学説判例研究~行政法~ノート~91-95事件

学説判例研究~行政法~ノート~91-95事件

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行政判例ノート 91~95

91:職権による取消し(1)――農地賃貸借解約許可
【最判昭和28年9月4日】

■論点
・処分をした行政庁が、自らその処分を取消すことができるかどうか、即ち、処分の拘束力をどの程度認めるか。(要素の錯誤を理由とする取消しの可否)

■事実の概要
農地を訴外Aに賃貸していたXは、その期限到来とともに、賃貸借契約の更新を拒絶した。そして、その当時の農地調整法(以下「農調法」という)で要求されていた、更新拒絶の許可を、Y(群馬県知事)に申請し、許可された。そこで、Xは、Aを相手取り農地返還請求の訴えを提起した(本件当事継続中)。ところが、Yは、Xの許可申請書添付の陳述書に不実の記載があった(一家は失業状態にあり生活困難を思わせる記述があったが、事実はそうでなかった)として許可を取消した。
これに対し、Xが取消処分の取消しを求めて出訴した。
1審は、本件農地の一部についてXが勝訴したが、大部分は敗訴した。2審は、Xの請求を全面的に認容した。

■判旨
上告棄却。
「元来、許可が行政庁の自由裁量に属するものであっても、それはもともと法律の目的とする政策を具体的の場合に行政庁をして実現せしめるために授権されたものであるから、処分をした行政庁が自らその処分を取消すことができるかどうか、即ち処分の拘束力をどの程度に認めうるかは一律には定めることができないものであって、各処分について授権をした当該法律がそれによって達成せしめんとする公益上の必要、つまり当該処分の性質によって定まるものと解するのが相当である。」

「都道府県知事は農地の賃貸借の当事者が農調法9条3項所定の許可を受けるために申請書を提出しても、その申請書の記載にかかわりなく、・・・当該賃貸人が自作を為すに必要な経済能力、施設等を有するかどうか、当該賃貸人の自作によって当該農地の生産が増大するかどうか、更に賃貸借の解除、解約・・・又は更新の拒絶により当該農地の賃借人の相当な生活の維持が困難となることがないかどうか等諸般の事情を考慮して許可を与えることが相当であるかどうかを決しなければならないのである。それ故かりに右申請書に不実の記載があっても、行政庁は申請書の記載にかかわりなく、当事者双方に存する前記諸般の事情を勘案した上許可を与えることが相当であると決することができるのであって行政庁がその権限に基いて許可を与えれば、それによってただに申請者だけが特定の利益を受けるのではなく、利害の反する賃貸借の両当事者を拘束する法律状態が形成せられるのである。それ故かような場合に、申請者側に詐欺等の不正行為があったことが顕著でない限り、処分をした行政庁もその処分に拘束されて処分後にはさきの処分は取消しできないことにしなければ、農調法9条3項所定の、法律行為について特に賃貸借当事者の意思の自主性を制限して、その効力を行政庁の許可にかからしめた法的秩序には客観的安定性がないことになって、それでは却て耕作者の地位の安定を計る農調法の目的に副わないことになることは明である。」

「されば所論のように、Yにおいて許可後に許可申請書記載の事項と事実とが相違することが明となって、さきの許可を与えなかった方がよかったという見解に到達したとしても、それはYにおいてさきの調査が不充分であったかもしれないという内部の事情に過ぎないことであって、かかる事情の下においては、所論要素の錯誤を理由として農調法上の法的秩序に優位せしめなければならない程度にさきの許可を取消すべき公益上の必要あるものとはとうてい認めることができない」。

■解説
・本件において取消の是非が争われているのは、農地賃貸借契約の更新拒絶に係る知事の許可処分である。そして、当該許可処分は、第三者の契約などの法律行為を補充して法律上の効果を完成させる行為、すなわち、講学上の「認可」にあたる。

・処分の拘束力について、「・・・当該処分の性質によって定まる」と性質論に立っているようにも思われる。しかしながら、性質論から直ちに取消しが制限されるわけではなく、根拠法規の目的や相手方・利害関係人の利益、公共の福祉への影響などの諸利益を比較衡量することが必要であるということを意味している。


