問題解答例~リーガルクエスト憲法1-9章

問題解答例~リーガルクエスト憲法1-9章

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第9章 地方の政治制度

問題1

地方公共団体の長の多選が問題となっている。これについて、条例で制限することは可であろうか。法律によるのであれば、どうか。


第一に、多選制限そのものが、憲法上許容されるのか、第二に、許容されるとしても法律によらず条例で制限することが可能なのか、が問題となる。

(1)多選制限の憲法上の問題
多選制限と立憲主義及び民主主義の基本原理との関係について
2006年に総務大臣の指示により設置された「首長の多選問題に関する調査研究会」の報告書は、多選制限が憲法上許されるかの検討する前に、多選制限と立憲主義及び民主主義の基本原理との関係について示している。

権力の法的制限を求める立憲主義の考えからすれば、現行制度上の首長には「制度的に、また構造的に、権力・権限が集中しやすい」ことが問題となる。しかし他方で、その権限を縮小することには、多岐にわたる行政課題において求められる首長のリーダーシップを制約してしまいかねないという懸念がある。そこで「長の責任ある権限の行使とその権力の制限を併せて実現するためには」、一人の長の在任期間を限定することが「合理的な手法の一つとなりうる」と評価される。
また、民主主義の観点からは新人の立候補の容易さなどの「選挙の実質的な競争性」確保が重要であり、「長の日常の行政執行は,事実上選挙運動的効果を持っている」という側面がある以上、それが長年にわたればこの実質的競争性が損なわれる危険があると指摘する。

「多選制限を立憲主義の観点から正当化するのは比較的容易である。報告書の大きな特徴は、選びたい人を選べなくなるのは民主主義に反するという多選制限反対論に対し、「選挙の実質的な競争性」という視点を持ち出して、むしろ、多選制限は民主主義の理念に沿ったものと考えることもできるという立場を明確に打ち出した点にあろう(毛利透、法学教室329号3頁)。」

平等(憲法14条・44条)との関係について

「地方公共団体の長の職にあるということは、これらの列挙事由に該当しないと解され、厳格な基準による必要はないと考えられる。」
「地方公共団体の長について多選の制限を設けることにより、知事や市町村長の職に既に何度か就いた者とそうでない者との間で取扱いに差異を設けることについては、前述したように、憲法の基本原理である立憲主義及び民主主義の観点から説明できると考えられ、合理性を有する取扱いの区別として、必ずしも本条に反するとは言えないと考えられる。」

憲法15条との関係について
憲法15条から被選挙権の保障が導き出せるか。報告書は、三井美唄(びばい)労組事件最高裁判決(最大判S43・12・4)を引用する。

「最高裁は、組合決議に反して独自に立候補した組合員に対する労働組合による権利停止の統制処分の効力が争われた事案の判決(昭和43年12月4日最高裁大法廷判決)において、次のように判示している。

『選挙は、本来、自由かつ公正に行われるべきものであり、このことは、民主主義の基盤をなす選挙制度の目的を達成するための基本的要請である。この見地から、選挙人は、自由に表明する意思によってその代表者を選ぶことにより、自ら国家(または地方公共団体等)の意思の形成に参与するのであり、誰を選ぶかも、元来、選挙人の自由であるべきであるが、多数の選挙人の存する選挙においては、これを各選挙人の完全な自由に放任したのでは選挙の目的を達成することが困難であるため、公職選挙法は、自ら代表者になろうとする者が自由な意思で立候補し、選挙人は立候補者の中から自己の希望する代表者を選ぶという立候補制度を採用しているわけである。したがって、もし、被選挙権を有し、選挙に立候補しようとする者がその立候補について不当に制約を受けるようなことがあれば、そのことは、ひいては、選挙人の自由な意思の表明を阻害することとなり、自由かつ公正な選挙の本旨に反することとならざるを得ない。この意味において、立候補の自由は、選挙権の自由な行使と表裏の関係にあり、自由かつ公正な選挙を維持するうえで、きわめて重要である。このような見地からいえば、憲法15条1項には、被選挙権者、特にその立候補の自由について、直接には規定していないが、これもまた、同条同項の保障する重要な基本的人権の一つと解すべきである。』

この最高裁判決については、立候補の自由は選挙権の自由な行使と表裏の関係にあることから重要であると述べているとも考えられ、そうした考え方によると、被選挙権又は立候補の自由は選挙権から独立した別個の基本的人権として保障されているものではなく、立候補の自由が不当に制約されることによって選挙権の自由な行使が阻害されることとなる場合に、その制約が憲法上問題となりうると考えることもできる。
また、この最高裁判決を字義通りに解し、被選挙権又は立候補の自由が、それ自体重要な基本的人権の一つであるとの考え方に立ったとしても、既に現行の選挙法において、選挙犯罪者等の被選挙権の制限、選挙事務関係者や公務員の立候補制限が定められている等、被選挙権や立候補の自由に関する制限が定められているところであり、このように合理的な理由があれば、必ずしも法律で制限を課すことは不可能ではないと考えられる。
このような点にかんがみると、法律によって地方公共団体の長の多選制限をすることについては、前述したように、憲法の基本原理である立憲主義及び民主主義の観点から地方公共団体の長の権力をコントロールする合理的な手法の一つとなりうることから、必ずしも本条に反するとは言えないと考えられる。」

