学説判例研究~行政法~ノート~86-90事件

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行政判例ノート 86~90

86:課税処分と当然無効
【最判昭和48年4月26日】

■論点
・課税処分の無効原因判断基準

■事実の概要
会社経営者AはX1およびX2からの借金の担保として、また、会社債権者からの差押えも避けられると判断して、Xらに無断で、自己の所有する土地にX1名義に所有権移転請求権保全の仮登記を、当該土地上の建物につきX2名義の所有権移転登記を行った。その後、別債務返済のためにAは上記仮登記を本登記に切り替え、上記建物につきX2からX1への所有権移転登記を行い、Xら名義の売買契約書を偽造し、上記土地をBに売却した。
神奈川県税務署長Yは登記簿記載に依拠し、Xらに譲渡所得があると誤認して所得税課税処分を行った。課税処分には不服申立前置主義が採られていたが、申立期間内に異議申立てがなされず、Xは上記処分の無効確認を求めて出訴した。
1審・2審とも、瑕疵は重大であるが明白とはいえないとして、本件処分の無効を否定した。

■判旨
破棄差戻し。
「課税処分につき当然無効の場合を認めるとしても、・・・更正についての期間の制限等を考慮」し、「一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間のみに存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における名内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであって、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争力的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められる場合には、前記の過誤による瑕疵は、当然無効ならしめるものと解する」

「本件は、課税処分に対する通常の救済制度につき定められた不服申立期間の徒過による不可争力的効果を理由として、なんら責むべき事情のないXらに前記処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合に該当し、前記の過誤による瑕疵は、本件課税処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。

■解説
・本判決によって最高裁は重大明白説とは異なる新たな無効判断基準を示した。
・行政処分の性質上、処分の存在を信頼する必要がないことを前提として、(a)処分における内容上の過誤が処分要件の根幹についてのものであること、(b)行政の安定と円滑な運営の要請を斟酌してもなお、処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的事情があること、このいずれの用件も満たす場合には、当該処分は無効となる。

87:違法性の承継
【最判平成21年12月17日】

■論点
・建築確認の取消訴訟において、安全認定の違法性を主張できるか

■事実の概要
建築基準法43条1項の接道義務の上乗せ条例である東京都建築安全条例4条1項は当該建築物の周囲の状況等により安全認定が下された場合には接道義務は適用しないとしていた。
訴外Aは特別区Yの区長から安全認定を受けた後、Y建築主事から建築確認を受けた。
当該建築物の周辺住民であるXらは、Y建築審査会の審査請求を経た後、安全認定及び建築確認の取消訴訟を提起した。
第一審及び原審においては安全認定については出訴期間徒過により退けられている。

■判旨
上告棄却。
「平成11年東京都条例第41号による改正前の本件条例4条3項の下では、同条1項所定の接道要件を満たしていなくても安全上支障がないかどうかの判断は、建築確認の際に建築主事が行うものとされていたが、この改正により建築確認とは別に知事が安全認定を行うこととされた。」

「建築確認における接道要件充足の有無の判断と、安全認定における安全上の支障の有無の判断は、異なる機関がそれぞれの権限に基づき行うこととされているが、もともとは一体的に行われていたものであり、避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。」「安全認定は建築主事に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり、建築確認と結合して初めてその効果を発揮するのである。」

「安全確認があっても、これを申請者以外のものに通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとするものがその存在を速やかに知ることができるとは限らない。そうすると、安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。」

「以上の事情から考慮すると、安全認定が行われた上で建築確認がされている場合、安全認定が取り消されていなくても、建築確認の取消訴訟において、安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反であると主張することは許される。」

■解説
・連続的に行われる複数行為間での違法性の承継の可否は、行政行為の処分性を有する先行行為の取り消し訴訟が提起されていない状況やその出訴期間が徒過した状況の下で、処分性のある後行行為の取消訴訟において先行行為の違法性を理由に後行行為が違法とされ得るか否かという問題となって現れる。
・本件の争点も、安全認定の出訴期間徒過後に提起された建築確認の取消訴訟において安全確認の違法を理由に建築確認の違法が導かれるかという点であり、最高裁はこれを是認した。
・伝統的学説は「先行処分と後行処分とが相結合して一つの効果の実現をめざし、これを完成するものである場合」に特別の規定がない限り違法性の承継を認め、「先行処分と後行処分とが相互に関連を有するとはいえ、それぞれ、別個の効果を目的とするものである場合」には、これを否定してきた。本判決は判示から、この説を想起させる。

88:瑕疵の治癒(1)
【最判昭和36年7月14日】

■論点
・農地買収計画に対する訴願裁決を経ない手続の進行という瑕疵が、その後の訴願棄却裁決により治癒されるか

■事実の概要
尼崎地区農地委員会はX所有の池沼を自作農創設特別措置法15条1項1号所定の「農地の利用上必要な農業用施設」として買収計画を定め、Xはこれを不服とし兵庫県農地委員会に訴願を提起した。
同法15条2項により準用される8条9条によると買収計画に適法な訴願が提起されると、都道府県農地委員会がこれを裁決し、買収計画に承認を与えた後に都道府県知事が買収令書の交付により買収をなすこととされていた。
兵庫県農地委員会は訴願に対する裁決に先立ち訴願棄却裁決を停止条件として買収計画を承認し、同県知事も買収令書を交付し、本件池沼を買収した。その後にXの訴願は棄却された。
そこでXは知事による買収処分は無効であるから国を被告として所有権取得無効確認訴訟を提起した。
1審は、本件買収処分を適法として、Xの請求を棄却した。2審は、本件買収処分を無効として、Xの請求を認容した。

