学説判例研究~行政法~ノート~126-130事件

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行政判例ノート 126~130

126:運輸審議会の審理手続
【最判昭和50年5月29日】

■論点
・諮問を経て行政処分がされるべき場合における諮問機関の審理手続の瑕疵は、行政処分の取消事由となるか。

■事実の概要
X(群馬中央株式会社)は運輸大臣Yに対し、道路運送法5条に基づく一般乗合旅客自動車運送事業の免許を申請した。そこで、Yは、運輸審議会にこれを諮問し、同審議会は、公聴会を開催してXや利害関係人を聴取したうえ、申請を却下すべき旨を答申した。これを受けて、Yは、同答申に基づき、Xの申請を却下する処分をしたため、Xはその取消訴訟を提起した。
1審は本件却下処分を違法として取り消した。2審は1審判決を取消し、Xの請求を棄却した。

■判旨
上告棄却。
(ⅰ)「一般に行政庁が行政処分をするにあたって、諮問機関に諮問し、その決定を尊重して処分をしなければならない旨を法が定めているのは、処分行政庁が、諮問機関の決定(答申)を慎重に検討し、これに十分な考慮を払い、特段の合理的な理由のないかぎりこれに反する処分をしないように要求することにより、当該行政処分の客観的な適正妥当と公正を担保することを法が所期しているためである。」

「行政処分が諮問を経ないでなされた場合はもちろん、これを経た場合においても、当該諮問機関の審理、決定(答申)の過程に重大な法規違反があることなどにより、その決定(答申)自体に法が右諮問機関に対する諮問を経ることを要求した趣旨に反すると認められるような瑕疵があるときは、これを経てなされた処分も違法として取消をまぬがれないこととなるものと解するのが相当である。」

(ⅱ)「公聴会の審理を要求する趣旨が、・・・免許の許否に関する運輸審議会の客観性のある適正かつ公正な決定(答申)を保障するにあることをかんがみると、法は、運輸審議会の公聴会における審理を単なる資料の収集及び調査の一形式として定めたにとどまり、右規定に定められた形式を踏みさえすれば、その審理の具体的方法及び内容のいかんを問わず、これに基づく決定(答申)を適法なものとする趣旨であるとすることはできない」

「運輸審議会の公聴会における審理手続もまた、右の趣旨に沿い、その内容において、これらの関係者に対し、決定の基礎となる諸事項に関する諸般の証拠その他の資料と意見を十分に反映させることを実質的に可能ならしめるようなものでなければならない」

(ⅲ)「申請者に意見と証拠を十分に提出させることを可能ならしめるような形で手続を実施することが、公聴会審理を要求する法の趣旨とするところである。」

(ⅳ)「本件公聴会審理がXに主張立証の機会を与えるにつき必ずしも十分でないところがあったことは、これを否定することができない」が、「運輸審議会の認定判断を左右するに足る意見及び、資料を追加提出しうる可能性があったとは認め難い」ので、このことは本件却下「処分を違法として取り消す理由とはならない」。

■解説
・判旨(ⅰ)は、法が審議会の審理手続を要求する趣旨から、一定の場合には諮問手続における瑕疵が大臣の行う処分の瑕疵となるとの解釈を導いている。

・判旨(ⅱ)において、法が審議会における公聴会手続を要求する趣旨からいかなる内容の審理手続がとられるべきかを述べ、判旨(ⅲ)において、特に申請者の職業選択の自由に影響するため特別な配慮が必要であるとして審議会の釈明義務を導いている。

127:理由の提示(1) 青色申告に係る更生
【最判昭和38年5月31日】

■論点
・理由付記に瑕疵がある場合、当該処分の取消事由となるか。

■事実の概要
Xは青色申告により確定申告を行い、税務署長Aは所得金額を更生し、更生通知書を送達した。その際更生通知書には、「売買差益率検討の結果、記帳額低調につき調査差益率による基本金額修正、所得金額を更生す」と記されているにすぎなかった。
Xはこれを不服として税務署長Aに再調査請求を申し立てたが棄却されたため、さらに国税局長Yに審査を請求したところ、請求を棄却された。その審査決定通知書には、「あなたの審査請求の趣旨、経営の状況、その他を勘案して審査しますと、税務署長Aの行った再調査決定処分には誤りがないと認められますので、審査の請求には理由がありません」と記載されるのみであった。
そこで、Xは本件通知書には理由の記載を欠くとして、更生および審査決定の取消しを求めた。
1審は、Xの請求認容。2審は、1審判決を取消し、Xの請求を棄却した。

