学説判例研究~行政法~ノート~51-55事件

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行政判例ノート 51~55

51:委任の範囲(1)
【最判昭和46年1月20日】

■論点
・農地法80条1項の買収農地の売払制度について、売払の基準の政令への委任と、その範囲の限界

■事実の概要
昭和22年12月、自作農創設特別措置法により、Xらの農地が買収されたが、その一部は売渡処分のないままに保留されていた。その後当該土地は、昭和28年12月に京都農政局長の認許によってI土地区画整理地区に編入され、昭和36年11月にY1(愛知県知事・被告)によって、農地法(以下、法)36条に基づき訴外Aらに売り渡された。Xらはこの売渡処分につきY2を相手に裁決取消しおよび当該土地のXらへの売渡し義務確認を求めて出訴した。
1審、2審ともXらが敗訴。
■判旨
裁決取消請求を却下。他の請求につき破棄差戻し。

・農地法施行令(昭和46年改正前)旧16条の法適合性
「私有財産の収用が正当な補償のもとに行われた場合においてその後にいたり収容目的が消滅したとしても、法律上当然に、これを被収容者に返還しなければならないものではない。しかし、収用が行われた後当該収用物件につきその収容目的となった公共の用に供しないことを相当とする事実が生じた場合には、なお、国にこれを保有させ、その処置を原則として国の裁量にまかせるべきであるとする合理的理由はない。したがって、このような場合には、被収容者にこれを回復する権利を保障する措置を取ることが立法政策上当を得たものというべく、法80条の買収農地売払制度も右の趣旨で設けられたものと解すべきである。」

「(令16条4号が、)買収農地のうち法80条1項の認定の対象となるべき土地を買収後新たに生じた公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用に供されることが確実なものに制限していることは、その規定上明らかである。その趣旨は、買収の目的を重視し、その目的に優先する公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用に供されることが確実な場合に限り売り払うべきこととしたものと考えられる。同項は、その規定の体裁からみて、売払いの対象を定める基準を政令に委任しているものと解されるが、委任の範囲にはおのずから限度があり、明らかに法が売払の対象として予定しているものを除外することは、前記法80条に基づく売払制度の趣旨に照らし、許されないところであるといわなければならない。」

「農地買収の目的に優先する公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用に供されることが確実であるという場合ではなくても、当該買収農地自体、社会的、経済的にみて、すでにその農地としての現況を将来にわたって維持すべき意義を失い、近く農地以外のものとすることを相当とするもの(法7条1項4号)として、買収の目的である自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする状況にあるといいうるものが生ずるであろうことは、当然に予測されるところであり、法80条は、もとよりこのような買収農地についても旧所有者への売払いを義務付けているものと解されなければならないのである。」

「したがって、同条の認定をすることができる場合につき、令16条が、自創法3条による買収農地については令16条4号の場合にかぎることとし、それ以外の前記のような場合につき法80条の認定をすることができないとしたことは、法の委任の範囲を超えた無効のものというのほかはない。」

■解説
・本判決は、自作農創設という戦後の農地改革の理想が実現し得なかった買収土地-農地になりえない未墾地や、農業地帯の都市化の進展により、農地として維持保全することに適しなくなった土地等-が当時かなり広く国の管理の下にあったため、多くの旧地主が売払いを求め、相当数の下級審判決が出されつつあったという状況下で、旧地主の法的地位をかなりストレートに認め、法解釈上の問題としても、また土地政策の問題として多くの論議を喚起した。

・法(旧)80条は、国が強制買収により取得した農地等につき、農林大臣が「政令で定めるところにより、自作農の創設又は土地の農業上の利用の増進の目的に供しないことを相当と認めたときは」(同条1項)、旧所有者に売り払わなければならない(同条2項)旨を定めていた。ところがこれをうけた令旧16条4号は、買収農地について上記の認定ができる場合を、「公用、公共用又は国民生活安定上必要な施設のように供する緊急の必要があり、且つ、その用に供されることが確実な土地等」に限定していた。
本判決は、法80条の規定は売払農地認定の対象について、同条1項の上記引用部分以外になんらの限定も加えていないものと解し、そのような解釈を前提として、これを特定の場合に限定している令旧16条を無効と判断した。本判決の意義の一つは、現行憲法下で制定された政令を無効としたおそらく初めての判決という点にある。

・行政立法に関する通説によれば、現行憲法も行政機関が定立する法(「命令」とも呼ばれる)を許容しており(73条6号)、これには法規たる性質を有する法規命令と、法規たる性質を有しない行政命令(「行政規則」ともいう)とがある。前者の法規命令は、法律の委任に基づく「委任命令」と、法律を執行するための「執行命令」とに限られ、「独立命令」は憲法上許されない。

