学説判例研究~行政法~ノート~61-70事件

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行政判例ノート 61~70

61:相手方への到達
【最判平成11年10月22日】

■論点
・行政行為の効力の発生時期は相手方に到達したときに生じる

■事実の概要
特許権の存続期間は、特許出願の日から20年である(特許法67条1項)。しかし、その特許発明につき安全性の確保等を目的とする法律により相当の時間がかかり、その間特許権の独占実施による利益を受けられないことがある。そこで特許発明の実施を2年以上することができなかったときは、5年を限度として延長を認める制度が設けられた(67条3項)。
本件においてA社は「新規ポリペプチド類その製造方法等」に関する特許権を有しており、この特許発明につきA社はB社に実施の許諾をあたえた。B社は薬事法23条において準用する14条4項に基づく医薬品輸入承認事項一部変更承認を得た。そこでA(後にC社と合併してX社となる)はBが承認書を受領した日の前日を始期として延長登録の出願をした。これに対し特許庁は承認の日の前日が延長登録の始期になるとしたのでXはこの判断を不服として訴えを提起した。
1審、2審とも、Xの請求を棄却した。

■判旨
破棄自判。
「医薬品の製造又は輸入を業として行うためには薬事法による許可を受けなければならないが、その許可の申請者が、製造又は輸入しようとする医薬品につき承認を受けていないときは右許可を受けることはできない。」

「承認は、医薬品の有効性、安全性を公認する行政庁の行為であるが、これによってその申請者に製造業等の許可を受け得る地位を与えるものでもあるから申請者に対する行政処分の性質を有するものということができる。そうすると、承認の効力は特別の定めがない限り当該承認が申請者に到達したとき、すなわち、申請者がこれを現実に了知し又は了知し得べき状態に置かれたときに発生すると解するのが相当である。」

■解説
・一般に個別の行政処分については特別の規定がない限り、その意思表示が相手方に到達したときであると解されている。

62:税理士懲戒処分の効力発生時期
【最判昭旧和50年6月27日】

■論点
・行政行為の効力発生時期。

■事実の概要
XはY(国税庁長官)から昭和39年11月2日付で「1年の税理士業務の停止」の懲戒処分に処せられた。Xは異議申し立てをしたが却下されたため昭和40年12月2日、懲戒処分取り消しの訴えを提起したところ1審2審は懲戒処分は税理士に告知したときによりその効力を生じるものと解すべきであり、右懲戒処分は遅くとも右異議申し立ての前日までにXに対してその効力を生じており昭和40年12月29日以降その効力を失っているとした。これに対しYは懲戒処分の効力は当該処分の争訟等が終了したとき(確定時)に生ずると解すべきであるとして上告した。
1審は、本件懲戒処分が仮に違法であるとしても、Xはその取消しによって法律上の利益を回復しうる余地がないとして、本件訴えを却下した。2審も控訴を棄却した。

■判旨
原判決破棄、第1審判決取消し、本件を第1審裁判所へ差戻した。
「行政処分は原則としてそれが相手方に告知されたときにその効力を発生すると解すべきであるが、法律が効力の発生につき特別の定めをしている場合には、その定めに従うべきものである。そして、法律が特別の定めをしている場合とは法律が直接明文に規定をしている場合に限らず、当該法律全体の趣旨から特別の定めをしていると解される場合も含む。」

「税理士法が懲戒処分の効力の発生に伴う措置やこれを前提とする不利益な効果の付与を懲戒処分の確定にかからせていることから考えると同法は税理士に対する懲戒処分の効力の発生時期をその処分の確定したときとしていると解するのが相当である」

■解説
・相手方のある行政行為が現実に効力を発生するためには、相手方に到達しなければならない。ただし、法律の規定によって効力の発生時期が定められることがある。本件最高裁判所は懲戒処分の効力発生に伴う措置やこれを前提とする不利益な効果の付与を明文上(・・・)、懲戒処分の確定にかからせていることから効力発生を確定時であると判断している。

