学説判例研究~行政法~ノート~121-125事件

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行政判例ノート 121~125

120:独禁法上の課徴金
【最判平成10年10月13日】

■論点
・刑事罰(罰金刑)が確定し、かつ国から不当利得返還請求訴訟が提起されている状況で、課徴金の納付を命じる審決は憲法39条(二重処罰の禁止)、29条(財産権の保障)、31条(適正手続)に違反するか。

■事実の概要
Xらは社会保険庁における国民年金、厚生年金等の各種通知書等に係る貼付用シールの指名競争入札に関して、談合を行い、あらかじめ受注予定者等を決定し、利益分配を行った(以下、カルテル行為とよぶ)。
まず、Xらは本件カルテル行為に関わる独占禁止法違反の刑事事件において、罰金400万円に処する旨の宣告を受け、確定していた。
また、国がXらと締結した本件シール納入契約は無効であるとして、Xらを被告とし、それぞれ3億余りから8億余りの不当利得の返還を求める訴訟が提起され、係属中であった。(後に認容された)
その後、Y(公正取引委員会)はXらの行為をカルテル行為として独占禁止法3条に違反するとして、追徴金納付命令(独禁7条の2)を発した。
これについてXらの請求により審判手続きが開始され、YはXらにそれぞれ3736万から9211万円の課徴金を国庫に納付することを命ずる審決をした。これを不服とするXらが当該審決の取消しを求めて提訴した(85条1項)。
原審は、請求棄却した。

■判旨
上告棄却。
「本件カルテル行為について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反被告事件においてXに対する罰金刑が確定し、かつ、国からXに対し不当利得の返還を求める民事訴訟が提起されている場合において、本件カルテル行為を理由にXに対し同法7条の2第1項の規定に基づき課徴金の納付を命ずることが、憲法39条、29条、31条に違反しないことは、最高裁昭和29年(オ)第236号同33年4月30日大法廷判決・民集12巻6号938頁(百選Ⅰ 116事件 先ほどの判例)の趣旨に徴して明らかである。これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。」

■解説
・原審は「課徴金の基本的な性格が社会的公正を確保するためのカルテル行為による不当な経済的利得の剥奪という点にあることは明らかである」としたうえで、「課徴金は、カルテル行為の反社会性ないし反道徳性に着目し、これに対する制裁として、刑事訴訟法手続きによって科せられる刑事罰とは性質を異にするものであるから、本件カルテル行為に関して…刑事罰として罰金を科すほか…追徴金の納付を命ずるとしても、それが二重処罰を禁止する憲法39条に違反しないことは明らかである」とした。また、「国の提起した右の不当利得返還請求訴訟はいまだ第1審裁判所においてなお審理中であり、…右段階では、客観的には、国が主張しているXらに対する不当利得返還請求権の存否ないしその範囲自体が全く未確定の状態にあるというほかはない」とした。

・独禁法は、課徴金の対象となる違反行為に対し、別に刑事罰の規定を置いており(89条1項1号)、両罰規定もある(95条)ため、事業者において課徴金と罰金とが併科(併課)されることが生じる。そのため導入以来、憲法39条後段の二重処罰の禁止との関係が常に問われてきた。平成3年改正前の課徴金に関しては、既にラップカルテル事件判決(東京高判平成5・5・21判時1474号31頁)において刑事罰との併科も二重処罰に違反しないとの判断がなされていたが、最高裁が、平成3年改正後の課徴金と刑事罰の併科も二重処罰の禁止にあたらず、また別に不当利得返還請求訴訟が提起されている場合であってもそのことに変わりはないとの判断を示したのが本判決である。