・本件で問題となった令旧16条は、法80条の明示の委任を受けて、行政庁の認定と売払いの用件をさらに具体的に定めたものと解される。・・問題は、法80条の合理的解釈として令旧16条による限定が正当化し得るか否かということになる。

52:委任の範囲(2)
【最高裁平成3年7月9日】

■論点
・旧監獄法50条に基づく旧監獄法施行規則120条の適法性

■事実の概要
旧監獄法(以下、法という)45条1項は、「在監者ニ接見センコトヲ請フ者アルトキハ之ヲ許ス」とし、法50条は、「接見ノ立会・・其他接見・・ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」と定めていた。これを受けて、旧監獄法施行規則120条は、「14歳未満ノ者ニハ在監者ト接見ヲ為スコトヲ許サス」とし、規則124条は、「所長ニ於テ処遇上其他必要アリト認ムルトキハ前4条制限ニ依ラサルコトヲ得」と規定していた。
罰初物取締役罰則違反等により起訴され、昭和50年7月より、東京拘置所に勾留されていたXは、拘置所長に対し、義理の姪(当時10歳)との面会許可を申請した。しかし、拘置所長は、Xに対して規則120条に尾とづく本件不許可処分をした。そこでXは、①規則120条が法50条の委任を超えて違法である、②仮に規則が適法であるとしても本件不許可処分が裁量権を逸脱・濫用し違法であると主張し、国家賠償法1条1項に基づき、Y(国)に対して慰謝料を請求した。
1審、2審は、本件不許可処分について裁量権の逸脱・濫用を認め、Xの請求を一部認めた。

■判旨
破棄自判
被勾留者は、「当該拘禁関係に伴う範囲外においては、原則として一般市民としての自由を保障される。」

「法45条は、被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合があることを考慮して、(ア)逃亡又は罪証隠滅のおそれが生ずる場合にはこれを防止するために必要かつ合理的な範囲において右の接見に制限を加えることができ、また、(イ)これを許すと監獄内の規律又は秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で右の接見に合理的な制限を加えることができる、としているにすぎないと解される。この理は、被勾留者との接見を求める者が幼年者であっても異なるところはない。

「これを受けて、法50条は、・・命令をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めているが、もとより命令によって右の許可基準そのものを変更することは許されないのである。」

「規則121条ないし128条の接見の態様に関する規定と異なり、」「規則120条が原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則124条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。しかい、これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない。」

「被勾留者も当該拘禁関係に伴う一定の制約の範囲外においては原則として一般市民としての自由を保障されるのであり、幼年者の心情の保護は元来その監護に当たる親権者等が配慮すべき事柄であることからすれば、法が一律に幼年者と被勾留者との接見を禁止することを予定し、容認しているものと解することは、困難である。そうすると、規則120条(及び124条)は、原審のような限定的な解釈を施したとしても、なお法の容認する接見の自由を制限するものとして、法50条の委任の範囲を超えた無効のものというほかはない。」

■解説
・日本国憲法は、法律の委任に基づく行政機関の立法(委任立法)を許容している(73条6号但書参照)。しかし、委任立法も無制限に許されるわけではない。委任立法の限界は、白紙委任の禁止(授権法の合憲性)と委任逸脱の禁止(委任立法の適法性)という2つの見地から問題となる。本件は後者に関わる事案である。・・本判決の意義・特徴は、①委任立法を違法とした先駆的判例であること、②規律対象利益の性質・関係法規・授権条項を精査する解釈手法を採ったこと、③刑事政策に大きな影響を与えたことである。

・本判決の論理は、こうである。すなわち、①法45条は被勾留者と外部者の接見を原則として許しており、その接見は例外的に「逃亡又は罪証隠滅の防止」と「監獄内の規律及び秩序の維持」の目的で制限されうるにすぎない、②法50条が規則に委任したのは「面会の態様」に関する制限であって上記①の「許可基準」自体の変更ではない、③上記①の原則と例外を逆転させる規則120条と124条は、その「幼年者の心情の保護」という目的自体が法の根拠を欠き、かつ、その幼年者接見一律禁止も法の趣旨に反するので法50条の委任の葉煮を超える、という。