92:職権による取消し(2)――農地の買収・売渡し
【最判昭和43年11月7日】

■論点
・処分をした行政庁が自らその処分を取消すことができるかどうか、即ち処分の拘束力をどの程度認めるか。(違法または不当を理由とする取消しの可否)

■事実の概要
農業委員会が、訴外Aの所有自作地を不在地主Bの所有小作地と誤認してなした、農地買収計画および農地売渡計画を、自作農創設特別措置法(以下、「自創法」という)に基づき、職権で取り消したため、売渡しを受けた者が、当該農地の所有権確認等を求めた事案である。なお、売渡しを受けた者は、所有権移転登記を経由したが、その引渡しを受けていなかった。
1審は、請求棄却、2審も控訴を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「買収計画、売渡計画のごとき行政処分が違法または不当であれば、それが、たとえ、当然無効と認められず、また、すでに法定の不服申立期間の徒過により争訟手続によってその効力を争い得なくなったものであっても、処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、自らその違法または不当を認めて、処分の取消によって生ずる不利益と、取消をしないことによってかかる処分に基づきすでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り、これを取消すことができる」。

「自創法に基づく農地買収は、個人の所有権に対する重大な制約であるところ、かかる重大な制約は、その目的が自作農を創設して農業生産の発展と農業経営の民主化をはかることにあるという理由によって是認されうる強制措置であるから、かかる処分が、本件におけるごとく、法定の要件に違反して行われ、買収すべからざる者より農地を買収したような場合には、他に特段の事情の認められない以上、その処分を取り消して該農地を旧所有者に復帰させることが、公共の福祉の要請に沿う所以である。」

「本件各農地の売渡しを受けた者は、所有権取得投機を経由しているとはいえ、該農地の引渡を受けていなかったというのであるから、前記諸般の事情を勘案すれば、違法な買収処分によって(真の所有者やその転得者が)蒙った不利益は、違法な売渡処分・・・の取消によって蒙る不利益に比し著しく大である」。

■解説
・本判決は、①取消による不利益と取消をしないことによる不利益を比較考量して職権取消しの拒否を考えること(職権取消しの判断枠組み)、②取消しをしない場合に、「公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められるときに限り」、取消すことができること(職権取消しの基準)を明らかにした。

・本判決が判例として重要なのは、①原処分が法定の要件に違反して行われたため、自創法の目的に全く反することが「該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められる」場合にあたることと、②「該農地の引渡を受けていなかった」として後行行為の事実上の未完了が取消しを認める理由になったことであろう。


93:行政行為の撤回の可否
【最判昭和63年6月17日】

■論点
・授益的行政行為を事後的に撤回する場合において、撤回権が制限されるか。

■事実の概要
優生保護法14条1項に基づき、Y(宮城県医師会)より、人工妊娠中絶を行うことができる医師としての指定を受けたXが、いわゆる実子あっせん行為で刑事処分を受けたため、医師会が指定医師の指定取消処分をした。
これに対し、Xが本件処分の取消し等を求めて出訴した。
1審および2審は、ともにXの請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
処分の「撤回によってXの被る不利益を考慮しても、なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められる」場合には、「公益上その撤回について直接明文の規定がなくとも、・・・Yはその権限においてXに対する右指定を撤回することができるというべきである」。

■解説
・本訴の意義を理解するための前提を3つほど整理しておくと、第1に、本訴第1審では、①医師会(厚生大臣が所管する公益法人)が果たして「行政庁」といえるか、そして、②医師会による指定取消しの処分性の有無、につき争われた。これにつき第1審裁判所は、①医師会は「国又は公共団体から公権力の行使の権限を与えられている機関」であることを論拠に、そして、指定は「もともと国の権能に属するもので公権力の行使に当たる行為である」との論拠で、それぞれ肯定した。第2に、本件指定処分の“取消し”はその法的性質に照らすと、「取消し」ではなく「撤回」である。第3に、(当時の)優生保護法には、指定医の指定に関する規定は存在するが、指定の撤回の可否については、明文の規定が欠如していた。そこで、この最後の点が本訴における最大の論点となった。