121:持ち回り決議による行政処分
【最判昭和46年1月22日】

■論点
・合議体の審理、議決方法として持ち回り決議が許されるか、持ち回り決議による審査会の意見を聞いてした知事の処分の効力をどのように解すべきか。

■事実の概要
X及び訴外Aは、いずれも同一町内で許可を得て温泉を掘削した温泉業者である。Y(島根県知事)はAに対し、温泉法8条に基づき、湧出量増加用動力装置の設置を許可した。
同法20条は都道府県知事に、8条の処分をするときは都道府県温泉審議会の意見を聞かなければならないと定めていた。しかし、本件許可に際し審議会は開催されず、委員19名中10名に議案を持ち回って意見をきく、いわゆる持ち回り決議がなされたにすぎなかった。
Xは、本件許可処分による動力装置でX所有の温泉の湧出量が激減する等の損害を被ったとして、温泉審議会の意見を聞く手続きに瑕疵があったことを主な理由として、本件許可処分の無効確認及び取消し等を求めた。
1審は、Xの無効確認請求を認容した。2審は、1審判決を取り消し、Xの請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「原判決の確定したところによれば、本件許可処分にあたり、温泉審議会は開かれず、知事による温泉審議会の意見聴取は持廻り決議の方法によりされたものであるというのであり、また、温泉法19条、島根県温泉審議会条例6条等の規定に徴すれば、右審議会の意見は適法有効なものということはできず、右処分後に開かれた審議会の意見によっても、右の瑕疵が補正されないことは、原判決の判示判断のとおりである。」

「前記20条が知事に対し温泉審議会の意見を聞かなければならないこととしたのは、知事の処分の内容を適正ならしめるためであり、利害関係人の利益の保護を目的としたものではなく、また、知事は右の意見に拘束されるものではないと解せられる。そして、これらの諸点を併せ考えれば、本件許可処分にあたり、知事のした温泉審議会の意見聴取は前記のようなものではあるが、そのかしは、取消の原因としてはともかく、本件許可処分を無効ならしめるものということはできない。」

■解説
・わが国の行政組織では独任性行政機関が原則で、合議制機関は、判断の公正を特に期する等の特別の必要がある場合に用いられてきた。
・審議会も同様で、それぞれ多様な設置目的があるが、公正の確保、専門知識の導入、利害関係の調整及び民主化が共通した存在理由は、多数の関係者が参加し、会議での討議検討を通して、適正な決定を得ようとするところにある。この点から、正式な召集行為を欠いたり、欠格者が加わるなど、正当に組織されない合議機関の行為は、主体の瑕疵として、原則として無効と解されてきた。
・まして、合議の過程は合議制機関の存在理由そのものであり、それを欠く持ち回り決議は、当然、違法無効と解されよう。本件を「合議体の主体に関する瑕疵論」で捉える見解があるが、審議手続の瑕疵そのものでも本件のような場合、審議会の意見は有効とは言えないであろう。
・判旨は以上のことを明確に確認したものと理解できる。

122:合議体の議事と利害関係者の関与
【最判昭和38年12月12日】

■論点
・自創法3条に基づく農地買収計画の樹立を決議する地区農地委員会の議事に買収農地の小作人が関与した場合、当該決議すなわち農地買収計画の効力はどうなるか。

■事実の概要
本件土地(1)~(4)は、元はX(原告・控訴人・上告人)の亡父Aが所有する土地であり、自作農創設特別措置法(以下「自創法」という)3条1項1号該当の農地(いわゆる不在地主の所有する小作地)として、Y1(知事)による買収処分を受けた。その後、同土地は、Y2ないしY5に売り渡され、Y2らにより、それぞれ所有権取得登記がなされている。
ところで、Aは、本件土地の買収計画について異議及び訴願の申立てをしたが、いずれも却下又は棄却され、かつ出訴しないまま死亡した。ところが、遺産分割協議の結果、本件土地を単独相続したXは、Y1に対し上記買収処分の無効確認を、またY2ないしY5に対し本件各土地に関するXの所有権の確認とXへの所有権移転登記を求める各訴訟を提起するに至った。
その理由は、地区農地委員会の買収計画樹立の決議にY2が同委員会の会長として議事に参与したが、同人は、当時当時本件土地(1)の小作人であるとともに現にその売渡しを受けた者であり、またY3ないしY5も、Y2の兄弟その他密接な親族関係にある者であるから、農地調整法(以下「農地法」という)15条ノ12の「委員ハ自己及自己ト同一戸籍内ニ在ル者ニ関スル事件ニ付議事ニ与ルコトヲ得ズ」との規定に違反し、上記買収処分は無効であるとともに、Y2らも本件各土地の所有権を取得しない、というものである。
1審は、Xの請求棄却。2審も、Xの控訴を棄却した。

