学説判例研究~行政法~ノート~101-105事件

この記事の所要時間: 127

行政判例ノート 101~105

101:行政指導と石油価格カルテル
【最判昭和59年2月24日】

■論点
・行政指導に従い、これに協力して行った行為であることから、違法性が阻却されないか。

■事案の概要
昭和40年代後半のいわゆる石油ショックの際、日本の石油元売会社らが石油製品の価格協定を行った。その行為が独禁法にいう「不当な取引制限」(同2条6項)に該当して同法3条に違反するという根拠により、石油元売会社らおよびそれらの自然人従業員らの刑事責任が問われた(同89条・95条)。
原判決は、その主張を容れなかった。

■判旨
一部破棄自判、一部棄却。
「流動する事態に対する円滑・柔軟な行政の対応の必要性にかんがみると、石油業法に直接の根拠を持たない価格に関する行政指導であっても、これを必要とする事情がある場合に、これに対処するため社会通念上相当と認められる方法によって行われ、『一般消費者の利益を確保するとともに、国民経済の民主的で健全な発達を促進する』という独禁法の究極の目的に実質的に抵触しないものである限り、これを違法とすべき理由はない。そして、価格に関する事業者間の合意が形式的に独禁法に違反するようにみえる場合であっても、それが、適法な行政指導に従い、これに協力して行われたものであるときは、その違法性が阻却されると解するのが相当である。
本件当時における通産省の行政指導が違法なものであったということはできない。しかし、被告人らは、石油製品の油種別値上げ幅の上限に関する業界の希望案について合意するに止まらず、右希望案に対する通産省の了承を得られることを前提として、一定の期日から、右了承の限度一杯まで各社いっせいに価格を引き上げる旨の合意をしたものであって、これが、行政指導に従いこれに協力して行われたものと評価することのできないことは明らかである。したがって、本件における被告人らの行為は、行政指導の存在の故にその違法性を阻却されるものではないというべきであ」る。

■解説
・本判決は、そもそも被告人らの行為が通産省による行政指導の範囲に含まれないものであることを根拠として違法性を肯定している。その意味で、本判決の行政指導に関する判旨は傍論である。
・本判決にいう違法性阻却とは、刑法総論にいうそれではなく、独禁法に違反するように見えて実は違反しない、という現象を指している。もっとも、以上のことは、事案や判旨を事後的に検証する立場からのものなのであって、争訟の進行中においては、なお、行政指導の存否が独禁法違反の成否の議論に影響を及ぼす場合があり得る。


102:教科書検定における改善意見
【最判平成9年8月29日】

■論点
・改善意見を強制することは違憲違法にあたるか。

■事案の概要
Xは、日本史の研究者で、同人が執筆した高校用教科書「新日本史」は、文部大臣の検定に合格して昭和28年以来検定済教科書として使用されてきたが、昭和53年の学習指導要綱の改正に伴い、Xは本件教科書を全面改訂することにし、昭和55年9月に文部大臣に対して新規検定の申請をした。教科書用検定調査審議会は、申請された原稿本に420箇所の修正意見、改善意見を付したが、合格点には達しているとして条件付合格と判定し、その旨を文部大臣に答申し、これを受け、文部大臣は、昭和56年1月26日、条件付合格の決定をした。Xは、改善意見については数次にわたり修正するよう説得されたが拒否理由書を提出してその修正に応じなかった。しかし、修正意見にはやむを得ずこれに従い、その記述を修正し、合格となった。Xは、改善意見を強制したことは違憲違法であるとしてY(国)を相手に国家賠償請求訴訟を提起した。

■判旨
一部破棄自判、一部棄却。
「改善意見は、検定の合否に直接影響を及ぼすものではなく、文部大臣の助言、指導の性質を有するものと考えられるから、教科書の執筆者又は出版社がその意に反してこれに服さざるを得なくなるなどの特段の事情がない限り、その意見の等不当にかかわらず原則として、違法の問題が生ずることはないというべきである。」

「Xは、各改善意見に反論して従わず、原稿本の記述がそのまま最終記述となって合格処分を受け、検定側において特に改善意見を直接的にも間接的にも強制したようなことはなかったなどの事情の下では、改善意見を付した文部大臣の行為に違法はない」。

■解説
・改善意見の法的性質について、本判決は、「検定の合否に直接の影響を及ぼすものではなく、文部大臣の助言、指導の性質を有するもの」すなわち行政指導であると判断している。
・本件行政指導に対して、これに服さざるを得なくなるなどの特段の事情がなければ原則として違法の問題は生じないとして、本件のように、①Xが改善意見に反論してそれに従わなかった事情、②検定側が改善意見を強制しなかった事情は、この「特段の事情」にはあたらないとしている。
・本判決が示した本件行政指導が違法となる範囲は、行政手続法33条が違法とする行政指導の範囲よりも相当に狭く限定したものとなっている。


