学説判例研究~行政法~ノート~96-100事件

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行政判例ノート 96~100

95:行政行為の附款(1)――小学校教員の期限付任用
【最判昭和38年4月2日】

■論点
・行政行為たる教諭の任用処分に付せられた、附款たる期限の許容性及び限界。

■事実の概要
30数年間小学校教諭の職にあったXは、昭和26年3月22日に山形県教育委員会から退職勧告を受け、退職後1年の期限付きで助教諭に採用される旨の了解を得てこれを承諾し、3月31日に退職した。そして、1年の期限付きで助教諭に採用され、さらに期間の更新を受けたが、28年2月頃になって、当時の任用権者である村教育委員会から同年4月以降は採用を継続しない旨申し渡された。そこで、Xは「昭和28年度だけでよいから勤めさせて貰い度い」旨懇請し、「昭和29年3月31日限り自発的に退職する」との誓約書を差し出して期間の更新を受けた(この後6月に地方公務員法(以下、地公法という)の任用規定が村にも適用されるようになり、公務員の身分保障があることになった)。
村教育委員会は昭和29年3月31日付けでXに退職を命じたが、Xはこの退職処分が違法であるとして本件訴訟を提起した。
1審、2審ともに、Xの請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
地方公務員「法が・・・に徴すれば、職員の任用を無期限のものとするのが法の建前であると解すべきこと、まさに所論のとおりである。しかし、右法の建前は、職員の身分を保障し、職員をして安んじて自己の職務に専念させる趣旨に出たものであるから、職員の期限付任用も、(イ)それを必要とする特段の事情が存し、且つ、(ロ)それが右法の趣旨に反しない場合においては、特に法律にこれを認める旨の明文がなくても、許されるものと解するのが相当である」。

本件期限付き任用が、①勧奨退職を円滑に運用していくためにとられたものであること、②Xも期限につき同意し、年度末には退職する旨の誓約書を提出していたこと、③地公法の任用規定の適用があったのが、更新期間中であったこと等の事情のもとでは、期限付任用は違法のものとは認められない。

■解説
・附款の許容性としては、法令が明示的に認めている場合および明示的に認めていない場合にあっては裁量の認められている範囲内で附款を付しうる。判旨(イ)は、本件の場合は明示の法令上の根拠は存在しないので、行政権に裁量権が認められている場合にその範囲内に限り附款を付することができるということを言い換えたものであろう。

・附款の限界としては、法令に反しないこと、裁量の範囲内であること(特に授権法規の目的に反しないこと)、比例原則・平等原則に反しないことがあげられるのが通例である。判旨(ロ)は、これに関する説明である。

・本判決は、最高裁が初めて地公法の適用のもとでも期限付任用が認められるとしたものである。

96:行政行為の附款(2)――建築許可に付した無補償撤去条項
【最判昭和33年4月9日】

■論点
・行政行為たる建築許可に付された、附款たる条件の許容性及び限界

■事実の概要
東京都の都市計画のより、本件土地に対し駅前広場としての指定がなされ、駅前広場設定事業施行年度が決定されたが、その後上記決定は廃止された。そこで、Xらは、本件土地につき、Y(都知事)の委任を受けた区長に、建築許可申請をなし、広場事業が実施されれば新築の建物を撤去するので許可してほしい旨懇請し、請書・念書を提出したことから、区長は建築許可をした。それには、次のような附款が付されていた。①駅前広場事業によりYが移転を命じた場合は3ヶ月以内に物件を撤去すること、②この撤去によって生じるすべての損失について補償を一切要求しないこと、③3ヶ月以内に撤去しない場合には代執行せらるるも異議を申立てないこと、④許可された建物は担保に供さないこと、⑤許可された建物を譲渡・転貸する場合には、譲渡当の相手が上記の条件に従うことを承認する旨の証書を区長に提供し区長の承認を得ること、⑥上記の条件は譲渡等の相手方の相続人にも効力が及ぶこと、などの9項目のものであった。
Xらは、(1)これらの附款は、都市計画法施行令12条にいう条件ではなく、明文の根拠のあるものではないこと、(2)上記条件のうち①②④⑤については補償の定めがなく、憲法29条3項に違反することなどを理由として、建築許可に付加された条件(附款)の無効確認を求めた。
1審は、③など一部を無効とし、その他の請求を棄却した。2審はXらの控訴を棄却した。