■判旨
上告棄却。
「行政処分はそれが違法であっても常に無効となるわけではなく、その瑕疵が重大かつ明白な場合に限り無効と解すべきこと当裁判所の判例とするところである……。いま本件についてこれを見るのに、Y2が農地委員会長として本件農地買収計画樹立決議の議事に関与したことが、所論のごとく農地調整法15条ノ12に違反するものであり、従って原審の判示に右法条の解釈適用を誤った違法があるとしても、自作農創設特別措置法3条の規定に基づく農地買収にあっては、農地委員会の裁量権行使の派には比較的限定されていること、買収された農地が現実に売渡されるために改めて市町村農地委員会のその旨の審議議決を必要とすること……にかんがみ、他に著しく決議の公正を害する特段の事由の認められない本件においては、右農地買収計画樹立決議の瑕疵は同決議を無効ならしめるほどの重大な違法とはいえないと解するのを相当とする。」

■解説
・本判決は、知事による農地買収処分の前提となる農地買収計画の樹立を決議する市農地委員会の議事に当該農地の小作人が会長として関与した場合には農調法15条ノ12違反の瑕疵があり違法であるとしても、他に特段の事由が認められない限り同決議は無効となるものではない、と判示したものである。その際、当該瑕疵が重大な違法とならない理由として、(ア)農地委員会の裁量範囲の限定性、(イ)農地売渡しのための農地委員会の審議決議の必要性、のほか、消極的理由として(ウ)他に著しく決議の公正を害する特段の事由の不存在、の3点を挙げている。

123:会議の公開
【最判昭和49年12月10日】

■論点
・教育委員会が懲戒免職処分を行うための会議を処分の相手方に「公開」しなかったことが、処分の取消事由となるか。

■事実の概要
中学校教諭であったXらは転勤命令に従わなかったことを理由に、教育委員会Yから懲戒処分を受けた。その際、委員会の開催がXらに告示されたのは、開催数十分前であった。これは傍聴不可能、実質非公開で委員会が開かれたものであり、旧教育委員会法に違反するとしてXらは処分の取消を求めた。
1審は、転補処分は違法性なしとしたが、懲戒免職処分は、同法37条1項に違反するとして取り消した。2審は、転補処分は違法性なしとしたが、懲戒免職処分は、同37条1項に加えて、同34条4項所定の招集手続に瑕疵があるとして取り消した。
最高裁は、前審判決を破棄し、事案を大阪高裁に差し戻した。差戻し後の控訴審では、招集手続に瑕疵はなく、その後の適法な秘密会の開催によって治癒されたとした。

■判旨
一部上告棄却、一部破棄差戻し。
「同法のもとにおける教育委員会の会議の公開は、会議の公正な運営を確保するとともに、各委員の活動を住民の直接の監視と批判にさらし、あわせて次期選挙の際における判断資料を得させるためのものであるという点において、重要な意義を有するものであり、これに違反して行われた議事が瑕疵を帯びるものであることはいうまでもない。」

「しかしながら、このことから直ちに、教育委員会の会議の過程において形式上いささかでも右公開原則に違反するところがあれば、常にその議決の効力に影響を及ぼすものとすることは相当でなく、具体的事案における違反の程度及び様態が当該議案の議事手続全体との関係からみて実質的に前記公開原則の趣旨目的に反するというに値いしないほど軽微であって、その瑕疵が決議の効力に影響を及ぼすとするには足りない場合もありうるものと解すべきである。」

「本件免職処分の議決には、その審議を秘密会でする旨の議決が完全な公開のもとにない会議で行われたという点において形式上公開違反の瑕疵があるとはいえ、右処分案件の議事手続全体との関係からみれば、その違反の程度及び様態は実質的に前記公開原則の趣旨目的に反するというに値いしないほど軽微であり、これをもって右免職処分そのものを取り消すべき事由とするにはあたらないものと解するのが、相当である。」

