学説判例研究~行政法~ノート~71-75事件

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行政判例ノート 71~75

71:公定力
【最判昭和30年12月26日】

■論点
・違法な行政処分は、当然に無効となるか。

■事実の概要
XはY所有の農地につき賃貸借契約により賃借権を得たと主張していたが、これを否定するYとの間で紛争が生じ、水戸地方裁判所の調定によりXの賃借権の消滅が認定された。その後、Xは村農地委員会に賃借権回復の裁定を求め、同委員会は、Xに賃借権を設定する旨の裁定をした。Yは、この裁定を不服として県農地委員会に訴願をしたところ、いったんは棄却裁決がされたが、同委員会はYの申出により再審議を行い、Yの訴願を認容し、村農地委員会による賃借権設定裁決を取り消した。そこで、Xは、Yを相手に、当該農地に係る耕作権の確認等を求めて出訴。1審・2審ともXの請求を棄却する判断をしたため、Xが上告。

■判旨
上告棄却。
「訴願裁決庁が一旦なした訴願裁決を自ら取り消すことは、原則として許されないものと解すべきであるから、茨城県農地委員会がYの申出により原判示の事情の下に先になした裁決を取り消してさらに訴願の趣旨を容認する裁決をしたことは違法であるといわねばならない。しかしながら、行政処分は、たとえ違法であっても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解すべきところ、茨城県農地委員会のなした前記訴裁決取消の裁決は、いまだ取り消されないことは原判決の確定するところであって、しかもこれを当然無効のものと解することはできない。」

■解説
・行政処分は、たとえ違法であっても、その違法事由が無効事由ではないときには、権限ある機関による取消しがなされない限り有効なものとして通用する。これを当該行政処分の「公定力」という。

72:行政行為と刑事罰
【最判昭和53年6月16日】

■論点
・山形県知事の児童遊園設置認可処分の適法性、有効性

■事実の概要
Aは、山形県余目町で個室付浴場の営業を企図し、土地を購入の上、建築確認を得て建設に着手した。これに対し、周辺住民等による反対運動が起こり、県議会でも営業反対の議論がされ、町および県は開業を阻止する方針を立てた。すなわち、風営法4条の4第1項が児童福祉法に定める児童福祉施設の周辺200mの範囲内で個室付浴場の営業を禁止していることに着目し、開業予定地から約134.5mの距離にある町有地を児童福祉施設として認可することにより、Aによる個室付浴場の営業を阻止することとした。昭和43年6月4日、町は県知事に対して児童遊園施設の設置許可申請を行い、6月10日、知事はこれを認可した。一方、Aは、6月6日にY会社を設立するのに伴い、すでにA名義で行っていた公衆浴場経営許可申請を改めてY名義で行い、7月31日に同許可を得た。Yは、8月8日に開業するに至ったが、この時点で児童遊園施設は既設状態であり、県公安委員会は、Yに対し、風営法違反を理由として60日間の営業停止処分をし、さらにYは違反行為につき起訴された。1審・2審ともYは有罪とされ、Yが上告。

■判旨
破棄自判(無罪)。
「風俗営業等取締法は・・・児童福祉施設などの特定施設と個室付き浴場業・・・の一定区域内における併存を例外なく全面的に禁止しているわけではないので、被告会社の・・営業に先立つ本件認可処分が行政権の濫用に相当する違法性を帯びているときには、B児童遊園の存在を被告会社の・・営業を規制する根拠にすることは許されない。」
「記録を精査しても、本件当時A町において、被告会社の・・営業の規制以外に、B児童遊園を無認可施設から認可施設に整備する必要性、緊急性があったことをうかがわせる事情は認められない。」「本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿ってなされるべきものであって、前記のよな、被告会社の・・営業の規制を主たる動機、目的とするA町のB児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり、被告会社の・・営業に対しこれを規制しうる効力を有しない。」

■解説
・特定の者による風俗営業の規制を主たる動機・目的とする行政処分について、行政権の濫用とした判例である。刑事訴訟において、犯罪構成要件の前提となる処分の効力が直接判断されているという部分では、行政行為の公定力の限界が示された判例でもある。

73:不可変更力
【最判昭和29年1月21日】

■論点
・一度行った行政行為について、処分庁はみずから変更することができるか。

■事実の概要
X所有の農地について、村農地委員会が、不耕地であるとして買収計画を樹立した。Xは、同農地委員会に異議申立てをしたが却下されたため、県農地委員会(Y)に訴願したところ、Xの主張を認容する裁決がされた。ところが、Yは、村農地委員会からの再審議の陳情を受け、上記裁決を取り消す旨の裁決をしたので、Xが2度目の裁決につき取消しをもとめて出訴。1審・2審とも裁決を取り消す判断をしたため、Yが上告した。

■判旨
上告棄却。
「裁決が行政処分であることは言うまでもないが、実質的に見ればその本質は法律上の争訟を裁判するものである。・・・本件裁決のごときは、行政機関であるYが実質的には裁判を行っているのであるが、行政機関がするのであるから行政処分に属するわけである。かかる性質を有する裁決は、他の一般行政処分とは異なり、特別の規定がない限り、原判決のいうように裁決庁自らにおいて取り消すことはできないと解するを相当とする。」

