学説判例研究~行政法~ノート~81-85事件

学説判例研究~行政法~ノート~81-85事件

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学説判例研究~行政法~ノート~81-85事件

81:科学技術的判断と裁判所の審査
【最判平成4年10月29日】

■論点
・原子炉設置許可についての司法審査の方法と行政訴訟における主張立証責任及び証明責任の所在

■事実の概要
愛媛県西宇和島郡伊方町に原子力発電所の建設を計画した四国電力(株)は、内閣総理大臣(被告)に原子炉設置の許可を申請し、その許可を受けた。
これに対し、伊方町及びその周辺住民Xらは行政不服審査法に基づき内閣総理大臣へ異議申立てをしたが、棄却された。
そこで、Xら33名は原子炉の安全審査の実体及び手続には違法な点があり、その結果、Xらの生命、身体、財産等が侵害される危険があるなどして、原子炉設置許可処分の取消訴訟を提起した。
1審は、Xらの請求棄却、2審も控訴を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「原子炉施設の安全性に関する審査は、当該原子炉施設そのものの工学的安全性、平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、原子炉施設予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の右技術的能力との関連において、多角的、総合的見地から検討するものである。」

「右審査の対象には、将来の予測に係る事項も含まれているのであって、右審査においては。原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることは明らかである。」

「規制法24条2項は、原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、右各号所定の適合性については、各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う内閣総理大臣の合理的な判断に委ねる趣旨と解するのが相当である。」

「右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、
あるいは、当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若し
くは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には被告行政庁の判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」

「被告行政庁がした模擬判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、Xが負うべきものと解されるが、当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、
被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。」

■解説
・本判決は、原子炉施設の安全性の判断に実質的な行政庁の裁量を認めるので、「実体的判断代置方式」、すなわち、裁判所が行政庁の立場に立って処分の適否を全面的に審査する方式はとらず、専門家からなる第三者機関の専門技術的な調査審議及び判断に基づいて行政庁が行った判断に不合理な点があるか否か、を審査する方式をとっている。
具体的には、
①当該第三者機関の専門技術的な調査審議の具体的審査基準に不合理な点があるか否か
②原子炉施設が具体的審査基準に適合するとした第三者機関の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があるか否かを審査し、
いずれかが肯定され、かつ、
行政庁の判断が当該第三者機関の調査審議及び判断に依拠してなされたと認められる場合に、行政庁の判断に不合理な点があるものとして、処分は違法とすると審査である。

・本判決では、行政庁の原子炉施設の安全性に判断に不合理な点があるか否かは、「処分当時の科学技術水準」ではなく、「現在の科学技術水準に照らし」審査するとしている。
これは、処分時はともかく現時点(裁判時)では、安全性に問題のある原子炉設置許可処分を取り消すことができるため、常識的には、きわめて妥当なものといえる。

・裁量処分の場合、その違法性の主張立証責任(客観的主張立証責任)は原告にあるというのが一般的見解だとされ、本判決はこれを前提とした上で「事実上の推定のテクニック」を用いて被告行政庁側へ立証責任(主観的主張立証責任)を転換したものとりかいされている。


82:教科書検定と裁量審査
①【最判平成5年3月16日】
②【最判平成9年8月29日】

■論点
・教科書検定制度の合憲性と検定の際の裁量

■事実の概要
Xは、日本史研究者として高等学校用の教科書原稿を執筆し、その原稿は、検定済み教科書「新日本史」として発行されていた。
しかし、その後学習指導要領の改正を機縁としてXが改訂した教科書原稿にかかる新規検定や改訂検定の申請に対し、文部大臣が不合格処分や条件付き合格処分を行ったため、Xは、Y(国)を相手として国家賠償請求訴訟(家永教科書検定第1次及び第3次訴訟)及び行政訴訟(同第2次訴訟)を提起した。
第1次訴訟の1審は、Xの慰謝料請求を一部認容したが、2審は請求全部を棄却した。第3次訴訟の1審は、Xの請求を一部認容した。2審は、1審よりもさらにXの請求を認容した。

※当時の教科書検定制度
「教科用図書検定規則(文部省令)」により、検定手続や検定基準が定められていた。これによれば、文部大臣は検定申請された原稿が教科書として適切かどうかを教科用図書検定調査委員会に諮問し、その答申に基づき合否を決定する。
合否決定は、文部大臣から検定申請者に書面で通知されるが、条件付合格の場合は、教科書調査官が口頭で全ての検定意見を告知する運用であった。
※検定意見
文部大臣がする必要条件違反の指摘をいう。
・A意見ないし修正意見―教科書原稿に訂正・削除等を施さなければ合格とされない(条件付合格)ときに付されるもの
・B意見ないし改善意見―上記以外のもの