63:毒物劇物輸入業の登録
【最判昭和56年2月26日】

■論点
・本件登録は羈束行為か行政裁量行為か

■事実の概要
Xは護身用としてストロングライフ(ブロムアセント稀溶液を霧状に噴射し相手を一時的に開眼不能にする携帯用噴霧器)を輸入販売していたが、毒物及び劇物取扱法改正によりY(厚生大臣)による輸入業登録と都道府県知事による販売業の登録が必要となった(3条2項・4条1項)Xは販売業者の登録は受けたものの法定登録拒否事由以外の理由(使用の目的等)により輸入業登録は拒否処分となった。そこでXは本件処分の取消し訴訟を提起した。
1審は、本件処分を適法とし、2審は、本件処分を違法とした。

■判旨
上告棄却。
「毒劇法は登録を拒否しうる場合をその者の設備が毒物及び劇物取扱法施工規則4条の4で定める基準に適合しないと認めるときだけに限定している(5条)。毒物及び劇物取締法
自体は毒物及び劇物の輸入業等の営業の規制は、専ら設備の面から登録を制限することをもって足りるものとし、毒物及び劇物がどのような目的でどのような製品に使われるかについては、特定毒物の場合のほかは直接規制の対象とせず、他の個々の法律がそれぞれの目的に応じて個別的に取り上げて規制するのにゆだねる趣旨であると解するのが相当である。」

■解説
・登録は一般に公証行為に属し一定要件を充足する場合、行政庁に効果裁量がないのが原則である。最高裁は、本件登録に関し法定されている事由以外のものを根拠に登録を拒否できるか否か着目し判断している。

64:納税告知
【最判昭和45年12月24日】

■論点
・納税告知は行政処分か

■事実の概要
XはA(所轄税務署長)の税務調査を受け、Xの元役員Y1、Y2に対しての簿外定期預金等の払い出し及び物権の定額譲渡が両者に対する賞与と認定された。そして、Aは本件賞与につき源泉徴収義務を負うXに対し、Y1、Y2にかかる所得税等の支払いを求める納税告知をした。Xはそれに従い納付したが、同時に異議申し立てさらに審査請求を行ったものの請求は棄却された。よってXはY1、Y2に対して納付金額及び利息の支払いを求めて訴えを提起した。なお、XはY1、Y2に上記事実を知らせておらず、Y1、Y2はXの異議申し立て等が終了したのちに当該事実を知った。Y1Y2は上記不服申し立てにおいてXに協力しAに不服申立て等を認容させる機会を失ったにもかかわらずXが源泉所得税等に係る支払いを求めて訴訟を提起することは信義則違反かつ権利濫用該当する旨主張している。
1審は、Xの請求認容、2審も、1審と同様の判断をした。

■判旨
一部破棄自判、一部上告棄却。
「源泉徴収による所得税はその税額が法令の定めるところに従い当然に、いわば自動的に確定するものであって、右納税の告知によって確定されるものではない。すなわち、納税告知は更生又は決定のごとき課税処分たる性質を有しない。」

「納税告知により支払者の納税義務の範囲が公定力をもって確定されるものとすれば同時に受給者不知の間にその源泉納税義務の範囲が公定力をもって確定されることになるのであるが、かかる結果は到底法の予定するところとは解しえないからである。」

■解説
・源泉徴収義務と源泉納税義務とが表裏の関係に立つことを前提として、納税告知を課税処分と考えた際に納税告知受給者不知の間にその源泉納税義務の範囲が公定力をもって確定されることになるという行政救済上の不合理を根拠に納税告知が課税処分でないとしている。

65:住民票への記載
【最判平成21年4月17日】

■論点
・住民票への記載は行政処分か

■事実の概要
事実上の夫婦である母X2と父X3は子供(X1)の出生届けの「父母との続き柄」の欄の嫡出子でない子にチェックすることを差別的ととらえ空欄で提出した。世田谷区長は続柄不記載の是正を求めたがX3はこれを拒否。よって区長は当該届出を不受理余分とした。これに対しX3は住民基本台帳8条に基づいて住民表作成を申し出たが区長はこれを拒否する旨の応答をした。そこでXらは本件応答を住民票の不記載処分ととらえ、当該処分の取り消しを求めて訴えを提起した。
1審は、X1のみの原告適格を認め、本件応答を取消し、かつ住民表作成を義務付けた。損害賠償については棄却した。2審は、1審判決を取消し、X1の取消請求を棄却、義務付けの訴えを却下した。

