学説判例研究~行政法~ノート~76-80事件

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行政判例ノート76~80

76:裁量と不確定概念
【最判平成11年7月19日】

■論点
・法律が不確定概念によって規定されている場合に、行政庁に裁量が認められるか。また、裁量が認められるとしても、その範囲はいかなるものか。

■事実の概要
Xらはタクシー事業を営む者である。消費税法適用に伴い、Xらの同業他社は消費税を転嫁するため、運賃値上げ認可申請をし認可されたが、Xらは認可申請をせず、その後も値上げを見送った。
その後、Xらは消費税転嫁分の運賃値上げを近畿運輸局に申請した。同局長は、1カ月間の行政指導後これを受理し、本件値上げ申請が道路運送法9条2項1号の基準に適合しているか否かを判断するに足りる資料の提出を求めたがその提出がなかったため、申請却下処分を行った。
Xらは、同局長は、本件申請を直ちに受理し認可すべきであったのにもかかわらず1カ月受理せず、受理後4カ月以上も許否の決定をせず、その上で違法な却下処分をしたとして、Y(国)に対して、消費税相当額の損害賠償を求めた。
1審は、2か月分の消費税相当額について、Xらの請求が認容され、2審もこれを支持した。

■判旨
破棄自判。
「法9条2項1号の趣旨によると「運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における適正な原価を償うことができないときは、たとい値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、同号の基準に適合しないものと解すべきである。
そして、同号の基準は抽象的、概括的なものであり、右基準に適合するか否かは、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、ある程度の裁量的要素があることは否定できない。」

「本件通達の定める運賃原価算定基準に示された原価計算方法は、法9条2項1号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として合理性を有するといえる。………………
平均原価方式に従って算定された額をもって当該同一地域内のタクシー事業者に対する運賃設定又は変更の認可の基準とし、右の額を変更後の運賃の額とする運賃変更の認可申請については、特段の事情がない限り同号の基準に適合しているものと判断することも、地方運輸局長の前記裁量権の行使として是認し得る。」

■解説
・本件は、運賃値上認可基準の一つとして法9条2項1号の定める「能率的な経営の下における適正な原価を償い、かつ適正な利潤を含むものであること」という適正原価適正利潤条項に係る運輸局長の裁量の範囲が争点になっている。

・判決は、法9条2項1号の基準が抽象的、概括的なものであり、行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要として、裁量的要素を認める。そして、裁量権行使の内部基準としての本件通達の合理性に対する審査がなされる。
その審査は二段階からなり、①本件通達の定める運賃原価算定基準に示された原価計算方法は、同号の基準の具体的判断基準として合理性を有するとして、手続の裁量を認め、②具体的には、同一地域内で平均原価方式に従った算定額を認可基準とすることも裁量権の行使として是認し得るとする。

77:学校施設使用許可と考慮事項の審査
【最判平成18年2月7日】

■論点
・公立学校施設の目的外使用の許否の判断と管理者の裁量権

■事実の概要
教職員によって組織された職員団体Xは、教育研究集会の会場として使用するため、Y市の市立A中学校の校長に学校施設の使用を申し出たところ、校長は一旦口頭で了承した。
しかし、過去に右翼団体の街宣車がおしかけ、周辺地域が騒然となり、周辺住民から苦情が寄せられたことがあったため、Y市教育委員会の教育長は、校長に対し使用を差し控えるよう提案した。校長もこれに同意し、Xに対して学校施設の使用を認めない旨の連絡をした。
Xは改めて当該施設使用許可申請をしたが、Y市教育委員会はこれを不許可とした。そこで、Xは、Y市に対し、国家賠償法に基づく損害賠償を求めて出訴した。
1審は、原告の請求を一部認容し、2審もこれを支持した。

■判旨
上告棄却。
「地方自治法238条の4第4項、学校教育法85条、…の文言に加え、学校施設は、本来学校教育の目的に使用すべきものとして設置され、それ以外の目的に使用することを基本的に制限されている(学校施設令1条、3条)ことからすれば、学校施設の目的外使用を許可するか否かは、原則として、管理者の裁量にゆだねられている。
学校教育上支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく、行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的、態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできる。」