・本件は次の意味で特殊な事例である。なぜなら、①撤回論では通常(警察)許可的性格の処分が念頭に置かれているが、本件指定処分の性質は特許的なものであること。しかも、②撤回の自由が――通常説かれるように――単なる「公益上の必要」というよりはむしろ、「相手方の有責性」に起因するケースだ、と見られるからである。(そして、本判決の“射程距離”がどこまでかについては、曽和俊文「行政行為(2)瑕疵・職権取消しと撤回」法教378号52頁以下が有益であり、参照を願う、とのこと。)


94:行為の撤回と保障
【最判昭和49年2月5日】

■論点
・授益的行政行為が撤回された場合の損失補償請求権の根拠。
・授益的行政行為を撤回した場合の権利対価補償の要否。

■事実の概要
Xは、Y(東京都)が開設した築地の中央卸売市場内にある行政財産たる土地について、使用期間の定めなしに、事業を営むための建物所有目的で、使用許可を受けていた。その後、市場施設の拡充が必要になったため、Yは使用許可を撤回し、行政代執行を実施した。
これに対し、Xは、使用許可に基づく使用権は私有財産であるから、使用許可の撤回はその剥奪であるなどと主張し損失補償を求めて出訴した。
原判決は、Yに対して約1億円の損失補償を命じた。

■判旨
破棄差戻し。
(ⅰ) 地方自治法は、行政財産の目的外使用許可が撤回された場合の損失補償について規定を置いていないが、「当時の国有財産法は、すでに、普通財産を貸し付けた場合における貸付期間中の契約解除による損失補償の規定をもうけ、これを行政財産に準用していたところ、国有であれ都有であれ、行政財産に差異はなく、公平の原則からしても国有財産法の右規定は都有行政財産の使用許可の場合にこれを類推適用すべきものと解するのが相当であって、これは憲法29条3項の趣旨にも合致する」。「したがって、本件損失補償については、これを直接憲法29条3項にもとづいて論ずるまでもない」。

(ⅱ) 国有財産法は、使用許可撤回の際の損失補償を定めているが、「使用許可の取消しに際して使用権者に損失が生じても、使用権者においてその損失を受忍すべきときは、右の損失は同条にいう補償を必要とする損失には当たらないと解すべきところ」、「公有行政財産たる土地は、その所有者たる地方公共団体の行政活動の物的基礎であるから、その性質上行政財産本来の用途又は目的のために利用されるべきものであって、これにつき私人の利用を許す場合にその利用上の法律関係をいかなるものにするかは、立法政策に委ねられて」おり、地方自治法238条の4は、行政財産はその用途または目的を妨げない限度においてその使用を許可することができると定めている。「したがって、本件のような都有行政財産たる土地につき使用許可によって与えられた使用権は、それが期間の定めのない場合であれば、当該行政財産の用途または目的上の必要を生じたときはその時点において原則として消滅すべきものであり、また、権利自体に右のような制約が内在しているものとして付与されているものとみるのが相当である」。

(ⅲ) 例外は、使用権者が使用許可を受けるに当たりその対価の支払いをしているが、当該行政財産の使用収益により右対価を償却するに足りないと認められる期間内に当該行政財産に右の必要を生じたとか、使用許可に際し別段の定めがされている等により、行政財産についての右の必要にかかわらず使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合に限られるといべきである。」

■解説
・原判決は、憲法29条3項に基づいて損失補償を請求しうるとしたのに対して、本判決は、「公平の原則」から、行政財産の使用許可の撤回による損失補償を定めた国有財産法の規定を類推適用し、そうである以上、憲法29条3項が損失補償の根拠となるか否かは「論ずるまでもない」とした。

・本判決は、行政活動の物的基礎である行政財産の使用許可は、当該財産を公共目的に供する必要が生じればいつでも撤回されるものであり、その意味で許可による使用権は当初からそのような制約を内在させているのであるから、使用権の喪失それ自体は原則として補償の対象にはならないとした。その上で、未回収の投下資本が残存しているなど、使用権者の使用権を保護すべき実質的理由がある場合にのみ、例外的に、権利対価補償が認められるとした。ここでいわれている補償は、むしろ付随的損失に対するものと解することができる。