■判旨
最高裁は、取消訴訟に関して、職権で原判決を破棄、訴えを却下した。義務づけ訴訟に関する上告受理申立ては排除したため判断していない。国家賠償請求については棄却した。

「本件応答は法令に根拠のない事実上の応答にすぎず、X1これによりX1及びX3のj権利義務ないし法律上の地位に直接影響を及ぼすものでないから、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当しない。また、出生届が提出されない結果、住民票の記載もされていない場合、原則として届出義務者に提出を促し、戸籍法の記載にもとづき住民票の記載をすれば足りる。もっとも、その方法によって、住民票の記載をすることが社会通念に照らして著しく困難であり又は相当性を欠くなど特段の事情がある場合には市町村長の職権調査のによる方法で当該子につき住民票の記載を義務図けられることがある。が、X1においては住民票の記載を欠くことに伴う最大の不利益ともいうべき選挙人名簿への被登録資格を欠くという点に関してはその年齢からいまだ不利益が実現しているものではなく、また、世田谷区は住民基本台帳に記録されていない住民に対しても手続き的な煩さな点がありうるとはいえ、多くの場合それに登録されている住民に対するものと同様の行政上のサービスを提供しているので一連の事務手続きが法の趣旨に反するものということもできない」

■解説
・一般に行政法3条2項の処分とは行政庁による公権力の行使であり、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を具体的に確定する行為である。交渉行為たる住民票記載行為については、公証事項の内容に異議がある場合には反証をもってその証拠力を排除できるが故に処分性を基本的には否定する。

66:道路供用開始
【最判昭和年44年12月4日】

■論点
・道路供用開始の処分性

■事実の概要
訴外Aは所有する土地を市道用地として国に贈与した。その後旧八幡市長が旧道路法に基づく市道の認定、供用開始を行った。その後道路法の改正により旧八幡市長は道路法に基づく市道の認定を行い、本件土地は市道として旧八幡市(後に合併して北九州市)の営造物となった。一方で本県土地に関して国は所有権登記を了しておらず、Aの死亡により訴外Bが相続し、Bの死亡により訴外Cが相続により所有権を取得した。その後Cは訴外Dに所有権を譲渡し、Dは訴外Eに所有権を譲渡し、EはXに所有権を譲渡した。なお、各々は登記を経ている。そこでXは道路管理者であるY(北九州市)に対し、何ら権限なく本件土地を不法に市道敷地として使用するものであるとして不法行為に基づく損害賠償、及び道路法91条の趣旨から損失補償を請求した。
1審、2審は、Xの請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「適法に供用開始がなされ、道路として使用が開始された以上道交法(4条、旧道交法6条)所定の制限が(私権)に加えられることになる。そしてその制限は当該道路敷地が公の用に供せられた結果発生するものであって、道路敷地使用の権限に基づくものではないから道路管理者が対抗要件を欠くために第三者に対抗しえないこととなっても、道路の廃止がなされない限り、敷地所有権に加えられた制限は消滅するものではない。したがって第三者は上記制限の加わった状態における土地所有権を取得するにすぎず土地の利用を妨げられていることを理由として損害賠償を求めることはできず、補償を請求することができる損失を被ったということもできない。」

■解説
・道路法4条は「道路を構成する敷地、支壁、その他の物件について私権を行使することができない。但し、所有権を移転し又は抵当権を設定し若しくは移転することを妨げない」
と規定し、公共用物への私権の行使は目的達成に必要な限度で制限される。そして、この様な公共用物が成立するためには①その物が一般公衆の使用に供せられる形態を有すること、②一般公衆の使用に供する旨の明示の意思的行為、が必要である。道路法上の供用開始(講学上の公用開始)は要件②に該当する。

67:公衆浴場営業許可
【最判昭和47年5月19日】

■論点
・公衆浴場営業許可の申請が競願関係にある場合には、行政庁は誰に許可を与えるべきか。
・競願関係にある公衆浴場営業許可申請に関する先願後願の関係は、いつを基準に判断するべきか。