● 「被選挙権の保障が憲法15条の文言から簡単には導けないというのはそのとおりであろうが、判例によって認めることが不可能なほど無理な解釈だということもないだろう。だとするとその判例をどう理解するかが問題となる。確かに三井美唄労組事件判決は立候補の自由を「選挙人の自由な意思の表明」確保の観点から導いたように読める。
しかし、最高裁はその後も立候補の自由は憲法の保障する基本的人権であるとの判示を繰り返しており、しかもその際もはやこの三井美唄労組事件判決を引用しない(たとえば、重複立候補制の合憲性についての最大判平成11・11・10民集53巻8号1577頁、連座制の合憲性についての最判平成8・7・18判時1580号92頁)。少なくとも今日の時点では、判例が独立の人権として立候補の自由を認めていないと解するのは困難であるように思われる。むろん、それを独立の人権と認めても、報告書も述べるとおり、多選制約には合理的理由があると論じることは十分可能であろう(毛利透、法学教室329号3頁)。」

● 「被選挙権(立候補の自由)は、公選法により認められた「法律上の権利」であるが、それ自体としては「憲法上の権利」ではない。ゆえに、法律による被選挙権の制限という憲法論は、原則的には生じない。しかし、被選挙権は憲法上の権利である選挙権の保障内容として憲法の保障を受けるから、その法律による制限は選挙権の制限として憲法問題となる。しかし、選挙しうる対象者の範囲を制限する多選制限は、選挙権者に対し自己の意見・利益の代表者を選ぶことを非常に
困難にするというほどの制限ではないから、選挙権の制限としてはそれほど重大なものというわけではない。ゆえに、審査基準としては厳格な審査は必要でなく、通常の審査でよい。(高橋和之、ジュリスト1340号23頁)」

(3)多選制限を条例で制限できるか。
地方公共団体は、「法律の範囲内で条例を制定することができる」(94条後段)。条例制定権は、「地方自治の本旨」(92条)を受けて、憲法により認められたものであり、「国の立法」に相当する地方公共団体の自主立法である。「法律の範囲内」である以上、その所管と効力については、法律の定めによるが、「地方自治の本旨」に反するような制限は許されないと解されている。
地方自治法は、14条1項で、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる」と定めている。(テキスト372頁)

(地方自治法2条2項「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」)

(憲法92条「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」)

報告書は次のように述べて、法律に根拠を設けるのであれば、制限の実施やその具体的内容を各地方公共団体の条例の定めに委ねることもできる旨を示す。

「地方公共団体の長の多選を法律で一律に制限することは、住民が自らの属する地方公共団体の長を自由に選出することを法律で制約することになるという面において、第92条にいう「地方自治の本旨」との関係が論点として提起されることになるが、地方自治の原則はまさに立憲主義及び民主主義の基本原理に基づくものであり、多選制限はこの立憲主義及び民主主義の基本原理からの合理的な説明が可能であると考えられることか、必ずしも地方自治の本旨に反するものではないと考えられる。」

「地方公共団体の長の多選制限は、どの程度の期間在任できるかという在任期間の制限であり、任期と同様に、地方公共団体の組織及び運営に関する基本的な事項である。したがって、在任制限を制度化する場合には、法律にその根拠を置くことが憲法上必要であり、地方公共団体の組織及び運営に関する事項を一般的に定めた地方自治法において規定することが適当であると考えられる。法律に地方公共団体の長の多選制限の根拠を置くのであれば、法律によって一律に多選制限を行うこととするのか、あるいは、多選制限の是非や具体的内容を条例に委ねることとするのか、については、立法政策の問題であり、憲法上の問題は生じないと考えられる。」

● 首長の多選制限というような地方公共団体の組織についての重大事項は、全国一律に規律すべきだというのが、憲法92条の趣旨であると考える(毛利透、法学教室329号3頁)。

問題2

地方公共団体の外国との交流(あるいは対立)が、しばしば、自治体外交などと称されることがある。これは憲法上どのように位置付けられるべきものであろうか。

自治事務を拡大して理解し、自治体外交もこれに含まれるとするなら、憲法94条の地方公共団体の権能に含まれるといえると考える。
従来、地方自治法は、外交が国の事務に属することは当然の前提とした上で、地方公共団体が処理することのできない国の専属的事務として、司法、刑罰、郵便を掲げていた(テキスト368頁)が、平成11年に改正された。

改正後の地方公共団体の権能に関する規定は、
「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」(1条の2第1項)
「国は、前項の規定の趣旨を達成するため、国においては国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立つて行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たつて、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」(1条の2第2項)
となった。
そこで、「国家としての存立」に係るような事項ではない、国際社会における自治体の行動は認められると考える。

●大津浩『国境を越える民主主義』ジュリスト1378号
「自治体は現状では国際法上NGOの1つとして扱われているが、その本質は政府組織である。さらに国の支配下にありつつ、憲法が保障する自治権の範囲内で国(中央政府)とは異なる合法性を主張しうる。それゆえに自治体は、その自治権を国際社会で行使する場合には、『多様な多数者による自己統治』としての民主主義の論理に適合的な手段となりうるのである。」

「日本国憲法の解釈論としては、国(中央政府)の意思に反してでも、」憲法が保障する自治権の範囲内で国とは異なる合法性を主張しうる場合には、「国際条約の国内実施を怠り、これに部分的ないし一時的に逸脱・抵触することも許されるとする自治体外交権論が成立しうるのである。たとえば、非核自治体条例を制定して自治体内の合法性を確立した上で、自治体管理港に外国軍艦が入港する際に非核証明を求め、これがない場合には国際条約や政府の外交方針に反してでも入港業務を拒否する自治体の活動は、自治体外交権論では合法とされるのである。もちろん国交のない国の自治体と姉妹都市提携をすることも、国家間協力組織がない中で自治体間の恒常的連合組織を設立することも、さらには補完外交で国家間の緊張を解消することも、自治体外交権論では合法である。」