができよう。
・官報による公布の方法が維持されて60年以上が経過し、かつ、本判決のような判例もいくつか出ていることから、官報による公布の方法は慣習法化されたといってよいであろう。
・故に、新しい方式を採用するに当たっては立法措置が必要であるといえる。

50:委任立法
【最判昭和33年7月9日】

■論点
・酒税法施行規則61条9号の規定によって税務署長に記載事項とするものの決定権を与えていることが罪刑法定主義に違反し、違憲無効とならないか。(再委任の憲法適合性)

■事案の概要
酒税法は酒類製造業者の帳簿記載事項を規定し、その違反者には刑事罰を課していた。
また、同54条の委任に基づき、酒税法施行規則では、当該帳簿記載事項を具体化するとともに、細目規定を税務署長の指定に再委任していた。
被告人は、酒桶にいれてあるぶどう酒の滓やぶどう酒をほかの桶に入れ替えて種類の容器移動をしながら、所定の帳簿にその移動事項の記載を怠ったところ、それが税務署長の指定事項に該当するとして起訴されたというのが本件である。
1審、2審は、被告人を有罪とした。

■判旨
上告棄却。
「54条の規定は、罪となるべき前提要件たる帳簿の記載義務を規定したものということができる。」

「54条は、その帳簿の記載等の義務の主体およびその義務の内容たる製造、貯蔵または販売に関する事実を帳簿に記載すべきこと等を規定し、ただ、その義務の内容の一部たる記載事項の詳細を命令の定めるところに一任しているに過ぎないのであって、立法権がかような権限を行政機関に付与するがごときは憲法上差し支えないことは、憲法73じょう6号本文およびただし書の規定に徴し明白である。」

「酒税法施行規則61条はその1号乃至8号において、帳簿に記載すべき事項を具体的且詳細に規定しており、9号はこれらの規定にもれた事項で各地方の実情に即し記載事項とするべきものを税務署長の指定に委ねたものにすぎず、酒税法54条の委任の趣旨に反しないものであり、違憲なものではない。」

■解説
・委任立法が許容される根拠は、憲法73条6号において、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることはできないという規程に形式的にはもとめられることになる。
・また、実質的理由としては、議会審議の時間的制約と大量性、立法事項の高度な専門技術性、現代統治に付随する予測不能性、緊急事態で求められる迅速性・機動性、委任立法の柔軟性、政治的中立性が求められる行政領域の存在等が挙げられ、条理上当然に容認されるものとされている。
・とはいえ、常に憲法規範との整合性が担保される必要がある。憲法上委任立法という法形式は、国会中心立法原則と整合する限りにおいて許容されるのであって、実質的に、行政独自の立法に繋がる一般的・包括的白紙委任は禁止され、あくまでも個別・具体的委任であることが要求される。
・すなわち、国が原則的事項について法律で定め、細目的事項の定立につき、その受任機関が従うべき目的・基準を授権法で規定した上で、初めて委任しうるにとどまる。
・再委任については、憲法上の根拠を欠いており、学説上多岐に意見が分かれている。
・再委任を承認する見解から言っても、税務署長の指定への再委任は通例ではなく、憲法適合性に大きく疑問が生じる。憲法上本件のような再委任の可否は、国会中心立法原則に加えて、罪刑法定主義と整合する程度に法廷要件を担保するか否か、即ち上記委任立法の限界と同種の問題に帰着するのである。
・故に、個別具体的委任の原則に沿って、授権法が限定的に委任した事項の範囲内で、その一部の細目事項を再委任することを前提とし、さらに、授権法が当該再委任を許容する限りにおいて、違憲の評価は回避しえよう。