■事実の概要
Xは、昭和34年6月8日、Y広島県知事に対し、尾道市内の甲地を浴場の設置場所とする公衆衛生浴場許可を求めて、その許可申請書を尾道保険所に提出した。これより先、訴外A漁業共同組合(以下、A組合)は、同月6日、甲地から10m以内の距離にある乙地を浴場の設置場所とする公衆浴場営業許可申請書を同保険所に提出したが、添付書類の一部に不備があるとして係員からその補正を命じられ、当該書類のみを持ち帰った。そして、その余の書類は、そのまま同保険所に保管されていた。しかし、右補正は結局不要ということとなり、同月11日、右A組合の申請に対して先に提出されたときのままの書類で受付の手続がなされた。広島県の公衆浴場法施行条例1条によれば、公衆浴場を設置しようとする者は既設の公衆浴場との距離を300m以上保たなければならないとされているので、両申請に対して許可を与えることはできない。結局Yは、昭和35年6月30日、A組合の申請に対して許可処分をし、昭和37年1月23日、Xの申請に対して不許可処分をした。本件は、Xが、右A組合に対する許可処分はXの先願権を無視したものであるとして、右許可処分につき、第一次的にその無効確認を、予備的にその取消しを、右不許可処分につき、その取消しを、求めて提起した訴訟である。
1審は、訴えを棄却、2審は、控訴を棄却した。最高裁は、以下のように述べて、上告を棄却した。

■判旨
(ⅰ)公衆浴場法による許可制の採用および同法2条2項本文の規定内容は、「主として国民保険および環境衛生という公共の福祉の見地から営業の自由を制限するものである。そして右規定の趣旨およびその文言からすれば、右許可の申請が所定の許可基準に適合するかぎり、行政庁は、これに対して許可を与えなければならないものと解されるから、本件のように、右許可をめぐって競願関係が生じた場合に、各競願者の申請が、いずれも許可基準をみたすものであって、その限りでは条件が同一であるときは、行政庁は、その申請の前後により、先願者に許可を与えなければならないものと解するのが相当である。けdし、許可の要件を具備した許可申請が適法になされたときは、その時点において、申請者と行政庁との間に許可をなすべき法律関係が成立したものというべく、この法律関係は、許可が法律上の羈束処分である限り、その後になされた第三者の許可申請によって格別の影響を受けるいわれはなく、後の申請は、上記のような既存の法律関係がなんらかの理由により許可処分に至らずして消滅した場合にのみ、これに対して許可をなすべき法律関係を成立せしめうるにとどまるというべきだからである。」

(ⅱ)「さきに述べた公衆浴場営業許可の性質および各申請を公平に取り扱うべき要請から考えれば、右先願後願の関係は、所定の申請書がこれを受け付ける権限を有する行政庁に提出された時を基準として定めるべきものと解するのが相当であって、申請の受付ないし受理というような行政庁の行為の前後によってこれを定めるべきものと解することはできない。」

■解説
・判旨(ⅰ)について
公衆浴場の営業許可は、警察許可であるといわれている(注1)。警察許可については、警察上の禁止又は制限は、当該警察上の目的に必要な最小限度にとだまるべきであるから、具体的に障害を生ずるおそれがない以上、許可すべく覊束(注2)されるものと解される。したがって、公衆浴場の営業許可等の警察許可にあっては、申請が許可基準に適合する限り、行政庁は許可を与えなければならない拘束を受けるから、競願者がいずれも許可基準をみたす、その限りで条件が同一であれば、申請の前後により、先願者に許可を与えるべき拘束を受けるものと解されている。
本判決は、公衆浴場法2条の許可制が主として国民保険および環境衛生という公共の福祉の見地から営業の自由を制限するものであることを重視し、同条2項の文言とあわせて、この許可を覊束処分と解し、先願者に優先権を認めた。