■判旨
破棄差戻し。
「農地買収計画につき異議・訴願の提起があるにもかかわらず、これに対する決定・裁決を経ないで爾後の手続きを進行させたという違法は、買収処分の無効原因となるものではなく、事後において決定・裁決があったときは、これにより買収処分の瑕疵は治癒されるものと解するのを相当とする。」

「本件についてこれをみるに、・・・訴願棄却の裁決がなされる前に承認その他の買収手続を進行させたという瑕疵は、その後訴願棄却の裁決がなされたことにより治癒された、と解すべきである。」

■解説
・行政処分には実体法上あるいは手続法上の各種の要件が法定されているが、これらの要件は、処分の時点で充足されていなければならず、その時点でこれを欠く処分は、違法として取り消されるのが原則である。ところが、処分後の事情変更により処分時には欠けていた法廷要件が実質的に充足されていると考えられる場合もありうる。このような場合、処分時の違法を主張して取消しても、既に要件がととのっている以上、行政庁は同一の処分を繰り返すことが予想され、このような処分の取り消しは時間稼ぎ以上の実益は期待できない。このような場合には処分時に違法であったにもかかわらず、その瑕疵は事後に治癒されたとして、処分を取り消すことなく、その効力を維持することになる。これを「瑕疵の治癒」といい、本件の場合もその一例と考えられる。

89:瑕疵の治癒(2)
【最判昭和47年12月5日】

■論点
・理由附記の不備について
・理由附記の不備という瑕疵が、その後のこれに対する審査裁決の理由附記により治癒されるか。

■事実の概要
法人Xは法人税についての確定申告をしたところ、Y税務署長から増額更正を受けた。
これを不服としたXはK国税局長に審査請求したが、更正の一部を取り消す裁決を下した。
この裁決にも不服であったXは、更正処分の取り消しを求めて出訴した。その理由としては、本件更正処分は青色申告の更正に理由附記を義務付けた当時の法人税法32条に違反したわけである。
これに対しYは本件更正に理由附記の不備はないとする一方、仮にあったとしても審査裁決書により理由が明確になった以上、それによる瑕疵は治癒されたというべきであると反論した。
1審は、各更正処分の理由附記を不備とする一方、その瑕疵は審査裁決の理由附記によっても治癒されないとして、更正処分の残り全部を取消し、2審もほぼ全面的に1審を支持した。

■判旨
上告棄却。
1.理由附記の不備
「処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立の便宜を与えることを目的として更正に附記理由の記載を命じた前記法人税法の趣旨にかんがみ、本件更正の附記理由には不備があるものというべきである。」

2.瑕疵の治癒
「更正に理由附記を命じた規定の趣旨」から「処分庁と異なる機関の行為により附記理由不備の瑕疵がちゆされるとすることは、処分そのものの慎重、合理性を確保する目的にそわないばかりでなく、処分の相手方としても、審査裁決によってはじめて具体的な処分根拠を知らされたのでは、それ以前の審査手続において十分な不服理由を主張することができない」
「更正が附記理由不備のゆえに取り消されるときは、更正期間の制限によりあらたな更正をする余地のないことがあるなど処分の相手方の利害に影響を及ぼすのであるから、審査裁決に理由が附記されたからといって、更正を取り消すことが所論のように無意味かつ不必要なこととなるものではない。」
「更正による附記理由不備の瑕疵は後日これに対する審査裁決において処分の具体的根拠が明らかにされたとしても、それにより治癒されるものではない」

■解説
・現在の行政手続法のように、それを命ずる明文規定が存在する場合には、理由が全く附記いない行政処分やそれが不十分な行政処分は違法となり、違法な行政処分は取消訴訟が提起されれば、裁判所により取り消されるのが原則である。しかし、理由附記に関する違法においては、訴訟の段階では裁決の理由附記や訴訟における被告処分庁の主張等によって相手方は既に処分理由を知らされているはずであり、当初の行政処分の理由附記の不備という瑕疵は治癒されたと考える余地もある。
・従来の下級審判決においては、審査請求等により理由が示されれば当初の青色申告更正処分の理由附記の瑕疵は治癒するとしたものと否定したものとがあり判例が対立していたが、最高裁は本判決において理由附記の目的に遡って瑕疵の治癒を検討し、これを明確に否定し、この対立に終止符を打った。

90:違法行為の転換
【最判昭和29年7月19日】

■論点
・自作農創設特別措置法施行令43条に基づく行政行為を施行令45条の行為として読み替えることが許されるか

■事実の概要
村農地委員会はX所有の農地について旧自作農創設特別措置法3条1項、附則2項により、小作地として認定して買収計画を定めた。
Xの訴願を県農地委員会Yが棄却したのに対し、Xは裁決の取消訴訟を提起した。
自創法施行令43条により、小作人から買収の請求があったものとして買収計画を定めたがYは請求がなかったと認めながら施行令45条を適用し買収計画を相当と判断したため、このような判断が許されるかが争点となった。
1審・2審ともXの請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「施行令43条による場合と同令45条による場合とによって、市町村農地委員会が買収計画を相当と認める理由を異にするものとは認められない」
「同令43条により定めたと認定した赤坂村農地委員会の本件買収計画をYが同令45条を適用して相当と認めXの訴願を容れない旨の裁決をしたことは違法であるとはいえない。」

■解説
・違法な行政行為の「転換」とは、Aという意味のものとして行われた行政行為が、Aという意味のものとしては違法であるが、別のBという意味のものとしては適法な場合に、当該行政行為をBという意味のものと後で読み替えることである。本件では自創法施行令43条等に基づいて定められた買収計画が施行令45条等に基づく買収計画と読み替えられた。