■解説
・人事案件を秘密会で行う理由のひとつは、対象者のプライバシー保護である。とくにそれが懲戒処分に関わる場合は、とうぜんに対象者の非行が審議され明らかにされる。その過程が公開されているというのであれば、対象者は「さらし者」ということである。
・人事案件を秘密会で行うもうひとつの理由は、審議する委員会のがわにある。それは、会議において自由闊達な意見交換ができ審議が実質化しうるかということである。人事の対象者を同席させれば、その者に対する遠慮や気がねから言いたいことも言いだせないこともあるだろうし、また、第三者の傍聴があれば、対象者のプライバシーを持ちだすことがためらわれるだろう。

124:工作物使用禁止命令と事前手続き
【最判平成4年7月1日】

■論点
・新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法(以下「成田新法」という)3条1項に基づく処分に対して取消訴訟を提起できるか。

■事実の概要
昭和53年、新東京国際空港(現、成田国際空港)の安全を確保するため、過激派集団の出撃拠点となっていたいわゆる団結小屋の使用禁止を命ずることができる成田新法が制定された。そして運輸大臣Y1はXに対し、1年間、成田新法3条1項1号の用(多数の暴力主義的破壊活動の集合の用)、または2号(暴力主義的破壊活動等に使用され、または使用されるおそれがある爆発物等の製造、保管の用)に供することを禁ずる旨の処分を毎年繰り返した。
そこでXはY1に対し、本件命令の取消しを請求するとともに、Y2(国)に対して国家賠償請求を提起した。
1審、2審は、Xの全面敗訴。

■判旨
一部破棄自判、一部棄却。
「行政手続については、それが刑事手続でないという理由のみで、そのすべてが、当然に憲法31条による保障の枠外であると判断するのは相当ではない。」

「しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続きは、刑事手続きとその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様である。」

「行政処分の相手方に事前の告知、弁明、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきもの」である。

「本件命令により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性は・・・新空港の設置、管理等の安全という国家的、社会経済的、公益的、人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁明、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない。」

■解説
本件は、最高裁が典型的な行政処分について事前手続の要否を初めて扱い、憲法31条の規定定める法定手続の保障が、刑事手続のみならず行政手続きにも及ぶ余地を認めたものである。

125:個人タクシー免許申請の審査手続き
【最判昭和46年10月28日】

■論点
・道路運輸法による個人タクシー事業の免許申請の審理手続が不公正なものであったことは、却下取消事由となるか。

■事実の概要
Xは陸運局長Yに対し、道路運送法に基づき個人タクシーの免許を申請したところ、同法6条1項3号ないし5号の要件に該当しないとして却下された。Xは、この処分を不服として訴訟を提起し、以下のように主張した。
当該免許手続きは憲法の保障する職業選択の自由の規制に関するものであり、そのための手続きとして、あらかじめ法の趣旨を具体化した審査基準を定めてその内容を申請人に告知することにより、申請人に自己の主張と証拠を提出する機会を与えるとともに、基準も一般に公表して手続の公明さを担保することが不可欠である。それにもかかわらず、これらの要件をみたさない審査によって申請を却下したことは、Xの法的利益を侵害するものであり、違法である。
1審はXの主張を認容して処分を取り消した。2審も、Yの主張を斥けた。

■判旨
上告棄却。
「具体的個別的事実関係に基づき選択して免許の許否を決しようとする行政庁としては、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続を取ってはならないものと解される。」

「道路運送法6条は抽象的な免許基準を定めているにすぎないのであるから、内部的にせよ、さらに、その趣旨を具体化した審査基準を設定し、これを公平かつ合理的に適用すべく、とくに、右基準の内容が微妙、高度の認定を要するようなものである場合には、右基準を適用するうえで必要とされる事項について、申請人に対し、その主張と証拠の提出の機会を与えなければならないというべきである。」

「免許の申請人このような公正な手続きによって免許の許否につき判定を受くべき法的利益を有するものと解すべく、これに反する審査手続によって免許の申請の却下処分がされたときには、右利益を侵害するものとして、右処分の違法事由となるものというべきである。」

「右のような審査手続は、・・・かしあるものというべく、したがって、この手続によってされた本件却下処分は違法たるを免れない。」

■解説
・本判決によって、事前行政手続に関する一般法や法律上の明示規定が存しない場合でも、申請に対する審査基準の設定を行政庁に要求し、その適用過程において申請人に適切な主張と証拠の提出機会を付与すべきことが明示された。