(注1)営業に対する事前規制と特に問題となるのは、警察許可と公企業の特許の区別。
警察許可  …社会公共の安全・秩序の維持を目的として法律により予め一般的に禁止
された行為を、個別の場合につき申請をまって解除することにより、個々
人が有する天賦(てんぷ)の自由を回復させる性質の命令的行政行為。
→覊束行為もしくは覊束裁量行為にあたるとされている。
公企業の特許…法律に基づく国家の独占的事業経営権を、個別の場合に申請をまって私
人に賦与する形成的行政行為。
→自由裁量行為とされている。
(注2)覊束…法の規律による縛りが徹底行政機関の自由な判断の余地が一切否定される場
合。逆に、行政機関の自由な判断が最大限許容される場合を裁量という。

・判旨(ⅱ)について
許可申請等、私人の公法行為の効力発生時期については、一般的な定めはないが、行為の存在を明確にし、当事者間の利害の調整を考える上からいって、民法におけると同じように、原則として到達主義によると解すべきである。特に、本件の問題のような場合、行政庁は許可基準をみたす申請に対しては直ちに許可すべく覊束されているのであり、許可営業を経営する機会の獲得が自由競争に委ねられていることを考えれば、先願後願の決定は、優先権の確保をめざす各申請者の行為の先後によって決定すべきであり、行政庁の過誤、恣意、手続の遅滞等、各申請者の主導権の及ばないところで生じた事情によってそれが変わってくるというのでは不合理であると思われる。先願者の優先権を認める以上は、判決要旨2の点の説示は、当然のことというべきである。

68:皇居外苑の使用許可
【最判昭和28年12月23日】

■論点
・集会のために皇居外苑を使用する許可は、厚生大臣の裁量に属するか否か。

■事実の概要
日本労働組合総評議会は、昭和27年5月1日のメーデーのために、皇居外苑の使用許可を申請し、拒否された。本訴は右不許可処分の取消を求める訴えである。
1審は、本件不許可処分は、本件規則の適用を誤り、集会の自由を保障した憲法21条に違反するとして、これを取り消した。2審は、Xが使用許可を申請した昭和27年5月1日がすでに経過したため、訴訟の実益がないとして、請求を棄却した。
最高裁大法廷は、5月1日の経過により判決を求める法律上の利益を喪失したとして、上告を棄却した。その上で、なお書きにおいて、本件処分が違法ではない旨を述べている。

■判旨
(ⅰ)「公共福祉施設は、国民が均しくこれを利用しうるものである点に特色があるけれども、国民がこれを利用しうるのは、当該公共福祉用財産が公共の用に供せられる目的に副い、且つ公共の用に供せられる態様、程度に応じ、その範囲内においてなしうるのであって、これは、皇居外苑の利用についても同様である。また国有財産の管理権は、国有財産法5条により、各省各庁の長に属せしめられており、公共福祉用財産をいかなる態様及び程度において国民に利用せしめるかは右管理権の内容であるが、勿論その利用の許否は、その利用が公共福祉用財産の、公共の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、また、その規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適性にその管理権を行使すべきであり、若しその行使を誤り、国民の利用を妨げるにおいては、違法たるを免れない。」

(ⅱ)本件不許可処分は、「若し本件申請を許可すれば、立入禁止区域をも含めた外苑全域に約50万人が長時間充満することとなり、厖大な人数、長い使用時間からいって、当然公園自体が著しい損壊を受けることを予想せねばならず、かくて公園の管理保存に著しい支障を蒙るのみならず、長時間にわたり一般国民の公園としての本来の利用が全く阻害されることになる等を理由としてなされたことが認められる」のであって、「何ら表現の自由又は団体行動権自体を制限することを目的としたものでないことは明らかである」から、本件不許可処分は、「管理権の適正な運用を誤ったものとは認められない」し、「憲法21条及び28条違反であるということはできない」。

■解説
・皇居外苑はもと皇室財産であったが、昭和22年12月27日の閣議決定に基づき「国民公園」として位置づけられ、公共福祉用財産の1つとして広く国民一般に開放されることになった。公共福祉用財産という類型は、昭和28年に河川、道路等も含む公共用財産(国財3条2項2号)という類型に置き換えられることとなったが、直接公共の用に供される公物という基本的な法的性質は維持されている。