■判旨
上告棄却。
都市計画法・同法施行令による「建築物に関する制限は、他面において財産権に対する制限となることは否定しえないところであるが、そもそも都市計画とは、・・・公共の福祉の為に必要なものであることはいうまでもないところであるから、前記建築物に関する制限が、他面において財産権に対する制限であっても、それが都市計画上必要なものである限りは公共の福祉のための制限と解すべくこれを違憲といえないことは、憲法29条により明らかである。」

「よって、本件許可に付した条件の所論条項が、都市計画上必要なものかを考えてみるに、・・・本件広場設定事業は、予算の関係上一時施行が延期されたが、予算の成立とともに施行されることになっていたものであって、その施行の際は、本件土地は都市計画法16条によって収用又は使用されうることが明らかであり、かかる土地の上に新たに建築物を設置しても、右事業の実施に伴い除却を要するに至ることも明らかであったばかりでなく、本件許可については、前記出願者らは、広場設定事業実施の場合は、いかなる条件でも異議をいわず、建物を撤去すべき旨の書面を差し入れ、又はその旨の承諾をしていたのであって、このような事実関係の下においては、本件許可に際し、無償で撤去を命じうる等の所論条項をこれに附したことは、都市計画事業たる本件広場設定事業の実施上必要やむを得ない制限であったということができる。」

■解説
・本件でいう条件とは、講学上の分類では負担と呼ばれるものにあたる。附款が独立して抗告訴訟の対象となりうるかについては、少なくとも負担については一般に積極に解されており、本判決もその理解の上に立つ。

・本件の場合の建築許可に附款を付しうるか(附款の許容性)であるが、都市計画法12条は「必要ナル条件ヲ附スルコトヲ得」と定めており、明文の根拠があるので、形式的には附款を付することができる。したがって、Xらは、本件附款が都市計画上全く不必要であることを理由に、附款が付されたことを権限外の行為であると主張したが、第1審判決においてこの申立は否定されている。

・最高裁まで争われた附款①、②につきXらは、財産権の制限を行うものであるにもかかわらず一切の補償請求をあらかじめ否定しているのは憲法29条に反し無効である(附款の限界)と主張していた。これに対し判示は「建築物に関する制限が、他面において財産権に対する制限であっても、それが都市計画上必要なものである限りは公共の福祉のための制限と解すべくこれを違憲といえないことは、憲法29条により明らかである」とした。

・本件判決は、附款に基づく制限が「公共の福祉のための制限」であるので違憲ではないとした。本件の発生および判決の時点では「公共の福祉」を理由とする人権制約の説明がかなり一般的に認められていた。ところが、その後、A.警察制限については補償を要せず、それ以外の制限については「特別の犠牲」あたるか否かという基準で補償の有無を決すべしとする考え方が通説的立場を形成し、最近では、B.財産権の剥奪や本来の効用を妨げる場合には補償を要するとし、そうでない場合には、社会的共同生活の維持のために必要とされる範囲で課せられた制限には補償は不要であり、公益目的のためにある土地に偶然課せられた制限には補償を要するものとする理解も有力になってきており、やはり、本件判決の理由付けは問題とされるべきであろう。
すなわち、本件の制限の内容を検討すると、広場設定事業の実施上必要やむをえないものとして定められたものであり、公共事業の実施のための制限であることは明らかであるので、憲法29条3項に抵触するか否かを実質的に検討すべきものであったはずである。この制限は明らかに警察目的ではなく、A説でいえば「特別の犠牲」にあたるものであろうし、B説でいえば、公益目的からその土地に偶然課せられた制限であり、いずれも補償を要すると解する余地があろう。そうすれば、もともとの制限が補償を要しないことを前提として建築許可に付せられた負担も、実質的にはやはり、憲法29条3項に違反することになろう。ただし、もともとの制限の違憲性ではなく、附款の違憲・違法性を主張するXらの争い方からすれば判旨のようにならざるをえないとの理解もある。


97:水道供給契約
【最決平成元年11月8日】

■論点
・行政指導の限界
・水道法15条1項の「正当の理由」の意義

■事実の概要
武蔵野市が制定した宅地開発指導要綱では、中高層建築物を建設する際には、日照に影響を受ける住民の同意を得、建設計画が15戸以上の場合には、教育施設負担金を市に寄付すること等を事業者に求め、この要綱に従わない事業主に対して市は上下水道等必要な協力を行わないことがある旨を規定していた。そして、これを遵守しなかったY建設からの給水申込を拒否した。
かかる市の対応が、給水契約の締結を拒むことができる「正当な理由」ある場合にあたらず、水道法15条1項違反行為にあたるとして、市の対応を指揮した市長が起訴された。
1審は、市長に罰金10万円を命じた。2審は、控訴を棄却した。