■判旨
破棄自判。
「一般に、法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから、その記載を欠くにおいては処分自体の取消を免かれないものといわなければならない。」
「どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきであるが、所得税法45条1項の規定は、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更生されることがない旨を納税者に保障したものであるから、同条2項が附記すべきものとしている理由には、特に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにすることを必要とすると解するのが相当である。」

本件では、「いかなる勘定科目に幾何の脱漏あり、その金額はいかなる根拠に基づくものか、また調査差益率なるものがいかにして算定され、それによることがどうして正当なのか、右の記載自体から納税者がこれを知るに由ないものであるから、それをもって所得税法45条2項にいう理由附記の要件を満たしているものとは認め得ない。」

■解説
・本判決の意義は、第1に、本判決が租税手続のみならず行政手続一般に関する先例としてきわめて重要な位置を占めている理由でもあるが、一般論として、法が行政処分に理由附記を要求している趣旨・目的について、①「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制する」こと(恣意抑制機能)および②「処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える」こと(争訟提起便宜機能)の2点を挙げ、理由附記を行政手続の一環として位置づけている点である。

128:理由の提示(2) 一級建築士免許取消し
【最判平成23年6月7日】

■論点
・一級建築士免許取消処分において、処分基準の適用関係が理由として示されていないことは、行手法14条1項本文の理由の提示の要件を欠いた違法な処分として、免許取消処分の取消訴訟を提起することは認められるか。

■事実の概要
国土交通大臣は一級建築士Xの設計行為につき、建築士法10条1項2号および3号にあたるとし、一級建築士の免許を取り消す処分を行った。建築士に対する懲戒処分は処分基準が定められていたが、本件免許取消処分の通知書には本件処分基準に関する記載はなかった。そこでXは、本件免許取消処分は、本件免許取消処分は、本件処分基準の適用関係が理由として示されておらず、行政手続法14条1項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法な処分であるとして、本件取消処分の取消しを求めて訴訟を提起した。
1審は、Xの請求棄却、2審もこれを支持した。

■判旨
破棄自判。
「行政手続法14条1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。」

「行手法14条1項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、(ⅰ)当該処分の根拠法令の規定内容、(ⅱ)当該処分に係る処分基準の存否並びに公表の有無、(ⅲ)当該処分の性質及び内容、(ⅳ)当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである」

「建築士に対する上記懲戒処分に際して同時に示されるべき理由としては、処分の原因となる事実及び処分の根拠法条に加えて、本件処分基準の適用関係が示されなければ、処分の名宛人において、上記事実及び根拠法条の提示によって処分要件の該当性に係る理由は知り得るとしても、いかなる理由の基づいてどのような処分基準が選択されたのかを知ることは困難であるのが通例である。」
「建築基準法10条1項2号及び3号という処分の根拠法条とが示されているのみで、本件処分基準の適用関係が全く示されておらず・・・行手法14条1項本文の趣旨に照らし、同項本文の定める理由提示としては十分でないといわなければならず、本件免許取消処分は、同項本文の定める理由提示の要件を欠いた違法は処分であるというべきであって、取消しを免れないというべきである。」

■解説
・「処分に際して要求される理由提示に関しては最高裁が判断を積み重ね、判例法理を形成してきた。その主な内容として、①一般に、法が行政処分に理由を提示すべきものとしているのは、行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨であるから、その記載を欠く場合には処分自体の取消しを免れないこと、②どの程度の理由の記載をなすべきかは処分の性質と理由提示を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきであること、③侵害処分について要求される提示の内容および程度は、①②からすれば、特段の理由ないかぎり、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのか、処分の相手方がその記載自体から了知しうることが挙げられる。」

「③は、事実関係と適用関係を単に示すだけでなく、事実に対する法条の適用関係が分かるような形で事実関係と適用関係が分かるような形で事実関係と適用法条を特定して示すことを要求するものである。」