「管理者の裁量判断について、許可申請に係る使用の日時、場所、目的及び態様、使用者の範囲、使用の必要性の程度、許可するにあたっての支障又は許可した場合の弊害若しくは影響の内容及び程度、代替施設確保の困難性など許可をしないことによる申請者側の不都合又は影響の内容及び程度等の諸般の事情を総合考慮してされるものであり」

「その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が、重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められるばあいに限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる。」

■解説
・本判決は最高裁として初めて学校施設の目的外使用許可に裁量があることを認め、さらに裁量統制の手法について従来の一般的な枠組みとは異なる枠組みを採用した。

・本判決は、処分する際の考慮事項について審査を行った上で、その結果を社会通念審査に連結させることによって、社会通念審査方式の下でも、より高度の審査密度を確保することが可能であることを示した点に大きな特徴がある。

・本判決のような裁量処分をする際の考慮事項に着目して行われる審査方式は、過大(または過小)に考慮したか否か、あるいは重視(あるいは軽視)すべき事項を重視(あるいは軽視)したか否かを審査する方式(「実質的考慮要素審査」)である。

78:行政代行的な業の許可と裁量
【最判昭和47年10月12日】

■論点
・汚物取扱業許可の法的性質と許可処分の裁量権

■事実の概要
Xは、昭和36年頃から浄化槽清掃業を営んでいた。下記のような事情の変更に伴い、H市長Yに対し、昭和38年1月8日汚物取扱業の許可申請を行ったところ、Yが不許可処分としたため、不許可処分の取消しを求めた。
(旧清掃法15条1項によれば、特別清掃地域内で汚物取扱業を営むためには、市町村長の許可を受ける必要とされていたが、昭和37年当時までは、し尿浄化槽内汚物の収集、処理については許可を受ける必要はないものとして、実務上運営されていた。
ところが、昭和37年5月12日付厚生省環境衛生局長通知により、昭和38年1月1日から、浄化槽内汚物の取扱業に対しても同法15条1項に基づく市町村長の許可を要することに改められた。)
1審は、市町村長の自由裁量による処分であり、裁量を逸脱した違法はないと判示した。2審は、裁量権の行使を誤った違法があるとして、不許可処分を取り消した。

■判旨
破棄差戻し。
「清掃法15条1項について、特別清掃地域内において汚物を一定の計画に従って収集、処分することは市町村の責務であるが…、これをすべて市町村がみずから処理することは実際上できないため、前記許可を与えた汚物取扱業者をして右市町村の事務を代行させることにより、みずから処理したのと同様の効果を確保しようとしたものであると解される。」

「市町村長が前記許可を与えるかどうかについて、清掃法の目的と当該市町村の清掃計画とに照らし、市町村がその責務である汚物処理の事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点から、これを決すべきものであり、その意味において、市町村長の自由裁量に委ねられていると解するのが相当である。」

■解説
・伝統的な理解によれば、当該許可は「公企業の特許」に分類され、美濃部三原則に従えば、特別の地位を付与する行為であるから、裁量が認められるということになる。
・許可の判断にあたっては、施設・能力といった(衛生)警察上の事項(廃掃7条5項3号)にとどまらず、市町村が廃棄物処理事務を適正かつ円滑に遂行していくために必要なひろい裁量権が認められている。