53:委任の範囲(3)
【最判平成21年11月18日】

■論点
・地自法85条1項の定める解職請求制度に関して、公選法中の選挙に関する規定を準用するにつき、その委任の範囲

■事実の概要
東洋町の町議会議員の選挙権を有するX1らが行った同町議会議員Aに対する解職請求について、X1らの請求代表者証明書が選挙管理委員会によって交付された後、有権者の3分の1を越える1124人の署名が集められ解職請求者名簿が提出されたところ、同選挙管理委員会は、署名簿の署名をすべて無効とする決定(以下、本件無効決定)をなした。これに対し、X1らが異議の申出をしたところ、同委員会は、X1が農業委員会委員であり、地自法74条の3・1項1号の「法令の定める成規の手続によらない署名」であるとの理由で棄却決定をした。そこで、X1らは本件異議決定の取消請求訴訟を提起した。
原審は、「X1は、本件解職請求当時、農業委員会委員であり、解職請求代表者となることができない者であったのであるから、同人が請求代表者の1人に名前を連ねて収集された本件署名簿の署名は、成規の手続によらない署名として無効になるといわざるを得ない」として請求を棄却した。
X1らは、地自令が、自治体の議員の解職請求制度において、自治体の議員の連署による解職請求手続きにも公選法の規定を準用して公務員の請求代表者資格を剥奪していることが、自治体の議員の解職投票手続に公選法の規定を準用する地自法85条1項の委任と執行の範囲を逸脱するものであると主張した。

■判旨
破棄自判
「地自法は、議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という2つの段階に区分して規定しているところ、地自法85条1項は、公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下、選挙関係規定という)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであると解される。」

「地自法85条1項は、専ら解職の投票に関する規定であり、これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって、解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない。」

「しかるに、・・本件各規定は、地自法85条1項に基づき公選法89条1項本文を議員の解職請求代表者資格について準用し、公務員について解職請求代表者となることを禁止している。これは、既に説示したとおり、地自法85条1項に基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって、その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である。
したがって、議員の解職請求において、請求代表者に農業委員会委員が含まれていることのみを理由として、当該解職請求者署名簿の署名の効力を否定することは許されないというべきである。」

■解説
・本判決の意義
日本の行政実務では、国民に義務を課しまたは国民の権利を制限する法規命令について、法律による授権が必要な委任命令と法律の執行の細目的事項に限定されるため個別の法律の授権は不要である執行命令とに区別されてきたが、本件では、公選法89条1項の「公職の候補者」の「普通地方公共団体の議会の議員の解職請求代表者」への読替え規定(執行命令)および例外的に公職候補者となりうる同項ただし書の除外規定(委任規定)の両方が「政令の定めとして許される範囲を超えたもの」とされた珍しい事案である。具体的には、すべての公務員が投票を伴う直接請求の代表者になることができないことを定めた本件各規定が、法律の執行および委任の範囲を超えるものとされたのである。

・行政立法による公務員の直接請求代表者資格の制限の適法性
判旨は、地自法が、議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という2つの段階に区分して規定しており、地自法85条1項は、公選法中の普通地方公共団体に選挙に関する規定を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用が許されるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであると解され、これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって、解職請求についてまで政令で規定することを許容する拡張解釈は適切でないとする。

54:学習指導要領の法的性質
【最判平成2年1月18日】

■論点
・学習指導要領は法規性を有するか。すなわち、学習指導要領違反は、“法令違反”となるか。

■事実の概要
福岡県立伝習館高校の社会科教諭であったX1、X2、X3(原告ら)は、1970年6月に、学習指導要領の目標および内容を逸脱した指導、教科書の不使用、考査の不実施と一律評価などを理由として懲戒免職処分を受け、その取消を求めたのが本件である。
1審では、X1の処分は適法とされたが、X2,X3の処分は裁量濫用で取消された。控訴審もこの結論を維持した。
学習指導要領について、それが法規としての性質を有するという原審の判断を正当として是認した。

■判旨
破棄自判・請求棄却・
・高校学校教育は所定の年限でその目的を達成しなければならず、また、教師の影響力は相当あるが、生徒の側の批判能力は十分でなく、教師選択の余地も少ないのであるから、「国が、教育の一定水準を維持しつつ、高等学校教育の目的に資するために、高等学校教育の内容及び方法について遵守すべき規準を定立する必要があり、特に法規によってそのような基準が定立されている事柄については、教育の具体的内容及び方法につき高等学校の教師に認められるべき裁量にもおのずから制約が存するのである。」

・「懲戒事由に該当するX2、X3の前記各行為は、高等学校におけ教育活動の中で枢要な部分を占める日常の教科の授業、考査、ないし生徒の成績評価に関して行われたものであるところ、教育の具体的内容及び方法につき高等学校の教師に認められるべき裁量を前提としてもなお、明らかにその範囲を逸脱して、日常の教育のあり方を律する学校教育法の規定や学習指導要領の定め等に明白に違反するものである。しかも・・法規違反の程度は決して軽いものではない。」