103:指導要綱による開発負担金
【最判平成5年2月18日】

■論点
・教育施設負担金を納付しなければ結果として、建築確認の申請自体が困難となることから、指導要綱に基づく負担金の要請が違法な公権力行使にあたるか。

■事案の概要
Y(武蔵野市)では、昭和44年頃からマンションの建築が相次ぎ、日照障害等の問題が生じたため、市長は建設事業主に行政指導を行うため、議会の全員協議会にて指導要綱を制定した。要綱では、事業主は市長と「事前協議」を行い、所定の行政指導を受けるとともに、「寄付願」を提出して教育施設負担金等を納付することとされた。
Xは3階建てのマンションの建設を計画し、教育施設負担金として1523万2000円の寄付が要請されたことに強い不満を抱き、減免等を懇請したが断られ、また制裁を恐れて、やむなく同額を納付した。後日、Xは、寄付が脅迫によるものであるとして意思表示の取り消しを主張し、支払った負担金相当額の返還を求めて出訴した。
1審は請求棄却、2審でも請求棄却された。

■判旨
最高裁は、原審の強迫の主張を斥けた部分は支持したが、国家賠償請求を棄却した部分については破棄・差し戻した。
「行政指導として教育施設の充実に充てるために事業主に対して寄付金を求めること自体は、強制にわたるなど事業主の任意性を損なうことがない限り、違法ということはできない。」
しかし、「本件当時、Yは、事業主に対し、法が認めておらずしかもそれが実施された場合にはマンション建築の目的の達成が事実上不可能となる水道の給水契約の締結の拒否等の制裁措置を背景として、指導要綱を遵守させようとしていたというべきである。」

「YがXに対し指導要綱に基づいて教育施設負担金の納付を求めた行為も、Xに対し、指導要綱所定の教育施設負担金を納付しなければ、水道の給水契約の締結及び下水道の使用を拒絶されると考えさせるのに十分であって…事実上強制しようとしたものということができる。」

「指導要綱に基づく行政指導が、Y市民の生活環境をいわゆる乱開発から守ることを目的とするものであり、多くのY市民の指示を受けていたことなどを考慮しても、右行為は、本来任意に寄付金の納付を求めるべき行政指導の限度を超えるものであり、違法な公権力の行使であるといわざるを得ない。」

■解説
・本判決は、いわゆる開発指導要綱に基づく金銭負担を要求した市の行為が、国家賠償法1条1項の違法な公権力の行使にあたるとされた最初の最高裁判決である。
・本判決は、要綱に基づく具体的な行政指導が、この限界を超えたものであると認定したもので、重要な意味を持つ。
・本件においては、行政指導の違法性を画するにつき相手方の任意性をどのように判断するかが主要な論点である。本判決は、相手方の態度よりも、要綱の文言、その運用実態に着目し、行政指導の客観的な態度が検討されているところに特徴がある。


104:鉄道公安職員の実力行使
【最判昭和48年4月25日】

■論点
・鉄道公安職員が強制力を用いてもよいか。

■事案の概要
国鉄労働組合門司地方本部は、昭和37年3月の年度末要求闘争に際して、久留米駅を拠点に選び2時間の勤務時間内職場集会を指令し、当局側による運転部門確保のための逆ピケの機先を制すべく、てこ扱所にピケを張った。当局側は、てこ扱所からの退去を勧告し、さらに実力行使の警告を行ったが、組合側がこれに応じないため、鉄道公安職員61名によるごぼう抜きの強制退去を行った。
被告人は、これに抵抗してバケツの水を鉄道公安職員に浴びせかけたため、てこ扱所への立入りを住居侵入罪、鉄道公安職員に対する公務執行妨害罪に該当するとして、起訴された。
1審は、住居侵入罪は認めたが、公務執行妨害罪については職務の適法性がないとして無罪とした。2審はそのいずれも無罪とした。最高裁は、原判決を破棄、差し戻した。

■判旨
・多数意見―「鉄道営業法42条1項は、…鉄道事業の公共性にかんがみ、事業の安全かつ確実な運営を可能ならしめるため、とくにかかる運営につき責任を負う鉄道事業者に直接にこの排除の権限を付与したものである」当該規定により、「鉄道係員が当該旅客、公衆を車外または鉄道地外に退去させるにあたっては、…自発的な退去に応じない場合、または危険が切迫する等やむをえない事情がある場合には、警察官の出動を要請するまでもなく、鉄道係員において当該具体的事情に応じて必要最少限度の強制力を用いうる。」