■決定要旨
上告棄却。
「原判決の認定によると、被告人らが本件マンションを建設中のY建設及びその購入者から提出された給水契約の申込書を受領することを拒絶した時期には、既に、Y建設は・・・指導要綱に基づく行政指導には従わない意思を明確に表明し、マンションの購入者も、入居に当たり給水を現実に必要としていたというのである。そうすると、原判決が、このような時期に至ったときは、水道法上給水契約の締結を義務付けられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に遵守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されないというべきであることから、これを留保した被告人らの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たると判示したのは、是認することができる。」

「原判決の認定によると、被告人らは、右の指導要綱を遵守させるための圧力手段として、水道事業者が有している給水の権限を用い、指導要綱に従わないY建設らとの給水契約の締結を拒んだものであり、その給水契約を締結して給水することが公序良俗違反を助長することとなるような事情もなかったというのである。そうすると、原判決が、このような場合には、水道事業者としては、たとえ指導要綱に従わない事業主らからの給水契約の申込みであっても、その締結を拒むことは許されないというべきであるから、被告人らには本件給水契約の締結を拒む正当の理由がなかったと判断した点も、是認することができる。」

■解説
・行政指導の限界に関する考え方としては、指導の相手方の任意性という主観を基準として、相手方が指導への不服従を表明した以後の指導を違法とする主観説を原則としつつ、他に合理的理由がある場合には指導継続を許容する折衷説が支持されよう。そうすると、本件において、行政指導への明示の拒否がない限り、また許否があったとしても特段の事情があれば、指導要綱に基づく行政指導を継続し、その間契約を締結せずにおくことは、水道法上の「拒否」には当たらず、留保にすぎないということになる。しかし、本件では、建物がほぼ完成し、東京都がその仮使用を承認し、譲受人が入居した段階に至っても、特段の事情も認められないにもかかわらず、申込に応じなかったというのであるから、給水の拒否というほかない。

・市長の行為が給水許否であるとしても、そこに正当の理由が存在する場合には水道法違反とならない。そこで、本件では指導要綱に従わないことが給水許否の正当理由となるかが問題となるも、正当の理由につき、本件では、給水が申込者の公序良俗違反行為を助長し、または申込みが権利濫用と評価できるような場合を含むとする。

・なお、本件とは逆に、給水許否について正当の理由の存在を認めた最高裁判決(平成11・1・21-百選<第5版>96事件)があるが、このケースは、水資源が逼迫していることへのやむを得ない対応策であったという点で、純然たる街づくりのための手段である本件とは判断を異にしたといえよう。


98:公害防止協定
【最判平成21年7月10日】

■論点
・公害防止協定の法的拘束力(法律ないし条例との整合性)
・自治体が行政権の主体としてなす公害防止協定の司法的執行の可否

■事実の概要
福岡県知事から、廃棄物処理法に基づく廃棄物処理処分業の許可を受け、産業廃棄物の最終処理場を設置・使用しているYに対し、公害防止協定で定められている使用期限が経過したと主張して、X市(第1審中に合併があり旧A町の地位を承継)が処分場の使用の差止を求める民事訴訟を提起した事案である。
福岡県では、産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例(本件条例という)が制定されており、その15条では、・・協定を締結しようとするときは、知事がその内容について必要な助言を行うものとする旨定めている。
Yと旧A町との間の公害防止協定(「旧協定」)は、この条例の下で締結されたものであり、使用期限を「平成15年12月31日まで。ただし、それ以前に・・埋め立て量に達した場合にはその期日までとする」とし、上記期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない旨を定めていた(「旧期限条項」)。
その後、Yは二度にわたって処分場の規模を拡大する施設変更許可を行ったため、改めて公害防止協定(「本件協定」)が締結された。その内容は、基本的に旧協定と異ならない(「本件期限条項」)
1審は、請求を認容したが、2審は、X市の請求を棄却した。

■判旨
破棄差戻し。
(ⅰ)「知事の許可が、処分業者に対し、許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課するものではないことは明らかである。そして、同法(廃棄物処理法)には、処分業者にそのような義務を課す条文は存在せず、かえって、処分業者による事業の全部又は一部の廃止、処理施設の廃止については、知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから・・・処分業者が、公害防止協定において、協定の相手方に対し、その事業や処理施設を将来は意志する旨を約束することは、処分業者自身の自由な判断で行えることであり、その結果、許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても、同法になんら抵触するものではない。したがって、旧紀元条項が同法の趣旨に反するということはできないし、同法の上記のような趣旨、内容は、その後の改正によっても、変更されていないので、本件期限条項が本件協定が締結された当時の廃棄物処理法の趣旨に反するということもできない。」