・X2、X3の「得意な教育活動」が同校の混乱を助長するおそれが強く、生徒の父兄に強い不安を抱かせるようなものであった責任と、X2、X3のストライキ参加による処分歴も「法秩序軽視の態度を示す事情」として考慮され、「本件各懲戒免職処分を、社会観念上著しく妥当を欠くものとまではいい難く、その裁量権の範囲を逸脱したものと判断することはできない。」

■解説
・本件は、長らく教育裁判における中心的な争点の1つであった学習指導要領の法的性質論に一定の決着をつけ、「法規」とされた指導要領違反が主たる処分事由である教師の懲戒処分を適法とした初めての最高裁判決である。伝習館高校事件と呼ばれる本件が当初から注目を集めた理由は、公務員教師の懲戒免職処分が、争議行為や非行ではなく、ごく日常的な職務活動である授業や試験について、学習指導要領違反及び教科書使用義務違反という“法令違反”を処分事由に行われた点にある。

・学習指導要領をめぐる対立解釈
1947年に初めて文部省によって作成された学習指導要領は、当初は、教師に対する指導助言・参考文書として位置づけられ、作成主体としては都道府県教育委員会が予定されていた。しかし、この行政解釈はまもなく変更された。1958年小・中学校指導要領が告示されて以降は、学校教育法20条により文部(科学)大臣に授権された「教科に関する事項」の行政立法権が、省令学校教育法施行規則25条「小学校の教育課程については、・・・教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する小学校学習指導要領によるものとする」(54条の2・57条の2)により再委任され、告示形式で公示された学習指導要領は行政立法として法規性を有するとされた。これに対し学説は、指導要領をなお指導助言文書とする「大綱的基準説」を対置した。同説によれば、文部大臣の行政立法権は無制約ではなく、教育の地方自治の原理、旧教基法10条1項(現行教基16条1項)の「不当な支配の禁止」などに制約されるので、教育内容についての法規命令事項は「ごく大綱的な基準」に限定され、この限界を大幅に超えて教育内容に介入する指導要領は指導助言文書と解される限りで適法とされた。

教育憲法裁判のリーディングケースである前記最高裁学テ事件(最判昭和51.5.21。本書Ⅰ-25事件)では、学習指導要領の法的性質について、一定範囲で認められた国の教育内容決定権の一部として、教育基準を設定する場合には、「教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的なそれにとどめられるべき」としながら、当時の指導要領は全国的な大綱的基準の設定として適法と判示した。この最高裁の判示をめぐっては、指導要領の法規性を全面的に認めたか否かで判例解釈の対立が生じたが、本件原審を含め以後の下級審判例では、学習指導要領の法規性が肯定されてきた。

・学習指導要領国旗・国歌条項の法的性質
現段階での争点としては、国旗・国歌法制定以後一段と強化された学校現場への日の丸・君が代の強制をめぐる法的紛争で、その根拠とされる指導要領国旗・国歌条項の法的性質および解釈が問題とされている。

国旗・国歌条項は、教科に関する教育内容基準とは別立ての特別活動の章の1条項である。内容的にも生徒会活動などと並んで特別活動に含まれる学校行事についての記述で、さらにその細目である儀式的行事に位置づけられる入学式・卒業式のみを取り出して、国旗・国歌指導を教師に義務付けたものである。教科と比較して子ども・生徒の自治的活動の側面が強く、それゆえ、地域ごと、学校ごとの創造性の展開の余地の高い特別活動の領域で、内容的にも細目にわたる条項に、法規として全国一律の効力を認められるか否かは、改めて法的吟味の余地があるといえよう。・・一連の日の丸・君が代強制についての最高裁判決(最判平成23.5.30。最判平成23.6.6。最判平成23.6.14)では、起立・斉唱職務命令の適法性判定に当たって、国旗・国歌条項を学校教育法などと並び関係法令の中に引用しており、この条項の法規性を当然の前提としている。

55:漁業調整規則の地域的適用範囲
【最判昭和46年4月22日】

■論点
・漁業法65条1項および水産資源保護法4条1項の委任に基づく北海道海面所業調整規則は、公海上、および外国の領海においても適用があるか。

■事実の概要
北海道海面所業調整規則(以下、本件規則)は、漁業法65条1項および水産資源保護法4条1項の委任により、北海道知事が定めたものである。本件当時の本件規則36条は、漁業権または入漁権に基づく場合を除いて、さけ刺し網漁業(4号)を含む10種類の漁業を禁止し、55条1項で違反者に対する罰則を置いていた。
X(被告人)は、船長兼漁撈長として、昭和42年10月5日に、国後島ノッテット崎西方約3海里付近の海域で、漁業権または入漁権に基づかずにさけ刺し網漁業を営んだため、本件規則36条違反により起訴された。
1審は、本件規則の規制対象は原則として日本の領海と公海に限られており、外国領海と同一視される国後島の領海は含まれていないこと、またXの操業地点が公海上であったとの証明がないことから、Xを無罪とした。控訴審も1審を支持して、検察官の控訴を棄却した。