■解説
・争訟を裁断する行政行為について、不可変更力(行政行為をした行政機関が自らそれを変更できないこと)を認めた判例である。
・不可変更力は、異議申立てに対する決定、審査請求に対する裁決等、争訟裁断的性質をもつ行政行為について認められる。

74:実質的確定力
【最判昭旧和42年9月26日】

■論点
・審査請求に対する裁決のような争訟裁断行為に、職権取消しを制限する不可変更力を越えて、判決の既判力対応する実質的確定力まで認めるか。

■事実の概要
大阪府下の地区農地委員会(Y)は、Xらが所有する宅地について、訴外Aらの買収申請に基づき、宅地買収計画を樹立した。Xらが異議申立てをしたところ、Yはこれを認容して買収計画を取り消す決定をし、この取消決定は確定した。その後、Yは、大阪府農地委員会の指示により、再度同一の買収計画を定めたので、Xらが異議申立て等を経て出訴。1審・2審とも買収計画を取り消す判断をしたため、Yが上告。上告審は破棄差戻しとし、差戻し後の原審は2度目の買収計画を適法と判断したため、Xが上告。

■判旨
原判決破棄、Yの控訴棄却。
「異議の決定、訴願の裁決等は、一定の争訟手続に従い、なかんずく当事者を手続きに関与せしめて、紛争の終局的解決を図ることを目的とするものであるから、それが確定すると、当事者がこれを争うことができなくなるのはもとより、行政庁も、特別の規定がない限り、それを取消しまたは変更し得ない拘束を受ける。したがって、右特別の規定のない本件においては・・当初の宅地買収計画がXらの異議申立に基づいて取り消され、その決定が確定したことにより、爾後、当該農地委員会がそれに拘束される結果、Xらの宅地買収の申請は、却下等別段の意思表示をまつまでもなく、当然その効力を失う・・・。また、QのPに対する前記指示は、法律上の根拠を有するものではない・・・。それ故、本件各宅地について再度樹立された買収計画は、その前提要件としての申請を欠く違法のもの」である。

■解説
・紛争を裁断する行政行為について、実質的確定力(処分庁のみでなく上級行政庁・裁判所も取消し・変更できないこと)を認めたとされる判例。異議申立てにより一度取消されたものと同一内容の買収計画を再度樹立することは、異議決定の実質的確定力により遮断されると解釈されている。

75:裁量と権利侵害行為
【最判昭和31年4月13日】

■論点
・要件規定を欠く承認が、行政庁の自由裁量に委ねられたものかどうか。

■事実の概要
訴外Aは、その所有する農地をXに賃貸して耕作させていたが、上記土地は政府に買収され、Y(兵庫県知事)により上記土地の一部を訴外Bほか3名に、他の部分をXに売り渡す処分がなされた。(本件農地の賃貸借について、AXから耕作変更届が村農地委員会に提出されていたが、Xに対する賃借権の設定を承認しないままになっていた。)
Xは、買収時期において本件農地につき耕作業務を営む小作農であって、自作農創設特別措置法施行令17条1項1号によりその全部につき売渡しを受けるべきであるとして、訴外Bらに対する売渡し処分の取消しを求めて出訴した。
原審は、X勝訴の1審判決を支持した。

■判旨
上告棄却。
「農地に関する賃借権の設定移転は本来個人の自由契約に委ねられていた事項であって、法律が小作権保護の必要上これに制限を加え、その効力を承認にかからせているのは、結局個人の自由の制限であり、法律が制限について客観的な基準を定めていない場合でも、法律の目的に必要な限度でおいてのみ行政庁も承認を拒むことができるのであって、農地調整法の趣旨に反して承認を与えないのは違法であるといわなければならない。
換言すれば、承認するかしないかは農地委員会の自由な裁量に委せられているのではない。」

■解説
・自由裁量の存否を認定する基準について
美濃部説によれば、行為要件の認定については条理法が支配するとして裁量を一切認めず、自由裁量が認められるとすれば、それはもっぱら行為を行うかどうか、あるいはどのような行為を選択するかについてである。
そして、裁量権の存否は法律の規定によるほか、なお行為の性質によって判断すべきとし、次の三原則を挙げている。
①人民の権利を侵し、これに負担を命じ、又はその自由を制限する処分はいかなる場合でも自由裁量の行為ではありえない。
②人民のために新たな権利を設定し、その他利益を付与する処分は、法律上それに対して請求権が認められている場合を除き、原則として自由裁量の行為である。
③人民の権利義務を直接左右しない行為は、原則として自由裁量の行為である。

・本件判決について
美濃部説の立場を承認したものと位置づけられることが多い。判旨が、本件承認の自由制限的な性質に言及し、その上で承認するか否かの裁量を否定していることから、①に依拠しているように読める。
しかし、一定の具体的事情の下において、行政庁も承認を拒むことができない、つまり効果裁量を有しないという意味であって、あえて承認を拒むことができる例外事由に関する行政庁の判断の余地(要件裁量)まで一切否定する趣旨を含むものではない。