レポート集~政治~ロールズのリベラリズム

この記事の所要時間: 50

政治レポート

ロールズのリベラリズムについて述べよ。

現代リベラリズムの代表であるロールズは、次のように考える。
「まず、共通の規範が存在しない状態を想定し、そこにおかれた人々がどのように考え、どのような規範に合意するかシミュレーションをしてみようと言うのである。このシミュレーションの場をロールズは原初状態(original posithion)と呼んでいる。原初状態におかれた人々は自らの善の構想を合理的に追究しようとしている。しかし、原初状態では資源が希少であるために、人々の間に不可避的に争いが生じるのである。そこで人々はこの争いを調停するための規範を求めることになる。ここで規範創出のためにロールズは原初状態に一つの道徳的制約をおく。この制約は「無知のヴェール」と呼ばれるものである。つまり、人々は共通の規範を構想する場合、自ら自身についての特定情報(たとえば性差、年齢、能力、社会的地位等)を知らないとされるのである。無知のヴェールという考えは突飛なものに思えるかもしれないが、新規にゲームのルールをつくる時と同じことである。たとえば、トランプのポーカーゲームでカードの強さをゲームごとに変えるという方法を採用する場合を考えてみよう。この場合、カードの強さを任意に決めるのは、各プレーヤーにカードの配分がなされる前でなければならない。仮にカードを配り終わった後で、カードの強さを決めるとなると、各プレーヤーは自分の手持ちカードを見て、自分に有利なルールを主張することになる。つまり、ルールは自分に配られるカードについて無知な状態で決め
るのが公正なのである。原初状態での無知のヴェールの場合も同様である。自分についての特定情報を知っていたら、自分に有利なルールを各人が主張することになり、収拾がつかなくなるばかりか公正なルールができなくなってしまう。規範の公正さを保障するのがこの無知のヴェールなのである。さらに無知のヴェールが設定されるこ
とで、人々は不確実性下におかれるとロールズは言う。その結果、人々は無知のヴェールが除去された時、自らが最も惨めな状態におかれることを心配し、それを避ける規範に合意するだろう、とロールズは主張する。

次にロールズは原初状態という思考実験を人々の熟慮のプロセスの中に位置づける。まず思考実験を通して得られた規範を各人のよく考えられた道徳的判断とつきあわせてみる。各人の判断と規範が合致すればそれは正当な規範となる。しかし一致しない場合がある。その時には、再度熟慮して自分の判断を修正するか、あるいは規範を修正するかのいずれかの作業に取り組むことになる。規範の修正のためには、規範を導き出す原初状態を構成する条件群の修正を行い、再度、シミュレーションを行ない、規範を導出するのである。このような循環プロセスを経て、各人の判断と原理が合致する均衡点を模索することで規範の正当化を行うのである。このプロセスをロールズは「内省的均衡」(reflective equilibrium)と呼んでいる。このようなロールズの方法は、各人の熟慮のプロセスと合理的決定の理論とを結びつけるという斬新なものである。この方法の特徴は、第一に正義という規範の導出に各人の合意をおくという点で社会契約論の伝統に立つものであること、第二に無知のヴェールによって、どんな善の構想をもつ人も合意できる規範が導出でき、それによって価値分裂した社会において、各人の価値=善から独立した規範が確定できる点にある。」
「ロールズがこのような方法で正義という規範を提出しようとしたのは、一方では……価値分裂が社会分裂に進まないため規範が必要であると考えたことと、他方で、現代社会の規範の主流である(と、ロールズが考えている)功利主義が深刻な問題をもっているとの判断があったことにある。ロールズが念頭においているのは、J.ベンサ
ムによって「最大多数の最大幸福」として定式化され、H.シジウィックらによって洗練され、その後、現代経済学の基礎哲学となった功利主義である。
ロールズが考える功利主義の問題点はおおよそ次の三点である。第一は「最大多数の最大幸福」が少数者切り捨ての論理になりうることである。たとえば、誰かの自由を犠牲にすることで社会全体の幸福の総量が増加するならば、功利主義は論理的にそのような犠牲を容認しかねないのである。第二は社会全体で総計化された幸福(満足)
を各人にどのように分配するのかについてコントロールする分配基準を持ち合わせていない点である。第三は幸福や満足の源泉を問題にしないことである。つまり、功利主義は善の最大化をもって正=正義とする目的論的論理なのである。ロールズはこうした功利主義の難点を克服するために、まず正=正義を定式化し、そのルールに抵触しない限りにおいて、各人は自らの善の構想を自由に追究すべきと考える。このような善に対する正の優先生を提唱する論理を義務論的論理と呼ぶ。ロールズは功利主義にかわり社会の基本構造を規制する規範=正義の原理として具体的に以下の二原理を提案する。この二原理こそ先の思考実験ならびに内省的均衡によって導出され正当化されるとロールズが考える原理なのである。
第一原理 各人は基本的な自由の最も広い体系に対する平等な権利をもつべきであ
るが、このような自由の体系は他者の同様の体系と両立しなくてはなら
ない。
第二原理 社会的、経済的不平等は次の二つの条件を満たしていなければならない。
(a)機会の公正な均等という条件の下で全員に開かれている公職や地位に
ともなうこと。(b)社会の最も恵まれない人の状況を改善すること。
この正義の二原理は、いかなる善の構想をもっている人も合意でき、したがって、価値が多元化した社会に社会統一をもたらすことができる規範であると、ロールズは考えている。」(有賀誠・伊藤恭彦・松井暁『ポスト・リベラリズム 社会的規範理論への招待』8-10 頁, 2000 年)

フォローする