■判旨
控訴審判決および1審判決を破棄して、本件を釧路地方裁判所に差し戻した。

「思うに、漁業法65条1項および水産資源保護法4条1項の規定に基づいて制定された北海道海面漁業調整規則(以下、本件規則)36条の規定は、本来、北海道地先海面であって、右各法律および本件規則の目的である水産資源の保護培養および維持ならびに漁業秩序の確立のための漁業取締りその他漁業調整を必要とし、かつ、主務大臣または北海道知事が漁業取締りを行うことが可能である範囲の海面における漁業、すなわち、以上の範囲の、わが国領海における漁業および公海における日本国民の漁業に適用があるものと解せられる。そして、わが国の漁船がわが国領海および公海以外の外国の領海において漁業を営んだ場合、特別の取決めのないかぎり、原則として、わが国は、その海面自体においてはその漁船に対する臨場検査等の取締り(漁業法134条参照)の権限を行使しえないものである。しかし、前記各法律および本件規則の目的とするところを十分に達成するためには、何らの境界もない広大な海洋における水産動植物を対象として行われる漁業の性質に鑑みれば、日本国民が前記範囲のわが国領海および公海と連接して一体をなす外国の領海においてした本件規則36条の漁業禁止の規定およびその罰則である本件規則55条は、当然日本国民がかかる外国の領海において営む漁業にも適用される趣旨のものと解するのが相当である。すなわち、本件規則の性質上、わが国領海内における同規則36条違反の行為のほか、前記範囲の公海およびこれらと連接して一体をなす外国の領海において日本国民がした同規則36条違反の行為(国外犯)をも処罰する旨を定めたものと解すべきである。」

■解説
・本件規則は、法律の委任を受けて地方公共団体の長が定めた都道府県規則であり、その本質は府令・省令(行組12条1項)と同様である。地方公共団体の条例と規則とでは、一般に条例が規則に優位するが、本件規則は法律の授権があることにより条例に優位する。また、本件規則は国民の権利義務に関わる規定であって外部的効力を有するため、その本質は行政規則ではなく、法規命令のうちの委任命令である。

・法例の適用範囲は、その効力の限界をどこに見るかという問題に置き換えることができる。法例の効力には、時間的限界と地域的限界がある。本判決で問題となったのは、本件規則の地域的限界である。

・本件規則は、さけ刺し網漁業を禁じた本件規則36条の適用範囲について、特に規定していない。ただし、本件規則は、「漁業法第84条第1項に規定する海面における水産資源の保護培養及びその維持を期し並びに漁業取り締まりその他漁業調整を図り漁業秩序の確立を期すること」(本件規則1条)を目的とするものである。
漁業法84条1項の規定する海面とは、本判決も引用する告示により、北海道の地先海面になる。そこで、本件規則は、北海道の地先海面である日本の領海に適用がある。続いて、北海道地先海面の日本の領海に連接する公海については、「公海の自由」により全ての国に漁獲の自由が保障されており、北海道知事は属人的にその権限を行使することができる。最後に、外国の領海への本件規則の適用の問題が残り、ここで本件控訴審および1審と最高裁判所の判断が分かれたわけである。控訴審および第1審判決は、日本の実効的支配が現実に及んでいない海面においては、北海道知事の権限の行使は考えられないことを理由に、本件規則の適用を否定した。北海道知事が、さけ刺し網漁業を許可できない以上、処罰もできないとの論理である。
これに対し、最高裁判所は、北海道知事の権限行使の可否からではなく、本件規則の目的および保護法益から本件規則の適用範囲を判断した。本件規則の目的は、①漁場の独占回避、②濫獲による資源荒廃の回避、③事業者の濫立による紛争回避、にある。漁業の成立からすると、本件規則を日本の領海およびそれに連接する公海に適用しただけでは、これらの目的の実現は困難といわざるを得ない。そこで、本判決は、属地主義を前提としつつも、日本国民が日本の領海及び公海と連接して一体をなす外国の領海においてする行為について、本件規則の適用を認めた。

・本判決は、法令の適用について属地主義を原則としつつも、法令の目的および保護法益に基づき属人主義をとる余地があることを示した点で、重要というべきであろう。