補足意見
反対意見

■解説
・行政上の即時強制は、国民の身体や財産に対する直接かつ重大な規制・侵害となるため、法律の留保に関する考え方の違いにかかわらず、今日一般に法律の根拠を必要とする点では争いはない。したがって、本件における鉄道公安職員の退去強制についても、その根拠は、法律上の個別の規定に求めなければならない。しかし、旧国鉄時代に鉄道公安職員の職務を規律して「鉄道公安職員の職務に関する法律」は、鉄道公安職員に司法警察権しか付与しておらず(1条・3条)、また、鉄道公安職員の企業警備的任務の遂行を定めた鉄道公安職員基本規程も、一企業体の内規に過ぎないため、いずれも鉄道公安職員の退去強制を根拠付けるものではなかった。そこで、その根拠としては、多数意見、補足意見が述べるように、当時の国鉄、私鉄を問わず鉄道係員一般に鉄道施設外への退去強制権限を文言上形式的には付与している鉄道営業法42条1項に求めざるを得なかった。

・法律による即時強制の権限の授権は、個別的であるとともに、具体的かつ限定的でなければならず、後者の点で反対意見が述べるように、鉄道営業法の規定は、即時強制の授権規程としてはあまりにも包括的で直ちに合憲とすることは困難のように思われる。

・次に法律が即時強制権限を授権しうる場合の一つとして、目前急迫の障害を除くという緊急の必要上相手方に義務を命じている暇のない場合が、従来から挙げられる。それは、当該権限行使が国民の身体や財産に対する直接かつ重大な規制・侵害に至るものであるがゆえに、当該権限行使による除去すべき障害の具体的な態様、程度およびその除去の緊急性と対比して必要最小限度の範囲で、当該権限を授権しようとするために設けられた制約であり、警察比例の原則(憲13条)に従ったものである。
そこで、この警察比例の原則との関連で、鉄道営業法の規定をみるならば、排除対象行為は、反対意見が述べるように、比較的軽微な秩序違反に過ぎず、それにより生ずる障害の重大性とその除去の緊急性において、即時強制権限の授権を直ちに導くほどの合理性を有しているものではない。


105:現行犯逮捕時における武器の使用
【最判平成11年2月17日】

■論点
・警察官職務執行法7条に規定されている武器使用要件を満たしているか。

■事案の概要
被告人が逃走していたBを発見し、Bを銃砲刀剣類所持等取締法違反および公務執行妨害の現行犯人として逮捕すべく追跡し、所持していたナイフを捨てるよう言ったが、Bはそのナイフを手提げ袋に入れ振り回して犯行したため被告人はけん銃を取り出して弾丸1発を発射し、Bの左手小指および左手掌に射入する暴行を加えた。
被告人はけん銃をしまい、逃げるBに迫ったところ、Bは立ち止まってナイフを捨て、その場にあったはで杭を両手で構えて被告人に殴りかかり、被告人は特殊警棒で応戦した。特殊警棒を落としたが、なおもBは前進して殴りかかったため、被告人はけん銃を再び取り出して弾丸1発を発射し、Bはこの銃創による失血のため死亡した。
なお、はで杭の山は左右に開かれており、被告人が左右に転進することは十分可能であった。
1審は、発砲を適法と認めたが、2審は発砲を違法とし、被告人を有罪とした。

■判旨
上告棄却
Bが所持していた「ナイフは比較的小型」であり、Bの抵抗は「一貫して、被告人の接近を阻もうとするにとどまり、被告人が接近しない限りは積極的加害行為に出たり、付近住民に危害を加えるなど他の犯罪行為に出ることをうかがわせるような客観的状況は全く」なかった。「その罪質、抵抗の態様等に照らすと、被告人としては、逮捕行為を一時中断し、相勤の警察官の到来を待ってその協力を得て逮捕行為にでるなど他の手段を採ることも十分可能であって、いまだ、Bに対しけん銃の発砲により危害を加えることが許される状況にあったと認めることはできない」。
したがって、「被告人の各発砲行為は、いずれも、警察官職務執行法7条に定める『必要であると認める相当な理由のある場合』にあたらず、かつ、『その事態に応じ合理的に必要と判断される限度』を逸脱したもの」である。

■解説
・本件は警職法7条に基づく発砲行為の違法性が争われた事例であり、警察官の職務としての発砲行為の違法性について初めて判断を示したものである。また、警察官のよる発砲が最終的に違法であると確定した最初の事案でもある。
・けん銃の使用は法律の根拠が強く認められる即時強制であることから、創設規定説が妥当であり、通説もそのように解している。
・創設規定説:警職法7条の規定によって初めて警察官はけん銃を使用することができるようになるとする説。