・本件においては、そもそも、本件不許可処分が取消訴訟の対象となる行政処分の性質を有するかという問題がある。
本判決は、この点について特に論ずることなく、行政処分であることを当然の前提としている。学説においても、公共用物の管理を、公共の用に供する義務のない私法上の財産管理と同一視することは妥当ないことなどを理由に、本件不許可処分の処分性を認める考え方が多数を占めている。

・しかし、従来の最高裁判例は、公権力性と直接の法的効果の有無を処分性の主たる判断基準としており、本件不許可処分が行政処分であるとすると、法治行政の原理に照らし、法律の具体的委任に基づかない管理規則をその根拠とすることが許されるかという問題がある。
本判決において、栗山茂裁判官は、本件規則4条は、法律の特別の定めに基づかないで、警察許可の性質を有する許可を定めたものであるから違法である、との意見を付している。これに対し、多数意見は、本件規則を公園管理権に基づくものであるとし、管理権の根拠を国有財産法に求めている。

・許可使用については、地方自治体の公の施設と同様に、公共の用に供するという目的に照らし、正当な理由のない限り、管理権者はこれを許否できないと考えられる。本判決が、公共福祉用財産の使命を十分達成せしめるよう適正に管理権を行使すべきと判示しているのも、同様の趣旨であると解される。

・本判決は、国民が皇居外苑に集合し、その広場を利用することは、一応、同公園の目的に副う使用の範囲内であるとして、管理者の自由裁量を否定した。

・結論として、本判決は、本件不許可処分は、外苑の特性、一般国民の長時間の使用不能、公園の損壊の危険性等を勘案してなされたものであるから違法ではないとの実体判断を示した。しかし、学説には、治安上の見地からメーデーを阻止する意図に出たものであるとの疑念をぬぐい得ないこと、外苑の集合場所としての性格が軽視されていること等を理由として、この実体判断に対する批判が強い。

69:特許法上の特許と特許無効
【最判平成12年4月11日】

■論点
・特許の無効審決が確定する以前に、特許権に基づく差止めまたは損害賠償等の訴えを裁判所に提起することができるか。

■事実の概要
Xが、本件特許権(キルビー特許(注1))を有するYに対し、同特許権侵害による損害賠償請求が存在しないことの確認を請求した事案である。
原審は、権利の濫用を理由に請求を認容した。

(注1)キルビー特許とは、テキサス・インスツルメンツのジャック・キルビーが発明した半導体集積回路の基本特許のこと

■判旨
上告棄却。
「特許法は、特許に無効理由が存在する場合に、これを無効とするためには専門的知識経験を有する特許庁の審判官の審判によることとし(同法123条1項)、無効審判の確定により特許権が初めから存在しなかったものとみなすものとしている(同法125条)。したがって、特許権は無効審決の確定までは適法かつ有効に存続し、対世的に無効とされるわけではない。」

「しかし、本件特許のように、特許に無効理由が存在することが明らかで、無効審判請求がされた場合には無効審決の確定により当該特許が無効とされることが確実に予見される場合にも、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求が許されると解することは、次の諸点にかんがみ、相当ではない。」「(1)このような特許権に基づく当該発明の実施行為の差止め、これについての損害賠償等を請求することを容認することは、実質的に見て、特許権者に不当な利益を与え、右発明を実施するものに不当な不利益を与えるもので、衡平の理念に反する結果となる。また、(2)紛争はできる限り短期間に1つの手続きで解決するのが望ましいものであるところ、右のような特許権に基づく侵害訴訟において、まず特許庁における無効審判を経由して無効審決が確定しなければ、当該特許に無効理由を存在することをもって特許権の行使に対する防御方法とすることが許されないとすることは、特許の対世的な無効までも求める意思のない当事者に無効審判の手続きを強いることとなり、また、訴訟経済にも反する。」「したがって、特許の無効審決が確定する以前であっても、特許権侵害訴訟を審理する裁判所は、特許に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断することができると解すべきであり、審理の結果、当該特許に無効理由が存在することが明らかであるときは、その特許権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の事情のない限り、権利の濫用に当たり許されない」。