79:都市計画と裁量審査
【最判平成18年11月2日】

■論点
・Xら沿線住民の本件各認可の取消しを求める原告適格の有無と,本件各認可の適否

■事実の概要
東京都知事が行った平成5年の都市計画決定(以下、「平成5年決定」)は、小田急小田原線の一部区間を高架式(一部堀割式)とすることで、小田急線の複々線化を図るものであった。
沿線住民Xらは、周辺地域の環境に与える影響や事業費の多寡等の面でより優れた代替案があるにもかかわらず、これを採用しなかった点で違法である旨を主張し、建設大臣の事務承継者である関東地方整備局長Yを被告として、当該事業認可の取消訴訟を提起した。
1審は、原告適格が認められたXらの請求を認容したが、2審は、原判決を取り消して請求を棄却した。Xらの上告を受け、原告適格に関する判例変更を行った最高裁大法廷判決(最判平成17.12.7)につづいて本案審理を行ったものである。

■判旨
上告棄却。
「平成5年決定に含まれる裁量権付与の趣旨等について、当該都市施設に関する諸般の
事情を総合的に考慮した上で、政策的、技術的な見地から判断することが不可欠であり、
このような判断は、これを決定する行政庁の広範な裁量に委ねられているというべきで
ある。」

「司法審査基準について、その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要
な事実にその基礎を欠くこととなる場合、又は、事実に対する評価が明らかに合理性を
欠くこと、判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社
会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り、裁量権の範囲を逸脱
又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。」

■解説
・本判決は、都市施設に係る都市計画決定の違法性を判定する一般的定式を初めて示した
ものである。
・本件では、いわゆる「判断過程の統制」が行われ、考慮要素に焦点をおいた審理が①事
業への「環境への影響に対する考慮」、②「計画的条件、地形的条件及び事業的条件に係る
考慮」の2段階でなされた。

80:在留期間の更新と裁量審査
【最判昭和53年10月4日】

■論点
・行政庁の裁量の所在と裁判審査の在り方

■事実の概要
アメリカ合衆国国籍をもつXは、出入国管理令に基づく在留期間を1年とする上陸許可の証印を受けて本邦に入国した。
Xはその後、Y(法務大臣)に対し1年間の在留期間の更新を申請したが、Yは出国準備期間として120日間の更新を許可した。当該期間経過後、Xはさらに1年間の在留期間の再更新を申請したところ、YはXの当局への無届転職および本邦における政治活動を理由に、Xに対し更新を許可しないとの処分をした。そこで、Xは本件処分の取消しを求めて出訴した。
1審は、本件処分を裁量の範囲を逸脱する処分であるとして、これを取り消した。2審は、1審判決を取り消した。

■判旨
上告棄却。
「憲法上(憲法22条1項)、外国人は、我が国に入国する自由は保障されているものではない…在留の権利ないし引き続き在留することを要求しうる権利を保障されているものではないと解すべきである。」

「出入国管理令21条1・2・3項より、在留外国人の在留期間の更新が権利として保障さ
れているものではないことは、明らかである。」
同令において、「在留期間の更新事由が概括的に規定されその判断基準が特に定められていないのは、更新事由の有無の判断を法務大臣の裁量に任せ、その裁量権の範囲を広範なものとする趣旨からである。

裁量「処分が違法となるのは、それが法の認める裁量権の範囲をこえ又はその濫用があった場合に限られる。」
「出入国管理令21条3項に基づく法務大臣の『在留期間の更新を適当と認めるに足りる相との理由』があるかどうかの判断の場合についてみれば、その判断が全く事実の基礎を欠き又は社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限り、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法となるものというべきである。」

「裁判所は、法務大臣の右判断についてそれが違法となるかどうかを審理・判断するにあたっては、右判断が法務大臣の裁量権の行使としてされたものであることを前提として、その判断の基礎とされた重要な事実に誤認があること等により右判断が全く事実の基礎を欠くかどうか、又は事実に対する評価が明白に合理性を欠くこと等により右判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くことが明らかであるかどうかについて審理し、それが認められる場合に限り、右判断が裁量権の範囲をこえ又はその濫用があったものとして違法であるとすることができる。」

■解説
・本判決は、外国人の在留期間更新許否処分につき法務大臣の広範な裁量権を認めたものである(マクリーン判決)。行政庁の政策的判断を伴う行政処分に広い裁量権が認められる代表的事例として位置づけられている。