■判旨
・5年最判及び9年最判に共通の判示
「文部大臣による本件低の審査、判断は、「申請図書」について、学術的、教育的な
専門技術的判断であるから、事柄の性質上、文部大臣の合理的な裁量に委ねられるも
のというべきである。
したがって、合否の判定、条件付合格の条件の付与等についての教科用図書検定調
査審議会の判断過程(検定意見の付与を含む)に、原稿の記述内容又は欠陥の指摘の
根拠となるべき検定当時の学説状況、教育状況についての認識や、旧検定基準に違反
するとの評価等に看過し難い過誤があって、文部大臣の判断が、これに依拠してされ
たと認められる場合には、右判断は、裁量権の範囲を逸脱したものとして、国家賠償
法上違法となると解するのが相当である。」

・5年最判固有の判示
「各検定意見に看過し難い過誤があったとはいえないとする趣旨のものとあいて、結論
において是認し得ないものではない。」

・9年最判固有の判示
多数意見
①日清戦争における「朝鮮人民の反日抵抗」の記述に関する修正意見について本件修正意見は教育の専門技術的立場から原稿記述の内容を明確にあいて歴史的事象を正しく理解させ得るものに修正させようとする趣旨のものであったといえるから、文部大臣の裁量権の範囲に属するものというべきであり、裁量権の範囲を逸脱した違法があるとはいえない。

②日中戦争における「日本軍の残虐行為」として「婦人をはずかしめる」等の記述に関する修正意見について裁量権の範囲を逸脱した違法があるとはいえない。

③日中戦争期における「七三一部隊」の記述に関する修正意見について
「文部大臣が、七三一部隊に関する事柄を教科書に記述することは時期尚早として、原稿記述を全部削除する必要がある旨の修正意見を付したことには、その判断の過程に、検定当時の学説状況の認識及び…検定基準に違反するとの評価に看過し難い過誤があり、裁量権の範囲を逸脱した違法がある。」

反対意見
「朝鮮人民の反日抵抗」および「日本軍の残虐行為」に関する修正意見にも、看過し難い過誤があり、裁量権の範囲を逸脱した違法がある。

■解説
・教科書検定を行うための判断基準は、5年最判及び9年最判は、これらが学校教育法の委任立法であると位置づけている。

・本件で争われたのは、不合格処分、および条件付合格処分が学校教育法令に違反する違法なものかどうかである。

・裁判所は、教科書検定制度の趣旨を「学問的成果が学校用教科書の記述に返還される際の品質管理―学問的正確さ、中立公正さ、教科目標や児童の発達への適応性―にあるから学校教育法は、文部大臣における「学術的、教育的な専門技術的判断」を要求していると解釈した。

・反対意見の重要性について、反対意見は多数意見より厳しく審査し、当時の学説に照らせば、Xが申請した記述に相当の理由があった以上、それでもなお検定意見を付す必要がどこにあったのかを文部大臣は説明すべきであるのに、その点の説明がないから、裁量判断に合理性はなく違法とした。

83:公務員懲戒処分と裁量審査
【最判昭和52年12月20日】

■論点
・公務員懲戒処分の違法性判断について

■事実の概要
神戸税関の職員かつ全国税関労働組合神戸支部の幹部であったXらは、訴外職員に対する懲戒処分についての抗議活動等において指導的な役割を果たしたことが国公法98条1、5項、人事院規則14-1第3項に反するとして国公法101条82条1号、3号に基づき神戸税関長により懲戒処分された。Xらは当該処分について、無効確認及び取り消しを求めて出訴した。
1審は、瑕疵の存在を認めつつも、瑕疵の重大性が明白であるとまでは言えないとして、第1次請求を棄却し、第2次請求を認容した。
2審は、Xらの第1次請求を却下したが、第2次請求についてYの控訴を棄却した。

■判旨
本件懲戒免職処分を適法として原判決を破棄し、第1審判決を取り消した。

「公務員に対する懲戒処分は、・・・国民全体の奉仕者としての公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において科され」、「国公法に定められた懲戒事由がある場合に懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。」
「懲戒権者が右裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会通念上著しく妥当性を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の濫用というべきである。したがって、裁判所が右処分の審査をするにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか、又はいかなる処分をするべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較して、その軽重を論ずべきものではではなく、裁量権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当性を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである。」

■解説
・本判決は、公務員の労働基本権の制約について合憲限定解釈を否定し、現行法の一律的かつ全面的な制約を完全に合憲と判断した全農林警職法事件判決以降の方向性を最終的に確立した判決である。
・本判決は踰越濫用型審査の採用を明言する。踰越濫用型審査は、行訴法30条の文言に忠実であると言え、行政に広い裁量権を認められることを前提として、司法審査の範囲を裁量権の踰越濫用という周辺部分に限定する方法である。

