学説判例研究~憲法~義務規定

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憲法学説判例研究

義務規定


明治憲法と日本国憲法の人権保障規定

明治憲法の下では、兵役の義務(20 条)、納税の義務(21 条)、教育の義務(これは憲法ではなく、勅令により定められた)が臣民の3 大義務と呼ばれていた。明治憲法の人権規定は「臣民権利義務」という標題の第2章であるが、そこでの人権保障は、生来の人権という考え方からは遠く、むしろ実際の運用においては、国民の国家に対する義務の方が強調される傾向にあった。これに対して日本国憲法の人権保障規定は、生来の人権を強く保障しようとするものであり、この点からみれば、国民の義務の強調には本来なじまない性質のものである。


義務規定の意義

もともと近代憲法の人権保障体系は、人の生来の自由や権利の名において、国家が国民を支配する限界を示そうとするものであった。国家はその一般統治権に基づいて、人権の相互調整や福祉の増進のために、国民に対してさまざまな義務を課すことができるが、それは法の支配に基づき、国会の立法によることが必要であり、しかも国民の憲法上の権利を侵害しない範囲内にとどまらなければならない、ということこそが立憲主義の要請である。国家のなかでの国民の義務は、そのような限度で一般的には法令遵守義務として存在し、法令の個別の定めによって具体化されるものであり、ことさら憲法の人権保障規定の中で規定することの意義は乏しいといわなければならない。国民の憲法上の義務を定めているのは、12 条の一般的義務規定、26 条(教育)、27 条(勤労)、30 条(納税)の個別規定であるが、それらは具体的な法的義務を定めたものではなく、一般に国民に対する倫理的指針としての意味、あるいは立法による義務の設定の予告という程度の意味をもつにとどまっている。」(野中・中村・高橋・高見「憲法Ⅰ 第3 版」511-512 頁)


人権保持の義務

「憲法12 条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ」と定めている。この規定は、人権の歴史的性格とその保持のために必要な国民の責務をうたったもので、国民にとっての精神的指針という意味は大きいが、それ以上になんらかの具体的な法的義務を国民に課した規定であるとは解されていない。その内容は、「自由・権利の保持の義務」「自由・権利を濫用しない義務」「自由・権利を公共の福祉のために利用する義務」というように分解できるけれども、どちらにしてもこれらが直接の法的効果を生じさせるものではないという点で、学説は一致している。」(野中・中村・高橋・高見「憲法Ⅰ 第3 版」512 頁)


教育の義務

「憲法26条2項前段は「すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ」と定めている。これは、第1 項の「教育を受ける権利」を実質化するための義務の定めであり、したがって国民のこの義務は、形式的には国家に対するものであるが、実質的にはその保護する子女に対するものだということができる。最高裁もこの点につき、「単に普通教育が民主国家の存立、繁栄のため必要であるという国家的要請だけによるものではなくして、それがまた子女の人格の完成に必要欠くべからざるものであるということから、親の本来有している子女を教育すべき責務を完うせしめんとする趣旨に出たものである」と判示している(最大判昭和39 年2 月26 日民集18 巻2 号343 頁)ここで定められている義務は、教育基本法や学校教育法において具体的内容を与えられている。」(野中・中村・高橋・高見「憲法Ⅰ 第3 版」513 頁)


勤労の義務

「憲法27 条1 項は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」と定めている。この義務の内容は、一般に働く能力のあるものは自らの勤労によってその生活を維持すべきだということであって、それ以上に国家が国民に対して勤労を強制するようなことの法的根拠にはならないと解する。この義務規定の意義については、…「社会国家の根本原理を定めたもの」、すなわち「働かざる者は、食うべからず」の原理とその根本精神を同じくすると解し、社会国家的給付に内在する当然の条件として、働く能力があり、その機会もあるのに、働く意欲をもたず、また実際に働かない者は、生存権の保障が及ばないなどの不利益な扱いを受けても仕方ないという意味が含まれていると解する説が有力である(宮沢・憲法Ⅱ328-29)。実際に、生活扶助その他の社会国家的給付を定める法律においては、勤労の義務を尽くしたことが給付の条件とされており、たとえば生活保護法4 条1 項は「保護は、生活に困窮する者が、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」と定めている。」(野中・中村・高橋・高見「憲法Ⅰ 第3 版」514 頁)


納税の義務

「憲法30 条は「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」と定めている。この義務は、国民主権国家においては、国民の納める税金によってのみ国家の財政が維持され、国家の存立と国政の運営が可能となることからして、国民の当然の義務と解されている。この義務の具体化は、「法律の定めるところにより」行われる。憲法84 条の租税法律主義の趣旨が、ここに重ねて述べられているわけである。」(野中・中村・高橋・高見「憲法Ⅰ 第3 版」515 頁)

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