129:理由の提示(3) 旅券発行拒否
【最判昭和60年1月22日】

■論点
・一般旅券の発給申請に対する一般旅券発行拒否処分の際に、理由附記に不備があることを理由に処分の取消訴訟を提起することは認められるか。

■事実の概要
Xは外務大臣Yに対して一般旅券の発給の申請をしたが、「旅券法13条1項5号に該当する」との理由を付した書面により旅券発給拒否処分をした。XがYに異議を申し立てたところ、YはXが過激派集団と連繋関係を有する等として、棄却決定をした。Xは、本件処分の取消しと国家賠償を求めて出訴した。
1審は、本件処分を取り消したが、国賠請求は棄却した。2審は、本件処分は適法であるとして、Xの請求を棄却した。

■判旨
破棄自判。
「一般に、法律が行政処分に理由を付記すべきものとしている場合に、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである。」

「旅券法が・・・一般旅券発給拒否通知書に拒否の理由を付記すべきものとしているのは、一般旅券の発給を拒否すれば、憲法22条2項で国民に保障された基本的人権である外国旅行の自由を制限することになるため、拒否事由の有無についての外務大臣の判断の慎重と公正妥当を担保してその恣意を抑制するとともに、拒否の理由を申請者に知らせることによって、その不服申立てに便宜を与える趣旨に出たものというべきであり、このような理由付記制度の趣旨にかんがみれば、一般旅券発給通知書に付記すべき理由としては、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して一般旅券の発給が拒否されたかを、申請者においてその記載自体から了知しうるものでなければなければならず、単に発給拒否の根拠規定を示すだけでは、それによって当該規定の適用の基礎となった事実関係をも当然知りうるような場合を別として、旅券法の要求する理由付記として十分でないといわなければならない。」

「この見地に立って旅券法13条1項5号をみるに・・・申請者において発給拒否の基因となった事実関係をその記載自体から知ることはできない。・・・したがって、外務大臣において旅券法13条1項5号の規定を根拠に一般旅券法13条1項5号の規定を根拠に一般旅券の発給を拒否する場合には、申請者に対する通知書に同号に該当すると付記するのみでは足りず、いかなる事実関係を認定して申請者が同号に該当すると判断したかを具体的に記載することを要する。」

「そうであるとすれば、・・・本件一般旅券発給拒否処分に右違法があることを理由としてその取消しを求めるXの本訴請求は、正当」である。

■解説
・理由提示の意義は、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制すること(恣意抑制機能)と処分の理由を相手方に知らせて不服の便宜を与えること(不服申立便宜機能)にある。

130:独占禁止法による報告・措置要求
【最判昭和47年11月16日】

■論点
・独禁法45条1項に基づく措置の要求をしたが何らの措置がなされない場合、不作為の違法確認訴訟が認められるか。

■事実の概要
Xは、公正取引委員会Yに対し、独禁法45条1項に基づく事実の報告・措置の要求をしたが何らの措置もなされなかったため、Yに対し、Yの不作為についての異議申立て(行審法7条)をしたが、Yは何ら決定をせず、Xの報告を不問とする旨をXに通知した。Xは、Yを相手に、異議申立てに係る不作為の違法確認、本件不問決定の不存在確認等を求めて出訴。
1審は、訴え却下。2審も1審と同様の判断をした。

■判旨
上告棄却。
独占禁止法45条1項「の文言、および、同法の目的が、一般消費者の利益を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を促進することにあり(1条)、報告者が当然には審判手続に関与しうる地位を求められていないこと(59条)から考えれば、同法45条1項は、Yの審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定であるにとどまり、報告者に対して、Yに適当な措置をとることを要求する具体的請求権を付与したものであるとは解されない。」

「Yは、独占禁止法45条1項に基づく報告、措置要求に対して応答義務を負うものではなく、また、これを不問に付したからといって、被害者の具体的権利・利益を侵害するものとはいえないのである。」

したがって、不問に付した決定の不存在を求める訴えおよび本件異議申立てに対する不作為の違法確認の訴えも不適法である。

■解説
・本判決及び学説の多数が消極説をとる理由としては、およそ次の諸点が挙げられる。①独禁法の目的が公益保護であり、個人的利益の保護ではないこと、②独禁法45条1項が、一般公衆による報告を認めていること、③違反事件に対する措置が公取委と違反者との間で行われ、報告者は当然には審判手続に関与しうる地位を認められてはいないこと、等である。