(ⅱ)「そして、級期限条項及び本件期限条項が知事の許可の本質的な部分に関わるものではないことは、以上の説示により明らかであるから、旧期限条項及び本件期限条項は、本件条例15条が予定する協定の基本的な性格及び目的から逸脱するものでもない。」

(ⅲ)「本件期限条項が公序良俗に違反するものであるか否かにつき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」

■解説
・本件において、最高裁は公害防止協定が法的拘束力を有すると明言しているわけではない。しかし、本判決は、自治体と事業者間で締結された本件協定に関して、その法的拘束力の限界を論じており(判旨ⅰ,ⅱ,ⅲ)、本判決は、法律ないし条例の根拠がない場合であっても、公害防止協定が法的拘束力を有し、その司法的執行が可能な場合があることを承認した最初の最高裁判決であると位置づけることができる。

・本判決では、本件期限条項の法的拘束力の限界に関する事項としては、直接的には2つの点が問題とされている。①廃棄物処理法との抵触関係と、②公序良俗違反等である。
①につき、公害防止協定の合意内容が関係法規に抵触する場合は、当該合意に法的拘束力がないことは、一般に承認されている。原審は、この点、知事が賦与した許可に関して協定で期限を賦与することは、(許可の効力を制限することで)知事の専権たる許可権限を侵害することになり廃棄物処理法(および本件条例)の趣旨に反すると判断したようである。しかし、本判決が述べるように、廃棄物処理法上、処分業者は許可を受けたとしても操業の義務はなく、施設の廃止等も原則自由(届出制)なのであるから、本件における期限条項の合意は廃棄物処理法の趣旨に抵触するものではないと考えられる(判旨ⅰ)。また、本件条例15条自体は、公害防止協定の締結にさいしての知事の助言を定めているにとどまるものであるので、本件の期限条項がその趣旨に反するということもないであろう(判旨ⅱは原審判断に対応し念のため付け加えられたものと考えられる)。
②につき、差戻控訴審判決では、本件公害防止協定の締結は業者Yの自由な選択によるもので公序良俗違反ではなく、本訴請求が権利濫用にも当たらないとされている。

・なお、本判決は、自治体が行政権の主体としてなす公害防止協定の司法的執行について、これを是認したものと解される。これは宝塚パチンコ店訴訟最高裁判決(平成14・7・9)において、訴訟の主体を「財産権の主体」と「行政権の主体」に2分し、後者については司法的執行を否定したこととの整合を図ることを要請するものといえよう。


99:指名競争入札
【最判平成18年10月26日】

■論点
・「地元企業優先」指名が認められるか。

■事案の概要
A村が発注する公共工事の指名競争入札において、昭和60年頃から平成10年度まで継続的に指名を受けてきたX(土木建築業者)が平成11年度から同16年度までの間、A村長から違法に指名を回避されたとして、国家賠償法1条1項に基づき、合併によりAの地位を承継したY市に逸失利益等の損害賠償を求めた。
A村長はXにつき、過去の信頼関係破壊を理由に平成11年度の指名競争入札について、指名停止等に関する要綱に基づき、指名を回避する措置をとった。次いで、A村長は平成12年度以降においては、Xが実態に照らして村外業者であることを主な理由として、指名回避の措置を継続した。
1審は、平成12年度以降の指名回避措置(以下、本件措置)については、損害業者に入札参加資格を認めないとする明確な基準がないことなどを理由に、Xの請求を一部認容した。2審は、平成11年度に加えて、平成12年以降の本件措置についても違法はないとして、Xの主張を全面的に退けた。

■判旨
一部破棄差戻し、一部上告棄却。
地方自治法234条1項・2項や地方自治法施行令167条、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律等の法令は、「普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札につき、機会均等、公正性、透明性、経済性(価格の有利性)を確保することを図ろうとしている」。

「地方公共団体が、指名競争入札に参加させようとする者を指名するに当たり、①工事現場等への距離が近く現場に関する知識等を有していることから契約の確実な履行が期待できることや、②地元の経済の活性化にも寄与することなどを考慮し、地元企業を優先する指名を行うことについては、その合理性を肯定できるものの、①又は②の観点からは村内業者と同様の条件を満たす村外業者もあり得る」

