問題解答例~ケースブック刑法:3講問1

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ケースブック刑法〔第4版〕解答例

第3講 因果関係の存否の判定と認定

【設問1】(元ネタ→高速道路侵入事件)


第1 第1現場における傷害罪の成否

1 第1現場において、XとYらは共謀して、Aの顔面を手拳で殴打するなどして暴行し、傷害を負わせている。
そこで、XとYら6名に傷害罪の共同正犯(204条・60条)が成立するか。

2 傷害罪が成立するには、①人の身体を②傷害した場合に傷害罪が成立するが、「傷害」とは人の生理機能の侵害をいうものと解する。
本問では、第1現場においてAの顔面、腹部等を手拳で殴打し、その胸部、腹部等足蹴にするなどの暴行を加え、また、第2現場では、椅子を用いるなどして、多数回、顔面等手拳で殴打するなどの暴行を加えており、この一連の行為により、顔面打撲等の傷害を負っており、生理機能を害したといえる。
そして、XとYらには、Aを傷害する認識があるので、故意が認められる。
よって、傷害罪の構成要件に該当する。

3 共同正犯が成立するには、①共謀と②共謀に基づく実行行為が必要である。
本問では、XとYらに共謀があり、共謀に基づいて実行行為(暴行)が行なわれている。
よって、XとYらに、傷害罪の共同正犯が成立する(204条・60条)。


第2 第2現場における傷害致死罪の成否について

1 もっとも、第2現場におけるXとYらによる暴行後、Aは逃走を図る過程で轢過され、死亡している。
そこで、XとYら6名に傷害致死罪の共同正犯(205条・60条)が成立しないか。

2 傷害致死罪が成立するには、①人の身体を傷害し、予期に反して、②人の死亡の結果が生じることが必要である。
そして、傷害致死罪は、傷害罪(204条)を基本犯とし、重い結果として致死を規定する結果的加重犯であるが、傷害罪と致死との間に因果関係があるだけでは足りず、重い結果に対する行為者の過失が必要であると解する。
判例は過失を不要とするが、責任主義からは単に因果関係があれば足りるとするのは妥当ではないからである。
さらに、結果的加重犯に関する以上の要件の下で、結果的加重犯の共同正犯を認めることができるか。この点、結果的加重犯は、もともと基本行為に結果発生の高度の危険性が含まれていることから、基本となる行為を共同で行っている以上、結果的加重犯の共同正犯を認めても責任主義には反しないといえる。

3上記「第1」で検討した通り、第2現場におけるXとYらの行為は傷害罪に該当する。

4 Aが高速道路に立ち入る行為は、第1現場・第2現場での暴行から予期しうる範囲外の行為であるとも考えられるため、因果関係が認められるか。
この点、「あれなければこれなし」という条件関係があれば、刑法上の因果関係が認められるとする見解(条件説)があるが、因果関係が認められる範囲が広くなりすぎる。
また、条件関係があることを前提に、その行為からその結果が発生することが一般人の経験上相当であるといえる場合に刑法上の因果関係を認める見解(相当因果関係説)があるが、妥当ではない。
なぜなら、介在事情の予見可能性という判断基準は曖昧で、不明確であり、また、介在事情が予見不可能であれば、当該介在事情は存在しなかったものとして扱われ、適切な帰責範囲を画することはできないからである。
私は、刑法上の因果関係が認められるためには、条件関係を前提に、行為の危険性が結果へと現実化したといえる場合に認められるものと解する(危険の現実化説)。
本問について検討すると、XとYら6名の暴行がなければ、精神的に追い詰められたAが逃走の過程で轢過され、死亡するという結果は生じなかったであろうから、条件関係がある。
次に、客観的に存在するすべての事情を基礎に、行為の危険性が結果へと現実化したかを検討する。
XとYら6名の暴行は、長時間にわたって執拗に激しく行なわれ、その結果Aは精神的に追い詰められていること、複数人からの追跡から必死に逃走を図る過程で、距離にして約800メートルの現場で、時間にして10分後に轢過されていることから考えると、高速道路に進入するという無謀な行為に出て、死亡する危険性がXらの実行行為の中に含まれているといえる。被害者の行動は、著しく不自然、不相当とはいえない。
そして、Aは5分間で上り下りとも37台という通行量の多い高速道路に進入するという無謀な行為を選択し、轢過され死亡したので、その危険が現実化している。
よって、刑法上の因果関係が肯定される。

5 重い結果である致死について過失が認められるか、予見可能性の有無が問題となる。
高速道路に進入するという介在事情はそれ自体極めて危険な行為といえるが、このような事情のもとでは、介在事情の異常性は低いものと考えられ、XとYらに予見可能なものであったといえる。
よって、XとYらの行為は傷害致死罪の構成要件に該当する。


第3

本問では、XとYらに共謀があり、共謀に基づいて実行行為(暴行)が行なわれている。
よって、Xらに、傷害致死罪の共同正犯が成立する(205条・60条)。
そして、第1暴行についての傷害罪と第2現場についての傷害致死罪は、接続した同種の行為によるものであるが、同じ法益侵害を惹起させた場合ではないので、両罪は併合罪となる(45条)。