「本件特許には無効理由が存在することが明らかであり、訂正審判の請求がされているなど特段の事情を認めるに足りないから」、本件特許権に基づく損害賠償請求は権利の濫用にあたり許されない。

■解説
1 特許の無効の判断の仕組み
特許法123条1項は、特許の無効事由を法定しているが、無効事由があっても、直ちに裁判所に対し特許査定の取消しや特許無効の請求をすることはできず(178条6項)、まず、特許庁に対し当該特許を無効とすることについて審判を請求することを要する(123条1項)。審判に対する特許庁の判断は、審決としてなされ(158条)、審決に対する特許庁の判断は、審決としてなされ(158条)、審決に対する取消訴訟は東京高等裁判所の専属管轄とされている(178条1項)。このように特許法は、特許出願に対する行政処分が誤ってされた場合における是正手続については、一般の行政処分の場合とは異なり、常に専門的経験を有する審判官による審判の手続経由を要求するとともに、取消しの訴えは、原処分である特許査定に対してではなく、審決に対してのみ認め、右訴訟においては、専ら右審決の適法違法のみを争わせ、特許査定の適否は、審決の適否を通じてのみ間接にこれを争わせるにとどめている。そして、無効審決の確定により特許権が初めから存在しなかったものとみなされる(125条)。したがって、登録によって発生した特許権は(66条)、無効審決の確定まで存続する。
2 本判決の意義
本判決は、明治37年以来100年近く判例とされてきた大審院判例(解説3参照)を変更して、権利濫用という法律構成の下に、無効事由の存在が明白な場合における特許権の行使を否定するもので、特許侵害訴訟の実務に大きな影響を与えるもの。これにより、具体的に妥当な結論が得られることはもちろんであるが、無効審判と侵害訴訟という二度手間を省き、訴訟経済にも合致し、侵害訴訟の審理を迅速化する意義も大きい。

70:年金請求権と支給決定
【最判平成7年11月7日】

■論点
・給付行政においての具体的な受給請求権の発生時期

■事実の概要
障害福祉年金を受給していたX1は、国民年金法に基づく老齢年金の受給権を得るに至ったが、併給調整規定(同法20条)により支給停止措置を受け、その旨を通知された。そこで、X1は、国(Y)を相手に老齢年金の未支給分の支払いを求めて出訴したが、1審係属中にX1が死亡し、その養生X2が、相続または同法19条1項により老齢年金請求権を取得して原告たる地位を当然に承継したと主張した。1審はX1の死亡による訴訟終了を宣言し、2審も1審の判断を支持してX2の参加承継申立てを却下。X2が上告。

■判旨
上告棄却。
「国民年金法19条1項所定の遺族は、死亡した受給権者が有していた請求権を同規の規定に基づき承継的に取得するものと理解することができるが、自己が所定の遺族に当たるとしてその権利を行使するためには、社愛保険庁長官に対する請求をし、同長官の支給の決定を受けることが必要である。同法16条は、給付を受ける権利は、受給権者の請求に基づき社会保険庁長官が裁定するものとしているが、これは、画一公平な処理により無用の紛争を防止し、給付の法的確実性を担保するため、その権利の発生要件の存否や金額等につき同長官が貢献的に確認するのが相盗であるとの見地から、基本権たる受給権について、同長官による裁定を受けて初めて年金の支給が可能となる旨を明らかにしたものである。」
「同法19条1項所定の遺族は、社会保険庁長官による未支給年金の支給決定を受けるまでは、死亡した受給権者が有していた未支給年金に係る請求権を確定的に取得したということはできず、同長官に対する支給請求とこれに対する処分を経ないで訴訟上未支給年金を請求することはできない。X2は、本件訴訟とは別に社会保険庁長官に対する支給請求をした上で、必要があればこれに対する処分を争うべきものであって、X2においてX1の本件訴訟上の地位を承継することを認めることはできない。」

■解説
・給付行政の領域において、法令上、受験資格等が相当程度明確に規定されている場合でも、具体的な受給請求権は、確認的行為としての行政行為(支給決定)によって発生すると解釈した判例である。