Xについて、上記諸法令の趣旨に反する運用基準の下で、Xが村外業者に当たることのみを理由として、「他の条件いかんにかかわらず、およそ一切の工事につき平成12年度以降全くXを指名せず指名競争入札に参加させない措置を採ったとすれば、それは、考慮すべき事項を十分考慮することなく、一つの考慮要素にとどまる村外業者であることのみを重視している点において、極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ず、そのような措置に裁量の逸脱又は濫用があったとまではいえないと判断することはできない」。

■解説
・本件は「地元企業優先」指名が最高裁で争われた初の事案であるが、そのような指名を許容する規定は見当たらない。しかし一般競争入札については、自治令167条の5の2があり、「事業所の所在地」などに関する必要な資格を定めることができる。この定めは、指名競争入札に準用されていないが、長がこの内容を指名基準等の中で定めまたは指名に際しての裁量行使の方針とすることは可能と考えられてきた。

・本件判決は一見相反する2要請すなわち、(1)経済性と(2)地域振興との一般的関係を示したと見ることができる。すなわち入札の局面において、前者は後者に優先し、後者は常に前者が遵守されている限りにおいて認められるといえる。すなわち長の裁量権行使にあたり、(1)が(2)より強い制約を課していることを前提に、判旨の判断過程審査をしている。これは(1)の要請が契約全体を貫くもっとも基本的な原則であること、また判旨で考慮要素のうち「価格の有利性確保」を前面に出していること(これはすなわち、一定の競争性確保策を前提条件とする考えである)とも整合する。


100:土地開発公社との委託契約の履行義務
【最判平成20年1月18日】

■論点
・委託契約に基づく売買契約締結の適否
・住民訴訟における「違法性の承継」

■事案の概要
市が土地開発公社との間で、本件土地の先行取得の委託契約を締結し、これに基づいて本件公社が取得した本件土地の買取りのための売買契約を締結した。これにつきX(市の住民)が、本件土地は取得する必要のない土地であり、その取得価格も著しく高額であるから、本件委託契約は地方財政法等に違反して締結されたものであると主張して、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、市に代位して、本件売買契約の締結時に市長の職にあったYに対し、本件売買契約の代金に相当する額の損害賠償を求めた。
1審と2審は、市は、本件委託契約に基づき本件土地を買い取る義務をおっており、仮に本件委託契約の締結が違法なものであったとしても、それが私法上当然に無効になるわけではない。本件土地を取得する必要があるいとなかろうと、取得価額が不当に高額であろうとなかろうと、本件委託契約に基づく義務の履行として、本件土地を買い取るほかなく、本件売買契約の締結を財務会計法規上の義務に違反する違法なものと評価できないとして、両審とも請求を棄却した。

■判旨
破棄差戻し。
「当該委託契約が私法上無効であるときには、当該普通地方公共団体の契約締結権者は、無効な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり、契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売買契約を締結すれば、その締結は違法なものになる」。

「また、先行取得の委託契約が私法上無効ではないものの、これが違法に締結されたものであって、当該普通地方公共団体がその取消権又は解除権を有しているときや、当該委託契約が著しく合理性を欠きそのためその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し、かつ、客観的にみて当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情があるときにも、当該普通地方公共団体の契約締結権者は、これらの事情を考慮することなく、漫然と違法な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っているとかいすべきであり、契約締結権者がその義務に違反して買取りのための売買契約を締結すれば、その締結は違法なものになる」

「本件委託契約が私法上無効であるかどうか等について審理判断することなく、本件売買契約の締結が本件委託契約に基づく義務の履行であることのみを理由として、市の契約締結権者が本件売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負うことはないとすることはできないものというべきである。」

■解説
・最高裁として初めて先行委託契約締結の違法と後行売買契約締結の違法との関係につき判断を示したものであると評価される。
・仮に市の判断に裁量権の範囲の著しい逸脱または濫用があり、本件委託契約を無効としなければ地方自治法等の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められれば、本件委託契約は私法上無効になるとした本判決の判示からすれば、無効限定論が採られているといえる。
・無効限定論:行政契約が違法に締結されても、その私法上の効果が無効になる場合は限定される。
・本判決は、私法上無効でなくても①これが違法に締結されたものであって、当該普通地方公共団体がその取消権・解除権を有しているときや②当該委託契約が著しく合理性を欠きその締結に予算執行の適正確保の見地から看過し得ない瑕疵が存し、客観的にみて当該普通地方公共団体が当該委託契約を解消することができる特殊な事情があるときには、普通地方公共団体は、これらの事情を考慮することなく、漫然と違法な委託契約に基づく義務の履行として買取りのための売買契約を締結してはならないという財務会計法規上の義務を負っていると明言した。