84:学生に対する措置と裁量審査
【最判平成8年3月8日】

■論点
・学生に対する措置の違法性判断について

■事実の概要
神戸高専に入学したXは「エホバの証人」であり、宗教上剣道実技への参加ができないと説明し、代替措置を求めたが学校長Yは代替措置を採らなかった。Xは体育の成績が認定されず、YはXに対し第1次原級留置処分を、その翌年も同様であったため第2次原級留置処分を決定し、それを前提に退学処分を行った。これに対しXは各処分について取消訴訟を提起し、執行停止を申し立てた。
1審は請求棄却。2審は、両事件を併合し、各処分を違法なものとしてXの請求を認容した。

■判旨
上告棄却。
「原級留置処分又は退学処分を行うかの判断は、校長の合理的な教育的裁量にゆだねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、校長と同一の立場に立って当該処分をすべきであったかどうか等について判断し、その結果と当該処分とを比較して、その適否、軽重等を論ずべきものではなく、校長の裁量権の行使としての処分が全く事実の基礎を欠くか又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法である。」

「Yの措置は、考慮すべき事項を考慮しておらず、又は考慮された事実に対する評価が明白に合理性を欠き、その結果、社会通念上著しく妥当を欠く処分をしたものと評するほかなく、本件処分は、裁量権の範囲を超える違法なものといわざるを得ない。」

■解説
・京都府立大学事件において、学生の地位を単なる施設利用者として把握して、広い裁量を認めつつ「社会観念」に照らして著しく妥当を欠く場合や全く事実の基礎を欠く場合に違法を認めると言う限定的な実体審査方法を採用する。そしてこのような「社会観念審査」とでも呼ぶべき限定的審査方法は最高裁によって公務員の懲戒免職処分や部分社会論を前提に、私立大学学生の懲戒退学処分に対しても用いられてきた。
・本件では代替措置不採用の判断過程がされる。この判断過程審査は結果事態ではなき結果に至る過程に着目するものであるが、手続審査とは異なり、個々の考慮事項やその評価の程度を明確にし、この点で判断過程審査は裁量を限定的にしか認めず、社会観念審査よりも審査密度が高い厳格な審査方法であると言える。

85:重大明白な瑕疵
【最判昭和34年9月22日】

■論点
・無効の行政行為の判断基準
・無効原因の主張責任

■事実の概要
Xはその所有する農地について、A市農地委員会が定めた買収計画に基づき買収処分を受け、同農地は小作人へ売り渡された。そこで本件買収処分ならびに小作人への売渡処分の無効等を主張してXは出訴した。第1審、原審ともにXの請求を棄却し、Xは買収除外の指定をすべき土地をその指定をせずに買収することは買収処分の重大な違法事由を構成すること、また本件土地が除外指定をなすべき土地であることは関係行政庁にとって明白であったはずだから本件買収処分には明白な瑕疵があり当然無効であると主張し上告した。

■判旨
上告棄却。
「自作農創設特別措置法5条5号により買収除外の指定をすべきものをこの指定をしないで買収することは違法であり、従って取消事由とはなるが、それだけでは、当然に、重大・明白な瑕疵として無効原因となるわけではない。すなわち無効原因となる重大・明白な違法とは処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な誤認があると認められる場合を指すものと解すべきである。」

「無効原因の主張としては、誤認が重大・明白であることを具体的事実に基づいて主張すべきであり、単に抽象的に処分重大・明白な瑕疵があると主張したり、若しくは、処分の取消原因が当然に無効原因を構成するものでは足りないと解すべきである。」

■解説
・原稿行政事件訴訟法は取消訴と無効等確認訴訟と言う訴訟類型を定め、その救済方法を準備しており、取り消されるべき行政行為と無効の行政行為を区別することは理論上・手続き上必要であり、その区別の基準が重要となる。実定法上の規定は存在しないが学説・判例においては行政行為の瑕疵が重大でありかつ瑕疵の存在が明白である場合には、このような瑕疵を有する行政行為を無効の行政行為とする、重大明白説が主流となっている。
・本件の場合、「誤認が重大・明白であることを具体的事実に基づいて主張すべき」としている点から、重大明白説の立場に立っていると理解できる。
・本件では、行政行為の無効原因の主張方法の論点について、行政行為の無効を主張する側が主張する側が主張責任を負うと言う前提の下で、単に抽象的に重大明白な瑕疵が存在していると言うだけでは足りず、重大かつ明白な瑕疵に該当する具体的事実の主張が必要だと判示した。